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AIST Today VOL.2 No.3

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AIST Today / National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
 表紙 (PDF:315.1KB)
 目次
 メッセージ (PDF:106.9KB)
産業技術総合研究所への期待
株式会社クボタ顧問 飯塚 幸三 
 トピックス (PDF:479.9KB)
強相関エレクトロニクスの若きリーダー十倉さんに聞く
 最新情報
単分子層窒化シリコン膜の形成に成功 次世代半導体研究センター、JRCAT
世界初の六価パラジウム錯体 グリーンプロセス研究ラボ
ホモロジーを用いた遺伝子構造予測 生命情報科学研究センター
膜タンパク質のループ構造の解析 生命情報科学研究センター
嗅覚のニオイ識別の基本原理 ライフエレクトロニクス研究ラボ
歩行動作の計算機シミュレーション 人間福祉医工学研究部門
自律適応型LSI(進化型チップ)の開発 次世代半導体研究センター
高収率のフェノール合成に成功 物質プロセス研究部門
環境に優しく布を漂白 グリーンプロセス研究ラボ
アパタイト被覆二酸化チタン光触媒 セラミックス研究部門
底質中有害金属元素の精確な分析 計測標準研究部門
ユーザーの位置に基づく情報支援システム サイバーアシスト研究センター
 特集 (PDF:480.4KB)
(PDF:983.2KB)
(PDF:1.0MB)
地質・海洋分野の課題と産総研の取り組み
 コラム (PDF:496.7KB)
地質標本館所蔵標本の利用について
 テクノ・インフラ (PDF:232.2KB)
・湿度標準の整備と標準供給の現状
・「インターネット時代の地質図標準」シンポジウム
・岩石コアのAE測定方法の標準化研究
 パテント 光技術研究部門
技術移転いたします!
・超短電気パルス発生とその検出技術
・超短パルス光発生レーザ用ミラー
 産学官連携 (PDF:695.6KB)
(PDF:716.4KB)
・新たなベンチャー支援を目指して
・産業の活性化と発展を目指して
   〜東北産学官連携センター〜
・ボリュームグラフィックス連携研究体
 産総研ベンチャー (PDF:276.8KB)
SDBS - NMRと「エヌエムアールデービテック社」
 AIST NETWORK (PDF:330.4KB)
・韓国地質資源研究院との研究協力協定を締結
・ノルウェー王国通商産業省 Oluf Ulseth 政務次官来訪
・九州センター研究講演会
・若田光一宇宙飛行士と産総研研究者の研究交流会
・つくば奨励賞受賞
・地質標本館・くらしとJISセンター特別展
 カレンダー

単分子層窒化シリコン膜の形成に成功

−次世代ゲート絶縁膜技術への応用が期待−
森田 行則の写真
もりた ゆきのり
森田 行則
森田連絡先
次世代半導体研究センター,JRCAT

 近年のULSIの集積度の向上から考えて、2010年頃にはゲート絶縁膜はシリコン酸化膜厚換算で0.7nm程度の厚さのものが必要になると考えられている。このような状況では、現在用いられているシリコン酸化膜では、電子のトンネル効果により絶縁膜を通り抜けて電流が流れてしまい、絶縁膜としての効果は期待できなくなる。その対策として考えられているのが、シリコン酸化膜よりも誘電率の大きい金属酸化膜をゲート絶縁膜として使用することである。しかし、そのままでは金属酸化膜とシリコンとの界面反応が生じ絶縁膜全体の誘電率が低下するという問題があった。

 窒化シリコン薄膜はこの問題を解決する材料として期待されている。すなわち、金属酸化膜とシリコンとの間にごく薄い窒化シリコン膜を挿入し、界面反応を抑制するのである。この場合、できるだけ薄く、均一な膜を界面に挿入するのがポイントであるが、従来の製膜技術では不均一なアモルファスの窒化シリコン膜しか得られなかった。そのため、膜を薄くするほどその不均一性が顕著となり、界面反応を抑制する効果が得られなくなる恐れがあった。

 窒化シリコン膜がアモルファス構造となる原因は、シリコンと窒素の結合距離が短いため、表面で窒素吸着による均一な周期的構造を形成した場合、下地のシリコンの結晶格子が著しく歪んでしまうためである。

 今回我々は、新たにN2/H2ガスを用いた直接熱窒化プロセスを開発し、Si(001)表面上に2×2周期構造を持った単分子層窒化シリコン膜を形成することに初めて成功した。これは、歪みが少なくなるように窒素を表面に均一に吸着させ、それに伴い発生したシリコンの未結合手を水素の吸着で安定化することで、周期構造の形成と表面歪みの低減、および表面の安定化を同時に達成するものである。

 この手法により界面反応を抑制する単分子膜を形成できた。この手法は原子レベルでの半導体製造技術の一つとして極めて有効と思われる。

写真1 図1
写真 単分子層窒化したSi(001)表面の超高真空走査トンネル顕微鏡像(10×10nm)
白枠は2×2構造に相当する単位構造。
図 Si(001)-2×2:N表面の構造モデル
2×2の単位構造を赤線で記入してある。
■関連情報
  • JRCAT: アトムテクノロジー研究体
  • Y. Morita, T. Ishida and H.Tokumoto: Extended abstracts of the 2001 international conference on solid state devices and materials, 230-231 (2001).
  • 化学工業日報 2001.12.21.
  • 日刊工業新聞 2001.12.24.
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世界初の六価パラジウム錯体

−パラジウム触媒の新たな可能性の発見−
島田 茂の写真
しまだ しげる
島田 茂
島田連絡先
グリーンプロセス研究ラボ

 パラジウムは、有機化合物の合成や自動車の排気ガスの浄化などの触媒として大変重要である。今回、我々は世界で初めて六価パラジウム錯体の合成に成功し、その構造を明らかにした1)

 パラジウムは200年ほど前に発見された元素で白金の仲間の貴金属である。触媒として重要なことから多くの研究がなされてきた。パラジウムは酸化されにくく、低酸化状態(0価や二価)を取ることが広く知られている。これまで最高の酸化状態は四価と考えられていた。元素の酸化状態は、化学反応を理解したり、新しい触媒や反応を設計したりする上で大変重要である。

 我々は、次世代の電子材料、光機能材料、耐熱性材料などとして期待されているケイ素系高分子材料の新たな合成法開拓のため、パラジウムなどの遷移金属触媒を利用した触媒反応を検討していた。その研究途上で、ケイ素がニッケル、パラジウムおよび白金と結合すると三価や四価といった高酸化状態を形成することを見つけていた2)

 ケイ素化合物の触媒反応では高酸化状態の触媒が重要な役割を果たすものと考え、従来未知の高酸化状態を探索していたところ、図1に示す反応により六価パラジウム錯体が安定な化合物として生成することを見つけた。X線構造解析により中心のパラジウム原子が六価であることを明らかにした(図2)。

 今回の成果は、実用的な触媒反応の探索途上で見つけた知見が基となった大変基礎的な発見である。実用的な触媒の開発に必ずしも直結するものではないが、パラジウムの新しい酸化状態の発見は、パラジウムの触媒としての可能性を広げるものであり、革新的な触媒の開発へ繋がることを期待している。触媒技術は、環境にやさしい化学プロセスを達成するための鍵となる技術であり、今後はさらに実用的な触媒開発へと研究を進めていきたい。

図1 図2
図1 六価パラジウム錯体の合成
三分子のPd(II)化合物が反応して中心にPd(VI)を持つ新しい化合物が生成
図2 六価パラジウム錯体の構造
中心のパラジウム原子(青色)に6つのケイ素原子(赤色)が結合している
■関連情報
  1. W. Chen, S. Shimada, M. Tanaka, Science, 295, 308 (2002). R. H. Crabtree, Science, 295, 288 (2002).
  2. S. Shimada, M. L. N. Rao, T. Hayashi, M. Tanaka, Angew. Chem. Int. Ed. 40, 213 (2001); S. Shimada, M. L. N. Rao, M. Tanaka, Organometallics, 18, 291 (1999).
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ホモロジーを用いた遺伝子構造予測

−その薬物代謝酵素遺伝子への応用−
後藤 修の写真
ごとう おさむ
後藤 修
後藤連絡先
生命情報科学研究センター

 ヒトをはじめとする5種の真核生物全ゲノム配列の概要がすでに公開され、解読されるゲノムは今後ますます増えるものと予想される。生命の設計図であるゲノム配列を読み解き、有用な情報を得るための第一歩は、そこに含まれる遺伝子を同定することである。しかし、真核生物の遺伝子では、タンパク質をコードする領域(翻訳領域−エキソン)とそれ以外の領域(イントロンや5′、3′非翻訳領域)とが混在しており、計算機を用いてその正確な内部構造を推定することは容易でない。この問題は遺伝子発見問題とよばれ、この10年ほどの間に大きく進展した。通常、翻訳領域における3〜6塩基出現頻度の偏りや、エキソン・イントロン境界近辺の配列の特徴を統計的に処理し、翻訳領域らしさを判断する手法が採られている。しかし、この方針による予測精度には限界がある。

 予測精度を高め、産物であるタンパク質の立体構造や機能をより正確に推測するために、我々は既知のアミノ酸配列とのホモロジーを積極的に利用する方法を開発した1)。この方法では、未知の遺伝子を含むゲノム配列を仮想的に翻訳して参照配列との対応関係を求め、対応関係が得られる領域を翻訳領域とみなす。このとき、配列の類似性とともに、上に述べた統計情報も同時に考慮する(図1)。参照配列と50%以上アミノ酸が一致すれば、96%以上の精度で翻訳領域に含まれる塩基を予測できることが確かめられた。

 ほとんどの動植物では、外来性の有毒な化学物質を代謝して除去する機能を、チトクロームP450を中心とする薬物代謝酵素が担う。これらの酵素の遺伝子多型が、薬物や発がん物質に対する感受性の個人差に深く関与している。我々の開発した方法を用いて、ゲノム配列が解読された生物種のすべての薬物代謝酵素遺伝子を見出す試みを始めている。ヒト(図2)、ショウジョウバエ、線虫2)では、それぞれ60〜80の、シロイヌナズナでは250以上のP450遺伝子をすでに同定している。各酵素の基質、産物、遺伝子多型などの情報を含む総合的データベースの構築を現在進めている。

図1 図2
図1 遺伝子構造予測に用いる各種の情報 図2 ヒトチトクロームP450の系統樹
■関連情報
  1. O. Gotoh: Bioinformatics 16, 3, 190 -202 (2000).
  2. O. Gotoh: Mol. Biol. Evol. 15, 11, 1447-1459 (1998).
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膜タンパク質のループ構造の解析

−計算機的手法による埋没型ループの同定−
広川 貴次の写真
ひろかわ たかつぐ
広川 貴次
広川連絡先
生命情報科学研究センター

 膜タンパク質の立体構造は、一般に膜貫通領域とそれを繋ぐループ領域に分けられる。しかし、2000年に藤吉らの研究グループによって構造決定された水チャネルのアクアポーリン1)では、膜貫通領域に埋没されたようなループ構造が原子レベルで確認され、その埋没型ループ構造が水チャネルの機能に深く関係していることが解った。計算機によるタンパク質立体構造予測の確立は、立体構造データの少ない膜タンパク質において特に急務とされるが、残念ながらアクアポーリンに存在するような埋没型ループ構造をアミノ酸配列から予測することは、未だ解決されていない。私達は、計算機的手法による生命情報科学研究2)の一つとして膜タンパク質を対象3)としており、この埋没型ループ構造をアミノ酸配列から予測する手法の研究にも取り組んでいる。概略を以下に紹介する。

 まず、ループ構造の埋没度を定量的に評価するために、構造既知の膜タンパク質を用いて目的とするループ構造とその周辺の膜貫通領域との接触度合を示すBuried Loop Profile(BLP)を作成し、他のパラメータとの相関を調べた。BLPとループ構造のアミノ酸配列数との比較では、14残基以下および38残基以上では、BLPは低く、埋没する可能性は低いことが解かった。これは、前者は埋没するためには長さが十分でなく、一方で後者のようにある程度の長さに達すると膜外で水溶性ドメインを形成し始めるのではないかと考察している(図1)。単純な寄与かもしれないが、この知見より埋没型ループ予測は、具体的に15〜37残基内のループ構造に焦点を絞ることができた。続いて、15〜37残基間の候補については、その領域の平均疎水性と両親媒性の強さをパラメータとして重判別分析を行うことで、露出型と埋没型を分類することができた(図2)。

 現在、上記の手法に基づいたアミノ酸配列から膜タンパク質に存在する埋没型ループ構造予測システムをWeb上に構築準備中である。埋没型ループ構造は、物質のチャネルに関与していることが多いため、このシステムを用いてゲノム配列上でのチャネル型膜タンパク質のスクリーニングに応用できると考えている。

図1 図2
図1 膜タンパク質におけるループ構造の分類
図2 重判別分析による埋没型、露出型ループ構造および膜貫通ドメインの分類
■関連情報
  1. K. Murata, K. Mitsuoka, T. Hirai, T. Walz, P. Agre, J.B. Heymann, A. Engel and Y. Fujiyoshi.: Nature 407, 599-605 (2000).
  2. 秋山 泰: 生命情報科学と大規模PCクラスター, AIST Today p.15 (2001.11).
  3. 諏訪牧子: GPCRの網羅的発見と解析, AIST Today p.8 (2001.10).
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嗅覚のニオイ識別の基本原理

−嗅覚機能模倣型ニオイセンサ設計に向けて−
佐藤 孝明の写真
さとう たかあき
佐藤 孝明
佐藤連絡先
ライフエレクトロニクス研究ラボ

 私達がニオイを区別する仕組みはどのようになっているのだろうか。その仕組みが少しずつ分かってきた。

 視覚の場合、対象の色を赤緑青の3原色の成分強度に分解して検出することで様々な色を区別することができている。カラーテレビは、その逆に赤緑青を適当な強さで混合して様々な色を再現している。つまり、視覚で色を区別して検出するために使われている3原色が、視覚情報を再生する基本成分色としても利用されているのである。もし、嗅覚でニオイを区別するために使われている基本成分の特性が分かれば、ニオイを自由に再生する装置の開発も夢ではないかもしれない。しかし、その数は視覚のように3種類ではなく、ネズミでは約千種、ヒトでは347種と視覚の100倍以上もあると報告されている。ここでは、その内の13種類の基本成分を決めている嗅覚レセプタのニオイ分子応答特性を調べ(図)、嗅覚でニオイが区別できる共通原理を明らかにしてきたので紹介する。

 私達がニオイを感じる対象は、空気中に存在する分子状の化学物質である。これまで、嗅覚の検出器である嗅細胞は、分子構造の違いに基づいてニオイ分子(ニオイを呈する分子)を区別し、炭素数1個分の長さの違いさえも識別し得ることが明らかになっていたが、それがどのタイプの嗅覚レセプタの特性なのかを示すことはできなかった。そこで、応答性を調べた嗅細胞の遺伝子を解析して嗅覚レセプタを同定し、ニオイ応答との対応付けによって嗅覚のニオイ識別の分子的基礎の解明に成功した(図)。まず、各々の嗅覚レセプタは分子構造に共通性がある複数種のニオイ分子に応答する。そして、各々のニオイ分子種は複数種の嗅覚レセプタに応答を引き起こす。さらに重要なことは、ニオイ分子種が異なれば応答する嗅覚レセプタの組合せはオーバーラップを持ちながらも異なっていることである。つまり、応答する嗅覚レセプタの組合せを知ることによって、刺激種を知ることができるのである。これは、嗅覚では数百種の嗅覚レセプタの組合せに基づいてニオイを区別していることを示している。しかしながら、図に示されたのはごく一部の嗅覚レセプタの応答性だけであり、右側に記されたニオイの質がどのような組合せに対応するのか十分に説明することができない。現在、この点を明らかにするため、さらに研究を進めているところである。

図
図 13種の嗅覚レセプタのニオイ分子応答特性とアミノ酸配列の同一性比較
a:未テスト、b:10µMでテスト&100µMで未テスト
c:10µMと1µMで未テスト、d:1µMで未テスト
■関連情報
  • Malnic,B., Hirono,J., Sato,T. and Buck,L., Cell 96, 713-723 (1999).
  • 浜名, 廣野, 佐藤, 第24回分子生物学会年会予稿集, p.813 (2001).
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歩行動作の計算機シミュレーション

−リハビリテーションへの応用を目指して−
長谷 和徳の写真
はせ かずのり
長谷 和徳
長谷連絡先
人間福祉医工学研究部門

 医療福祉に関連する歩行動作や身体動作の研究では、実際の患者の動作を計測して、その動きを定量評価するという実験的なアプローチが一般的である。以前、我々も障害者の歩行動作を計測し、その力学分析を行った経験がある。しかし、そのときは「障害者と健常者では歩き方が異なる」という至極当然とも言える結論しか導けなかった。つまり、「歩行障害をどのようにしたら解決できるか」との問題に対する答えを見出すことは難しかった。

 今、我々はその答えを求めるため、シミュレーションによってヒトの動きをコンピュータの中で再現する研究を通信総合研究所・画像グループなどと共同で進めている。その例として、義足歩行についてシミュレーションした結果を図1に示す。図1の線分はモデル化した筋を表し、その色は発生した筋力に比例して白から赤に変化している。図2は発生した動作パターンを表しており、破線で示した左足が義足という想定になっている。この歩行パターンの結果は実際の運動計測データを一切使わずに得られたものである。つまり、筋骨格系と神経系の運動力学的特性を全て数式に表し、それを数値的に解くことでこのような動きを作り出している。

 こうした運動の合成を進めることによって、ただ単に計測・分析するだけでは気付かなかったこと、つまり歩行運動を作り出すのに何が大事であるかということが分かるようになってきた。この義足歩行シミュレーションでは、より効率の良い歩き方を求めて、義足の設計パラメータが自動的に変更できるようにもなっている。その結果、踵(かかと)部分を小さく柔らかくすると効率のよい歩き方ができるということが分かった。この結果は義肢装具士が経験的に決めている処方結果とも一致する。つまりシミュレーション結果によって、単に「良いか悪いか」という評価だけでなく、「どうすればよいか」という診断支援もできる可能性がある。

図1 図2
図1 義足歩行モデル 図2 生成した義足歩行パターン
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自律適応型LSI(進化型チップ)の開発

−多機能筋電義手の制御回路に応用し、その効果を実証−
梶谷 勇の写真
かじたに いさむ
梶谷 勇
梶谷連絡先
次世代半導体研究センター

 従来のハードウェアは、そのハードウェア構成が固定的であるため、動作仕様が(1)設計時点で決定できる、(2)設計した後で変化しない、場合に応用可能であった。しかしながら、実世界における様々な応用を考えると、動作仕様が(1’)設計時点で決定できない、(2’)設計後に変化する、ために従来のハードウェアを適用できない場合がある。

 開発中の自律適応型LSIは、その自律的な適応能力により、上記(1’)(2’)の場合でも適用可能である。つまり、生物の進化に発想を得た遺伝的アルゴリズムと呼ばれる探索、最適化手法によって、再構成可能ハードウェアの回路構成を適応的に変更し、動作仕様を満たすことができるのである。我々は、この自律適応型LSIを「進化型チップ」と呼んでいる(写真1)。

 この進化型チップの効果を確認し、より広く応用するための改良点を見つけるために、多機能筋電義手の制御回路に応用する研究を行っている。筋電義手とは、切断者が断端部に残った筋肉を動かしたときに発生する活動電位(筋電)を用いて操作する義手であるが、既存の筋電義手は基本的に一つの機能(例えば、手先の開閉)しか筋電によって操作できないため、多機能化が強く望まれている。

 この多機能筋電義手の実現のために、我々は、論理回路による筋電パターンの識別により、義手の動作を決定する方式を用いている。そこでは、筋電の個人差などのために、識別回路の設計に必要な動作仕様をあらかじめ決定できず、さらに経時的に変化する場合もある。つまり、上記(1’)(2’)の条件を満たしているために従来のハードウェアを適用できず、進化型チップの効果を確認するのに最適である。

 この進化型チップによるパターン識別能力を評価するために、各指を独立に動作可能な多機能ロボットハンドを開発し、臨床評価を行っている(写真2)。その結果、進化型チップによる筋電パターン識別により、前腕部の6つの機能(手先の開/閉、手首の屈/伸、前腕の回内/外)の操作が可能であることを実証した。さらに、入力信号の量子化と符号化の工夫によって、パターン識別精度を改善した。

写真1 写真2
写真1 進化型チップのマスク写真
写真2 多指・多機能ロボットハンドの臨床評価
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高収率のフェノール合成に成功

−パラジウム膜反応器を用いるフェノールの直接合成 −
丹羽 修一の写真
にわ しゅういち
丹羽 修一
丹羽連絡先
物質プロセス研究部門

 有機化学工業の中間体として有用なフェノールは現在主としてクメン法で製造されている。しかし、クメン法は多段でエネルギー多消費なため経済的で環境に優しい製造技術の開発が待望されている。我々は、Pd膜を透過する解離水素を利用して酸素を活性化し、ベンゼンを直接酸化するフェノール合成法を考え、実証研究を行った1)。酸素と水素を用いる芳香環の直接酸化は、多元系触媒と溶媒を必要とし、収率は極めて低いうえに、同時混合に伴う爆発の危険性が高い。本研究での膜反応器(図1)は基本的に水素と酸素が独立しており、解離した水素は触媒表面上でのみ酸素と接するため、混合気体とはならず、気相反応ではあるが比較的高い基質濃度においても爆発の危険性が低い。

 長さ約30cmのアルミナ管の中央部分(長さ約10cm)に、膜厚約1µmのPd薄膜をCVD法2)によりコーティングし、それをステンレス管との二重管方式とした(図1)。ヘリウムガスで飽和蒸気圧のベンゼンを反応管に供給した。分析はオンラインガスクロマトグラフによった。

 反応温度200℃,Benzene/O2/He;0.4/3.8/25, H2/He; 5.6/20 の流通条件では反応は10時間以上安定に進行し、最高点ではベンゼン転化率15%以上で、フェノール収率が14%に達していることが分かる(図2)。基質がトルエンではさらに高い転化率で酸化反応が進行し、トルエン転化率34%、酸化生成物のクレゾール選択率は80%であり、副生成物として、1%以下と少量の多価アルコールとメチル基の酸化した生成物が認められた。クレゾール異性体の分布(o,m,p=3.2:1.0:5.1)からオルト体が選択的に生成している理由はメチル基の立体障害と推測され、これは反応がPd表面で生じていることを示唆していると言える。また、芳香核の酸化がメチル基の酸化に優先して生じることも興味深い。

 膜反応器の研究はやっと始まったばかりで、新規な化学プロセスへの展開には洋々としたものがある。幸運にも先鞭を付ける研究が出来たことは、共に実験をした研究者諸氏のおかげと感謝している。

図1 図2
図1 パラジウム膜反応器と、それを用いるフェノールの直接合成概念図
図2 パラジウム膜反応器を用いるフェノールの直接合成
(反応温度200度)
■関連情報
  1. S.Niwa, et al., Science. 295, 105-107 (2002).
  2. 特開平7-136477号(1993).; 特開平11-300182号 (1998).
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環境に優しく布を漂白

−ハロゲンフリー・レーザー漂白−
大内 秋比古の写真
おおうち あきひこ
大内 秋比古
大内連絡先
グリーンプロセス研究ラボ

 我々の身の回りにある様々な色の衣服は、真っ白な生地を染めることにより鮮やかな色となっている。通常、織り上がったばかりの生地は薄茶色をしているので、幾つかの工程で脱色を行い最後に漂白を行い真っ白にする。漂白は多くの場合に塩素系漂白剤を用いた95℃程度の長時間処理により行われているが、この方法ではAOX(吸着性有機ハロゲン)と総称される塩素を含む環境負荷物質が副生することが報告されているので、非塩素系薬剤を用いる効率良い漂白法の確立が望まれている。

 我々は(株)山東鐵工所への技術指導において、室温における紫外線レーザー照射と水素化ホウ素ナトリウム水溶液の組み合わせにより綿布の漂白が可能であることを見出し、その後の改良により従来法と同等以上の漂白効果を得ることが出来た。この方法は水素化ホウ素ナトリウム水溶液を含浸させた綿布に室温でエキシマレーザー照射を行うだけの簡単なものであるが(写真)、着色物質に含まれる共役π電子系への光化学的水素移動と考えられる反応を利用した従来法とは異なる新たな方法論に基づいた漂白法である。

 レーザー照射実験により、室温での1分間の照射で従来法による漂白と同等以上の漂白効果が得られた(図)。レーザー発振周波数やパルスエネルギーを変えることにより処理時間の短縮も可能である。また、レーザー漂白した綿布の色の戻りも小さいことも判った。現在の所、レーザーのエネルギー消費量は従来法の1.5倍程度であるが、低圧水銀灯等を用いた照射法の最適化によりエネルギー消費量も従来法と同等以下にできると考えられる。この漂白法は綿布だけではなく、各種繊維やパルプ等の天然高分子材料の漂白技術としても広く用いることが可能である。

 ホウ素化合物には多少の毒性が有ることが報告されているが、海水中にはかなりの量が含まれており、通常は毒性の高いAOXに比べるとその毒性は非常に小さい。現在、さらに環境負荷を低減するために新たな漂白剤の探索と、反応機構の解明を行っている。

写真1 図1
写真 レーザー処理実験 図 レーザー処理時間と白色度、黄色度の変化
■関連情報
  • A. Ouchi, T. Obata, H. Sakai, M. Sakuragi, Green Chem., 3, 5, 221-223 (2001).
  • 大内, 染色工業, 49, 2, 58-68 (2001).
  • 特開平11-43861, 43862.
  • 日刊工業新聞, 2001年12月19日.
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アパタイト被覆二酸化チタン光触媒

−空気浄化や抗菌・抗カビ、防汚塗料として応用−
野浪 亨の写真
のなみ とおる
野浪 亨
野浪連絡先
セラミックス研究部門

 二酸化チタンの表面をアパタイトで覆った多機能性複合材料を開発した。この複合材料は、次の特徴がある。(1)光が当たらなくてもアパタイトが物質を吸着する。(2)光が当たるとアパタイトが吸着した物質を二酸化チタン光触媒が分解する。(3)アパタイトがスペーサーとなるため樹脂や有機塗料など有機系の材料にも混合できる。(4)光触媒は、有機物を分解するのに一定の時間が必要であるが、アパタイトで物質を捕らえるので確実に分解することができる。

 この複合材料を搭載した人工観葉植物((株)GBS製;空気清浄樹)の応用においては、独自に環境改善システムを設定して効率的に環境浄化を行っている。室内空気環境の測定や換気扇などの機能チェック等の環境測定を行い、処理空気量を算定し人工観葉植物の必要表面積などを設計し人工観葉植物を設置する。数週間後に再度効果測定を実施し、環境改善結果を確認する(図)。

 丸武産業(株)と共同で開発したアパタイトを被覆した二酸化チタンの塗料は透明感、耐久性に優れている(商品名;アパテック)。この塗料は、常温・2時間程度で乾燥し固着する(食品衛生法に準じた安全性試験である器具および容器包装規格試験に適合)。

 ポリスチレン容器に、餅やパンを入れ、蓋をして室温で放置すると、塗布していない容器では2日程度でカビが生えるが、アパテックを塗布したものでは1週間経過してもカビは生えない。この実験は室内に放置して行っており光は照射していないが、アパタイトの吸着作用により光を照射しなくても細菌等の繁殖を防ぐことができる。

 建材等への応用では、従来の二酸化チタン単体を使用した塗料では下地を保護するため、無機系塗料の下塗りを行う必要があり工程に2日間以上を要するが、アパテックは直接塗布できるので、半日で施工が済んでしまう。二酸化チタン単体の塗料とアパテックを塗布した場合を比較すると、明らかに後者の方が防汚効果は高い。ガードレールや看板、自動車等のボディへも塗布しても効果が得られる(写真)。

図1 写真1
写真 アルミパネルへの塗布による防汚効果の比較(屋外80日暴露)
二酸化チタン単体の塗料(A社製)に比べてアパテックを塗布した部分はほとんど汚れが生じない。
図 人工観用植物による環境改善事例
病院に於ける人工観用植物設置前後のアセトアルデヒド濃度の実測データ。アセトアルデヒドの濃度は設置後すぐに減少し、30日経過後では臭気強度0になった。
 
■関連情報
  • T.Nonami,et.al ,Material Reserch Bulletin, 33, 125-131 (1998).
  • T.Nonami,et.al, Materials Research Society Symposium Proceedings, 549,147-152 (1999).
  • 野浪 亨, FCレポート, 18, 5, 102-106 (2000).
  • 野浪 亨, バウンダリー, 17, 11, 26-35 (2001).
  • T.Nonami,J.Makino,S.Ohara,S.Kato,H.Hase,Materials Research Society Symposium Proceedings, Advances in Environmental Materials, 203-208 (2001).
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底質中有害金属元素の精確な分析

−底質中有害金属測定用標準物質の開発に向けて−
稲垣 和三の写真
いながき かずみ
稲垣 和三
稲垣連絡先
計測標準研究部門

 同位体希釈質量分析法(ID-MS)は、天然同位体組成を持つ試料に、濃縮安定同位体(スパイク)を添加し、同位体平衡が達成された後、スパイク添加前後の試料中同位体組成の変化から試料中元素濃度を定量する手法であり、信頼性の高い一次標準分析法として位置づけられている。無機元素分析においては、同位体比測定法として、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)がよく用いられている。ID-ICP-MSでは、同位体比測定の精確さが定量値の正確さに最も影響を及ぼすが、底質中有害金属の同位体比測定は、目的元素濃度が10-6〜10-4 g・g-1と非常に低濃度であること、底質は構成成分が複雑かつ多岐に及ぶため、共存成分からの影響(同重体干渉など)が大きいことから、正確な測定が非常に困難である。一例をあげると、Cdには8つの同位体があるが、底質中Cdはすべての同位体が同重体干渉(たとえばSn+, ZrO+)を受けるため、精確な同位体比測定を行うためには干渉成分の分離が不可欠である。また、精確な分析値を得るためには、できるだけ誤差要因の少ない分離操作が望ましい。

 そこで我々は、底質中主成分(Fe,Al)に着目し、主成分を共沈担体として利用する干渉成分の除去方法を考案した。アンモニア共存下のアルカリ性では、Fe, Alは水酸化物コロイドになり、干渉成分を伴って沈殿する(共沈作用)。一方のCdはアンモニアと錯形成するため溶液中に残存し、干渉成分から良好に分離される。この方法は、簡便な操作である上に、特別な試薬も必要がないため、汚染等の分離操作による分析値の誤差要因を低く抑えることができる。これまでに、本法を化学分析における分析値の国際的整合性確認のために行われている国際比較(CCQM-K13 底質中カドミウムおよび鉛の分析)に応用し、各国計量研究所の値と比較しても優れた結果が得られている。また、Cd以外(Cu, Zn, Ni, Ag)の元素についても応用可能であることを明らかにしており、本法を応用して計量標準センター(NMIJ)で供給する有害金属測定用底質標準物質の認証値決定を行っている。

図1
図 底質中有害金属の分析操作概略と共沈分離操作の例
(質量スペクトル 黒: 試料溶液、赤: 天然のカドミウム同位体組成)
■関連情報
  • K. Inagaki et al. : J. Anal. Atom. Spectrom., 16, 1370-1374 (2001).
  • K. Inagaki et al. : Anal. Sci. suppl (2001).
  • 稲垣 他: 分析化学, 50, 829-835 (2001).
  • ICAS 2001-3rd International Congress on Analytical Sciences JAASポスター賞 受賞.
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ユーザーの位置に基づく情報支援システム

−「いま、ここで、私が」欲しい情報を簡単に入手!−
西村 拓一の写真
にしむら たくいち
西村 拓一
西村連絡先
サイバーアシスト研究センター

 サイバーアシスト研究センターでは、ユーザーの嗜好や状態を把握することで、簡単な操作で適切な情報が得られる情報端末「マイボタン」の開発を進めている。

 例えば、道路の向かい側に見える靴屋の閉店時間を知りたいとき、現在のGPS付の携帯電話を用いても、近くの靴屋の検索、向かいの靴屋の特定、ホームページ中の閉店時間の確認を行う必要がある。初めて携帯を手にした人にとって、このボタン操作は極めて困難であろう。

 そこで、興味対象の方を見るだけでこの対象に関する情報を入手できる情報端末(Compact Battery-less Information Terminal: CoBIT)を開発した。これは、「マイボタンVer.1」であり、ユーザーの位置および向きを考慮して最適な情報を提供する。特に、無電源、小型、安価(将来は100円程度)という特長を持つ。

 CoBITは、図1のように太陽電池とイヤホン、反射シートから構成される。太陽電池で発電された電力は直接イヤホンへ導かれるため、強弱を伴う光を受光すると、この強弱に応じた音を聞くことができる。太陽電池の向きは、ユーザーの前方、横方、上方など用途によって変えることができる。

 このため、図2のように、絵を見るだけで(ボタン操作無しで)対象近くの光源から送信される説明を聞くことができる。従って、静かな環境を楽しみながら、必要に応じてCoBITを装着し、興味ある対象についての情報を入手することが可能となるのである。

 CoBITには反射シートも付いている。これは、遠方からCoBITを発見し動きを解析するために使用する。これにより、ユーザーの動きに応じて音声メッセージを変更することも考えている。また、駅や街角、博物館、レジャーランドなどで、各種情報提供、道案内、注意喚起、音楽視聴を実現する予定である。

図1 図2
図1 試作したCoBIT
図2 絵を見るとそれに関する説明が聞こえる。
■関連情報
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