大容量記録媒体であるハードディスク(HD)はビデオデッキにも装備されるようになり、より身近なものとなってきた。HDにはナノメートルスケールの小さな磁石が並べられ、そのS極N極の向きとして情報が記録されているので、記録容量をさらに大きくするためには、より小さな磁石を記録単位としなければならない。結果として、得られる信号磁場の大きさは小さくなるので、信号を読み取るセンサー(再生ヘッド)には、より高感度なものが必要となる。
再生ヘッドとして研究開発が進められている電子のトンネル現象を利用した素子では、2枚の強磁性体金属膜で絶縁膜をはさんだ構造となっている。小さな磁石から発生する磁場によって一方の強磁性体金属層の磁化(S極N極の向き)を反転させ、層間の磁化の向きに依存する抵抗の変化(磁気抵抗効果と呼ばれる)として信号を読み取っている。この変化率の大きさは、強磁性体金属の電気伝導に寄与する電子のスピン(上向きと下向きが存在する電子の性質の一つ)が、どちらか一方に片寄っている方が大きくなる。その偏りの具合を偏極度と呼ぶ。自然界に存在する通常の強磁性体金属では、偏極度は高々50%程度であることから、理論的な計算式に従うと、磁気トンネル接合素子の磁気抵抗効果における抵抗値の変化率の限界は70%である。現在では、ほぼこの理論限界値を示す素子が報告されている。
我々は、より高感度な再生ヘッドの実現に向けた第一歩として、より高いスピン偏極度を持った強磁性体材料を新たに探索することにした。先ず、コンピュータによりスピン偏極度がほぼ100%になる強磁性体を仮想的に物質設計することに成功した。このような物質は、完全スピン偏極強磁性体と呼ばれる。仮にスピン偏極度を90%と見積もって計算すると、磁気抵抗効果の変化率の上限は1桁以上もはね上がる。次に、分子線エピタキシー法と呼ばれる超高真空薄膜作製法を駆使して、この仮想的に設計された物質の薄膜の合成に成功した(図、写真)。最近では、同様に完全スピン偏極強磁性体となる可能性のある砒化マンガンの合成にも成功している。本研究はコンピュータによる物質設計とその合成という、究極の物質探索手法の成功例となったと考えている。
本研究の一部は、アトムテクノロジープロジェクトにおいて行われたものである。また、平成13年度から始まったNEDOナノ機能合成プロジェクトにおいて、東北大学の白井正文教授、東京大学尾嶋正治教授のグループ、富士通研究所のグループと共に、物性評価とデバイス応用研究を進めている。
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図 第一原理計算によって設計した閃亜鉛鉱型砒化クロムの結晶構造
計算により、完全スピン偏極強磁性体となることも明らかになった。 |
写真 分子線エピタキシー法によって作製した砒化クロム薄膜の断面透過型電子顕微鏡写真
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関連情報
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