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持続可能な循環型社会の実現 |
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特集 |
サイバーアシストコンソーシアム |
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成果普及部門広報出版部出版室 TEL 029-861-4127〜4128
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| 分子固体プロトニクス研究にブレークスルー |
青木 勝敏
(あおき かつとし)
 物質プロセス研究部門
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氷中のプロトン拡散過程の観測に初めて成功した。127℃、10万気圧におけるプロトンの拡散係数(拡散速度)は10-15m2/sであり、1秒間に約30nmの速さで氷中を動いていることになる。また、10ms毎に隣接する水分子に跳び移っていることにもなる。この値は、常圧氷(1気圧、−15℃)中の拡散係数の推定値よりも5桁も大きく、“熱い氷”中ではプロトンが動きやすくなっていることがわかった。
水分子が水素結合で結合し、ダイヤモンド格子状に配列したものが氷である。水素原子(プラスにイオン化しているので陽子−プロトン−と呼ばれる)は水素結合軸に添った並進移動と、分子回転を利用した隣接水素結合へのジャンプを繰り返しながら水素結合ネットワーク上を移動する(図1)。氷中のプロトン移動機構のモデルは半世紀前に提唱されていたが、直接観測はされていなかった。常圧氷中では水分子の拡散速度が速く、遅いプロトン拡散が隠されてしまうためである。
数万気圧に氷を加圧することによって、プロトンと比べて数十倍も大きな水分子の拡散が抑制される、と同時に融点が著しく上昇することから、プロトン拡散が促進される高温状態を創出することができる。今回、高圧技術と赤外反射スペクトル測定技術を組み合わせて、初めて氷中のプロトン拡散過程の観測に成功したのである(図2)。
氷は構造と物性が最も詳しく調べられている物質の一つであり、プロトン拡散の機構ならびに制御技術を研究する上で最も適した物質である。エレクトロニクスの技術開発に大きく貢献した半導体シリコンに匹敵する物質として位置付け、今後、ドーピング効果、作動環境(圧力、温度)と拡散速度の関係を明らかにしていく中で、分子固体プロトニクス−プロトン移動を利用した工学技術−研究の基盤を築いていく予定である。
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図1 氷中のプロトン拡散機構モデル |
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図2 実験法と測定例 ピーク強度の時間変化から拡散係数が求められる |
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● Eriko Katoh, H. Yamawaki, H. Fujihisa, M. Sakashita, K. Aoki : Science, 295, 1264-1266 (2002).
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東海沖巨大地震発生帯の三次元イメージング [ PDF:840.9KB ] |
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| 巨大地震発生帯を覗く |
倉本 真一
(くらもと しんいち)
 海洋資源環境研究部門
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世界中で発生する巨大地震(マグニチュード8クラス)の多くはプレート沈み込み帯で発生しており、それは海溝型巨大地震と呼ばれている。この沈み込み帯では、地殻の歪みエネルギーが岩石を破壊するほど大きくなると上下プレート間の固着をはがし、その時巨大地震を発生させると考えられている。南海トラフ沿い(駿河湾から四国の沖合にかけてのプレート沈み込み帯)には、大きな被害をもたらしてきた歴史地震の記録が残されており、特に東海地方では今世紀中の「東海地震」の発生が懸念されている。
東海沖のこれまでの調査・研究から、連続性の良い複数の海底活断層系が認められている。これらの成果は80年代初頭から続いている日仏共同プロジェクト(KAIKO計画;KAIKOは海溝を意味する)による功績が大きい。2000年夏、KAIKO計画の一環として、東海沖で三次元地震波探査を行った。この調査の目的は東海沖に想定される巨大地震の発生領域を音波でイメージングし、その地質構造や物性構造を三次元的に明らかにすることである。
調査海域には東海断層系、小台場断層系という2つの活断層系が存在している(図1)。得られたデータは産総研のスーパーコンピュータ(分散メモリシステム型並列計算機;256個のCPUを使用)を使用し、高度なイメージング解析技術を用いたデータ処理を行った1)。その結果を用いて予察的に三次元地質構造解釈を行った(図2)。
この調査で初めて明らかになったことは、1)海底付近で確認されていた東海・小台場断層系はプレート境界から新たに派生する活断層(順序外断層;Out-of-Sequence Thrust)である、2)両断層系はプレート間の主滑り面(マスターデコルマ面)に収斂する、3)その収斂域からプレート間が固着(巨大地震発生帯)しているらしい、4)この推定固着領域は、陸上GPS測量データの解析から求められたプレート運動による引きずり込み量(バックスリップ)の大きな地域と一致している、などである。今後さらに詳細な解析を進め、東海沖巨大地震発生帯の実像を明らかにしていく。
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| 図1 調査域は御前崎から南西に約50kmの沖合で、45km×5kmの区域を調査範囲とした |
図2 予察的に行った三次元地質構造解析結果 |
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レーザの周波数変動が2×10-14以下に [ PDF:582.2KB ] |
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| 高性能ヨウ素安定化Nd:YAGレーザを実現 |
洪 鋒雷
(こう ほうらい)
 計測標準研究部門
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波長1064nmのNd:YAGレーザでは、その2倍波の532nmにおいてヨウ素分子の強い吸収がある。これは、吸収遷移の下準位の振動量子数が零であるからである。この吸収信号を用いたヨウ素安定化Nd:YAGレーザは新しい光周波数あるいは波長標準として注目され、その研究が現在世界各国で行われている。我々は、世界初の可搬型ヨウ素安定化Nd:YAGレーザ(写真)を開発し、そのレーザの周波数安定度が現在の実用標準であるヨウ素安定化He−Neレーザと比較して1桁以上良いことを見出した。また、この可搬型レーザを実際にアメリカ、ヨーロッパ、およびオーストラリアに持ち運び、周波数の国際比較を実施し、各国標準研究機関のレーザ間の周波数リンクを実現している1)。
我々は4台のヨウ素安定化Nd:YAGレーザを製作し、レーザの周波数安定度および再現性の評価を行った。図1は産総研のヨウ素安定化Nd:YAGレーザのアラン分散(時間領域ごとのレーザの周波数安定度)を示す。レーザの周波数の相対変動は、1秒の積分時間において約1×10-13で、積分時間が60秒以上では<2×10-14のレベルまで向上している。2×10-14の相対変動は532nm(563THz)では約10Hzの周波数変動に相当する。比較のために、図1にセシウム原子時計(産総研の一次標準器)の周波数安定度を示した。100秒より短い積分時間においては、レーザの周波数安定度のほうがセシウム原子時計の周波数安定度より数倍良いことがわかった。また、長期では互いに安定度を競い合うところまできている。
ヨウ素安定化Nd:YAGレーザはその光パワーが強いので、干渉測定や分光用の基準光源などの多くの応用に対処することができる。我々は、研究棟の間に光ファイバー網を敷設し、光ファイバーネットワークによるヨウ素安定化Nd:YAGレーザ光(周波数標準)の伝送を実現した(図2)。このようなインフラ整備は、世界の標準研でも先駆的で、これからの標準供給の新しいモデルを示すものである。
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写真(上)可搬型ヨウ素安定化Nd:YAGレーザ装置
図1(右上) ヨウ素安定化Nd:YAGレーザの周波数安定度
図2(右下)光ファイバーネットワークによるレーザ周波数の伝送
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● 1) 洪 鋒雷,石川 純:応用物理, Vol. 70, No. 7, 838-841 (2001).
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| 蛍光の消滅を利用する新しい方法を開発 |
金川 貴博
(かながわ たかひろ)
 生物遺伝子資源研究部門
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遺伝情報は、遺伝子内における、アデニン(A)、チミン(T)(またはウラシル)、シトシン(C)、グアニン(G)という4種類の塩基の並び順(塩基配列)で決まる。全ての生物は、その生物に特有の塩基配列を持っているので、その特有の塩基配列が検出されればその生物が存在することになる。たとえば、血液が病原菌に汚染されているかは、その病原菌に特有の塩基配列が検出されるかどうかを調べればよい。
遺伝子を構成する4つの塩基には、AとT、CとGがそれぞれ互いに結合しやすいという性質があるので、特定の塩基配列を簡単に検出できる。つまり、目標とする遺伝子にぴたりと結合する遺伝子断片を化学的に合成し、これを試料に添加する。この添加した遺伝子断片が試料中の遺伝子に結合すれば、目標の遺伝子が存在することになる。また、添加した遺伝子断片のうちの何個が結合したかを調べれば、目標の遺伝子が何個あるかがわかる。
私たちが今回新しく開発した方法(QP法;Quenching Probe/Primer Method)では、ある種の蛍光色素にGが近づくと、蛍光がほとんど消滅することを利用している。GはCと結合しやすいので、末端がCである遺伝子断片に、ある種の蛍光色素を付けておくと、この断片が目標の遺伝子に結合した時にGの作用で蛍光がほとんど消えるのである(図1)。したがって、蛍光強度の変化を測ることで、目標の遺伝子の個数がわかる。
目標の遺伝子が試料中にわずかしか存在しない場合には、QP法とPCR法(遺伝子を複製する反応を数十回繰り返して目標の遺伝子を増やす方法)とを組み合わせて用いる(QP-PCR法)。この方法にはプライマー法(図2)とプローブ法の2種類があり、いずれも複製反応1回ごとに蛍光強度を測定し、蛍光強度の変化と反応回数の関係から、もとの試料中に目標の遺伝子が何個あったかを計算する。この方法は、百万個の細菌の中に病原菌が一個だけ混じっていても検出できる鋭敏な感度を有していて、微生物の検出や遺伝子診断など多方面での利用が見込まれている。
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| 図1 QP法の原理 |
図2 QP-PCR(プライマー法)における蛍光消光 |
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● S. Kurata, et al. : Nucleic Acids Res., 29, e34 (2001).
● 特願2000-12009, 特開2001-286300 「核酸の測定方法、それに用いる核酸プローブ及びその方法によって得られるデータを解析する方法」
● 海外特許出願:EP 1 046 717
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| 微結晶シリコン核形成メカニズム |
藤原 裕之
(ふじわら ひろゆき)
 薄膜シリコン系太陽電池開発研究ラボ
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微結晶シリコンは、プラズマを利用した薄膜形成法により安価なステンレスおよびガラス基板上に作製が可能なため、次世代の太陽電池材料として研究が活発になっている。プラズマを用いた成膜法では、シラン(SiH4)/水素(H2)混合ガスを使用することにより低温(50−450℃)で微結晶シリコン薄膜を形成することができる。微結晶シリコン薄膜内には、粒径が100−500Å程度の小さい結晶粒が多数存在し、微結晶の粒界は水素で終端されている。微結晶シリコンの構造上の特徴は、まず基板上に原子がランダムに配向したアモルファス相が成長し、その後、微結晶シリコンの核成長が起こることである(図(a))。より高い光−電気の変換効率を持つ微結晶シリコン太陽電池を作製するためには、この核形成反応を理解し、核形成反応を制御することが重要となる。しかし、微結晶シリコンの成長では、核形成が起こる前に成長するアモルファス層の厚さは非常に薄く(5−500Å)、通常の測定では核形成反応の診断は困難である。そのため、非常に高い感度を持つ赤外分光法を用いてその場観察を行い、原子レベルでの核形成機構を明らかにすることを試みた。
その結果、微結晶シリコンの核形成が起こる時には、通常の成長では観察されない赤外吸収ピーク(波数:1937cm-1)が必ず観測され、特異なシリコン−水素結合がアモルファス表面に形成されることが明らかになった。図(b)に示す様に、この結合はアモルファス層のシリコン−シリコン結合に水素が挿入された時に生成する。理論的な解析から、この特異な結合は、ダングリングボンド(未結合手)を持つSi−H2結合または3結合中心水素であることが示された。これらの結果より、微結晶シリコンの核形成が、アモルファス表面に生成した前駆体の形成により起こることが理解された。さらに、微結晶シリコンの核密度は、薄膜成長時の水素ガス濃度を変化させることにより、2桁以上の範囲で制御できることも見出した。
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| 図 (a)微結晶シリコン薄膜の断面構造と(b)微結晶シリコン核形成時の前駆体生成反応 |
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● H. Fujiwara, M. Kondo, A. Matsuda: Phys. Rev. B 63, 115306 (2001).
● H. Fujiwara, M. Kondo, A. Matsuda: Surf. Sci. 497, 333 (2002).
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| 高効率な熱電特性の起源解明を目指して |
李 哲虎
(り ちょるほ)
 電力エネルギー研究部門
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熱電材料は熱を電気に変換する特性を持ち(図1)、その素子は小型化が可能でメンテナンスも長期間不要である。そのため、プラントや自動車から発生する排熱を利用した発電等、熱電変換は様々な分野への応用が期待される。しかし、現段階では発電される電力に対して素子の価格が高価なため、一般に普及するには至っていない。熱電材料の変換効率を向上させ、経済性を改善する必要がある。
高効率な熱電特性を実現するには、電気伝導率が高く、かつ熱伝導率の低い材料を開発しなければならない。最近、このような相反する性質を合わせ持つ物質として、充填スクッテルダイト1)が注目されている。我々は充填スクッテルダイトにおける高効率な熱電特性の起源を解明することにより、さらなる高性能化に向けた材料の設計指針が得られると考え、研究を進めている。
これまでの我々の研究によって、充填スクッテルダイトではf電子が伝導電子と強く混成している事が明らかとなった2)。この結果は、フェルミ面近傍で大きな状態密度が存在する事を示唆しており、これが高い熱電特性の一因となっていると予想される。我々はさらに、精密な結晶構造の解析も試みた。PrRu4P12の低温での電子線回折実験では最低温度で新たな超格子反射が観測されており(図2)、構造相転移を起こす事が初めて明らかとなった3)。この構造相転移はフェルミ面のネスティングが寄与しているとの議論もあり、特異な電子構造の存在が示唆される。熱電特性とこの特異な電子構造がどのように相関しているのか、解明する必要がある。
スクッテルダイトのさらなる研究には純良で大型な単結晶が必要である。これまではフラックス法により育成されてきたが、Sb等の融剤を必要とするため大型化が困難であり、育成可能な単結晶の組成も限られていた。我々はこの問題を解決するため、キュービックアンビルを用いて3.5GPaの圧力下でCoP3の単結晶育成を試みた(写真)。その結果、高圧下では融剤が不要な調和溶融物質となる事が明らかとなり、上述の問題が解決できるものと期待される。
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図1(左上)熱電発電の原理
図2(下)PrRu4P12の電子線回折像
写真(右上)高圧下で育成したCoP3単結晶
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● 1) 化学式RM4X12 (R = 希土類;M = Fe, Co等;X = P, As, Sb)で表される物質群。これから、希土類が抜けたものをスクッテルダイトと呼ぶ。
● 2) C. H. Lee, H. Oyanagi, C. Sekine, I. Shirotani and M. Ishii: Phys. Rev. B 60, 13253 (1999).
● 3) C. H. Lee, H. Matsuhata, A. Yamamoto, T. Ohta, H. Takazawa, K. Ueno, C. Sekine, I. Shirotani and T. Hirayama : J. Phys., Condens. Matter 13, L45 (2001).
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| 低コストプロセスによる複合材料の作製 |
谷 英治
(たに えいじ)
 基礎素材研究部門
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地球規模で問題になっている省資源、環境負荷の低減に応えるため、エネルギー消費の高効率化が求められている。エネルギープラントをはじめとする各種産業分野における効率向上のために用いられている耐熱金属材料、セラミックス材料は、耐熱性と強度の信頼性で限界にきている。長繊維強化セラミックス基複合材料はこれらの限界を超える材料として期待されているが、セラミックス系繊維および製造プロセスが高価格であるために、実用化が遅れている。
当研究部門では、Si粉末と炭素源のフェノール樹脂をマトリックスに用いた反応焼結法による繊維強化SiC系複合材料の研究を行っている。この反応焼結法は、マトリックスにSiとフェノール樹脂を用いているので、SiとCの比を制御でき、反応も均一であり、繊維とSiの反応も見られない。また繊維を除いた原料も安価であり、製造方法もFRP(繊維強化プラスチック)と同様な方法であり、製造期間も短いという特徴がある。しかし、体積が減少する反応になるので、ポーラスな物しか得られない。一方、Si溶浸法は、Siを系外から溶融含浸し炭素マトリックスと反応させる方法であるが、反応により体積が増加するので、マトリックスに適量の気孔が無いと溶浸の反応が途中で止まる。
そこで、緻密な繊維強化SiC複合材料を得るために、反応焼結法とSi溶浸法を組み合わせた二段反応焼結法を新たに提案した。これは、反応焼結法で生成する気孔を、Si溶浸に利用して緻密な複合材料を得るという方法である。現在、この基本的な反応がうまく連携して生じることが明らかになり、複合材料の設計による強度特性の効果の検討を行っている段階である。
この二段反応焼結法は、原料も安価であり、製造工程も従来のFRPで用いる方法で可能であるので、繊維強化セラミックス複合材料の実用化に対してかなりの可能性がある方法として、産業界からも期待されている。
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図1 二段反応焼結 |
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図2 SiC/SiC複合材の破壊挙動
縦軸:荷重
横軸:歪
σ:曲げ強度
E:弾性率
ε:歪
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● E. Tani, K. Shobu, K. Kishi, E. Maeda and S. Umebayashi : High Temperature Ceramic Matrix Composites, WILEY-VCH, 324-327 (2001).
● 特開2000-313676
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繊維やプラスチックスに適用可能な光触媒 [ PDF:478.4KB ] |
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| 擬似体液を使用しない新規製法を開発 |
垰田 博史
(たおだ ひろし)
 セラミックス研究部門
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光触媒は、太陽光などの光を当てるだけで働き、ほぼ全ての有害化学物質を分解・無害化できるため、環境浄化の切り札として、環境の世紀である21世紀における期待の技術である。例えば、水処理、排ガス処理、大気浄化、シックハウス対策、抗菌抗かび、防汚、防曇など、さまざまな用途に使用できるため、2005年には1兆円の市場が見込まれている。しかし、繊維やプラスチックスに練り込んで使用するとその基材自体を分解してしまうという欠点があった。
そこで、我々はいろいろな用途のある繊維やプラスチックスに光触媒を適用して製品化するため、酸化チタン光触媒粒子の表面を光触媒活性がないセラミックスで部分的に覆ったハイブリッド光触媒粒子を開発した。図1では光触媒活性のないセラミックスとしてアパタイトが使用されている。これを繊維やプラスチックスに練り込んで使用すると、光触媒活性を持たないセラミックスが酸化チタン光触媒と繊維やプラスチックスが接触するのを防ぐため、繊維やプラスチックスの分解を抑えることができる。特に、セラミックスがアパタイトの場合には、アパタイトが菌やかびを吸着するため、光触媒の抗菌抗かび特性が向上する。しかし、これまで表面に部分的にアパタイトを付けた酸化チタン光触媒粒子をつくるためには、擬似体液と呼ばれる人間の体液に近い組成の特殊な溶液に酸化チタン粒子を漬けて40℃程度の温度で一昼夜から10日間保持しなければならず、溶液や温度の管理が面倒であった。今回、従来の擬似体液の代わりに、カルシウムとリン酸を溶解させた溶液を使用し、反応条件を検討した結果、10分程度の短時間でアパタイトを析出させるという画期的な成果が得られた(図2)。
これによって抗菌抗かび・脱臭・空気浄化・シックハウス対策・院内感染防止・防汚など、いろいろな機能を有する繊維製品やプラスチックス製品を製造するために必要なハイブリッド光触媒粒子を省エネルギーかつ低コストで製造することが可能になり、酸化チタン光触媒の実用化や製品化が飛躍的に進展すると期待される。
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図1 酸化チタンの表面にアパタイトを付けた繊維やプラスチックスに使用可能な光触媒 |
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| 図2 表面にアパタイトを付けた酸化チタン光触媒の作成法 |
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● 垰田博史:電気評論, 1996.6, 48 (1999).
● 垰田博史:ケミカルエンジニアリング, 44(12), 39 (1999).
● 垰田博史:太陽エネルギー, 26(2), 13 (2000).
● 秋山司郎, 垰田博史:「光触媒と関連技術」, 日刊工業新聞社 2000年
● 日刊工業新聞, 2002年1月16日
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| 逆行性神経伝達の分子機構の解明に向けて |
戸井 基道
(どい もとみち)
 脳神経情報研究部門
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我々の脳を形成する神経細胞や体の筋肉を動かす運動神経は、シナプスと呼ばれる接合部位を介して細胞間の情報伝達を行い、記憶や学習といった脳の機能や手足の筋肉のスムーズな動きを実現している。このシナプスにおける情報伝達は、神経からの指令(伝達物質放出)が筋肉等の活性を支配する順行性伝達が一般的であり、遺伝子から分子レベルのメカニズムまで詳細な研究がされてきている。一方、筋肉が神経へ向けて信号を放出し神経の活性を制御する逆行性伝達は、その存在が予測されていながらも伝達を制御する遺伝子は全く不明であった。今回我々はモデル生物として線虫を用い、筋肉からの逆行性伝達を制御する遺伝子aex-1を世界に先駆けて明らかにした。
注目したのは、神経から筋への伝達に異常のある線虫で、この線虫では順行性伝達を制御しているタンパク質UNC-13の神経終末における局在が異常になり、その結果神経終末からの伝達物質の放出が減少していた(図中央)。ところがこの線虫の筋肉にaex-1遺伝子を特異的に導入することで、神経終末のUNC-13の局在を正常に回復させる事が出来た(図右)。野生型の線虫でaex-1遺伝子を同定しその発現・機能解析を行うと、aex-1遺伝子は筋肉で発現し、筋肉からのペプチド性の伝達物質放出を制御しているタンパク質(AEX-1)をコードしていることが明らかになった。この結果はAEX-1タンパク質が筋肉から神経に対する逆行性伝達を制御している事を示している。
aex-1遺伝子の相同遺伝子はヒトにも見られ、線虫と同様な逆行性伝達がヒトにも存在すると予想される。ヒトでは筋肉の異常により順行性伝達が異常になる重い病気が既に知られており、今回の遺伝子の解明はこれらの病気の治療法および新薬の開発に大きく貢献できると期待できる。さらに、ヒトの脳を形成する神経間のシナプスにも同様の逆行性伝達が存在する可能性を示唆し、その伝達機構の解明が脳の高次機能を理解するための新たな切り口ともなり得ると考えている。

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図(A) AEX-1による順行性と逆行性シナプス伝達制御の模式図
(B) Aに対応する個体のシナプスにおけるUNC-13タンパク質の局在。正常個体では矢頭で示すシナプスの神経終末にUNC-13の強い局在が観察されるが、aex-1遺伝子欠損体ではそのような強い局在は観察されない。
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● M. Doi and K. Iwasaki : Neuron, 33, 249-259 (2002).
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| 匂いを伝送するテレビも将来可能に |
外池 光雄
(とのいけ みつお)
 ライフエレクトロニクス研究ラボ
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脳の処理では、一般に感覚の「知覚」と「認知」とは、異なった機能として処理されているのではないか、と考えられている。しかし、匂いの「知覚」や「認識」については、人間の脳でどのように処理されているかがこれまで全く解っていなかった。
我々の研究ラボでは、人間の匂いの知覚や認識を生理的・客観的に解明する研究を実施し、非侵襲的な手法によって人間の嗅覚を捕らえる技術開発を行ってきた。特に、人間の種々の脳神経活動を全頭型脳磁計を用いて磁界の変化で計測した結果、神経に生じる匂いの知覚・認識反応が計測できた。
図1は我々が開発した呼吸同期式匂い刺激装置を用いて、披験者に匂いパルスを与えたときの頭皮上に得られた脳磁界応答分布を示しており、匂いの応答を初めて記録することに成功したものである。
さらに、匂いの「認識」機能を明らかにするため、2種類の匂いを用いた実験(匂いのオドボール実験)を行った。この実験では2種類の匂いの一方は、頻繁に与えられ、もう一方の匂いは稀にしか与えられないように、2つの匂いの刺激確率を変えて、ランダムに鼻を刺激する。このとき、被験者は稀に刺激される匂いのみに注目し、その匂いの刺激回数を頭の中で数え、この時の脳磁図応答が計測された。この実験は「匂いの認知」のみに関係する脳磁界応答を初めて検出したもので、図2のように1種類の匂い刺激実験で得られた匂いの知覚応答部位とは異なる部位で、またより遅い応答時間に「匂いの認知」応答があることを示している。すなわち、人間の脳の中では匂いの「知覚」と「認識」が異なった部位で異なった時間に処理されているのである。
脳内の匂いの処理機能が明らかになってくると、脳の処理機構を模倣した人工の匂い検知/処理機械や匂いロボットが誕生し、TVの画像や音声を送る様に何らかの方法によって匂いを伝送するテレビも可能になると考えられ、匂いの応用技術が新たな発展を遂げることが期待される。
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| 図1 頭皮上に得られた匂いの脳磁界応答分布 |
図2 脳内の匂い知覚と認知に関連する部位 |
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● M. Tonoike, M. Yamaguchi, and T. Hamada: Noise reduction on the olfactory neuromagnetic measurements using SSP method, Proc. of the 12th Int. Conf. on Biomagnetism, 288-291 (2000).
● M. Yamaguchi, M. Tonoike, H. Takahashi, I. Kaetsu, R. Seo, and I. Koizuka: Neuromagnetic responses from the cortex with the pleasant/unpleasant olfactory stimulation, Int. Symp. on Life Science and Human Technology -Stress,
● 特許第1636326, 特許第1889980, 特許第1889981, 特許第1915590
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| 原子の流れから見る細胞活動 |
有田 正規
(ありた まさのり)
 生命情報科学研究センター
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代謝の電子化に取り組んで数年経つが、その複雑さに頭を痛め続けている。代謝は細胞内における小分子の合成と分解だが、細胞の活動全てに関与している。たとえばアミノ酸と呼ばれる20種の小分子の鎖がタンパク質になるし、塩基と呼ばれる4種の小分子の鎖がDNAを構成する。こうして細胞の構造は全て小分子に還元できる。ちなみに大腸菌はデンプンとアンモニアだけで増殖する。ということは、タンパク質やDNAを構成する全原子がデンプンとアンモニアだけに由来するはずである。当面の研究目標は、デンプンやアンモニアがDNAやアミノ酸になるまでの全過程を原子のレベルで電子化し、それを自由に検索できるツールを提供することである。
電子化は、1.代謝物質のデータベース作り、2.酵素反応のデータベース作り、3.代謝経路のデータベース作り、という3ステップからなる。化学の分野では物質構造のデータベース化が昔から進められてきたが、不思議なことに生化学では同様の規格化が進んでこなかった。その結果、代謝物質は同じ構造でも異なる名前がついている。酵素反応の表記にも、自然言語で書かれたものが多く存在する。よく知られているL−アミノ酸のLという表記でさえ慣用表現にすぎず、論理的に正しい定義に基づいていない。こういった事実は全てデータベース化を阻む要因となる。しかし、ターゲットをバクテリア(具体的には大腸菌と枯草菌)に絞り、現実に即して酵素反応を記述することで、この曖昧さが取り除かれつつある。
こうして作成したデータを可視化するツールも作成している。これにより代謝物質の異称だけでなく質量や組成に基づいた検索が可能となった。また酵素反応も、物質の変化の様子を視覚的に捉えられる。現在、大腸菌内に存在する(とされる)全酵素反応の同定と、反応における「アルコール」といった曖昧名称の具体的記述に力を注いでいる。この作業が完成すれば、大腸菌の遺伝子を改変した際の成長予測などを論理的に行うことができるだろう。
(本研究テーマは科学技術振興事業団若手個人研究推進事業「さきがけ研究21」によって支援されています。)
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図1(上)代謝物質の検索ツール 細胞内物質の質量分析用に作成されており、異称、組成、質量による検索が可能
図2(右)酵素反応の検索ツール 酵素反応に関与する基質やコファクターによる検索が可能
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● 有田正規:"代謝系の再構築",「ゲノム情報生物学」高木利久, 冨田勝(編)第4章, 中山書店, 148-164 (2000).
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| 再生医療のビジネス化に道を拓く |
大串 始
(おおぐし はじめ)
 ティッシュエンジニアリング研究センター
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再生医療あるいは組織工学(ティッシュエンジニアリング)といった分野が注目を集めている。再生医療とは機能を失った、あるいは機能不全におちいった臓器を再生する医療と考えられ、ティッシュエンジニアリングとはこの臓器を再生するための技術と捉えることが出来る。これらの目的には細胞を用いる事が多く、臓器移植をしなくてもよいという利点を有する。
すでに、欧米では細胞を用いて皮膚や軟骨を再生するビジネスが存在している。その他の臓器や組織の再生を考えた場合、21世紀半ばには国内で5兆円の市場になるのではないかと推定されている。このような状況のなか、我々は間葉系幹細胞とよばれる、種々の臓器への分化能力を持った細胞を用いて、骨再生を種々の生体材料上で行っている1,2)。この度、実際に患者由来の間葉系細胞を用いて骨関節疾患治療に応用することに成功した。具体的には病院で採取された骨髄をティッシュエンジニアリング研究センターに搬送し、センターにあるcell processing center(CPC)で骨髄に含まれる間葉系幹細胞を増殖させる。次に、この幹細胞を人工関節のような基盤の上で骨を形成する骨芽細胞へ分化させる。さらに、この培養骨芽細胞による骨形成も基盤の上で行った。すなわち、培養による再生培養骨を含む医用デバイスを作製し、このデバイスを再度病院へ搬送し患者に移植したのである。
このように、離れた場所(奈良県立医大附属病院)で採取された細胞を用いて当研究センターで骨臓器に再生させ、さらにこの骨臓器を含む医用デバイスを用いての手術療法に初めて成功したことは、これらのプロセス(図)が間葉系幹細胞を用いたあらたな医療技術開発へ繋がり、ひいては再生医療産業の新規ビジネスモデルへ繋がる可能性を示唆している。
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| 図 ティッシュエンジニアリング研究センターと病院連携による再生培養骨作製 |
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● 1) AIST Today Vol.1, No.6, p20 (2001).
● 2) H. Ohgushi, "Bioceramics and Tissue Engineering", McGraw-Hill Yearbook of Science & Technology(The McGraw-Hill Co., New York), 24-27 (2002).
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