独立行政法人産業技術総合研究所
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AIST Today VOL.2 No.9

AIST TODAY
持続可能な循環型社会の実現
特集
プロジェクト紹介
半導体MIRAIプロジェクト
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表紙 [ PDF:501.8KB ]
目次
メッセージ [ PDF:102.1KB ]
  産総研の付加価値創造マネジメント
トピックス [ PDF:806.4KB ]
  サイエンスキャンプ2002
 青少年育成事業への産総研の取り組み
リサーチ ホットライン  
  完全スピン偏極強磁性体材料を実現 ナノテクノロジー研究部門
  電解堆積法によるポリイミド絶縁膜作製 エレクトロニクス研究部門
  自己組織化膜の基本構造決まる ナノテクノロジー研究部門
  新規な光機能素子形成法を開発 光技術研究部門
  石英ガラスのレーザー光化学加工 光反応制御研究センター
  高耐食性・高強度のスーパーマグネシウムを開発 基礎素材研究部門
  手のひらサイズの高効率物質探索法 生活環境系特別研究体
  MgB2超伝導線材の開発 機械システム研究部門
  水中超音波による微小気泡の挙動観察 セラミックス研究部門
  新しい角度標準の確立 計測標準研究部門
  100℃で働く酵素 生物情報解析研究センター
  生命科学知識の形式的記述 生命情報科学研究センター
特集 [ PDF:771.8KB ]
  プロジェクト紹介
半導体MIRAIプロジェクト
 -半導体技術の未来を拓く基盤技術開発-
連携産学官 [ PDF:172.7KB ]
  産総研の戦略的活用を探る
コラム [ PDF:517.5KB ]
  第43次南極観測・越冬隊から一報
パテント・技術移転いたします!
  カーボンナノチューブの連続製造方法及び装置 新炭素系材料開発研究センター
  書き換え可能なカラー画像記録媒体及びそれを用いた光による画像形成方法 物質プロセス研究部門
テクノ・インフラ [ PDF:371.7KB ]
  産総研提案JIS第1号制定
新しい底質標準物質
ガス標準
地質標本館所蔵標本目録
AIST Network [ PDF:613.1KB ]
  ジーンディスカバリー研究センターを改組し1研究センター、1研究ラボを新設
産総研一般公開の報告
中国センター一般公開のお知らせ
離散化数値解法のための並列計算プラットフォームユーザ会
バイオウィーク in Sapporo 2002
第6回複雑現象工学講演会
第二回日本版被害算定型影響評価手法ワークショップ
第4回マイクロリアクター技術研究会報告
第2回生活環境系特別研究体フォーラム
産技連第2回情報・電子部会総会
産技連第2回機械・金属部会総会
カレンダー [ PDF:417.0KB ]
  2002年9月→2002年11月
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成果普及部門広報出版部出版室 TEL 029-861-4127〜4128

AIST リサーチホットライン
 

完全スピン偏極強磁性体材料を実現 [ PDF:511.7KB ]

秋永広幸の写真
コンピュータによる物質設計とその合成 秋永 広幸 (あきなが ひろゆき)
秋永連絡先
ナノテクノロジー研究部門

 大容量記録媒体であるハードディスク(HD)はビデオデッキにも装備されるようになり、より身近なものとなってきた。HDにはナノメートルスケールの小さな磁石が並べられ、そのS極N極の向きとして情報が記録されているので、記録容量をさらに大きくするためには、より小さな磁石を記録単位としなければならない。結果として、得られる信号磁場の大きさは小さくなるので、信号を読み取るセンサー(再生ヘッド)には、より高感度なものが必要となる。

 再生ヘッドとして研究開発が進められている電子のトンネル現象を利用した素子では、2枚の強磁性体金属膜で絶縁膜をはさんだ構造となっている。小さな磁石から発生する磁場によって一方の強磁性体金属層の磁化(S極N極の向き)を反転させ、層間の磁化の向きに依存する抵抗の変化(磁気抵抗効果と呼ばれる)として信号を読み取っている。この変化率の大きさは、強磁性体金属の電気伝導に寄与する電子のスピン(上向きと下向きが存在する電子の性質の一つ)が、どちらか一方に片寄っている方が大きくなる。その偏りの具合を偏極度と呼ぶ。自然界に存在する通常の強磁性体金属では、偏極度は高々50%程度であることから、理論的な計算式に従うと、磁気トンネル接合素子の磁気抵抗効果における抵抗値の変化率の限界は70%である。現在では、ほぼこの理論限界値を示す素子が報告されている。

 我々は、より高感度な再生ヘッドの実現に向けた第一歩として、より高いスピン偏極度を持った強磁性体材料を新たに探索することにした。先ず、コンピュータによりスピン偏極度がほぼ100%になる強磁性体を仮想的に物質設計することに成功した。このような物質は、完全スピン偏極強磁性体と呼ばれる。仮にスピン偏極度を90%と見積もって計算すると、磁気抵抗効果の変化率の上限は1桁以上もはね上がる。次に、分子線エピタキシー法と呼ばれる超高真空薄膜作製法を駆使して、この仮想的に設計された物質の薄膜の合成に成功した(図、写真)。最近では、同様に完全スピン偏極強磁性体となる可能性のある砒化マンガンの合成にも成功している。本研究はコンピュータによる物質設計とその合成という、究極の物質探索手法の成功例となったと考えている。

 本研究の一部は、アトムテクノロジープロジェクトにおいて行われたものである。また、平成13年度から始まったNEDOナノ機能合成プロジェクトにおいて、東北大学の白井正文教授、東京大学尾嶋正治教授のグループ、富士通研究所のグループと共に、物性評価とデバイス応用研究を進めている。


図 写真1
図 第一原理計算によって設計した閃亜鉛鉱型砒化クロムの結晶構造
計算により、完全スピン偏極強磁性体となることも明らかになった。
写真 分子線エピタキシー法によって作製した砒化クロム薄膜の断面透過型電子顕微鏡写真


関連情報

  • H. Akinaga, T. Manago, and M. Shirai: Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 39, No. 11B L1118-L1120 (2000).
  • 特開2002-80299「スピンエレクトロニクス材料及びその作製方法」

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AIST リサーチホットライン
 

電解堆積法によるポリイミド絶縁膜作製 [ PDF:490.5KB ]

所和彦の写真
メッキ法を応用した高密度配線インターポーザを目指して 所 和彦 (ところ かずひこ)
所連絡先
エレクトロニクス研究部門

 電子システムの高機能化・高速化のため、多層配線技術を用いた高密度集積化の実現が急務となっている。システムの中心部であるLSIチップの微細化・高密度化に伴い、LSIチップ間やLSIチップと他のデバイス間をつなぐ方法として、パッケージとプリント配線板による実装方式よりも、インターポーザと呼ばれる実装方式の開発が必要とされるようになってきた(図)。より高密度な配線層を具現化でき、直接チップを搭載できるからである。

 これに対応して、より低抵抗な配線材料や低誘電率の絶縁材料の開発が強く求められている。層間絶縁材料としては、低誘電率で、耐熱性、耐薬品性に優れたポリイミドが注目されている。しかし、ポリイミド薄膜の作製方法としては、塗布法・スピンコート法が主で、使用する薬剤の消費が大きいこと、大面積・均一な膜の作製が困難であることなどが、ポリイミドの利用の際に障害となっている。

 このような障害に対処するために、我々は、めっき法を応用した電解堆積法を用いることにより、大面積かつ均一なポリイミド膜を基板(シリコンウエハ)上に作製し、高密度配線の絶縁膜として利用することを検討した。(株)ピーアイ技術研究所と共同で開発中の溶媒に可溶なポリイミドを用いて電着液を用意し、その溶液中に導電性を付与した基板を電極として配置し、その電極間に電圧をかけることにより、基板上にポリイミドを成膜するというものである。また、被めっき物に導電性をもたせることによって、同様なめっき法で、金属配線の作製や多層構造を作製することも可能である。これにより、大部分を真空プロセスにより作製している既存の方法に比べて簡便に高密度配線構造を作製することが可能となる。

 今回、我々の研究グループではこの電解堆積法を用いて、ミクロンオーダーのポリイミド絶縁膜・銅配線構造の試作に成功した(写真)。

 今後は、めっき技術の応用という比較的簡単な装置による膜製造法である本方式を、デバイス実装構造作製技術に取り込むことにより、省資源・省エネルギーを兼ね備えた高密度多層配線の新しい作製技術の実現を目指して行く予定である。


図 写真1
図 インターポーザ模式図 写真 ポリイミド膜・銅配線構造・電子顕微鏡写真


関連情報

  • K.Tokoro et al.: "Fabrication of Fine Wiring Structure by Electrodeposited Polyimide for High Density Packaging and Interconnection", 4th Electronics Packaging Technology Conference (IEEE Reliability/ CPMT/ED), Singapore, Dec., 2002で発表予定
  • K.Kikuchi et al.: "Development of the High Density Multiple layers Wiring Package Using a Photosensitive Polyimide", The 6th VLSI PACKAGING WORKSHOP of JAPAN (IEEE CPMT and NIST), Japan, Nov., 2002で発表予定

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AIST リサーチホットライン
 

自己組織化膜の基本構造決まる [ PDF:3.0MB ]

野副尚一の写真
夢の機能性材料開発への一里塚 野副 尚一 (のぞえ ひさかず)
野副連絡先
ナノテクノロジー研究部門

 遅くとも今世紀の四半世紀頃までには、一つ一つの分子が潜在的に持つ機能を極限まで発揮させる新しい材料が実用化されるであろう。このような夢を実現するためには、一つ一つの分子を所定の位置に規則正しく並べることが必要になるであろう。

 分子を規則正しく配列する技術として、自己組織化膜に注目が集まっている。自己組織化膜とは、無機物の単結晶表面の規則的な原子配列を鋳型として形成される有機分子の膜のことである。1980年代に、ジスルフィド基(SS)あるいはチオール基(SH)を持つ有機分子が金単結晶表面と特異的に強い結合を形成し、自発的かつ規則的に配列した有機単分子膜(自己組織化膜)を形成する事が見いだされ、自己組織化膜の研究が急速に活発になってきている。現在までに自己組織化膜により、センサーあるいはFET素子等分子レベルで作動する機能材料の構築の試みが数多く発表されている。

 しかし、多くの研究にもかかわらず、分子レベルで機能性薄膜を設計する上でどうしても必要な、「チオールあるいはジスルフィドが基板の金原子とどのような結合を形成するのか ?」といった自己組織化膜の構造に関する基本的な問題に明確な解答が与えられていなかった。これは、自己組織化膜が当初の予想よりも多様な構造をとることの他に、有機単分子膜が電子線により容易に分解するため、従来有効であった真空中で電子をプローブとする手法により構造を決定することが出来なかったからである。

 我々は、昇温脱離法および高分解能電子エネルギー損失分光法(HREELS)によりジスルフィド基およびチオール基はいずれも金基板上で解裂し、金と硫黄原子が直接結合したチオレート結合を作ることを明らかにした。図1にジメチルジスルフィドをAu(111)に吸着した系についてのHREELSの測定結果と密度汎関数法による解析結果を示す。これらのことから、ジスルフィドは解裂し、硫黄原子は図2に示したように従来信じられていたホローサイトではなくブリッジサイトに位置するということを確定した。これにより、自己組織化膜に係わる長年の論争に決着をつけた。分子レベルで設計可能な分子システムとしての自己組織化膜の研究・開発が加速されるであろう。


図1
図1 Au(111)表面上のメチルチオレート(CH3S)のHREELSスペクトルと密度汎関数法により推定されるスペクトル位置
Au(111)表面は図2に示すように金原子が6回対称の最密充填構造をとる。3ケの金原子の間の吸着位置をホローサイト、2ヶの金原子の間の吸着位置をブリッジサイトという。
図2
図2 Au(111)表面上のメチルチオレート(CH3S)の吸着構造
断面図の灰色の球は一層分背後にある金原子と水素原子を表す。


関連情報

  • 共同研究 : 小玉千歳、林智広(筑波大学連携大学院)、森川良忠主任研究員(計算科学研究部門)
  • C.Kodama, T.Hayashi , H.Nozoye: Appl. Surf. Sci., Vol.169-170, 264-267 (2001).
  • T.Hayashi, Y.Morikawa, H.Nozoye: J. Chem.Phys. Vol.114, No. 17, 7615-7621 (2001).
  • Y. Morikawa, T. Hayashi, C. C. Liew, H. Nozoye: Surf. Sci., 507-510, 46-50 (2002).
  • Y. Morikawa, T. Hayashi, C. C. Liew, H. Nozoye: Surf. Sci., 514, 389-393 (2002).

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AIST リサーチホットライン
 

新規な光機能素子形成法を開発 [ PDF:505.8KB ]

溝黒登志子の写真
真空技術を用いた高品質有機超薄膜形成技術 溝黒 登志子 (みぞくろ としこ)
溝黒連絡先
光技術研究部門

 液晶、有機ELディスプレイ、CD-Rの実用化に伴い、有機化合物を用いた光機能素子が脚光を浴びている。有機化合物を用いると、無機化合物に比べて(1)材料選択の幅が広がる、(2)大面積化が容易、(3)安価、などの利点がある。しかし現状の有機化合物を用いた薄膜形成技術は、薄膜中に溶媒・気泡が残留する、溶媒による環境汚染が生じるなどの課題があり、湿式プロセスの枠にとらわれない新しい有機薄膜形成法が求められている。我々は真空技術を用いた新規な高純度・高品質有機薄膜形成技術を開発し、さらに光機能素子作製技術へ展開させた。

 有機薄膜形成法として、我々は真空技術を用いた「色素蒸気輸送法」1)と「真空スプレー法」1)を開発してきた。いずれも真空技術を用いているため、溶媒を含まない高純度・高品質な有機薄膜を形成できる。またポリマーに機能性低分子有機化合物を高濃度でドープでき、ポリマーに新たな機能が付加できる。特に「色素蒸気輸送法」を用いると、温度と時間の制御のみで簡便にポリマー表面に機能性低分子をドープでき、さらにポリマー中でも低分子特有の性質が保持される。

 上述の方法を用いて形成した光機能素子の例を示す。写真1はポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂表面に、屈折率を下げる効果がある低分子材料をドープさせて形成したポリマー導波路である。上面から見ると透明性を保持しているが(写真1(a))、断面を見るとPMMA表面に低分子侵入層ができており(写真1(b))、導波路として機能する2)。また、DVD基板などに用いられる非晶質ポリカーボネート(PC)樹脂に特定の低分子材料をドープしたところ、結晶化が困難なPCが結晶化を起こし、不透明になった(写真2(a))。結晶化を起こしたPCの示差走査熱量(DSC)測定を行ったところ、230℃近傍に融点のみが現れた(図(a))。完全に結晶化PCを溶融させると非晶質PCへと転移し、DSC測定を行った結果、150℃近傍にガラス転移点のみが現れ、初期のPCと全く同じプロファイルが得られた(図(b))。現時点では、PC表面に直径数百nmの微小結晶分散層を形成できており、レーザー光の照射によって結晶化PCドメインを溶融することで記録を行う相変化光記録媒体への応用が期待できる3)

 以上本有機薄膜形成法は光機能素子への応用の可能性を有し、光情報処理・通信技術の発展に素子製造技術の立場から基盤を提供できた。


写真1(a) 写真1(b) 写真2
図

写真1(左上) 機能性低分子材料をドープしたPMMA導波路

写真2(右上) 120℃で 48時間低分子材料をドープした非晶質PCペレットの写真
(a)4-methyl-3-nitroanilineをドープしたPC。結晶化が起こり黄色に濁った。
(b)N-methyl-2-nitroanilineをドープしたPC。結晶化は起こらず、透明なまま赤褐色に着色。

図(左) 結晶化PC(a)及び非晶質PC(b)の示差走査熱量(DSC)曲線



関連情報

  • 共著者:望月博孝(NEDO養成技術者)
  • 1) 溝黒登志子、望月博孝、山本典孝、平賀隆、有機薄膜の新作製法と光デバイスへの展開、色材協会誌、 vol.75, No.3, pp.111-116 (2002).
  • 2) 望月博孝、溝黒登志子、平賀隆、田中教雄、色素蒸気輸送法を用いた高分子の物性制御:屈折率制御による光導波路作製、 第51回高分子年次大会、予稿51, 688 (2002).
  • 3) 望月博孝、溝黒登志子、山本典孝、平賀隆、田中教雄、色素蒸気輸送法を用いた高分子の物性制御:PCの結晶性制御、第51回高分子年次大会、予稿51,443 (2002).

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AIST リサーチホットライン
 

石英ガラスのレーザー光化学加工 [ PDF:514.3KB ]

丁西明の写真
1ミクロンサイズの微細表面加工に成功 丁 西明 (でぃん しみん)
丁連絡先
光反応制御研究センター

 石英ガラス材料等の透明材料の精密加工は、現在の高度情報社会の基盤である光エレクトロニクス産業発展のキーテクノロジーの一つである。しかし、ガラスは堅くて割れやすい物質であるので加工部位の周囲に損傷が生じ易く、従来の手法では近年の極微細加工の要求に完全に応えることができない状況にある。

 当研究チームでは、独自のコンセプトに基づく紫外レーザーを用いた石英材料の微細加工法を1999年に発見し、レーザー背面照射湿式エッチング法(LIBWE法:Laser-induced backside wet etching)と名付けた。これは、図1に示すように、ナノ秒(ns)パルスのエキシマレーザーを加工対象物の石英基板の背面から照射し、色素を高濃度に含む溶液のアブレーションによって誘起された高温・高圧の特殊な反応場を活用し、石英基板表面を微細加工する手法である。現在、溶液アブレーションの動的測定による加工メカニズムの解明を行っているが、加工部位の周囲にクラックなどのダメージが発生せず、高品位な微細加工が可能であることが実証できた。また、国内外で活発に研究が進んでいるフェムト秒レーザー加工と比較しても、

  1. 加工表面の平坦度が高く、さらに深さ方向は照射パルス数の積算でナノレベルの精度で加工可能である
  2. エキシマレーザーのビーム径が大きいためにマスクパターンを用いることで、大面積を一括して任意のパターン形状の微細加工を行うことができる

 などの特徴が挙げられる。

 今回、縮小照射光学系の改良ならびに溶液組成の最適化を行うことで、1ミクロンサイズの格子状(gratingおよびgridパターン)の微細加工を1×1mm2の範囲に一括加工することに成功した(写真)。本法ではマスターガラス上のクロム蒸着パターンを用いてレーザー照射を行っているので、加工パターンの設計自由度は大きく、今回の格子状の微細加工は一例に過ぎない。このように、石英ガラス母材の特性を生かしたまま表面機能を高品位化することが可能なので、その光学特性や超微細加工特性を格段に向上させて、素材の高性能化や機能付与による高付加価値化技術が提供可能であり、産業技術への応用展開を進めている。


図 石英ガラス上の格子状1ミクロン微細加工写真
図 実験装置図 写真 石英ガラス上の格子状1ミクロン微細加工


関連情報

  • 共著者:新納弘之、川口喜三、佐藤正健、奈良崎愛子、黒崎諒三
  • J. Wang, H. Niino, A. Yabe, Appl. Phys. A, vol.68, pp.111-113 (1999); 特許3012926号
  • X. Ding, Y. Kawaguchi, H. Niino, A. Yabe, Appl. Phys. A, in press; SPIE Proc., in press.

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AIST リサーチホットライン
 

高耐食性・高強度のスーパーマグネシウムを開発 [ PDF:524.5KB ]

小林慶三の写真
バルク状アモルファスマグネシウム合金 小林 慶三 (こばやし けいぞう)
小林連絡先
基礎素材研究部門

 マグネシウム(Mg)合金は、軽量でリサイクル性に優れた材料として、ノートパソコンなどの筐体や自動車部品などに利用されている。しかし、Mg合金は錆びやすく耐食性に問題がある。特に、汗などの塩水に対する耐食性が悪く、携帯用の機器へMg合金を利用するには表面のコーティングが不可欠で、このコーティング材がリサイクル性を低下させるので、Mg合金の耐食性を改善する必要があった。当研究部門相制御プロセス研究グループでは、非平衡相として知られる“アモルファス相”を利用したMg合金の耐食性改善および高強度化について研究を行っている。

 マグネシウムは溶解すると酸素と激しく反応するため、溶解技術による合金開発は難しい。そこで、溶解させずに金属粉末の粉砕と圧延を繰り返して原子レベルで混合する“メカニカルアロイング”によりアモルファス合金粉末を作製した。マグネシウムにアモルファス相の形成を促進する元素ニッケル(Ni)と、粉末を生成しやすくする元素ケイ素(Si)を混合して、減圧アルゴンガス雰囲気中でミリングを行うとMg-15at%Ni-10at%Si組成のアモルファス合金粉末が合成できた。得られた合金粉末の結晶化温度は300℃程度であるが、バルク状のアモルファス材料を作製するには結晶化温度以下で固化成形しなくてはならない。そこで、アモルファス粉末を超硬合金製の型につめ、500MPaという高圧力を付与しながら通電によって加熱することを行った(高圧パルス通電焼結)。この方法では、アモルファス粉末を200℃の低温で緻密に成形することができ、写真のようなバルク状アモルファスMg合金製の歯車も作製できた。粉末を歯車形状に加圧成形すると歯の部分に小さな欠陥が発生しやすいが、アモルファス粉末は変形しやすいため欠陥のない成形体が作製できる。

 バルク状のアモルファスMg合金は、5mass%NaCl水溶液中で図のような重量減少を示した。不純物量を低減して耐食性を改善したAZ91DMg合金に比べて、4倍以上の耐食性を有している。また、バルク状アモルファスMg合金の圧縮強度はAZ91DMg合金の約2倍の303MPaを示した。このような材料は、Mgを他の金属材料と接合するための部材や軽量性を要求される部材などへ適用できるものと考えられる。


バルク状アモルファスMg合金の歯車の外観写真
写真 バルク状アモルファスMg合金の歯車の外観
図
  図 5mass%NaCl水溶液中でのAZ91D合金およびバルク状アモルファスMg合金の重量減少


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AIST リサーチホットライン
 

手のひらサイズの高効率物質探索法 [ PDF:488.7KB ]

舟橋良次の写真
〜より高く、より速く、より少なく〜 舟橋 良次 (ふなはし りょうじ)
舟橋連絡先
生活環境系特別研究体

 エネルギー・環境問題は深刻化しており、人類は存亡の危機に直面している。この問題の解決には、新たなエネルギーシステムの構築が必要であり、そのためには常に新たな機能物質を産み出し続けなければならない。しかし新物質には従来よりも優れた機能が要求されるため、その開発は益々困難になる一方である。このような状況下で最近、コンビナトリアルケミストリー(コンビケム)が注目を浴びつつある。コンビケムとは組成が異なる物質の製造・評価を高効率で行う方法である。しかし、コンビケムは原料消費量、廃棄量およびエネルギー消費量が大きい方法でもある。そこで、コンビケムに低環境負荷と省原料の概念を加えることが必要となる。我々はこれまでに、従来より合成・評価速度が数百〜千倍、原料消費量が数10万分の1で試料合成が可能な方法を開発し、高性能熱電変換材料の探索を行っている。

 開発した方法では金属硝酸塩水溶液を用い、異なる組成で高速混合された原料溶液を作る。この混合溶液をセラミックス基板上に自動塗布しライブラリーを調製する(写真1)。この方法でのライブラリー調製速度は100試料/時間で、消費金属重量は一試料あたり数10µgである。このライブラリーを様々な条件下で焼成して、現在一日1000種類の試料を合成している。熱電特性の評価は10試料/分の速度で二端子法により熱起電力を測定している。しかし、さらなる高速且つ精密評価法としてペルチェ効果とサーモグラフィーを用いた方法の開発に取り組んでいる(写真2)。ペルチェ効果とは熱電材料に通電したときに両端で温度差が生じる現象であり、一定電流を通電したときの温度差をサーモグラフィーで測定する。温度差が大きいほど高い熱電性能を有するのである。この方法のコンビケム化にはまだ多く問題が残されているが、 「一目で分かる」方法として非常に興味深い。

 コンビケムは材料研究者にとっては魅力的である。これまで研究者はともすれば「研究」の名の下にエネルギーや環境問題について考慮せず物質探索を行ってきた。しかし今後それは許されなくなる。つまり、研究者も常にエネルギーや環境に配慮しながら研究を進めなければならない。ここで紹介したコンビケムは一つの解決法としてより広い材料分野で発展していくものと期待している。


写真1 写真2
写真1 セラミックス基板上のライブラリー 写真2 サーモグラフィーによる熱電特性評価


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AIST リサーチホットライン
 

MgB2超伝導線材の開発 [ PDF:500.5KB ]

松崎邦男の写真
液体Heフリーの超伝導マグネットへの応用 松崎 邦男 (まつざき くにお)
松崎連絡先
機械システム研究部門

 二硼化マグネシウム(MgB2)は39K(K=絶対温度)で超伝導状態に遷移し、金属系超伝導体の中では最も高い超伝導遷移温度(Tc)を有する材料である。この材料は以前から試薬として市販されていたが、最近青山学院大学の秋光教授らにより超伝導性を示すことが見出され、基礎および応用の観点からの関心が高まっている。MgB2はTcから見れば、77K(液体窒素温度)以上のTcを有する高温酸化物超伝導体と20K以下のTcであるNb3SnやNb-Ti材料などの従来の金属系超伝導体の中間に位置する材料であるが、酸化物超伝導体に比べて、磁場に対する超伝導電流の低下が少ないため、高い磁場まで超伝導電流を流せることが可能である。そのため、現在超伝導マグネットに用いられているNb-Ti線材に代わる材料として注目されている。しかも、MgB2を用いた場合には、高いTcを有していることから冷媒として高価な液体へリウムを用いる必要はなく、冷凍機により冷却したヘリウム(He)ガスの使用が可能となり、いわゆる液体Heフリー超伝導マグネットが可能になる。

 我々のグループではMgB2の作製とその線材化までの一貫したプロセスの開発を行っている。MgB2の製造では、MgとBの融点差、沸点差が大きく異なることから、粉末冶金法が有効である。しかしながら、マグネシウム粉末は非常に活性なために微細な粉末を安全に得ることは困難である。我々はガスアトマイズ法により数十µm以下の微細なマグネシウム粉末を安全に製造する技術を開発し、それにより得られた微細な粉末を用いることにより、不純物の少ないMgB2を均一に比較的低温でまた短時間で得られることを見出している。図は、各温度で5時間焼結したMgB2の電気抵抗の温度依存性を示しており、700℃で焼結した試料では、38Kで超伝導の発現により抵抗が減少し始め、36K以下で抵抗は零になっている。より高温の焼結では、より短い時間でのMgB2の製造が可能となっている。さらにこの粉末をステンレスパイプに充填して圧延後、大気中での熱処理により、写真に示すような超伝導テープ材が得られている。現在、線材としての特性を明らかにするとともに、添加元素、プロセスの最適化による超伝導特性の高性能化を行っている。

 本研究は産総研H13年度内部グランド(萌芽的研究テーマ)に採択されて行われたものである。


図 ステンレスシースを用いて作製したMgB2超伝導テープ材の写真
図 ガスアトマイズしたMg粉末とB粉末を各温度で焼結した試料の電気抵抗の温度依存性
写真 ステンレスシースを用いて作製したMgB2超伝導テープ材


関連情報

  • 共同研究者:花田幸太郎、初鹿野寛一、清水透(機械システム研究部門 循環型材料加工研究グループ)

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AIST リサーチホットライン
 

水中超音波による微小気泡の挙動観察 [ PDF:492.4KB ]

小塚晃透の写真
ビーカーの中で極限環境場を実現 小塚 晃透 (こづか てるゆき)
小塚連絡先
セラミックス研究部門

 水中超音波の音場中では超音波の周期で媒質の圧力が変動するため、水中に溶存している気体が減圧時には気泡となって膨張し、加圧時には収縮するキャビテーション現象が起こる。良好な音場下では、気泡は急激に収縮(圧壊)し、その中心部は数千気圧・数万度に達し、発光する。現在、その高圧・高温場を難分解物質の分解や薬品の合成等に応用する、ソノケミストリーに関する研究が盛んに行われているが、気泡の圧壊による極限環境場を効率的に生成するためには、気泡の状態をモニタリングすることが不可欠である。

 当研究部門超音波プロセス研究グループでは、水中に定在波音場を生成し、音圧の腹(進行波と反射波が干渉して音圧が最も激しく変動する場所)で膨張・収縮を繰り返すシングルバブルの挙動観察に関する研究を行っている。微小(最大径が0.1mm)で1秒間に数万回の膨張・収縮を繰り返す気泡の観察は容易ではないが、高倍率のレンズを用いて拡大し、ストロボを用いて発光の瞬間の気泡像を観察することに成功した。写真は、ストロボを超音波の周期に同期させて発光させ、その発光のタイミングの位相を30°毎に変化させて撮影した気泡の連続写真である。気泡が影絵として撮影され、気泡の中心には、気泡自身の発光(ソノルミネッセンス、高温場からの熱輻射)が光点として観察されている。

 この気泡像を画像処理することで気泡径の絶対値が求められるが、分解能・測定速度等に問題がある。また、気泡径の詳細な測定は一般に光散乱法を用いて行われるが、光学系の位置調整が困難であり、測定値は相対値である。我々は、前述の気泡観察のための光学系を用いて、レンズとCCDカメラの間にビームスプリッターを挿入して光路を分岐し、他端に光電子増倍管を設置して光散乱法の測定を行っている。本システムでは、気泡からの散乱光をカメラで確認した上で光散乱法による測定を行うため、簡便かつ確実に光学系を調整して測定できる。図は結果の一例で、緩やかに気泡が膨張し(写真(a)〜(i)に対応)、やがて急激に収縮する(写真(i)以降)様子が測定されている。なお、圧壊時にパルス状の信号が観測されるが、これはレーザの散乱光ではなく、気泡自身によるソノルミネッセンスの発光を捉えた信号と考えられる。また、圧壊後には気泡のリバウンド(再膨張・収縮)も確認できる。この気泡径の変化から、気泡中の圧力・温度を計算することができ、この実験の場合、圧力は87000atm、温度は16000℃と推定される。

 超音波によるソノケミストリーは、机上に極限環境場を作る技術として注目され、セラミックス材料の表面改質、新材料の創製などへの応用が期待されている。本システムは、そのための気泡挙動の解明に用いられる。


ストロボを用いて撮影された微小気泡の連続画像写真 図
図 光散乱法による気泡径の測定
写真 ストロボを用いて撮影された微小気泡の連続画像(24.48kHz)


関連情報

  • 安井久一 「気泡発光の謎を解明」 AIST Today Vol.2, No.5, p.10 (2002).
  • T. Kozuka, S. Hatanaka, K. Yasui, T. Tuziuti and H. Mitome:"Observation of a Sonoluminescing Bubble Using a Stroboscope", JJAP,Vol.39, No.5B, pp.2967-2968, 2000.5.
  • T. Kozuka, S. Hatanaka, K. Yasui, T. Tuziuti and H. Mitome:"Simultaneous Obsevation of Motion and Size of a Sonoluminescing Bubble", JJAP,Vol. 41, No. 5B, pp.3148-3249, 2002.5.
  • 特許: [1]特開2001-280924号(出願日2000.03.29)

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AIST リサーチホットライン
 

新しい角度標準の確立 [ PDF:599.3KB ]

渡部司の写真
世界初の角度トレーサビリティの構築に向けて 渡部 司 (わたなべ つかさ)
渡部連絡先
計測標準研究部門

 生産現場でロボットが腕をなめらかに曲げて複雑な作業をこなし、天文台では望遠鏡が目的の星にぴたっと向けられ、工作機械の台の上では加工物が精確に30°傾けられて削られるなど、様々な現場において高精度な角度測定が行われている。現在角度を測るのに広く使われている装置にロータリーエンコーダがある。ロータリーエンコーダは円盤円周上に刻まれた目盛りから角度位置を検出する装置で、ロボット関節やプリンターの紙送り回転など多くの角度制御に用いられ、多いものでは一周で数万〜数10万点の角度信号が出力される。しかし、この角度信号を1点1点校正しようとすれば大変な作業量を要し、従来考えられていた方法では数100点が限界であった。校正にこのような困難さがあったことも原因して、角度のトレーサビリティ体系は確立されていなかった。

 我々が採用した校正方法は、等分割平均法(益田−梶谷方式)である。等分割平均法(図)では、読みとりヘッドを等分割位置(図の1〜5の読みとりヘッドは5分割の場合のヘッドの位置を示す)に移動させ2つのロータリーエンコーダの相対的な目盛位置ずれを計測する。そのデータから目盛位置ずれのフーリエ成分を検出し、2つのエンコーダの目盛位置ずれを分離することにより2つのエンコーダを同時に校正する自己校正方法の一つである。この等分割平均法は、ロータリーエンコーダの目盛り数に依存せず短時間で高精度な校正を可能とする画期的な方法である。産総研ではこの技術を採用して静岡理工科大学益田正教授、電気通信大学梶谷誠学長との共同研究により、約0.05 ″の不確かさで校正できる世界最高精度のロータリーエンコーダ角度自己校正装置の開発に成功した1)(写真)。

 現在、ロータリーエンコーダの依頼試験を実施しており、精密工学会の産学協議会協同研究会「ロータリエンコーダの角度標準とトレサビリィティに関する研究」の研究会での意見を反映させながら、今年度中にJCSSトレーサビリティを立ち上げる予定である。本方式は校正原理からトレーサビリティ体系まで純国産で立ち上げた新しい標準であり、今後この方法による角度トレーサビリティを世界に普及させる方針である。なお、本研究の一部は、科学技術振興調整費知的基盤推進制度「物理標準の高度化に関する研究」の一環として産総研において行われたものである。


図 ロータリーエンコーダ角度自己校正装置写真
図 等分割平均法原理図 写真 ロータリーエンコーダ角度自己校正装置


関連情報

  • 1) 渡部司、益田正、梶谷誠、藤本弘之、中山貫:精密工学会誌、Vol67 ,No.7 ,1091-1095 (2001).

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100℃で働く酵素 [ PDF:507.9KB ]

松井郁夫の写真
耐熱性Flapエンドヌクレアーゼの機能構造解明に成功 松井 郁夫 (まつい いくお)
松井連絡先
生物情報解析研究センター

 地球上の限られた高温地帯に棲息する超好熱菌は、90℃以上の至適温度を有し、100℃という高温でも失活しない超耐熱性酵素類を生産し、細胞内外には多くの新機能を有する酵素が存在すると期待されている。これら超好熱菌のゲノム解析のデータから有用情報を産業に生かす目的で、経済産業省によって超好熱菌のゲノム解析がなされ、Pyrococcus horikoshii、Aeropyrum prenixの全ゲノムの塩基配列が公表された。P. horikoshiiの1.7Mbのゲノム中に2000以上の遺伝子が同定されているが、その70%以上が機能未知遺伝子である。つくば機能構造解析チームでは、機能未知遺伝子が具体的にどのような機能・性質を有するかを解析し、超耐熱性酵素を産業的に利用する研究を進めている。

 また、超好熱菌は真核生物のプロトタイプと考えられている。超好熱菌の遺伝子複製・修復系酵素の機能・構造研究は、真核生物より単純化、安定化された系であり詳細な解析が可能で、真核生物の遺伝子複製・修復系の研究にも多大な貢献をするものと期待されている。さらに、これら遺伝子複製・修復系酵素を用いた新しいバイオテクノロジーの創製が可能になると考えられている。我々はこのような研究背景を踏まえ、遺伝子複製・修復系の主要構成要素である、DNAポリメラーゼD1)、DNAポリメラーゼB、Flapエンドヌクレアーゼ2)等の機能構造解明と産業応用を進めている。

 Flapエンドヌクレアーゼ(FEN-1)は、図1に示すように、Flap構造を特異的に認識して、Flap鎖を切り離すエンドヌクレアーゼ活性と5′- エキソヌクレアーゼ 活性を有する多機能酵素である2)。我々は、原田一明副研究センター長との共同研究で、超好熱菌FEN-1(phFEN-1)の変異酵素を用い、耐熱性Flapエンドヌクレアーゼの結晶化と3.1Å分解能での立体構造解明に成功した。また、この立体構造を基に基質結合部位を構成するループの変異酵素を45種作成し、各ループの機能を詳しく解析した。その結果、小ループ1、小ループ2、大ループがDNA 結合に重要な機能を果たすことが明らかになった3)(図2)。この結果は、ヒトを含む真核生物FEN-1の機能構造解明を進める上でも重要な知見と考えられる。


図1 図2

図1(上) phFEN-1によって切断される二種類の基質(二重鎖Flap基質とDNA複製起点様構造体)を示す
ピンクの矢印はFlapエンドヌクレアーゼ活性の作用点を示す。青の矢印は5′-エキソヌクレアーゼ活性の作用点と方向性を示す。

図2(右) phFEN-1の立体構造と予測されるDNA複合体
(A)phFEN-1の小ループ1、小ループ2、大ループは黄色、緑色、ピンクで表される。数字は各ループ上での主要なDNA結合領域を表す。DNAは水色で表される。
(B)(A)を側面から見た構造。



関連情報

  • 1) Y. Shen, K. Musti, M. Hiramoto, H. Kikuchi, Y. Kawarabayasi & I. Matsui, J. Biol. Chem., 276, 27376-27383 (2001).
  • 2) E. Matsui, S. Kawasaki, H. Ishida, K. Ishikawa, Y. Kosugi, H. Kikuchi, Y. Kawarabayashi & I. Matsui, J. Biol. Chem., 274, 18297-18309 (1999).
  • 3) E. Matsui, K. V. Musti, J. Abe, K. Yamasaki, I. Matsui & K. Harata, J. Biol. Chem., in press (2002).

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AIST リサーチホットライン
 

生命科学知識の形式的記述 [ PDF:515.4KB ]

福田賢一郎の写真
シグナル伝達パスウェイデータベースの構築 福田 賢一郎 (ふくだ けんいちろう)
福田連絡先
生命情報科学研究センター

 生命現象のメカニズムを理解するためにシグナル伝達パスウェイデータベースが知識基盤として期待されている。ところが、シグナル伝達に関する知見をデータベース化しようとすると、どのような知識をどのような形で計算機上に表現するかで頭を悩ませてしまう。というのも"シグナル"が生化学的なレベルの相互作用のみならずプロセスとプロセスの間の関係まで扱っているからである。そしてこのような知識は通常論文中に自然言語や図などの計算機にはなじまない形で表現されている。

 シグナル伝達は細胞が外部から受け取った刺激を核に伝達して応答を返す仕組みであるが、さまざまな異質な概念が同列で論じられるため、代謝パスウェイにおける酵素触媒反応のように、標準の記述単位を決めて知識を表現することができない。すべてのステップを書き下すと必要な情報が不足するし、逆に抽象的に記述した知識は背景知識を前提としている場合があって、記述単位を抽象的な表現に統一することもできないためである。

 我々はこの問題に対して、階層的で再帰的な表現形式とオントロジーによる意味づけという二本柱で取り組んでいる。我々のアプローチでは、パスウェイ上の各要素をグラフの節点と対応づけ、さらにその内部に下位構造をもたせることにより、任意の記述単位で生体内プロセスを表現する仕組みになっている(図1)。そして、オントロジーで定義されたさまざまな抽象度の概念によって、階層的な表現の各要素に意味づけがなされている。また、部分構造(パスウェイモチーフ)を明示的にアノテートできることにも注意を払っている。例えば、一つのプロセスを実現する一連の要素を下位構造として括ることによって、サブパスウェイに対する機能のアノテーションを行っている(図2)。

 一見バラバラに見えるパスウェイ構造にも、実は生物種を超えて似たような構造がさまざまに再出現することが知られており、これらは進化の過程で生物が獲得していった機能を実現するための部品にあたると考えられる。現在、XMLデータベース上でシグナル伝達データベースの開発に取り組んでおり、パスウェイの検索を実現するだけでなく、このような部分構造に対する検索の提供も試みている。将来的には文献で報告されたパスウェイ構造を比較することで、部分構造をパスウェイモチーフとして整理体系化できるのではないかと期待している。

 (本研究は科学技術振興事業団バイオインフォマティクス推進センターから支援をうけて実施している。)


図1
図1 パスウェイデータの階層表現
相互作用関係を定義したグラフと階層関係を定義した木によって定義される
図2
図2 パスウェイエディットツールGEST
われわれの開発したツールでパスウェイを階層的に入力している状態


関連情報

  • K.Fukuda and T.Takagi: Bioinformatics, Vol.17, Issue 9, 829-837 (2001).
  • K.Fukuda and T.Takagi: METMBS'2001, 297-303 (2001).

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