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AIST Today VOL.2 No.10

AIST TODAY
持続可能な循環型社会の実現
特集
プロジェクト紹介
雲仙科学掘削プロジェクト
インドネシア遠隔離島地熱プロジェクト
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表紙 [ PDF:1.1MB ]
目次 [ PDF:374.4KB ]
メッセージ [ PDF:105.9KB ]
  産総研への期待
トピックス [ PDF:318.5KB ]
  「ベンチャー開発戦略研究センター」構想採択される
リサーチ ホットライン  
  スピン偏極共鳴トンネル効果の実証に成功 エレクトロニクス研究部門
  単層カーボンナノチューブで均質な薄膜を実現 ナノテクノロジー研究部門
  ナノクラスターの構造安定性 基礎素材研究部門
  低環境負荷型触媒反応の開発 物質プロセス研究部門
  ペプチド性錯体による有機スズ分解 海洋資源環境研究部門
  エイズウイルスプロテアーゼ阻害物質 生物機能工学研究部門
  ペプチド切断の質量分析計による解析 生命情報科学研究センター
  摩擦によって発生するマイクロプラズマを発見 ナノテクノロジー研究部門
  ダイオキシン濃度の簡易計測技術を開発 環境管理研究部門
  高性能普及形水素センサを開発 シナジーマテリアル研究センター
  分散型熱物性データベースの開発 計測標準研究部門
  回転式ECAP法による結晶粒の極微細化 基礎素材研究部門
特集  
  プロジェクト紹介
雲仙科学掘削プロジェクト
[ PDF:560.8KB ]
  インドネシア遠隔離島地熱プロジェクト [ PDF:640.2KB ]
連携産学官  
   活用される産総研特許を目指して [ PDF:299.9KB ]
  高感度薄膜圧力センサー連携研究体 [ PDF:238.5KB ]
パテント・技術移転いたします!  
  人に優しい上肢補助・下肢リハビリ支援システム 人間福祉医工学研究部門
  高効率波長選択型熱放射材料 基礎素材研究部門
コラム [ PDF:161.3KB ]
  第43次南極観測・越冬隊 第2話
テクノ・インフラ [ PDF:364.7KB ]
  ジョセフソン電圧標準装置のための位相同期回路
放射能標準の国際比較
地質情報の普及と高度利用に関する研究
AIST Network [ PDF:569.6KB ]
  生物機能工学研究部門が発足
モンゴル地質調査センター(GIC)と研究協力協定を締結
火山とともに生きる北の大地
サイエンスキャンプ2002
北海道センター一般公開
東北センター一般公開
ハンドメイド電気自動車レース2002
研究成果発表データベース を公開
AIST BOOKS第3巻「ポストゲノム」刊行
関西センター研究講演会のお知らせ
平成14年度 産総研国際シンポジウムのお知らせ
中部センター一般公開のお知らせ
役員人事  [ PDF:373.4KB ]
カレンダー
  2002年10月→2002年11月
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成果普及部門広報出版部出版室 TEL 029-861-4127〜4128

AIST リサーチホットライン
 

スピン偏極共鳴トンネル効果の実証に成功 [ PDF:530.7KB ]

湯浅新治の写真
新機能スピントロニクス素子の実現に向けて道筋を拓く 湯浅 新治 (ゆあさ しんじ)
湯浅連絡先
エレクトロニクス研究部門

 1995年に室温で巨大な磁気抵抗効果(Tunnel Magneto-Resistance; TMR効果)を示す素子(TMR素子)が開発され、これを利用した新しい不揮発性メモリ(MRAM)が考案された。TMR素子は厚さ約1nmの酸化アルミ(Al−O)のトンネル障壁層を2枚の強磁性金属(Fe, Co, Niなど)の電極層で挟んだ構造を持ち、不揮発記憶の機能を持つメモリ素子である。これは、従来の半導体素子では実現できない機能である。しかし一方で、半導体素子の特徴であるダイオード機能やトランジスタ機能などを、TMR素子は持っていない。もしこのような機能をTMR素子に付加できれば、スピントロニクス(固体中の電子スピンを利用したエレクトロニクス)分野の発展につながると期待される。そのための最も有望な手法は、共鳴トンネル効果の利用である。実際に、半導体素子では共鳴トンネル効果を用いたダイオードやトランジスタが実現されている。一方、スピントロニクス分野では、共鳴トンネル効果の実証が試みられてきたが、成功した例は全く無かった。磁性金属の共鳴トンネル効果(スピン偏極共鳴トンネル効果)は原理的に不可能であるという理論も提唱されている。しかし、我々は、電子スピンの散乱を徹底的に減らせばスピン偏極共鳴トンネル効果は実現可能と考えた。

 スピン偏極共鳴トンネル効果を実証するために、図1のような構造のTMR素子を作製した。電子スピンの散乱を減らすために、高品質の単結晶電極を用いた。Cu超薄膜の中にスピン偏極した共鳴状態が形成され、それを介したスピン偏極共鳴トンネル効果が起こることが期待される。このTMR素子の磁気抵抗比はCu層膜厚に対して振動し(図2)、その振動周期や位相はバイアス電圧に依存して変化する。これは、スピン偏極共鳴トンネル効果に起因して起こる現象であり、この効果を世界で初めて実証することに成功した。この結果は、共鳴トンネル型スピントロニクス素子が実現可能であることを示している。特筆すべき点は、この現象が室温で観測されることである。つまり、この原理に基づく素子は室温動作が可能である。この研究によって、磁性体中の電子の波動関数とスピンのコヒーレンシーを同時に保存できることが示された。この結果は、共鳴トンネル素子のみならず、量子計算機への応用の観点からも注目される。

 なお、以上の研究は科学技術振興事業団の戦略的創造研究推進事業の一環として産総研において行われたものである。


図1 図2
図1 (A)スピン偏極共鳴トンネル効果を実証するためのTMR素子の構造
左向きスピンの電子が選択的にCu層中に閉じこめられ、共鳴状態(量子井戸準位)を形成する。
(B) TMR素子の断面透過顕微鏡像
図2 磁気抵抗比のCu膜厚依存性


関連情報

  • http://unit.aist.go.jp/nano-ele/spinics/index.htm
  • S. Yuasa, T. Nagahama, Y. Suzuki : Science, Vol. 297, pp. 234-237 (2002).
  • 日本経済新聞、日刊工業新聞、日経産業新聞、日本工業新聞 平成14年7月12日。朝日新聞 平成14年7月17日。

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AIST リサーチホットライン
 

単層カーボンナノチューブで均質な薄膜を実現 [ PDF:542.3KB ]

南信次の写真
「ナノテク版墨流し」の技術を利用 南 信次 (みなみ のぶつぐ)
南連絡先
ナノテクノロジー研究部門

 材料を薄い膜状に成形加工することは、基礎・応用の両面で大変重要な研究課題である。特に、光を使って材料の性質(光吸収、発光、光伝導、光起電力、高速光励起緩和、非線形光学特性等)を調べるためには、良質な薄膜を用いることが必須条件となる。また、それ以外の様々な物性を調べる時にも、薄膜化した材料を用いることが多い。応用面では、色々な機能素子を作る工程には、必ずと言っていいほど、材料の薄膜化が含まれる。薄膜化の重要性を、何よりも見事に示したのが、白川教授等によるポリアセチレン薄膜の研究である。それ以前は不溶不融の粉末でしかなかったポリアセチレンが、均質な薄膜となったことにより、その性質に関する研究が飛躍的に進み、共役高分子・導電性高分子という大きな研究分野が切り拓かれたことはまだ記憶に新しい。

 カーボンナノチューブについてはどうであろうか? ここで話題とする単層カーボンナノチューブ(Single-wall Carbon Nanotube, SWNT)は、一枚のグラファイト(黒鉛)シートが丸まって直径約1nm(1mmの百万分の1)の細い筒状になったもので、ナノテク材料の代表格と見なされている。様々な用途が期待され、その研究は世界中で爆発的な広がりを見せているが、これまた不溶不融の黒色粉末であり、これまで薄膜化の研究はほとんど進んでいなかった。我々は、最近、ラングミュア・ブロジェット(LB)法を用いることにより、光学的にきわめて均質なSWNT薄膜を作製することに成功した(図1)。SWNTにはあらかじめ化学的処理を施し、可溶性と適度な親水性を持たせてある。LB法では、水面上に展開した薄膜が、(基板を上下することによって)基板表面に1層ずつ累積するため、精密な膜厚制御が可能である(図2)。さらに、薄膜の直線偏光二色性(偏光方向による吸収強度の違い)から、チューブが基板の上下方向に強く配向していることが分かった(図3)。

 光学的に均質で、かつ膜厚・配向が制御された薄膜を実現したことは、今後のSWNTの研究展開に重要な意味を持つ。従来困難であった光をプローブとする様々な物性評価が可能となり、半導体特性等、SWNTの光・電子物性についての理解が大きく進むものと期待される。また、本薄膜化手法は、センサー、光学素子、ナノ電子素子等、SWNTを用いたデバイスを構築するための基盤技術ともなり得る。 実は、LB膜の作り方は、墨流しと同じ原理に基づいている。今の場合、使っている素材はカーボンであり、まさに文字通りの“炭”流しである。この日本古来の技術をナノテク材料の研究に活用して、今後、より高度な構造制御を目指すと同時に、薄膜の物性・機能解明や応用技術開拓へ向けた研究を推進する計画である。


図1 図2
図1 単層カーボンナノチューブ(SWNT)のLB膜
(a)水平付着法140層。 (b)垂直浸漬法58層。
図2 垂直浸漬法によるLB膜作製手順
(a)クロロホルムに溶かした可溶化SWNTを水面上に滴下して展開。
(b)バリアーで展開膜を圧縮しながら、基板を上下に動かしLB膜を一層ずつ累積。
図3
図3 LB膜(垂直浸漬法20層)の直線偏光二色性
偏光方向が基板の上下動方向に平行か垂直かによって吸光度が大幅に異なる(約2.5の二色比)。各チューブが、基板の上下動方向に流動配向しながら累積するためこのような二色性が生ずる。1100〜1500nmの吸収ピークは半導体SWNTの第1バンドギャップ、650〜900nmの吸収ピークは第2バンドギャップに由来する。


関連情報

  • 南 信次、金 柄祉、朱 為宏、カザウィ・サイ、 阿澄玲子、松本睦良:単層カーボンナノチューブLB膜 [II]
    高度なチューブ配向の実現, 応用物理学会 25p-ZK-7, 2002年9月.
  • 南 信次、金 柄祉、朱 為宏、カザウィ・サイ、阿澄玲子、松本睦良:単層カーボンナノチューブの化学修飾とLB膜構築、 高分子討論会IIK11,2002年10月.

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AIST リサーチホットライン
 

ナノクラスターの構造安定性 [ PDF:514.0KB ]

多井豊の写真
実験と計算の両面からのアプローチ 多井 豊 (たい ゆたか)
多井連絡先
基礎素材研究部門

 ナノクラスター(大きさ百万分の1mm程度の原子の集まり)では、構造や物性、化学反応性などがバルクとは異なるので、ナノクラスターに固有の性質を利用することで、従来とは違った機能性材料が生まれると期待されている。他方、近年の電子デバイスの微細化は目覚ましく、もし、このままのペースが続けば、ナノのサイズ領域に達する日もそれ程遠くはない。従って、ナノクラスターの構造や物性を明らかにすることは、新材料創製や素子の微細化、高集積化の観点から重要で大変な課題である。

 当研究部門では、東北大学金属材料研究所と共同で、半導体族元素クラスターの構造や安定性に関して、表面誘起解離実験および理論計算の両面から研究を進めている。表面誘起解離実験では、クラスターを低エネルギーで固体表面に衝突させ、フラグメントを観測することでクラスターの安定性を推察する。この手法では、どのサイズのクラスターが相対的に安定かが分かるが、クラスターの構造についての情報は得られない。一方、理論計算では安定構造が予測できるが、対象とする系にどのような計算手法が適しているか、また、数ある構造の中で、どれが最安定かは判断が難しい。従って、実験と計算結果を比較検討することで、より信頼性の高い知見を得ることが出来る。これまでに、Sn(スズ)クラスターについて実験と計算との比較を行った。Snのバルクでは、常温では金属相が安定であるが、低温(<286K)では半導体相が安定となる。このような性質が、ナノクラスターにおいてどう変化するかは興味深い問題である。

 図1にSnクラスター15〜20量体の表面誘起解離スペクトルを示す。フラグメントは7〜10量体に分布しており、衝突によりクラスターがほぼ同じサイズの二つの断片に解離することが分かる。このようなパターンは、B3PW91と呼ばれる汎関数を用いた計算から得られた解離エネルギーで説明できることが分かった。このことは、そのような手法が、Snクラスターの最安定構造を予測するのに適することを示している。図2には計算から得られたSnクラスターの最安定構造を示す。このサイズ領域では、クラスターは二つのサブユニットが融合したような形をとることが分かる。図2の構造はSi(シリコン)やGe(ゲルマニウム)クラスターに関して提案されているものと非常に近く、金属元素のクラスターがとるコンパクトな構造とは異なっていて興味深い。今後、他元素のクラスターや、より広いサイズ範囲について、研究を進めてゆく予定である。


図1 図2
図1 Snクラスター(15 - 20量体)の低エネルギー表面誘起解離スペクトル 図2 理論計算から得られたSnクラスターの構造


関連情報

  • Y. Tai and J. Murakami : Chem. Phys. Lett. 339, 9 (2001).
  • Y. Tai, J. Murakami, C. Majumder, V. Kumar, H. Mizuseki, Y. Kawazoe : J. Chem. Phys. 117, 4317 (2002).

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AIST リサーチホットライン
 

低環境負荷型触媒反応の開発 [ PDF:533.5KB ]

小野澤俊也の写真
水溶性配位子の開発と水中でのヒドロホルミル化反応 小野澤 俊也 (おのざわ しゅんや)
小野澤連絡先
物質プロセス研究部門

 有機溶媒の代わりに水を溶媒に用いた合成反応は、1)均一系触媒反応における触媒と生成物の分離が容易になる、2)環境に有害な補助物質(有機溶媒)の削減につながる、などの特長を持ち、環境に配慮した化学産業を目指すグリーンケミストリーの観点から注目される反応である。しかし有機合成の溶媒として水を用いる場合、1)原料の有機化合物が水に溶けにくいため反応が遅くなる、2)水中で使える触媒が限られている、などの問題を抱えている。そこで水中で効率的に働き、かつ回収再利用が容易な分子触媒の開発を目標に、界面活性剤を基本骨格とし、疎水性部分の末端に配位部分を有する水溶性配位子の設計、合成を行った。さらに、アルケンからアルデヒドを合成する代表的な工業プロセスの一つであるヒドロホルミル化反応をモデルに、合成した配位子と触媒の回収再利用の検証を行った。

 疎水性部分の末端にロジウムに配位するリン原子を有するジフェニルフォスフィノデシル基と、親水性部分としてポリエチレングリコールを有する新規な水溶性配位子1の合成を行った。配位子1は市販の原料から2段階で容易に合成できた(式(1))。

 合成した配位子1とロジウム錯体を用い、水以外の溶媒を全く用いない条件下で1−オクテンまたは1−ドデセンのヒドロホルミル化反応を試みた。その結果、反応は円滑に進行し3時間後に対応するアルデヒドが収率およそ80%、アルデヒドの異性体比 n/i = 7/3で得られた(式(2)、表エントリー1、4)。この反応で、反応終了後の反応液は懸濁することなく生成物相(上澄み)と水相に分離し(図)、生成物であるアルデヒドは上澄みを取り蒸留することで容易に単離することが出来た。

 次に、上澄みの生成物相を除いた後、新たに原料(1−オクテン)を加えて反応を行うという、単純な操作で触媒の回収再利用が行えるかどうか検討を行った(図)。その結果、1回目の反応から3回目まで生成物の収率および異性体比にはほとんど差が見られなかった(表エントリー1〜3)。このことから、触媒の生成物相への溶出はごく少量で、ほとんどが水相に残存し触媒の回収再利用が行われていることが解った。

 今後さらに配位子の系統的な合成を行うとともに、アルデヒドの収率および異性体比(n/i )の向上を図って行きたい。


式・表
式・表 配位子合成とヒドロホルミル化反応
図
図 反応系の様子


関連情報

  • 小野澤俊也、 坂口 豁、鈴木邦夫:日本化学会第81春季年会, 3PC-039 (2002).

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AIST リサーチホットライン
 

ペプチド性錯体による有機スズ分解 [ PDF:505.1KB ]

井上宏之の写真
環境浄化に利用できる新規機能性キレーターを発見 井上 宏之 (いのうえ ひろゆき)
井上連絡先
海洋資源環境研究部門

 環境中に存在する微量の化学物質は、食物連鎖などの生物濃縮を通じて様々な生物の体内に検出されている。近年、それらの多くが内分泌機能に障害をもたらす内分泌かく乱物質(環境ホルモン)であることが指摘され、ヒトを含む生物全般への深刻な影響が懸念されている。従って、これらの物質に対する様々な研究および対策が、緊急の課題となっている。

 海洋における環境問題の一つに、巻貝のインポセックス現象が知られている。この現象は、船底塗料などに使用される有機スズによる汚染が主な原因である。有機スズの環境中の動態や毒性については、既に多くの報告があるが、浄化対策を進める上で必要不可欠な生物分解のメカニズムについてはほとんど分かっていない。

 我々は最近、微生物が生産するシデロフォアの一部に有機スズに対する分解活性を見つけた。シデロフォアは鉄キレーターの一種であり、元来は環境中の微量の鉄を微生物の膜レセプターを介して効率よく取り込む際の“運び屋”としての働きを持つ。本研究で見つかったシデロフォアは、特殊なアミノ酸を含むペプチドタイプであった(図1)。本物質は柔軟な構造を有しているので、鉄以外の金属や有機金属と結合する他に、酵素においては未だ発見されていないスズ−炭素の共有結合を切断するというユニークな活性をもっているのではないかと予測される。

 シデロフォアの有機スズ分解触媒としての特徴を検討した結果、(1)本反応は、常温、中性域で進行すること、(2)シデロフォア中の鉄キレート残基が有機スズ分解に関与すること、(3)銅イオンなどの添加によって分解活性が促進されること(図2)、などが明らかにされた。特に銅イオンは、シデロフォアと結合した状態で有機スズ分解に関与することが示唆され、その反応メカニズムは興味深い。

 シデロフォアがもつ(1)の性質は、本物質が環境中においても利用できる可能性を示唆する。また、本物質は微生物の膜レセプターを介して特異的に菌体内へ取り込まれるため、環境中から微量の有害金属を選択的に取り除く手段としても有効であると考えられる。我々は現在、有機金属汚染に対する新しい環境浄化素材として、ペプチド性シデロフォアをモデルにした機能性キレーターの開発を行っている。ペプチド性シデロフォアが有する新規触媒機能および認識機能の利用は、キレーターの付加価値を高めると考えられ、それらを用いる様々な分野への応用が期待される。


図1
図1 ペプチド性シデロフォアの推定構造
金属と配位する部分(カテコール基および2つのN-ヒドロキシホルミル基)を白丸で示す。
図2
図2 ペプチド性シデロフォアによるジフェニルスズの分解


関連情報

  • H. Inoue, O. Takimura, H. Fuse, K. Murakami, K. Kamimura, and Y. Yamaoka : Appl. Environ. Microbiol., Vol. 66, 3492-3498 (2000).
  • 特開2001-352994「有機スズ化合物分解剤、その製造方法及びそれを用いた有機スズ化合物の分解方法」

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AIST リサーチホットライン
 

エイズウイルスプロテアーゼ阻害物質 [ PDF:598.3KB ]

丸山進の写真
食品由来生理活性ペプチドの研究のなかから 丸山 進 (まるやま すすむ)
丸山連絡先
生物機能工学研究部門

 我々はこれまで食品系の生物資源を材料に血圧降下ペプチド、血栓抑制ペプチドなどを多種見出してきた。血圧降下ペプチドは、現在、商品化されている。このような研究の過程で、HIV−1(ヒト免疫不全ウイルス1型)プロテアーゼの活性を強く阻害するペプチドを発見し、さらに、リグニン関連物質にも同様の効果のあることを突き止めた。HIV−1プロテアーゼはウイルスの増殖に必須な酵素で、HIV−1の前駆体蛋白質を切断し、ウイルス自体の酵素と構造蛋白質を生成する(図)。このため、エイズ治療を目的としたHIV−1プロテアーゼ阻害物質がこれまでに種々化学合成されている。しかし、天然物由来で阻害活性の強いものはほとんど知られていない。

 まず、我々はカキ(牡蛎、Crassostrea gigas)の蛋白質の酵素加水分解液からHIV-1プロテアーゼを阻害する2種のペプチドを見出した。カキから見出したペプチドはHIV−1プロテアーゼを選択的かつ拮抗的に阻害し、HIV−1プロテアーゼ阻害効果が知られているペプスタチンAより百倍も強い阻害効果を示した。また、アミノ酸を置き換えた様々なペプチドを化学合成したが、これより阻害活性の強いものは得られなかった。なお、同一のアミノ酸配列は細胞周期制御に働く蛋白質サイクリンのほか、サイトメガロウイルスなど幾つかのウイルス蛋白質にも存在する。

 次に、我々はブナシメジなどのキノコから熱水抽出した水溶性リグニン様物質がHIV−1プロテアーゼを強く阻害することに気付いた。キノコなどから抽出される水溶性リグニン様物質やフェルラ酸等を脱水素重合させた高分子量の合成リグニンが抗HIV−1活性を有することは以前から知られており、これは、HIV−1が細胞へ結合するのをリグニン様物質が阻害するためであるとされている。我々は、このような高分子量のリグニン様物質の他に、フェルラ酸などを脱水素重合させた低分子量(Mr 500〜1,000)のリグニン様物質がHIV−1プロテアーゼを強く阻害することも明らかにした。さらに、ブナシメジ由来のリグニン様物質や低分子量の合成リグニン様物質がリンパ球系のMT−4細胞の系において抗HIV−1活性を有することも確認できた。本実験ではHIV−1が細胞へ結合するのを阻害する効果を区別できないため、上記の抗HIV−1活性が実際にHIV−1プロテアーゼ阻害によるものかは不明であるが、我々の研究で初めてMr 1,000以下の低分子量のリグニン様物質に抗HIV−1活性が確認された。そこで、このような低分子量重合体に着目して研究を進めている。


図
図 エイズウイルスのライフサイクルの概略と阻害物質
HIV-1プロテアーゼの働きを阻害すると、ウイルス粒子の形成が阻止される。


関連情報

  • 丸山進:食品由来プロテアーゼ阻害成分の生理活性、バイオサイエンスとインダストリー, 59巻, 8号, 30-33(2001).
  • 本研究は当研究部門の市村年昭主任研究員、抗HIV-1活性は大阪府立公衆衛生研究所の大竹徹博士との共同研究。

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AIST リサーチホットライン
 

ペプチド切断の質量分析計による解析 [ PDF:543.9KB ]

福井一彦の写真
実験と計算機シミュレーションとの融合によるフラグメント同定 福井 一彦 (ふくい かずひこ)
福井連絡先
生命情報科学研究センター

 質量分析とは、質量分析計(MS)を用いることで、目的の化合物(NMRやX線結晶解析の千分の一から十万分の一のnano-gramオーダーの試料)をイオン源で気体状のイオンにし、生成したイオンを質量と電荷の比で分離しスペクトラを得ることである。近年プロテオーム解析が注目されているが、これらを支援する基礎技術の実験手法の一つとしてタンパク質やペプチドから切断されたフラグメントを信頼性高く、高感度で同定できるMS実験の重要性が増している。

 筆者は、当研究センター細胞情報科学チーム高橋勝利1)研究チーム長と共に、生体関連分子を効率的にイオン化できるエレクトロスプレーイオン化法を用い、タンデム四重極−飛行時間型MSや卓越した分解能と精度に特徴があるフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴MS2)を使用し、切断部位を探るフラグメント同定を行っている。その際、タンデム質量分析計を使った衝突誘起解離実験ではイオンを電場によって加速させ、不活性ガスを充たした領域に入射し、衝突の際のエネルギー移動を利用して親イオンを解離させる3)、またレーザーを用いたペプチド結合切断では超高真空に閉じ込められたイオンに強力なCO2レーザー光を照射し、赤外多光子吸収を利用する技法を用いた(図1)。

 これらの実験に対し、分子軌道法や分子動力学などの分子シミュレーションによりペプチドやタンパク質の切断箇所を予測し、解析のスピードを上げることが可能となった。分子軌道計算では網羅的にペプチドボンドのBinding Energy(C'−N結合)やペプチド上のMobile/Remote Protonを考慮しProton Affinity計算を実行した(図2)。また分子動力学解離シミュレーションを用いて解離部位における切断の確率分布を統計的に計算する4)ことで、あらかじめコンピュターを使って切断箇所を予測し、選択的切断箇所などを調査することができると分かった。これらの網羅的・統計的な計算に際し、強力な計算パワーを有するCBRC Magi PCクラスタ5)や産総研先端情報計算センターのTACC Quantum Chemistry GRID/Gaussian Portal システムを使用した。今後これらの研究の蓄積が、プロテオーム解析の高速化・並列化に繋がると期待される。


図1 図2
図2 (上)N末端およびC末端を考慮した20個のアミノ酸の組み合わせでできるジペプチドの網羅的結合エネルギー解析
図1 (左)フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計で得られたアンジオテンシンIIのスペクトル(上)と衝突誘起解離によるプロダクト・イオン(下)
アミノ酸配列ASP-ARGHIS-PRO切断から主に観察されたフラグメント・イオンタイプ b6、y2


関連情報

  • 1) 高橋勝利:タンパク質2次元電気泳動像の自動解析, AIST Today Vol. 2, No. 2, p10 (2002).
  • 2) Akashi, S. , Naito, Y. , Takio, K. : Anal. Chem., 71, 4974 (1999).
  • 3) Gu, C. , Taspralis, G. , Breci, L. , Wysocki, V. H. : Anal. Chem., 72, 5804 (2000).
  • 4) Fukui, K. , Akiyama, Y. , Takahashi, K. , Naito Y. , "ESI-FTICR MS With Infrared Multiphoton Dissociation : Analysis of Fragmentation of Peptides", Proc. 50th ASMS.
  • 5) 秋山泰:生命情報科学と大規模PCクラスタ, AIST Today Vol. 1, No. 10, p15 (2001).

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AIST リサーチホットライン
 

摩擦によって発生するマイクロプラズマを発見 [ PDF:540.6KB ]

中山景次の写真
接触点のまわりに彗星状に拡がる 中山 景次 (なかやま けいじ)
中山連絡先
ナノテクノロジー研究部門

 これまで、摩擦の諸現象は摩擦熱により解析されてきたが、温度のみでは説明しきれない多くの不可解な現象が観察され、温度以外の不明な高エネルギー状態が摩擦接触点に発生していることが示唆されてきた。これに対し、我々は摩擦面から放出される電子、イオン、フォトンなどのエネルギー性粒子を観察し、それらの特性究明を通じて、摩擦接触点周辺のすき間に高エネルギーのマイクロプラズマが発生するという結論に達し、その発生機構として、図1に示す気体放電マイクロプラズマモデルを提唱してきた。今回マイクロスケールのプラズマ(マイクロプラズマ)の全体像の撮影に世界で初めて成功し、その存在を実証した。

 図2は、半球状のダイヤモンドピン(先端半径300µm)とサファイヤディスクの摩擦接触点のすき間に発生したプラズマを、回転するディスクを通して裏面から紫外光のみを透過する光学フィルターを通して計測したプラズマの平面像である。プラズマから放出された微弱な光を光学顕微鏡にて拡大し、ICCDカメラ上に結像し、コンピュータ処理によりプラズマ像を得た。プラズマは、接触点の後方に長径100µm以上の大きさで尾をもって彗星状に広がり、接触点の外側で強い光を放射していた。すなわち、プラズマは接触点の外側に発生していた。このことは、光は摩擦発熱により接触点より放出されるとする従来の考えを大転換させるものである。また、このプラズマの内部には図2に見られるような馬蹄形が発生していた。さらに、この紫外光のスペクトル解析によって、気体放電マイクロプラズマモデルが実証された。一方、図3は接触点の側方より計測したプラズマの側面像である。プラズマが摩擦接触点の移動方向の後ろ側のすき間に発生していることが明瞭に見てとれる。さらに、プラズマの動画撮影にも成功した。この動画より、プラズマの形と発生分布が時間とともに変動することが分かった。このプラズマは、2cm/sという低速度、3gという低荷重でピンを移動させた場合も観察され、さらに、絶縁体、半導体、金属酸化膜を含むほとんどあらゆる材料の摩擦に伴い発生することが分かった。

 これらのことから、我々の日常生活や産業界活動の多くの場合において“摩擦のあるところマイクロプラズマあり”と言えるであろう。新たな摩擦の学問領域が開拓され、様々な応用技術の道が大きく拓かれるであろう。


図1 図1 気体放電マイクロプラズマモデル
プラズマとは、正の荷電粒子(正イオン)と負の荷電粒子(負イオン+電子)が同数存在し、中性となっている状態をいう。
図2 図3
図2 プラズマの紫外光像 図3 プラズマの側面像


関連情報

  • Keiji Nakayama and Roman A. Nevshupa, "Plasama Generation in a Gap around a Sliding Contact", J. Phys.D. : Appl. Phys. 35 (2002) L53-L56.
  • 日本工業新聞、日刊工業新聞、日経産業新聞、中部経済新聞、産経新聞 平成14年7月31日。化学工業新聞 平成14年8月19日。

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AIST リサーチホットライン
 

ダイオキシン濃度の簡易計測技術を開発 [ PDF:497.1KB ]

黒澤茂の写真
公定法に準じた高精度かつ迅速なダイオキシン分析法 黒澤 茂 (くろさわ しげる)
黒澤連絡先
環境管理研究部門

 近年、ダイオキシン類をはじめとした環境ホルモン等による環境汚染が深刻な社会問題となっている。地球環境の保全のためには、これらの環境汚染物質の発生状況や暴露状況の実態調査用にppm〜pptレベルでの化学物質測定を行う高度な化学計測技術が必要である。現在のところ、ダイオキシン類の計測にはGC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析)法のように大型で高価な装置と前処理を含めて熟練の作業者と高額な分析費用、かつ長い測定時間が必要である。ダイオキシン類対策特別措置法の本年12月からの本格施行に伴い、地方自治体や事業者によるダイオキシン類の環境モニタリングが本格化している。このためダイオキシン類の簡易測定技術の確立は緊急の研究課題となっている。

 我々は、水晶振動子(Quartz Crystal Microbalance: QCM)の持つ超微量の質量定量性と抗2, 3, 7, 8−テトラクロロジベンゾ−パラ−ダイオキシン(2, 3, 7, 8−TCDD)モノクローナル抗体の持つダイオキシン選択結合性を利用することにより、ダイオキシン類のオンサイト簡易計測の研究を進めている。その結果、抗ダイオキシン抗体とその安定剤を固定化したQCMを用いたダイオキシン測定条件を検討し、0.1ng/ml(ng=10-9g)から100ng/mlの濃度範囲で、ダイオキシン濃度を測定できることを明らかにした(図)。当該の濃度は、土壌の環境基準の80ng−TEQ(毒性等量)程度の環境モニタリングには十分な感度である。また、写真は産総研で開発したQCM式ダイオキシンセンサーの外観である。

 実際の環境試料(ゴミ焼却場の飛灰)から高速溶媒抽出により前処理・クリーンアップし、調整した高濃度のダイオキシン類含有試料を用い、当該QCM法による測定条件の検討を行った。QCM法による環境試料中のダイオキシン濃度分析結果は、公定法であるGC/MS法で測定したダイオキシン濃度および従来のダイオキシン簡易計測法のELISA(酵素固定化免疫測定)法と良い相関を示し、極微量の分析試料量(10µl以下)のため分析後の焼却廃棄量もより少なく、かつ試料採取から6時間で分析ができた(従来のGC/MS法では4週間程度必要)。準公定法となり得る検出精度を有するQCM式ダイオキシン簡易計測技術を確立できれば、分析価格が高価なため1年毎での環境測定しかできなかったゴミ焼却場等で、月毎や週毎での環境モニタリングが可能となり、ダイオキシン類の排出抑制対策に大きく貢献できる。


図 水晶振動子式ダイオキシンセンサーの写真
図 競争反応によるダイオキシン測定の概念図
ダイオキシンが結合することによるQCMの周波数変化からダイオキシン濃度を求める。
写真 水晶振動子式ダイオキシンセンサー


関連情報

  • 黒澤 茂、愛澤秀信、朴 鐘元、脇田慎一、二木鋭雄:水晶振動子を用いたバイオセンシング、マイクロマシン、産業技術サービスセンター社刊、 542-550 (2002).
  • http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2002/pr20020717/pr20020717.html
  • 日経産業新聞、日本工業新聞、化学工業日報 平成14年7月18日。毎日新聞 平成14年7月22日。朝日新聞 平成14年7月24日。読売新聞 平成14年8月2日・8月13日。日経バイオテク 平成14年7月29日。

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高性能普及形水素センサを開発 [ PDF:516.6KB ]

申ウソクの写真
水素エネルギーシステム実用化に向け 申 ウソク (しん うそく)
申連絡先
シナジーマテリアル研究センター

 最近水素ガスが注目を浴びている。その背景としては、数年後には身近なものとなる、燃料電池自動車や家庭用分散型燃料電池発電装置に代表される水素エネルギー社会の到来がある。水素はその高いエネルギー効率の他に、環境問題の観点からもクリーンなエネルギーとして注目されている。しかしながら、水素は爆発しやすいという取り扱いにくさがある(爆発下限界濃度4%)。水素利用に対する最優先課題の一つとして、システムを安心して利用するための安全対策に欠かせない水素センサの開発が挙げられる。

 水素センサに求められる性能は、選択的に水素ガスだけに応答し、約0.05%から約4%の濃度範囲の水素ガスを誤動作することなく定量的に検知できるとともに、小型かつ低コストで製造できることである。当研究センターでは、熱電変換材料と白金触媒との組み合わせにより、水素ガスだけに応答し、かつ室温で作動する熱電式水素センサを発明し、その素子開発を行っている。この新しい熱電式水素センサは、熱電変換材料膜とその表面の一部の上に形成された白金触媒膜で構成される。水素ガスと白金触媒膜との発熱反応により発生した局部的な温度差を、熱電変換材料膜により電圧信号に変換するもので、約100℃以下の素子動作温度では、白金触媒が水素ガスだけに反応するため、水素ガスに対する優れた選択性がある。

 今回開発されたセンサでは、動作温度100℃において250ppmから10%の濃度の水素ガスを定量的に検知可能である。この新しいセンサの特徴としては、約60〜180℃という広い温度範囲において電圧信号の変動が極めて小さいため、季節の変化または計測するガス流による素子温度変化に対する補正を行う必要がなく、周囲温度が著しく変化する環境にも問題なく使用できることが挙げられる。この熱電式水素センサの電圧信号は、水素ガス濃度に対して優れた直線性があり、水素濃度1%時におよそ1.0mVの信号電圧が得られる。このため、出力信号処理にかかる様々な周辺装置を減らすことができるので、例えば燃料電池車搭載用センサとしても期待が持てる。また、このセンサは、低消費電力であり、構造が簡単なため、シリコン基板上への集積化に適しており、低コストで高信頼性のある水素ガスセンサとして実用化される可能性が高い。


写真1 写真2
写真1 熱電式水素センサの外観 写真2 触媒活性と熱電変換性能を別々に評価するために開発された熱電式水素センサの特性評価装置


関連情報

  • Shin W, Imai K, Izu N, Murayama N, "Thermoelectric Thick-Film Hydrogen Gas Sensor Operating at Room Temperature", Jpn. J. Appl. Phys. Part2 Vol 40 (11B) L1232-L1234 (2001).

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分散型熱物性データベースの開発 [ PDF:559.6KB ]

馬場哲也の写真
物質データ共有ネットワークの構築を目指して 馬場 哲也 (ばば てつや)
馬場連絡先
計測標準研究部門

 科学技術を支える基盤情報である熱物性データ(熱伝導率、熱拡散率、比熱容量、熱膨張率、放射率等)は、これまで主にデータブックや論文から得られてきたが、データ検索の容易さやパソコン等へのデータを取り込む際の利便性などを考えると、熱物性データを電子情報化してデータベースに収録し、CD−ROM等による配布やインターネット公開を進めていくことが求められる。

 データベースが多くのユーザに利用されるためには、信頼できるデータが十分な数だけ収録されていなければならない。このようなデータベースの構築は一機関では困難であり、広範な関連機関の参加により初めて実現できる。ところが従来のデータベースはいわゆる「集中型」であり、センター的役割を果たす一機関(データセンター)に全てのデータを集め、データ入力・管理・供給の全てを行うことが一般的であった。それに対して、当研究部門では個々の研究機関がデータの入力・更新に継続して責任を持ち続け、それらの独立し分散したデータベースを統合した形でネットワークからアクセスできる「分散型熱物性データベースシステム」の概念を提示し、その開発を進めている。

 図1に示されるように、分散型データベースシステムにおいては、データベースの構築に関わる複数の機関が自立したデータベースを保有し、それぞれの担当分野について熱物性データの入力と更新を行う。このようにして各機関において作成された熱物性データベースは自機関で活用されるとともに、インターネットを介してキーステーションのサーバにあるマスターデータベースに登録され、インターネットにより公開される。

 収録された熱物性データは、まずグラフ表示により視覚的に認識される(図2)。そのグラフをクリックすれば数値データ、出典等の詳細情報が得られる。また、グラフのドラッグ&ドロップにより複数データを同一グラフ内に表示することや、例えば熱伝導率、比熱容量、密度から熱拡散率を算出して表示するなど、グラフに表示されたデータ間の演算を行うこともできる。

 現在、金属、セラミックスなどの基本材料および機能材料を中心として、熱伝導率、熱拡散率、比熱容量、熱膨張率、放射率等の熱物性データが収録されており、産総研研究情報公開データベース(RIO−DB)の一環として近日公開の予定である。


図1
図1 分散型熱物性データベースのイメージ
各データセンター(データ生産・収集・評価拠点)からインターネットによるデータの登録・更新が可能である。収録された熱物性データをインターネットを介して検索し、パソコンに取り込むことができる。
図2
図2 分散型熱物性データベースの操作画面
ウィンドウの左側に物質・材料の階層構造が表示される。物性データは物質・材料フォルダ内のファイルとして右側に表示され、物性ファイルを操作画面のデスクトップにドラッグ&ドロップするとグラフ表示される。


関連情報


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回転式ECAP法による結晶粒の極微細化 [ PDF:726.3KB ]

斎藤尚文の写真
金属材料の「餅つき法」の研究 斎藤 尚文 (さいとう なおぶみ)
斎藤連絡先
基礎素材研究部門

 一般の金属材料は、異なった方向を向いた多数の単結晶(結晶粒)が集まって出来ている。これら結晶粒を極微細化すると、従来は得られなかった材料特性を示すことが期待されるため、微細結晶粒材料は材料科学分野のフロンティアとして注目を集めている。

 微細結晶粒金属材料創製には強加工法が最も有効であり、様々な手法がある。その中で、ECAP(Equal-Channel Angular Pressing)法は素材形状が強加工の前後でほとんど変わらず、型を何回も通過させることで原理上は材料に何回でも加工を与えられるという特長を持つため、新しい強加工手法として注目されている。通常、ECAP法では加工を10回ぐらい繰り返すので、加工の度にビレット(素材となる金属試料)を型に再挿入する。そのために、加工したビレットの再挿入までの間の温度管理など加工条件の制御が難しいという問題があった。このような問題を一気に解決したのが、当研究部門金属材料組織制御・評価研究グループで開発した回転式ECAP(Rotary-Die ECAP)法である。

 回転式ECAP法では型に断面積が等しい十字の貫通孔があり、この孔に等しい長さのパンチが挿入されている(図1(a))。ただし、左右方向の孔の片側と下部のパンチの動きは壁や底板で拘束されている。回転式ECAP法では、まずビレットを上部より挿入して押し込み加工用パンチで圧縮し、拘束されていないパンチ方向(左方向)に押出し、上部パンチの頭が型の上部面と平行になったところで加工が終了する。この状態では試料全体が横向きになっているが(図1(b))、型を90°回転させると加工前と同じ状態に戻る(図1(c))。これを再度押し込み、1回目と同じ加工を2回、3回と繰り返すことで、試料を再挿入する操作なしに加工を続けることができる。この結果、1回のパスに必要な時間を短縮することができると同時に加工条件の制御が容易になる。回転式ECAP法をアルミニウム合金鋳造材に適用した例を図2に示す。加工によって結晶粒が2〜3µmまで微細化するとともに材料の延性が大幅に向上した(伸びは約130%)。

 多数の結晶粒からなる金属材料は、米粒が集まってできた「おにぎり」のようなものである。おにぎり自体は強度や伸びが低いが、これを「餅つき」すると弾力性を発揮し、伸びや強度が出る。本研究グループで開発された回転式ECAP法は、いわば金属材料の“餅つき法”であり、この手法を用いてナノオーダーの極微細結晶粒材料開発に挑戦している。


図1
図1 回転式ECAP法の加工手順
(a)初期の状態。 (b)1回目の加工後。 (c)型を90°回転させた状態。
図2
図2 ECAP加工回数によるアルミニウム鋳造合金(AC4C)のミクロ組織の変化
加工温度は330℃。


関連情報

  • 特許3268639「強加工装置、強加工法並びに被強加工金属系材料」、米国特許No. 6,209,379
  • Yoshinori Nishida, Hiroaki Arima, Jin-Chun Kim, and Teiichi Ando: Scripta Materialia, 45, 261-266 (2001).
  • Yoshinori Nishida, Teiichi Ando, Masakazu Nagase, Suk-won Lim, Ichinori Shigematsu, Akira Watazu:Scripta Materialia, 46, 211-216 (2002).
  • 西田義則、有馬弘晃、金 鎭千、安藤禎一 : 軽金属、50巻、655 (2000).

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