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持続可能な循環型社会の実現 |
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特集 |
内外のトップを招いて第一回産総研運営諮問会議を開催 |
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| 宇宙ロボットにより衛星群の一生をケア |
戸田 義継
(とだ よしつぐ)
 電力エネルギー研究部門
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情報化社会の進展により、高品質音声・情報通信や、高分解能で絶え間ない地球観測などのため、多数の衛星をネットワークとして構成し利用するシステムが検討されている。これらは軌道上に分散させた多数の小型衛星で構成するが、安定したサービスを低コストで提供するインフラとするには、これらに対する保守システムが望まれる。一方、宇宙軌道では不要となったデブリ(宇宙のゴミ)が急増しており、衝突頻度の増大や相互衝突によるデブリの再生産が懸念され、宇宙環境は保全を必要とする段階に来ている。小型衛星群はこのような宇宙環境保護と両立させ構築、運用されなければならない。
当研究部門宇宙技術グループは、その解決策の一つとして、ロボットにより衛星群を保守、延命したり、不要となった衛星を回収・投棄して、貴重な衛星と軌道の資源を保全する仕組みを持たせた「宇宙環境保全システム」を提案し、世界に先駆けその技術開発を行ってきた。図にその概念を示す。ロボット化した宇宙機により、多数の小型衛星のキットとスペアを輸送、軌道上で組立、配置、定期的に診断・保守・補給、ミッション末期には衛星を捕獲、分解・収納、軌道外に投棄するものである。多才な宇宙ロボットにより、衛星群の「ゆりかごから墓場まで」の一生をケアする技術と喩えられる。
このシステムの実現のため、ロボットで簡単に組立、保守ができる新しいタイプの小型衛星の機構モデルを開発した。これは、ロボット宇宙機による収納性、組立性、点検性、保守性、分解性を持たせるようモジュール化し、各モジュールをロボットフレンドリーな構造としたことが特徴である。次に、2基のロボット・マニピュレータを持つ軌道保全作業機を開発した。これは、運用を含めたシステムの低コスト化に重点を置いて、シンプルかつ自律性を高くし、衛星の組立・保守プラットフォーム機能(工場的機能)、衛星の診断プラットフォーム機能(病院的機能)、衛星を追跡・捕獲する機能を有することが特徴である。今回、軌道保全作業機による小型衛星の「組立」「捕獲」「モジュール交換」「分解・収納」の地上実証に成功した。衛星組立の様子を写真に示す。
これらの技術は、衛星のみならず、宇宙システム全体を使い捨て型から保守・再生型へ構造転換させる基盤となるものである。なお、本技術は東京大学、NTスペース(株)、(株)東芝と共同で開発した。
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図 宇宙環境保全システムの基本概念 |
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| 写真 ロボットによる衛星組立 |
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人間型ロボットの全身動作制御ソフトを開発 [ PDF:486.5KB ] |
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| フォークリフトの遠隔運転でその性能を実証 |
横井 一仁
(よこい かずひと)
 知能システム研究部門
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知能システム研究部門ヒューマノイド研究グループは、経済産業省が1998年度から実施中の「人間協調・共存型ロボットシステムの研究開発(HRP)」の一環として、人間型ロボットによるフォークリフトの遠隔運転を、川崎重工(株)、東急建設(株)と共同で実現した。
現在、様々な現場で搭乗型の産業機械が使用されているが、その中には3K環境下での作業も少なくなく、遠隔操作化することが望まれている。遠隔操作型の人間型ロボットを用いることで、人が現在使用している多様な産業機械を大幅に改造しなくても遠隔操作することができる。そのうえ、従来行われてきた個別の産業機械を改造する、あるいは遠隔操作専用の産業機械を新たに開発する場合に比べ、トータルな社会コストを抑えることができる。また、遠隔運転だけでなく、運転席から降りて様々な付帯作業を行わさせることができるのも、人間型ロボットを用いる大きな利点である。
使用した人間型ロボットは、HRP前期で本田技研工業(株)が製作したハードウェアに、当研究グループで開発した動作ソフトウェアを搭載し、全身動作を遠隔操作することを可能にしたものである。現場への持ち運びが簡単な可搬型の遠隔操作装置は川崎重工(株)が、ロボットの転倒を防止する器具は東急建設(株)がそれぞれ開発した。写真1に、2002年3月にパシフィコ横浜で開催されたROBODEX2002において行った公開実験の様子を示す。歌う、踊るではなく、「働く人間型ロボット」の新たな可能性を示すものとして多くの観客の注目を集めた。
同じ人間型ロボットと遠隔操作装置で様々な産業機械に対処できることも、人間型ロボットを用いる大きな利点である。写真2は、昨年度実施した市販されているバックホウ(ショベル型掘削機械)の運転席に着座してレバー操作を行っているところである。今年度は、これをさらに発展させ、屋外にて実際に掘削作業を行わせる予定である。
写真1 フォークリフトの遠隔運転
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写真2 人間型ロボットによるバックホウのレバー操作 |
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- H. Hasunuma, M. Kobayashi, H. Moriyama, T. Itoko, Y. Yanagihara, T. Ueno, K. Ohya, K. Yokoi : A Tele-operated Humanoid Robot Drives a Lift Truck, Proc. IEEE Int. Conf. Robotics and Automation, pp.2246-2252, (2002).
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スピン偏極キセノンガス生成技術の研究 [ PDF:516.4KB ] |
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| 肺機能診断を瞬時に・脳梗塞予防診断への可能性 |
服部 峰之
(はっとり みねゆき)
 光技術研究部門
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常圧のガスは密度が低く、従来は核磁気共鳴(NMR)の対象となっていなかった。スピン偏極技術を適用した希ガスを利用すると、同体積の水と比べても100倍程度強い信号を得られる。すなわち、回転偏光により電子スピン系を励起すること(光ポンピング法)により、スピン系を偏らせ(偏極)、3He,129Xeのスピン量子数1/2の核スピンを持つ希ガスと共存させると、衝突時に電子スピンの偏極が、これらの核スピン系へ移る。そして、これらの寿命が数時間以上と非常に長いため、熱平衡時に比べて数万倍の信号強度を得ることができるのである。既に欧米ではこのガスを利用して、人の肺中での3Heの動態や、肺から血液中にとけ込むキセノン(Xe)の性質を利用して、循環器や脳での血流計測への応用が検討されている。
これまで、スピン偏極Xeガスの製造は、円筒型パイレックスガラスセル中に、アルカリ金属であるルビジウム(Rb)の小片とXeガスと微量の窒素ガスを封入し、100ガウス程度の磁場中で約100℃に加熱する方法が一般的であった。このセルに、1/4波長板を通した、波長795nmの半導体レーザー光を照射すると、20分程で偏極率数%程度のスピン偏極Xeガスが生成される(図1)。この方法では、せっかく生成されたスピン偏極ガスが、レーザー光が照射されていない側のセル壁で、消滅してしまっていて励起光が無駄に使われており、偏極率の原理的な上限の理由となっていた。
当研究部門デバイス機能化技術グループでは、東横化学(株)と共同で、連続フロー型スピン偏極キセノンガス製造装置を開発した(図2)。スピン偏極Xeガスの生成原理をふまえた上で、セル構造・材質に詳細な検討を行った。具体的には、フロー構造とするに際して、レーザー光の吸収係数を大きくするために、偏極セルの加熱温度を200℃〜400℃に設定することにより、Rb蒸気圧を高くして、光照射部のセルギャップを1mmにし、偏極率および単位時間当りの製造量を同時に大きくしたことを特徴としており、ここで開発した装置はこの点が、欧米で開発が進んでいる装置と比較して進歩性がある。高精度肺機能診断を瞬時に行うことが可能な医療機器が実現され、また、脳内血流の高精度で迅速な画像化により、脳梗塞予防診断技術の実現の可能性が飛躍的に高くなることが期待されており、世界的にみても、これらの新しい医療技術の実用化を大きく加速することになるであろう。
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図1(左上) スピン偏極希ガスの発生原理と核磁気共鳴分光法の高感度化
図2(上、左) 開発した連続フロー型装置と単一スキャンで測定したスピン偏極キセノンガスのNMR信号
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- 柳川康洋、木村敦臣、木下良正、服部峰之、平賀隆、飯田秀博、藤原英明、超偏極129Xeガスによるラット胃のイメージングと緩和特性の研究、日本磁気共鳴医学会誌、第21巻 3号、109-119,(2001).
- 服部峰之、平賀隆、村山守男、連続フロー型スピン偏極129Xeガス発生装置の開発、2002年(平成14年)春季第49回応用物理学関係連合講演会、28p-ZG-10.
- 特開平11-248809、特開平11-309126.
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| 水晶振動子法で高感度連続監視が可能に |
長縄 竜一
(ながなわ りゅういち)
 環境管理研究部門
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遺金属加工等を行う際に脱脂洗浄剤として使用されているトリクロロエチレン(TCE)等の揮発性有機塩素化合物等による環境汚染問題が発生し、事業所や各自治体を中心に取り組みが強化されるようになった。しかし現状の監視法でこれらの汚染実態を時間的・空間的に高密度に把握することは困難である。そこで、作業現場等で誰でも簡単に(例えば温度センサで温度を測るように)利用できる簡易かつ連続監視可能な分析法の提案を目的として、TCEセンサの開発を行った。
検出素子には、表面に吸着した物質による重量変化を発振周波数変化に変換して、連続的に測定可能な水晶振動子型センサ(Quartz Crystal Microbalance: QCM)を利用した。今回用いた素子の場合、1ngの吸着量増加による周波数変化量は、約1Hzとなる。
QCM自体は選択的吸着機能を持たない。そこで、多様な分子構造を有する脂質類から揮発性有機塩素化合物に選択的な吸着特性を示す数種類の人工脂質を選び出し、それぞれを検出器の表面に薄膜状に被覆した。これらの検出器はそれぞれ吸収特性が異なるため、同時に複数の検出器の応答値を解析することにより試料に含まれる対象物質を高精度に識別することができる。また、吸着現象は可逆的であるため対象物質濃度の増減にリアルタイムで追従する。もう一つの特徴として、検出可能濃度範囲(ダイナミックレンジ)の広さがある。従来法では試料濃度に応じて希釈あるいは濃縮等の前処理が必要であったが、QCM法では前処理なしで0〜1000ppm以上の濃度領域をカバーできる。検出器の温度制御を併用することにより、さらにダイナミックレンジが拡大可能である。
吸着膜の汚染や耐久性等の問題があるため現時点では気相中での使用が望ましいが、ガス検知管法で用いられる手法(君津式等)の応用により地下水や産業排水、土壌中等の揮発性物質の測定にも適応可能である。現在、特に液中での直接測定に関して検討を行っている。
QCM式の検知法はTCEに限らず、選択的吸着現象を利用して様々な化学物質の監視に応用可能である。この特長を活用し、小型で簡便な連続濃度監視法として、環境モニタリングや漏洩事故等の検知・警報装置としての利用、また、工場排水および汚染土壌等の浄化処理作業等での微少な濃度変化の長時間にわたる連続監視への応用等、「環境診断」技術の一つとして発展させてゆきたい。
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写真(上) センサの外観および水晶振動子
図1(右上) 種々の脂質膜を被覆したセンサによるTCE (0 or 500ppm)への可逆的応答
図2(右下) TCEに対する検量線(0 to 1000ppm)
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| セラミック基板接着による新構造セルを実現 |
高遠 秀尚
(たかとう ひでたか)
 電力エネルギー研究部門
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太陽光発電は、環境に優しいエネルギーとして公共施設や工場だけでなく最近では個人住宅にも普及し始めてきた。現在、このような電力用太陽電池の約85%は、結晶シリコン
(単結晶および多結晶シリコン)基板を用いた太陽電池によって占められているが、太陽光発電をより普及させるためには、結晶シリコン太陽電池の高効率化、低価格化は不可欠となっている。このための重要な方法の一つが、太陽電池に用いられるシリコン基板の薄膜化である。しかし、従来技術のまま薄膜化した場合、表面の影響等により効率が低下してしまうという問題があった。また、薄膜化により基板を自己保持できなくなるため、薄膜化にも限界があった。
我々は、上記の課題を解決するために、薄膜化、高効率化が可能な新しい構造の太陽電池を開発した(図1)。この太陽電池は、高品質の薄膜シリコン層を高い拡散反射率を有する支持基板に接着することで、薄膜化と高効率化とを両立させた構造になっている。今回、シリコン層が従来に比べ、約1/30の厚さ(10µm)の薄膜単結晶シリコン太陽電池を作製し、良好な特性を得ることに成功した。
図2は、作製した太陽電池の構造と得られた電流−電圧特性である。太陽電池の効率向上のために、薄膜単結晶シリコン層を用いた太陽電池の作製方法、シリコン層の表面再結合を低減することが可能な接着方法、約100%の反射率をもつセラミック基板(支持基板)を新たに開発した。そして、これらを基に薄膜単結晶シリコン太陽電池を作製し、開放電圧602mV、短絡電流25.8mA/cm2、変換効率9.6%を得た。特に開放電圧は結晶の品質や表面の影響を受けやすく、この向上は結晶シリコン太陽電池の薄膜化にとって最も重要な課題である。今回、厚さ10µmという薄膜結晶シリコン太陽電池において世界最高の開放電圧を得ることができた。
この太陽電池は、発電層として結晶性に優れた単結晶および多結晶シリコン層を用いることができるため、高効率な薄膜結晶シリコン太陽電池として有望であると考えている。
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図1 結晶シリコン太陽電池の薄膜化 |
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| 図2 薄膜単結晶シリコン太陽電池の構造とその特性 |
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- H. Takato and R. Shimokawa : IEEE Transactions on Electron Devices, 48, 2090, (2001).
- 特開2001-203373
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| 従来技術の1/1000以下の微細液滴 |
村田 和広
(むらた かずひろ)
 ナノテクノロジー研究部門
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現在のエレクトロニクスを支える半導体製造技術は、複雑な工程、膨大な資源消費など高環境負荷の装置産業として抱える問題も大きい。一方、必要なところに必要な分だけ材料を配列するインクジェット技術の産業応用は、半導体産業の製造プロセスに革新をもたらすと注目を集めている。
また、ナノテクノロジー分野の研究成果の実用化にあたっては、ナノの世界とマクロの世界を有効に結ぶ手段が不可欠で、有機、無機、バイオなど様々な材料を微少量で任意の位置に配置するツールの開発が望まれていた。
一般に市販されているインクジェットプリンターの最小ドット量は、2ピコ(p=10-12)リットル程度である。これは、直径16マイクロ(µ=10-6)メートル程度の球体積に相当する。通常の印刷用途としては充分に微小量であるが、微細回路形成などにはさらなる液滴の微細化が望まれていた。しかし微細液滴の吐出自体が様々な理由により困難で、また吐出したとしても、位置精度が不足するなどの問題もあり、それらを補う方法として、基板上にあらかじめパターンニングを行うなどの方法が提案されていた。
我々が開発した技術は、市販のインクジェット方式(ピエゾ方式やサーマル方式)とは異なるもので、最小ドット径1マイクロメートル以下、液滴体積量としては、フェムト(f=10-15)リットル以下の微細液滴の吐出配列に成功した。これは従来技術に比べ、1/1000以下の体積量で、基板上へあらかじめパターンニング処理をする必要もない。この装置を用いて、カーボンナノチューブ、導電性高分子、セラミックスなどの溶液の配列が可能な事を確認している。さらに、ハリマ化成(株)が開発した「安定分散した金属ナノ粒子ペースト(ナノペースト)」をインクとして用いて、回路描画を行った結果、数マイクロメートルの線幅の金属微細配線を直接描画することに成功した。
今回開発した技術は必要な部分にだけ、必要な資源を配置する、省資源・省エネルギーの環境適応型技術であることが大きな特徴である。また、高価な製造設備は必要とせず、大気中、しかも卓上で超微細加工を行うことができ、ナノテクノロジー分野の研究に有効なツールとなる。
この技術の深化と応用範囲を広げるため、産学等と共同研究を行い、ナノテクノロジー分野をはじめ幅広い応用分野の開拓を目指す。
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写真1 サブミクロンドット印字例 (ドットピッチ3µm) |
写真2 複雑図形の描画例 導電性高分子(線幅3µm、格子部分ピッチ10µm) |
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- 日本工業新聞 平成14年4月2日
- 化学工業日報ほか 平成14年4月3日
- 日経エレクトロニクス、 No. 824, P.67, (2002) .
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| 超Gbit級M-RAMの実現に向けて道筋を拓く |
鈴木 義茂
(すずき よししげ)
 エレクトロニクス研究部門
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微小な強磁性体セルに情報を記録し、半導体素子で読み出すM-RAM(Magneto-resistive Random Access Memory)は、不揮発・高速・高記録密度であることから、携帯機器用メモリやシステムメモリとして期待されている。しかし、現在得られている磁気抵抗効果の大きさでは1Gbitを超える記録密度は困難であると考えられている。これに対して、当研究部門スピントロニクス研究グループでは、これまで多結晶体で作られていたトンネル磁気抵抗素子を、単結晶とすることにより性能を向上できることを示してきた。今回は、単結晶電極を持つ新型トンネル磁気抵抗素子をシリコンLSIチップ上に作製する手法を世界で初めて開発した。さらに、単結晶電極の膜厚を数原子層程度にすると量子サイズ効果により磁気抵抗効果が飛躍的に大きくなることを発見した。これらの開発によって、トンネル磁気抵抗素子の信号強度の増大が可能となり、超Gbit級M-RAMの実現に向けた道筋が拓けると期待される。
写真は、新手法によりシリコン酸化膜上に作製したトンネル磁気抵抗素子の断面透過電子顕微鏡像である。写真中のNiFe/Al2O3/Fe接合が強磁性トンネル接合である。この接合の電気抵抗が二つの強磁性層の磁化の相対的な向きで変化する。我々は、MgOをシード層として用いることによって任意の下地の上に高配向・超平滑な電極層を作製する手法を開発した。MgOシード層は初期の段階ではアモルファスとして成長し、ついで高配向膜となる特徴を持つ。このため、どのような下地の上にでも超平坦な界面を持つ高性能トンネル磁気抵抗素子素子を作製することが可能となる。
このような高配向で超平滑な強磁性トンネル素子では電極の膜厚を極限に薄くすることが可能になる。我々は、このような超薄電極では、量子サイズ効果により電極の電子状態が変化し、トンネル磁気抵抗比が飛躍的に増大することを発見した(図)。
今後、単結晶・高配向電極を持つトンネル磁気抵抗素子の更なる特性の向上を行い、超Gbit級M-RAMの実現を目指す。
なお、以上の研究の一部は、科学技術振興事業団の戦略的創造研究推進事業の一環として産総研において行われたものである。
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写真 シリコン酸化膜上に作製したトンネル磁気抵抗素子の断面透過顕微鏡像 写真中のNi-Fe/Al2O3/Feの接合が強磁性トンネル接合
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図 トンネル磁気抵抗効比(MR ratio)の鉄膜厚依存性 非常に平滑で薄い強磁気性電極を用いると量子サイズ効果によりトンネル磁気抵抗比が飛躍的に増大する |
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| カーボンナノチューブで4Vの超低電圧動作 |
松本 和彦
(まつもと かずひこ)
 ナノテクノロジー研究部門
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フィールドエミッタは、金属やシリコンを尖らせた先端に高電界を印加して電子を放出させる素子であり、フラットパネルディスプレイなどの電子源として注目を浴びている。しかし従来のフィールドエミッタの先端の大きさは、人工的な微細加工を用いている為、20〜30nm位で、これ以下の急峻な先端を形成する事は不可能であった。このサイズのフィールドエミッタでは、電子を放出させる為に 100V以上の電圧を印加する必要があった。一方、電子を放出させる電圧は、先端が急峻であればあるほど低くなることが知られている。
我々は、シリコンチップ先端にカーボンナノチューブを成長させる技術を開発し、さらに、電子を放出し易くするグリッド電極を形成することにより、わずか 4Vの超低電圧で電子放出を実現した。これは、従来のシリコンや金属を用いたフィールドエミッタと比較して、1/100〜1/10になる低い電圧である。
図1は作製した「グリッド電極付きカーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」の断面構造図である。シリコン基板上に通常の半導体プロセスを用いて高さ1µm、直径3µmの円錐状のシリコンチップを作製する。この際、シリコンチップ先端は急峻である必要はない。これに酸化シリコン膜を堆積し、金属電極を形成して、電子を引き出すグリッド電極を形成する。ついで鉄系触媒をシリコンチップに堆積させ、熱化学気相成長炉を用いてカーボンナノチューブを成長させる。カーボンナノチューブは触媒により成長を開始し、シリコンチップの表面に沿って成長し、最後にチップ先端より飛び出して成長を終える。写真はシリコンチップ先端より成長したカーボンナノチューブの電子顕微鏡写真であり、直径1〜2nmの単層カーボンナノチューブが成長していることが分かる。グリッド電極−シリコン基板間に電圧を印加すると、この細いカーボンナノチューブの先端に電界が集中し、図2に示すようにわずか4Vから電子放出が可能になることが分かった。
フィールドエミッタは、フラットパネルディスプレイの有力候補とされながら、その動作電圧が高いため、携帯機器には対応できないとされていた。本「グリッド電極付きカーボンナノチューブ・フィールドエミッタ」を応用すると、従来の1〜2桁も低い消費電力で動作可能となり、今後、携帯機器も含めたフラットパネルディスプレイへの応用展開が、ますます盛んになることが期待される。
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図1 グリッド電極付きカーボンナノチューブ・フィールドエミッタのエミッタの断面構造図 |

写真 シリコンチップ先端から成長した直径1〜2nmの単層カーボンナノチューブの電子顕微鏡写真
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図2 グリッド電極付きカーボンナノチューブ・フィールドエミッタの電流−電圧特性 4Vから電子放出が開始している |
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- 日本経済新聞、 日経産業新聞、 日本工業新聞、化学工業日報新聞 平成14年4月5日
- 半導体産業新聞 平成14年4月17日
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| モータリン研究の現在と将来 |
Sunil Chandra Kaul
(スニル チャンドラ カウル)
 糖鎖工学研究センター
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モータリンはストレス応答、抗原応答、細胞内情報伝達、細胞分化・分裂の制御、発癌等、様々な細胞内機能に関連するとみられているタンパク質である。現在までに、このモータリンと同等のタンパク質が、酵母において、生命システムに必須なエネルギーを作り出すミトコンドリアの機能に不可欠であることが知られている。
我々の研究では世界に先駆けて動物細胞のhsp70ファミリーの一つであるモータリン遺伝子を単離し、続いてこのタンパク質が正常細胞のとき細胞質画分に存在するが、不死化細胞では細胞質画分に存在しないという特徴を明らかにした。そして、アミノ酸2残基だけ異なるタンパク質をコードした異なる2つのモータリン遺伝子(モータリン1、モータリン2)がそれぞれ正常細胞および不死化細胞に存在し、特徴的な局在に寄与しているという遺伝子的背景も明らかにした。
細胞質局在性を示すモータリン1の遺伝子はNIH3T3細胞の細胞老化を引き起こした。一方の核周辺部局在性のモータリン2の遺伝子はNIH3T3細胞の悪性変異を引き起し(図1A, B)、正常ヒト細胞の寿命延長にも関与していた(図1C)。このように、アミノ酸2残基の相違がタンパク質の異なる生物活性に重要な役割を果たしていることが分かった。
特に我々は、モータリン2が、癌抑制に重要なp53と結合することでp53を細胞質へ保持させ、p53活性を抑制するという機能を明らかにした。そして、モータリンおよびp53の結合を妨げる化学物質を発見し、これを用いてヒト肺癌細胞の増殖抑制およびp53の活性化を確認した(図2)。
ヒト正常細胞、癌細胞でみられるモータリンの異なる細胞内局在の詳細なメカニズムはまだ明らかではないが、共焦点レーザー顕微鏡により明らかになったミトコンドリア、小胞体、細胞基質へのモータリン局在は、生体内においてモータリンがミトコンドリアに限らず異なる細胞小器官のコファクターとして作用する可能性を示している。そのため、モータリンは細胞内の異なる部位で分裂を制御する多様な機能を担うタンパク質であると考えられよう。
以上のようなモータリンの未知のメカニズムの解明とその機能の応用は、バイオテクノロジーの向上や癌治療において重要な位置を占めると期待できる。
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図1 A & B: ヌードマウスアッセイ C: モータリン2導入細胞における分裂寿命の変化 |
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| 図2 MKT-077(ローダシアニンダイ)処理により、癌細胞(MCF-7)においてp53(緑)が核へ移行したが、正常細胞(MRC-5)では見られない。 |
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- S. C. Kaul, E. L. Duncan, A. Englezou, R. R. Reddel, Y. Mitsui and R. Wadhwa: Oncogene, 17, 907-911 (1998)
- R. Wadhwa, T. Sugihara, A. Yoshida, H. Nomura, R. R. Reddel, R. Simpson, H. Maruta and S. C. Kaul: Cancer Res. 60, 6818-6821 (2000).
- S. Takano, R. Wadhwa, Y. Mitsui and S. C. Kaul: Biochem. J. 357:393 (2001).
- R. Wadhwa, L. Colgin, T. Yaguchi, K. Taira, R. R. Reddel and S. C. Kaul: Cancer Res. (in press) (2002).
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配列・立体構造・機能に基づく酵素スーパーファミリーの系統的解析 [ PDF:668.5KB ] |
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| TIMバレル型糖加水分解酵素(Glycosidase)スーパーファミリーへの応用 |
長野 希美
(ながの のぞみ)
 生命情報科学研究センター
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タンパク質のアミノ酸配列、立体構造と機能などとの関係を系統的に解析するバイオインフォマティック的なアプローチは、ポストゲノム研究で必要とされている。その応用分野にはタンパク質のアミノ酸配列やタンパク質の立体構造から機能を推定する研究や、タンパク質群を分類・同定する解析による立体構造解析の効率化などがある。
我々は、酵素タンパク質の中で立体構造・触媒機能などが詳細に調べられているTIMバレルと呼ばれる立体構造(フォールド)を持つ糖加水分解酵素スーパーファミリーの解析にこうしたアプローチを応用したところ、従来の解析では見出せなかった関係を見出すことができた。
この酵素スーパーファミリーは30個の配列ファミリー(アミノ酸配列が比較的類似しているグループ)に細分化されており、グローバルな配列に基づく配列ファミリーを多次元尺度法により4つのクラスター(S1、S2、S3、S4)に分類できる(図1)。このクラスター化により、従来の解析では見出せなかった進化的な関係を、β-amylaseとEndoglucanase等の配列ファミリーとの間に見出すことができた。立体構造についてもクラスター化により、同様の結果が得られる。さらに、ローカルな立体構造(酵素の触媒反応に関与するアミノ酸残基の構造)や機能(触媒機構の種類;酵素の基質・産物のコンフォメーション)などを解析した結果や、PSI-BLASTといった配列解析の結果を統合すると、このスーパーファミリーを階層的に分類することができる(図2)。先ほどのクラスターのうち、S1とS2およびS3とS4に、それぞれ進化的類縁関係を見出すことができた。しかも、S3とS4は、基質・産物である糖の構造がN-アセチル化されていて、基質がN-アセチル化されていないS1とS2とは化学的な違いがあることも判明した。
このように、配列、立体構造(グローバル、ローカル構造)、機能などを詳細に解析することによりクラスタリングするアプローチを、他の大きなスーパーファミリーや、さらに上のレベルであるフォールド・レベルにも適用する研究も進めている。
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図1 糖加水分解酵素配列ファミリーの多次元尺度法解析プロット |
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| 図2 糖加水分解酵素の階層的分類 |
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- Nozomi Nagano, Craig Porter & Janet Thornton, The (βα)8 glycosidases: Sequence and structure analyses suggest distant evolutionary relationships. Protein Engineering, 14, 845-855. (2001).
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シアン化物イオンの正確な定量法を開発 [ PDF:715.5KB ] |
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| シアン化物イオン標準液の開発・供給に道を拓く |
鈴木 俊宏
(すずき としひろ)
 計測標準研究部門
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分析機器の発展により多くの化学物質を高感度に分析することが可能となっているが、機器分析の多くはある化学物質を量ろうとした場合、その物質の量の標準(標準物質)を必要とする。そして、その標準の不確かさはそのまま分析結果にまで反映されるので、正確な分析結果を得るためには信頼できる標準を利用することが重要である。無機分析の分野では校正用の濃度標準として各種の元素標準液等が供給されているが、その開発においては原料である高純度金属等の純度を国際単位系(SI)につながるかたちで正確に決定する必要がある(図1)。当然、この場合の分析には測定対象と同種の標準液等を必要とする方法は用いることができない。可能性がある方法は、化合物の質量の測定から物質量を決定できる重量分析法、電極反応における電流と時間の測定から物質量を決定できる電量分析法、異なる化学種間で物質量の比較ができる滴定法などである。これらの分析法は適切に行えば高精度な結果が得られるが、系統的誤差も含めて、その不確かさを適切に見積もることが重要である。
シアン化物イオンは諸外国においても標準物質として供給されている例が少なく、その開発が望まれていた。当研究部門無機標準研究室ではムレキシドを指示薬として、シアン化物イオンをニッケルで直接滴定する場合の滴定曲線を理論式に基づいて解析し、ニッケルとシアン化物イオンが1 : 4のモル比となる当量点を決定する方法を開発した。これを利用することにより、滴定法を用いてニッケルを基準にシアン化物イオンを正確に定量することが可能となった。また、この方法では不安定なシアン化物イオンが損失しにくい高pHの条件で測定できる利点もある。
滴定法は学生実験等でも馴染みのある分析法であり、電動ビュレットを用いた光度滴定では比較的容易に高精度な結果が得られる。しかし、一般に滴定の終点として用いられる滴定曲線の変曲点は必ずしも当量点とは限らない。シアン化物イオンの滴定系においても変曲点は指示薬濃度に依存してその位置が変化してしまうので(図2)、終点を特定することができず、例えどんなに精度良く測定が繰り返されたとしても、その結果は大きな不確かさを持つことになる。正確な当量点を算出する本法ではシアン化物イオンの濃度を0.1%程度の拡張不確かさ(k=2)で定量することができた。また、標準液の保存安定性についても、本法を用いることで絶対的な基準に基づいて検討することができた。こうした研究によりシアン化物イオン標準液が開発され、計量法トレーサビリティ制度の下で供給される予定である。
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図1 純度測定方法と標準液のトレーサビリティ |
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| 図2 シアン化物イオンの滴定曲線 |