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AIST Today VOL.2 No.5

AIST TODAY
持続可能な循環型社会の実現
特集
平成14年度計画について
新しい研究センター・ラボの紹介
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表紙 [ PDF:475.2KB ]
目次
メッセージ  
  産業競争力強化に期待する [ PDF:256.1KB ]
  産総研のさらなる一歩
「待ち」から「攻め」へ
[ PDF:317.3KB ]
リサーチ ホットライン  
  新規光触媒による迅速な水質浄化 セラミックス研究部門
  簡便で安価な水質浄化が可能に 微小重力環境利用材料研究ラボ
  気泡発光の謎を解明 セラミックス研究部門
  ナノ構造化によって固体の相変化を加速 ナノテクノロジー研究部門
  炭酸ガスの有効利用に道を拓く マイクロ空間化学研究ラボ
  簡便な固定化酵素膜の形成に成功 生物遺伝子資源研究部門
  ビジュアルな遺伝子データの編集が可能に 生命情報科学研究センター
  全身触覚を持つロボットアーム 知能システム研究部門
  脆性材料の超精密切削 機械システム研究部門
  気相ダイヤモンド膜の鏡面研磨 基礎素材研究部門
  “ i ”コンセプト 新たな産業のキーワード エレクトロニクス研究部門
  亜熱帯海草藻場モニタリングシステムの構築 海洋資源環境研究部門
特集   
  産業技術総合研究所の平成14年度計画について
新しい研究センター・ラボの紹介
[ PDF:588.8KB ]
[ PDF:711.4KB ]
連携産学官  
  地域産業の活性化を目指して 〜四国産学官連携センター〜
ライフサイエンス分野融合会議・生命工学部会バイオテクノロジー研究会合同研究発表会・講演会
産業技術連携推進会議総会報告
産総研、筑波大学、物質・材料研究機構、包括的研究協定に調印
[ PDF:313.3KB ]
[ PDF:289.2KB ]
パテント・技術移転いたします!   
  単身生活者の健康状態モニタリングシステム 人間福祉医工学研究部門
物体協調運搬ロボットの制御方法及びその装置 知能システム研究部門
トピックス  
   癒し効果世界一とギネスが認定アザラシ型ロボット「パロ」 [ PDF:218.6KB ]
テクノ・インフラ  
   直流分圧器の校正サービス開始
米国地質調査所(USGS)の最新地質図標準動向
世界地質図委員会(CGMW)会議に参加 〜地質調査分野における国際協力の一例〜
プラスチックのガラス転移温度の標準化研究 〜高分子系先進材料の実用化を促進するTRを発表〜
[ PDF:312.0KB ]
AIST Network
  アジア太平洋ナノテクノロジーフォーラム発足会議
CRM第1回技術講習会
第5回産総研光反応制御・光機能材料国際シンポジウム
第3回光技術シンポジウム
第8回自分で作ろう!化石レプリカ
ROBODEX2002にロボット出展
「ベンジャミン・フランクリンメダル物理学賞」受賞
2002 AIST Showcase Symposium on Human Information Technorogy(HIT)
[ PDF:317.2KB ]
カレンダー
  地質標本館特別展示 ほか [ PDF:101.7KB ]
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成果普及部門広報出版部出版室 TEL 029-861-4127〜4128

AIST リサーチホットライン
 

新規光触媒による迅速な水質浄化 [ PDF:271.8KB ]

垰田 博史の写真
従来より1桁以上速い処理能力を実証 垰田 博史 (たおだ ひろし)
垰田連絡先
セラミックス研究部門

 酸化チタン光触媒に太陽光などの光を当てるとオゾンなどよりはるかに強力な酸化力が発生し、ほぼ全ての有機化学物質を二酸化炭素や水などに分解・無害化することができる。この光触媒作用を利用すると、水質浄化を行うことができる。しかし、水に縣濁物や有機物が多量に入っていると、光がさえぎられて光触媒に届きにくくなり、しかも分解対象物の量が多いため、分解に時間がかかったり、処理が困難であった。また、通常、光触媒処理では表面積の大きな超微粒子の酸化チタン光触媒が使用されるが、処理後に酸化チタン光触媒が沈殿せず、酸化チタン光触媒を分離し回収することが難しいという問題もあった。

 これらの欠点を克服するため、我々は、鉄系酸化物を複合した新規酸化チタン光触媒を開発し、汚水を迅速かつ簡単に処理できる水質浄化技術を開発した。

 図1に示すように、従来用いられていた高性能の酸化チタン光触媒微粒子(TiO2)を農業集落排水等の高濃度の汚水(COD(化学的酸素要求量)濃度 約60mgL-1)に添加し、撹拌しながら晴れた日の紫外線量に近い強さのブラックライト(近紫外光用蛍光灯)の光を照射して処理した場合、農業用水質基準値の6mgL-1以下に浄化するのに24時間かかっていた。また、酸化チタン光触媒微粒子を添加せず、ブラックライトの光を当てただけではCODがどんどん増大していった。

 今回開発された鉄系酸化物複合酸化チタン光触媒(Fe/TiO2)を使用した場合には、図2に示すように、汚水に添加し光を当てながら撹拌するという簡単な操作により、汚水中のCODを1時間以内という短時間で6mgL-1以下に浄化することができた。処理後、光触媒は沈殿しているため、処理水との分離は沈殿後の上澄み液を排出するのみでよく、非常に簡単である。今までの光触媒による水質浄化方法に比べて処理が格段に速く、光触媒の回収も容易であることから、今後幅広い応用が期待される。


図1 図2
図1 酸化チタンの浄化能力
試料500mL、撹拌あり、紫外線0.4mWcm-2
図2 鉄系酸化物複合酸化チタンの浄化能力
試料500mL、撹拌あり、紫外線0.4mWcm-2


関連情報

● 日刊工業新聞 平成14年1月30日
● 中日新聞   平成14年1月30日
● 中部経済新聞 平成14年1月30日

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AIST リサーチホットライン
 

簡便で安価な水質浄化が可能に [ PDF:399.9KB ]

皆川 秀紀の写真
水面浮遊酸化チタン水質浄化触媒を開発 皆川 秀紀 (みながわ ひでき)
皆川連絡先
微小重力環境利用材料研究ラボ

 工業用排水やし尿等の排泄物に含まれる代表的な有害物質としてアンモニア、ホルムアルデヒドの他メチルアミンなどがあり、これらの物質による汚染が問題視されている。一旦自然環境内に拡散したこれらの有害物質を、自然環境内に放置した環境に優しい触媒により浄化することが本研究の目的である。一般的な水質浄化はポンプによる汚水の取水、汚水への酸化チタン粉末の添加・懸濁、曝気、紫外線照射、という過程を経て汚染物質を酸化分解する。この方法では、大がかりな設備が必要で、自然界での広範囲な汚染処理には効率的とは言い難い。この他に、酸化チタンをコーティング剤として使用している研究例もある。これらコーティング剤を壁等の構造材料に使用したり、中空のガラス玉表面に塗布して、これを自然環境に放置することで、水質浄化を行う研究例が国内外において報告されているが、塗布膜の剥離、ガラス玉の破損、そして水中への沈降などの他、その回収の方法が問題である。

 本研究ではこれらの観点から水溶液上に浮遊し、かつ紫外線照射下において活性な高機能性触媒の製造を目的として、多孔質ガラス中へアナターゼ型酸化チタンを内包・分散させた高性能・高活性な触媒の開発に成功した。本触媒の製法は非常に単純である。珪酸ナトリウムとガラス粉末、発泡剤として炭酸水素ナトリウム、そして触媒としてアナターゼ型酸化チタンを混合し、その溶液を200℃1時間真空乾燥器中で加熱することで多孔質化ガラス触媒を製造した。この後600℃2時間の再焼成処理により水に対し難溶性とし、水面浮遊水質浄化触媒を製造した(写真)。本触媒は水面に浮遊しながら、常に触媒表面に水と光が供給される環境下で、汚染物質を分解する特性を有している(図)。しかも球状であるので水面で回転し、常に新しい触媒面を供給しつつ汚染物質を分解するために非常に高活性である。

 本触媒を濃度28ppmのアンモニア水に浮遊させ、15Wのブラックライトによる紫外線照射を行うと、約2日間でアンモニア濃度が2.48ppmにまで減少する。太陽光照射下においても同様の実験を行ったところ、初期濃度2.4ppmのアンモニア水が2日後10ppb以下にまで減少することが確認された。本触媒を使用することで、簡単に安価で、しかもメンテナンスフリーの水質浄化を行うことが可能である。


水面に浮遊する水質浄化触媒の写真 図
写真 水面に浮遊する水質浄化触媒
図 水面浮遊多孔質ガラス触媒を用いて効率よく汚水を浄化する方法


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AIST リサーチホットライン
 

気泡発光の謎を解明 [ PDF:445.0KB ]

安井 久一の写真
超音波化学の実用化へ向けて 安井 久一 (やすい きゅういち)
安井連絡先
セラミックス研究部門

 近年、新材料の創製や難分解物質を分解する新しい手段として、超音波を利用した化学(ソノケミストリー)が注目を集めている。気体が溶解している液体に強力な超音波を照射すると、大量の気泡が発生し、気泡は膨張や収縮を繰り返す(図1)。超音波がある程度以上強いと、気泡の収縮が激しいものとなり、気泡内温度が上昇して発光する(ソノルミネッセンス)。このとき、気泡内に存在する水蒸気が化学反応を起こし、大量のOHラジカルや過酸化水素が生成する。これらの強い酸化剤により難分解物質が分解されたり、揮発性物質が気泡内に入って熱分解する1)。気泡内の高温・高圧の状態は、数十ナノ秒しか持続しないため、通常得られない特異な化合物の生成も可能である。

 当研究部門超音波プロセス研究グループでは、ソノケミストリーのより詳細な機構解明のため、気泡の膨張、収縮のコンピュータシミュレーションを行っている2)。我々は、世界で初めて気泡内への水蒸気の出入りを計算し3)4)、超音波が比較的弱いときに気泡内の温度が最も高くなるという逆説的な事実を明らかにした4)5)(図2)。そして、1933年のソノルミネッセンスの発見以来、多くの研究者を悩ませてきた発光機構の謎を、世界に先駆けて解明した5)。即ち、超音波が比較的弱いときは、気泡内温度が1万度を超え、気泡内の気体が弱電離しプラズマ発光をするが3)6)、超音波が強いときは、気泡がより膨張するため、大量の水蒸気が気泡内に流入し、その影響で収縮時の気泡内温度が数千度にしかならず、水蒸気が化学発光を起こす4)

 コンピュータシミュレーションと実験7)との比較により、ソノケミストリーの機構がより詳細に明らかとなり、ソノケミストリー技術が確立すれば、将来、ゾル−ゲル法でセラミックスを製造する際に、ゾルに超音波を照射して反応時間を大幅に短縮するなど、幅広い応用が考えられる。


図1 図2
図1 超音波一周期分の気泡の膨張、収縮と気泡内温度
図2 気泡収縮時の気泡内温度(平衡半径は、超音波がないときの気泡の半径)


関連情報

● 1) K.Yasui, J. Chem. Phys. 116, 2945 -2954 (2002).
● 2) K.Yasui, Phys. Rev. Lett. 83, 4297 -4300 (1999).
● 3) K.Yasui, Phys. Rev. E 60, 1754 -1758 (1999).
● 4) K.Yasui, Phys. Rev. E 64, 016310 (10 pages) (2001).
● 5) K.Yasui, J. Chem. Phys. 115, 2893 -2896 (2001).
● 6) K.Yasui, Phys. Rev. E 63, 035301 (4 pages) (2001).
● 7) T.Tuziuti, S. Hatanaka, K.Yasui, T. Kozuka, and H. Mitome, J. Chem. Phys. 116, 6221 -6227 (2002) .

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AIST リサーチホットライン
 

ナノ構造化によって固体の相変化を加速 [ PDF:427.3KB ]

川本 徹の写真
高効率光記憶材料の設計に道を開く新理論 川本 徹 (かわもと とおる)
川本連絡先
ナノテクノロジー研究部門

 現在使われているDVD-RAMやCD-RWなどの光記憶媒体においては、レーザ光による固体の相変化を利用して情報を記憶させている。しかし、この場合の光の役割は、加熱によって融解状態を経て相を変化させることであり、エネルギー効率が悪い。光によって直接、状態相を変化させることができれば、原理的にはより小さいエネルギーによる相変化が可能になる。このような現象は光誘起相転移と呼ばれ、これまでにいくつかの物質において見出されている。しかし、まだ熱相転移を凌駕するような十分な特性が実現されているわけではない。我々のグループでは、より弱い光強度でより素早く光誘起相転移を起こすためのモデルを理論的に提案し、計算機シミュレーションによってその実効性を確認した。

 提案したのは2種類の構成単位から成るナノ構造材料を使う方法である。各々の構成単位が図1のような双安定ポテンシャルをもっている場合、単一の構成単位からなる構造は、Δがほぼ零の場合を除いて、エネルギーの低い状態から高い状態に変化させるのは困難である。つまり、α-ユニットのみからなる構造は、A状態からB状態に変化させることは難しく、β-ユニットの場合は逆にBからAに変化させにくい。しかし、図2に示すように、両者のユニットをナノスケールで周期的に配列すれば、単一構造における最も高速な場合に比べても、非常に高速に相変化が起こるというシミュレーション結果が得られた。相変化を起こすのに必要な光強度も最高1/10まで下げられることも分かった。

 光誘起相転移では、初期過程に核と呼ばれる励起状態のブロックが現れ、それがある程度の大きさになると物質全体の相変化へと進行する。我々の提案した構造では、励起状態の寿命が長い部位が存在する。例えば、AからBへの変化の時はβユニットにおける励起状態の寿命が長い。この長寿命化が核の成長を助け、高速な光誘起相転移が実現する。この結果は単独では相転移を起こしにくい物質でも、他の物質とうまく組み合わせることで、効率よく相転移する材料を作り出せることを示しており、ナノテクノロジーによる人工合成物質の有望性の一例を示すものである。


図1
図1 2種類の構成単位のポテンシャルエネルギー
図2
図2 周期構造化による光誘起相転移の加速


関連情報

T. Kawamoto, S. Abe: Appl. Phys. Lett., Vol. 80, No. 14, 2562- 2564 (2002).
T. Kawamoto, Y. Asai, S. Abe: Phys. Rev. Lett. Vol. 86, No. 2, 348- 351 (2001).

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AIST リサーチホットライン
 

炭酸ガスの有効利用に道を拓く [ PDF:219.4KB ]

宮崎真佐也の写真
炭酸ガスを生分解性プラスチック原料に酵素合成 宮崎 真佐也 (みやざき まさや)
宮崎連絡先
マイクロ空間化学研究ラボ

 昨今、地球温暖化の要因の一つに、排出過多による炭酸ガス濃度の増加が挙げられる。この解決策として炭酸ガスを固定したり、有効利用する技術がある。これまでに幾つかの有効利用の方法が提案されているが、いずれもエネルギー消費の激しい方法や重金属触媒を用いる方法がほとんどであり、環境負荷をいかに低下させるかが重要になっている。また一方、焼却に伴う炭酸ガス産出の抑制手段として、微生物により分解される生分解性プラスチックがある。その中でもポリ乳酸は非常に注目されていて、その素材である乳酸の需要が近年増加しつつある。しかし、現在の乳酸合成は主に醗酵法による合成方法が主体であり、カーギル・ダウ・ポリマーズ社に市場を席捲されているのが現状である。

 我々は、炭酸ガスを固定するだけでなく、炭酸ガスから有用な化合物を製造する研究を行っている。まず、生体の触媒反応であり環境負荷が少ない酵素反応に着目した。そしてこの度、脱炭素酵素の逆反応を利用した独自の方法により、乳酸の合成に成功した。この乳酸は生分解性プラスチックの原料となるものである。

 本技術は、脱炭酸酵素の逆反応を利用して炭酸ガスとアセトアルデヒドを縮合させピルビン酸を合成する反応、およびピルビン酸を還元し乳酸を合成する反応の2段階の酵素反応から成る(図1)。通常、第一段階の酵素の反応はピルビン酸の分解が主である。しかし、我々は炭酸ナトリウム緩衝液中、塩基性条件下では逆反応を有効に利用できることを明らかにし、合成反応が十分に進行することも既に見出している(図2)。また、2段階の反応を連続して行うことにより、乳酸の合成にも成功している。今後、本プロセスの実用化を目指して研究を行っていきたい。


図1
図1 炭酸ガスを化学資源とした乳酸合成経路
図2
図2 ピルビン酸合成反応収率に対する反応液のpHの影響


関連情報

M. Miyazaki, M. Shibue, K. Ogino, H. Nakamura, and H. Maeda, Chem. Commun., 1800 -1801 (2001).
M. Miyazaki, K. Ogino, M. Shibue, H. Nakamura, and H. Maeda, Submitted for publication.

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AIST リサーチホットライン
 

簡便な固定化酵素膜の形成に成功 [ PDF:246.2KB ]

矢吹 聡一の写真
イオン結合を利用した固定化酵素薄膜の形成 矢吹 聡一 (やぶき そういち)
矢吹連絡先
生物遺伝子資源研究部門

 固定化酵素の簡便な作製法を開発することは、工業的に酵素を利用する上で重要である。我々は、これまで種々の固定化酵素作製方法を開発し、それを高感度分析に適用してきた。数年前から、我々のグループは、ポリイオン複合膜作製方法を利用すると、極めて簡便にかつ迅速に固定化酵素層を得られることを見出した。この方法では、ポリカチオンとポリアニオンと酵素の3溶液を基板上に滴下し乾燥させるだけで、簡便に酵素固定化膜が得られる。

 しかし、このポリイオン複合膜の方法では、薄い固定化酵素層を得ることは難しい。そこで、この方法を元に新たな固定化方法を開発した。その概念を図1に示す。金基板上へSH基を持つ分子が自己集積化することはよく知られている現象である。そこで、先ずSH基を持つ分子のシステアミンを用い、自己集積化層を形成する。この層では表面にアミノ基が並ぶ(A;赤丸はアミノ基)。続いてポリグルタミン酸を添加するとアミノ基(正に荷電)とポリグルタミン酸のカルボキシル基(負に荷電)の結合によりポリグルタミン酸が固定化される(B;青四角はカルボキシル基)。さらに、予めポリグルタミン酸が結合した酵素を作り、これをシステアミンで処理した金基板上に添加すると、ポリグルタミン酸に伴い酵素が固定化される(C;黄丸は酵素)。以上の手順により、簡便に酵素薄膜が形成される。例として、酵素にブドウ糖酸化酵素を選び、図1(C)に示す酵素薄膜を作製した。

 酵素薄膜が形成されたかを調べるため、基板に酵素により生成する過酸化水素を酸化する電位を設定し、ブドウ糖を添加してみた。未修飾の酵素を用いると当然ながら酵素はほとんど固定化されないため、電流は流れない。一方ポリグルタミン酸結合酵素を用いた電極では、大きな酸化電流が観察された(図2)。酵素層が薄いため、応答は速く、簡便に酵素固定化層が作製できた。

 本方法は、単に酵素薄膜層を作製するだけではなく、酵素を用いた素子(バイオセンサ等の)の高集積化にも応用が可能であると考えられ、現在、さらなる研究を進めている。


図1 図2

図1(左) 金基板への酵素固定化

図2(上) ブドウ糖の校正曲線
酵素のみを用い作製した電極を利用した場合(●)、および、ポリグルタミン酸が結合した酵素を用い作製した電極を利用した場合().



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AIST リサーチホットライン
 

ビジュアルな遺伝子データの編集が可能に [ PDF:517.1KB ]

上野 豊の写真
遺伝子情報表示プログラムGUPPYを開発 上野 豊 (うえの ゆたか)
上野連絡先
生命情報科学研究センター

 我々が新しく開発したGUPPY (Genetic Understanding Perspective Preview sYstem)は、遺伝子を構成しているDNA配列の注釈情報(アノーテーション)を、分かりやすいグラフィカルなレイアウトに表示するプログラムである1)。これまでにない高速でインタラクティブな操作環境を実現し、ゲノムデータの全体から注目する領域を選択し、個々の塩基配列までスムーズにズームアップしていくことができる。ネットワークは必ずしも必要ではなく、GUPPYは公開されたゲノム情報に個人の持っているデータを重ねて表示することもできる。さらに、Webページへのハイパーリンクや、作成したレイアウトの印刷等、生物学者のための多様なメディアの活用を支援することもできる。

 大規模なゲノムデータベースでは、遺伝子情報を効率的に検索できるが、異種データや実験データを比較するために、研究者は常に注目するデータのファイル変換をしなければならない。GUPPYでは、そういった様々な処理に柔軟に対応できるようなデータ処理言語であるLua言語を導入している2)。これは、必要とされる言語の機能を分析し、既存の安定した言語処理系を吟味した結果からである。階層構造を持つデータはLua言語処理系で管理され、それらを再編する手続きと表示レイアウトをスクリプトとして記述する。また、高速なグラフィックス処理部分はC言語によって書かれている。

 GUPPYの開発の目的は、バイオインフォマティックス(生命情報科学)における様々なデータ解析の結果表示の道具を提供することである。様々な数理モデルを応用した研究成果を分子生物学に適用させる仲介役となるために、新しいソフトウェア技術を実装している。ヒトゲノムを解読した研究成果は、今後の科学の発展のために公共データベースとして公開されている。その公共財としての意味を重く受けとめ、このプログラムは、科学を広く支援するため非営利目的の利用に公開している。


図
図 ヒト21番染色体の遺伝子地図を表示した例3)


関連情報

● 1) GUPPYホームページ:http://staff.aist.go.jp/yutaka.ueno/guppy/
● 2) Lua言語ホームページ:http://www.lua.org
● 3) DDBJ/CIBヒトゲノム情報工房:Imanishi T, Okayama T, Kawanishi Y, Fumoto M, Iizuka T, Nishinomiya N, Shigemoto Y, Mashima J, Okido T, Habara T, Oota S, Sugawara H, Saitou N, Gojobori T. Human Genomics Studio. http://studio.nig.ac.jp/

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AIST リサーチホットライン
 

全身触覚を持つロボットアーム [ PDF:135.5KB ]

末廣 尚士の写真
人と共存するロボットを目指して 末廣 尚士 (すえひろ たかし)
末廣連絡先
知能システム研究部門

 ロボットの触覚は、防災支援、介護など未整備環境下や人と接する環境で、安全に作業を行わせるために極めて重要な感覚となる。全身型触覚センサシステムは、人や物と安全に接触できるロボットを実現するために開発・試作されたものである。

 ここで開発した全身型触覚センサは導電性感圧インクで印刷された縦横のパターンの交点における抵抗変化を利用して接触力を検出する。今回は7自由度のロボットアーム前腕部を72領域の検出領域でカバーするものを試作した。それぞれの領域で接触力の大きさを検出することができる。センサシートはスペーサと外皮とでサンドイッチ状にはさまれ、ロボットアームに装着される。写真1はセンサの外皮(紺色の人工皮革)を一部はがしたものである。内側に導電性感圧インクの縦縞のパターンが見えている。この触覚センサは、アームの動作の妨げにならずかつ簡単に装着できる、広範囲で接触位置/力情報を取得できる、柔らかい材料ではさんでいるため対人親和性が高いなどの特徴を持っている。

 本システムによる全身触覚の利用例として接触回避動作を実現した。接触が検出された各点で接触から遠ざかるような運動を生じさせることによりロボットアーム全体の接触回避動作を実現する。個々の接触点での回避運動と作業を行うための運動とを同時に連立させモータの指令値を求める。作業動作や接触回避動作のどちらを重視するかは、それぞれの連立式に重みをつけることにより調整することができる。写真2の(上)(下) は、人との接触を検出し、それを避けながら手先はほぼ同じ動作をしているところである。実現された接触回避動作は、複数の作業動作を統一的な手法で融合することができる、多数点での接触を同時に扱うことができるなどの特徴を持っている。

 本システムにより全身触覚の一つの実現方法とその有用性、利用方法が示された。


写真1 写真2(上)

写真1(上)第4リンクの外皮とセンサシート

写真2 (右)触覚を用いた接触回避動作(上下)

写真2(下)


関連情報

● 末廣、樋口、藤崎、「ロボットアーム用触覚センサの開発」、平成13年電気学会 電子・情報・システム部門 大会講演論文集[I]、pp.I-85-I-88
● 末廣、音田、北垣、「触覚センサを用いた接触回避動作」、第19回日本ロボット学会学術講演会、pp.567-568

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AIST リサーチホットライン
 

脆性材料の超精密切削 [ PDF:451.6KB ]

小倉 一朗の写真
機械加工による微細形状創成 小倉 一朗 (おぐら いちろう)
小倉連絡先
機械システム研究部門

 機械加工は重要な製造技術であり、その極限の追求が産業をさらなる発展へと導く。機械加工がチャレンジすべき課題の一つとして、複雑形状を有した光学素子の創成があげられる。精密光学素子においては、プラスチックよりガラスが適している。また量産性より機能を重視する分野では、金型を用いるより素材への直接加工が望まれている。そこでファインファクトリー研究グループでは、光学ガラスをダイヤモンド単刃工具で微細加工するための研究を行っている。

 ガラスに代表される脆性材料は容易に破壊するため、機械加工は難しいとされている。しかし、このような材料であっても切削痕深さが0.1µm以下となるように切込みを与えると、脆性破壊をおこさない延性モード切削と呼ばれる加工が可能となる。本研究では、ナノメートルオーダーの工具切り込みが可能な高速ツールサーボを搭載した超精密旋盤で、延性モード切削を実現している。

 このような微小なスケールにおいては、加工雰囲気の影響が無視できない。そこで各種の加工雰囲気下で切削実験を行い、その効果を調べた。図1に結果の一例を示す。加工雰囲気によって延性モード加工の可能な工具送り量が大きくなっていることが分かる。

 これらの実験によって得られた知見により、形状創成を行った結果を図2に示す。これらは白色光干渉顕微鏡によって測定したものである。実験はいずれもソーダライムガラスに対し、リノレン酸エタノール中50%濃度の加工雰囲気で行った。(a)はφ200µm深さ30nmのマイクロピット配列の一つである。この加工例では、このようなピットをφ20mmの加工範囲一面に0.5µm間隔で創成した。また(b)は文字の部分を彫り残した微小パターンの例である。一文字の大きさは、300〜500µm程度で高さは15nm程度であった。

 今後は繰り返し切削によって、より深い形状の加工実験を行い、光学的機能を持った微細形状の創成を目指す。


図1 図2の(a)
図2の(b)

図1(上)加工雰囲気と延性モードが可能な切り込み量の関係

図2(右)形状創成の例(a)(b)



関連情報

● 小倉一朗、岡崎祐一:シングルポイントダイヤモンド旋削による光学ガラスの延性モード切削加工に関する  研究:精密工学会誌、66, (9), 1431-1435 (2000).

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AIST リサーチホットライン
 

気相ダイヤモンド膜の鏡面研磨 [ PDF:416.7KB ]

阿部 利彦の写真
化学的な反応を利用する新しい方法を開発 阿部 利彦 (あべ としひこ)
阿部連絡先
基礎素材研究部門

 気相合成法を用いると超硬合金を多結晶ダイヤモンドによってコーティングできる。しかしコーティング膜(膜厚10µm程度)の表面には、膜厚の数分の一の凹凸があるため実用化には研磨が必要である。現在は時間のかかる「ダイヤモンド粉末によるダイヤモンドの研磨」が唯一の研磨法であり、この方法は500年間以上も全く進歩のない技術とされている。

 ダイヤモンド膜研磨技術連携研究体(〜H14.3.31)では焼結TiAlXホイールを用いて、空気中、室温でダイヤモンドを短時間で鏡面研磨する技術を開発した。このTiAlX金属間化合物によるダイヤモンドの研磨は化学的方法であって、ダイヤモンドは次の過程で鏡面研磨されると考えられる。

(1)ダイヤモンドとホイールとの接触部が1000℃以上の高温になり、ダイヤモンド表面がTiと化学的に反応してTiCあるいは黒鉛に変化する(反応層の形成)。
(2)高温に加熱されたホイールは強度が増す(逆温度依存性)ので、ホイールが変形・磨耗する前にダイヤモンド表面の反応層が除去される(反応層の除去)。
(3)この摩擦を伴うダイヤモンド除去過程で表面が鏡面になる。

 なお、金属間化合物以外のTi合金は、強度の逆温度依存性がないので、ダイヤモンド表面への付着が激しく実用にはならない。

 写真1は3000rpmで回転する直径30mmのTiAlXホイールに気相ダイヤモンドを1分間、手で押し付けた時の研磨面である。最終的には、気相ダイヤモンドは面方位に関係なく鏡面に研磨される。

 写真2は熱フィラメント法で超硬合金製金型(外径45mm)の内面に膜厚が約10µmの気相ダイヤモンドをコーティングして、これを950rpmで回転させながらTiAlXホイールにより約30分間研磨した状態を示す。研磨面はほぼ鏡面であり、膜の密着強度に問題がなければ早い段階での製品化を目指す。


写真1 写真2
写真1 TiAlXホイールによる気相ダイヤモンドの短時間研磨で凹凸の残っている部分
写真2 内面を鏡面ダイヤモンドコーティングした超硬金型


関連情報

● 特許第210977号(平成13年7月19日)
● 阿部利彦、橋本等、武田修一、西村一仁:まてりあVol.40, N0.4, 395 -396 (2001).

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AIST リサーチホットライン
 

“ i ”コンセプト 新たな産業のキーワード [ PDF:420.9KB ]

伊藤 順司の写真
人と環境に優しい薄膜作製装置を企業と共同開発 伊藤 順司 (いとう じゅんじ)
伊藤連絡先
エレクトロニクス研究部門

 製造産業の空洞化が加速している。人件費の圧倒的な違いから、国内の製造部門が雪崩をうって中国本土に移っている。コスト以外に優位性のない製品を作り続ける限り、この流れは止まらない。他方、世界一のエルメスショップが銀座にできるように、消費者はこだわりを求めている。これは、製造産業の衰退の原因がコストの優劣だけではないことを意味している。つまり、“なんとしても欲しい”製品が見あたらない!のである。最近、洗剤の要らない洗濯機、ハイブリッド車、アイボやアシモ、排気がクリーンな掃除機などが市場を獲得しつつある。共通するのは、人や環境への愛・優しさ、知的交流、個性を全面に出していることである。必要性(利便性)を満たすだけでなく、“心の満足感”を提供するものである。

 このような価値や魅力を“iコンセプト”と名付ける。“i”はあい(愛)であり、intelligentのiであり、自己のIである。iコンセプトの製品を作るためには、高性能なハードウェアと、それらを包み込んで“あい”を表現するためのソフトが必要である。重要なことは、“どんなiを提供するのか”という視点である。

 次に紹介するのは、“人と環境への優しさ”を基本思想として、(株)アルバックと共同開発し市販を開始した薄膜作製装置である。製品名を“iスパッター”という。表に示すように、超高真空で800℃まで基板を加熱しながらマグネトロン/ヘリコンスパッタを行える高性能なハードと、一つのタッチパネルですべての操作が相互会話的に行えるソフトを一体化させている。初心者でも簡単に扱うことができる。また、全体の40%が再利用可能(省廃棄物)、省エネおよび省スペースなどの特徴を持っている。

 この製品を実現するには、超高真空技術、ロボット技術、制御システム技術などの異種技術を最適に融合する必要があり、いろいろな苦労があった。しかし、コンセプトが明確であったため、開発期間はごく短く、明確な一本の筋(主張)が入ったと確信している。これは“iコンセプト”の製品化の手始めである。今後は、研究成果と企業ニーズとをマッチさせつつ多様なi製品群を世に出したいと思っている。


表 iスパッター基本性能
主な仕様項目 実験性能
スパッタ方式 独立3元、500Wm、デポアップ方式、マグネトロン/ヘリコン、多層成膜可。
基板 2インチ、4インチ
基板加熱温度 800℃
到達真空度 6.7×10-6Pa
操作方法 タッチパネルによる全自動操作、レシビ管理、プログラムスパッタプロセス。
基板交換 ロボットアームとロードロックによる全自動。
資源再利用度 全部品の40%以上が多目的に再利用可能。
フットスペース 1.9m2
iスパッター本体の写真
写真 iスパッター本体


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AIST リサーチホットライン
 

亜熱帯海草藻場モニタリングシステムの構築 [ PDF:444.1KB ]

山室 真澄の写真
水中ロボットや小型飛行船等を用いる方法を開発 山室 真澄 (やまむろ ますみ)

海洋資源環境研究部門

 アマモ場に代表される日本沿岸の海草藻場は、多様な魚介類の初期成長の場として重要である。また近年の研究で、沿岸の水質を浄化する機能が大きいことが分かってきた。特に沖縄県を中心とする亜熱帯海草藻場は、ウミガメやジュゴンなど、絶滅が危惧される貴重な動物の唯一の餌場でもある。

 このように海草藻場は貴重な生態系であることから、環境省は過去に3回の全国規模の分布調査を行い、2回分の結果が公表されている。それによると亜熱帯海草藻場は、1978年の第1回調査よりも1989年の第2回調査の方が分布域が拡大しており、報告書ではその原因として過大評価の可能性を指摘している。ここで採られている方法は航空写真の判読であり、判読できないものは高所から目視もしくは望遠鏡を用いて行っている。このような方法では、小さい種類も含み多様な海草類が分布する亜熱帯海域では、特に誤差が大きい。

 電力エネルギー研究部門と海洋資源環境研究部門では、かねてより部門横断的な研究グループを形成し、沿岸環境の保全に関わるモニタリングシステムの開発を行ってきた。ここで紹介する亜熱帯海草藻場のモニタリングシステムは、水中ロボットで取得したデジタル画像に基づき海草の被覆度を測定するシステムと、撮影位置を同時に記録・図化するシステムから構成される。これにより作業の省力化とデータの質の向上を実現した。また沿岸域については、地形の変化が激しい上に、そもそも詳細な地図がない場所も多い。このような場所でデータをGIS(地理情報システム)化するための基図を作成する必要性から、小型飛行船などを用いたリモートセンシングも試みている。

 海草藻場のモニタリングについては、世界規模での同時データ取得が試みられている。本研究の成果は、専門家による調査が困難な亜熱帯・熱帯地域にある開発途上国における海草藻場調査手法の標準化に発展する可能性があると期待している。


写真1 海草藻場調査用水中ロボット 写真2 画像解析による被覆度の解析
写真1 写真2
  Greenチャンネルを利用し、大津の判別基準に基づく二価化処理を行ったもの


関連情報

● 海草藻場の調査方法及び該調査方法に使用する装置(特開2002 -58370)

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