独立行政法人産業技術総合研究所
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AIST Today VOL.2 No.1

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AIST Today / National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
表紙 (PDF:239.8KB)
 年頭所感
吉川 弘之   理事長  
目次
 トピックス (PDF:252.8KB)
中部センター開所記念行事開催
−ものづくり産業基盤の競争力強化に向けて−
 最新情報
高機能多孔質セラミックス シナジーマテリアル研究センター
大きさの揃った高純度超微粒子 マイクロ・ナノ機能広域発現研究センター
光触媒で歯をきれいに セラミックス研究部門
金属/半導体ハイブリッドナノ材料 ナノテクノロジー研究部門,JRCAT
γ線ビームで物体の中を覗く 光技術研究部門
マイクロチャネルの速度・温度計測 機械システム研究部門
微小重力下の液量計測技術 エネルギー利用研究部門
高分解能AFMによるナノメートル計測 計測標準研究部門
使いやすい球面ステッピングモータ 知能システム研究部門
工具の損耗を自動計測 ものづくり先端技術研究センター
トルク標準機の開発 計測標準研究部門
北海道沖の日本海に地震空白域 活断層研究センター
 特集 (PDF287.1KB)
製造技術分野における産総研の取り組みの現状と課題
 テクノ・インフラ (PDF:186.8KB)
・アジア太平洋計量計画(APMP)第17回総会
・国際度量衡委員会定期会合から
・生活環境音の標準化研究
 パテント 生物遺伝子資源研究部門
技術移転いたします!
加速型光・生分解性プラスチック
高分子量糖鎖マーカー
 フロンティア (PDF:92.7KB)
・人工リボザイムと「ジェノファンクション社」
・生分解性プラスチック連携研究体
 AIST NETWORK (PDF:162.4KB)
・フランス国立科学研究センターと包括的協力協定を締結
・Young-Hwan Kim 韓国科学技術大臣来訪
・大村政務官関西センター来訪
・ナノテクノロジー推進議員連盟来訪
・第3回国際新技術フェア2001
・2001国際ロボット展
・火山地質図の整備
・AIST Today vol.1(2001)総目次
・カレンダー

高機能多孔質セラミックス

−低環境負荷プロセスによる次世代フィルター材料−
鈴木 義和の写真
すずき よしかず
鈴木 義和
鈴木連絡先
シナジーマテリアル研究センター

 多孔質セラミックスは自動車用排ガスフィルターや排水フィルターなど、地球環境保全に密接した数多くの分野で実用化されている。近年では石炭ガス発電システム等の、より高温で過酷な環境下でのフィルター材料としての適用が進められている。

 これまでに我々は、合成と焼成とを同時に行う「その場合成プロセス」を用いることにより、非常にシャープな気孔径分布とユニークな三次元網目構造をもつ新しい多孔質セラミックスを開発してきた1)、2)、3)。この材料はジルコン酸カルシウム(CaZrO3)とマグネシア(MgO)の微粒子が互いに強く結合した多孔体で、1300℃まで強度が低下しないだけでなく、メタンガスに対する電気抵抗変化をも示すという特徴をもつ。このため、高温での脱塵(有害微粒子の分離・除去)とガスの検知が可能な多機能フィルター材料としての応用が期待されている4)

 さらに、酸化白金(PtO2)の大気中熱分解をその場合成プロセスに組み合わせることにより、ナノサイズの微細な白金粒子が担持された新しい多孔質セラミックスの開発に成功した(写真1)。従来法で白金をコーティングするのに比べて装置が簡便であり、環境を汚染する物質がプロセス中に生じないというメリットがある。この材料はNOxを最大約50%分解できることが確認されており、高温脱塵と有害ガスの分解を同時に行うことが期待できる5)、6)

 現在、これらの多孔質セラミックスのさらなる高性能化・高機能化に取り組んでいる。写真2はその一例である。美しい自形をもって成長したスピネル(MgAl2O4)粒子とジルコン酸カルシウム微粒子が結合している特異な構造を持っており、気孔率30%で曲げ強度110MPaと従来の高純度アルミナ多孔体(60〜70MPa程度)をしのぐ高強度材料となっている。溶液中のコロイド粒子のろ過も可能で化学的安定性も改善されていることから、今後この多孔体をベースとした様々な応用が期待できる。

写真1 写真2
写真1 ナノサイズの白金粒子が担持された多孔質セラミックスの微細構造
均質な開気孔と三次元網目構造が特徴。
写真2 多孔質ジルコン酸カルシウム/スピネルセラミックスの微細構造
八面体をもつスピネル結晶が気孔内部で成長し、多孔体の組織を安定化している。
■関連情報
  1. 日経産業新聞および日本工業新聞, 2000年3月29日.
  2. 鈴木義和, 大司達樹, Peter E. D. Morgan: 特開2001-122675, 「ジルコン酸カルシウム/マグネシア系複合多孔体およびその製造方法」.
  3. Y. Suzuki, P. E. D. Morgan and T. Ohji : J. Am. Ceram. Soc., 83, 2091-93 (2000).
  4. Y. Suzuki, M. Awano, N. Kondo and T. Ohji : J. Ceram. Soc. Jpn., 109, 79-81 (2001).
  5. 日経産業新聞, 2001年3月6日.
  6. Y. Suzuki, H. J. Hwang, N. Kondo and T. Ohji : J. Am. Ceram. Soc., 84, 2713-15 (2001).
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大きさの揃った高純度超微粒子

−シリコン単結晶超微粒子の作成と分級−
瀬戸 章文の写真
せと たかふみ
瀬戸 章文
瀬戸連絡先
マイクロ・ナノ機能広域発現
研究センター

 ナノメートル領域の超微粒子では、電子の閉じ込め効果などの量子効果が出現することが知られており、粒径を制御することで波長の変化する量子ドット型発光素子や将来の光電変換デバイス作成などの用途が考えられている。特にシリコンナノ結晶超微粒子による発光素子の開発は、従来の半導体プロセスの中心であるシリコンテクノロジーと次世代の光デバイス技術の融合として世界的に試みられているが、これまで超微粒子作成法として用いられてきた化学法やプラズマ法では、生成した超微粒子の純度とその粒径の制御に課題があった。

 当研究センターでは、経済産業省の「フォトン計測・加工技術」プロジェクトの一環として、松下電器産業(株)および真空冶金(株)と共同研究を行い、粒径が2〜50nmで単分散の超高純度シリコン単結晶超微粒子作成法の開発を行っている。ここで新たに開発した方法は、図に示すように高純度のヘリウムガス中で固体シリコンにレーザーを集光・照射して超微粒子を作成し、DMA(微分型モビリティーアナライザ)法と呼ばれる手法を用いて、特定の粒径の粒子のみを選別(分級)するもので、写真に示すように粒径がナノメートルオーダーで非常に分散性の良い超微粒子の作成が可能となる。このDMA法は超微粒子に働く静電気力とガスの流れのバランスを利用して分布のある粒子を分級する装置で、従来、大気中の微粒子(エアロゾル)計測に使用されていたが、装置の小型化によって超微粒子のブラウン拡散を制御するとともに、排気系を改良し数百Pa(パスカル)までの低圧動作を可能とした。このことによって、レーザー法による高純度超微粒子作製法と組み合わせることが可能となり、新しいナノ材料作成プロセス技術として応用ができる。また開発された方法では、極めて高純度で大きさの揃った任意の超微粒子が作成できることから、新たな光電変換素子開発と量子機能発現メカニズム解明のブレークスルーとなることが期待される。

図
図 超微粒子の作成・分級・堆積プロセス
写真1
写真 7nmに分級後の単結晶シリコン超微粒子の透過型
電子顕微鏡写真(左図:暗視野像、右図:高分解像)
■関連情報
  • T. Seto et al., Nanoletters, 1 (6), p. 315 (2001).
  • T. Seto et al., J. Nanoparticle Res., 3, p. 185 (2001).
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光触媒で歯をきれいに

−可視光で反応するブリーチングシステム−
野浪 亨の写真
のなみ とおる
野浪 亨
野浪連絡先
セラミックス研究部門

 二酸化チタンは化粧品や歯磨き粉などに用いられている安全無害な材料であるが、特定の波長の光照射により活性酸素が発生し、様々な有機化学物質を分解する光触媒効果を示すことが知られている。

 我々は、この二酸化チタンにより歯の漂白ができないか検討を進めた結果、二酸化チタンと低濃度(3.5%;市販や研究されている漂白材でもっとも低濃度)の過酸化水素を主成分とする水溶液を歯の表面に塗布し、400nmの光を数分照射することにより、加齢や外因性による変色歯、および軽度の薬剤の摂取による変色歯を効果的に漂白することができることを確認した。

 通常二酸化チタンは380nm以下の紫外光にしか反応しないが,歯科医療には現在380nm以下の紫外線は使用できない。そこで、400nm以上の可視光に反応する漂白材を開発する必要があった。この技術は今後可視光型の光触媒として環境浄化への応用が期待できる。さらに、新開発の材料に併せた光の波長域を持つ専用の照射器の開発にもウシオ電機(株)との共同研究で成功している。

 従来の歯の漂白に用いられている高濃度(35%)の過酸化水素を用いた漂白材に比べ、厳重な歯肉保護が不要であり、エナメル質へのダメージや知覚過敏の発生も小さいことが期待される等、安全性に優れるため、患者や術者への負担が大幅に軽減される。また、抜歯やモデルによる漂白実験では従来品より優れた漂白効果(写真1)を確認している。

 この成果は、産総研が所有している関連特許について三菱ガス化学(株)が実施権の取得契約を行い、四日市工場にGMP(Good Manufacturing Practice)対応量産設備を設置し商品化(写真2)を進めている。

 このほかにも我々は、歯科医療分野への光触媒の応用として「アパタイトを被覆した二酸化チタン」による入れ歯の洗浄剤や入れ歯のレジンに練り混んで脱臭や汚れ防止抗菌効果を期待できる材料の開発に着手しており、今後これらの研究を積極的に進めていきたい。

写真1 写真2
写真1 漂白材を塗布して光(380-420nm)を5分間照射する。これを4回(計20分)繰り返すとかなり変色のひどい歯も漂白された。
写真2 試作した漂白材、2液がセットになっており使用時に混合する。
■関連情報
  • 野浪 亨: バウンダリー, Vol.17, No.2, 2-6 (2001).
  • 野浪 亨: 石橋卓郎, 近藤治, 高見和朋: J. Dental Res. Vol.80, 661 (2001).
  • 野浪 亨, 石橋卓郎, 近藤治, 高見和朋: 日本歯科保存学会, Vol.44, No.1, 37-43 (2001).
  • 野浪 亨, 石橋卓郎, 近藤治: 日本歯科審美学会, Vol.13, No.2, 47-51 (2001).
  • 野浪 亨, 石橋卓郎, 近藤治, 高見和朋: Proceedings of the fifth International Symposium on Titanium in Dentistry, 78 (2001).
  • 野浪 亨, 長谷博子, 石橋卓郎, 近藤治, 高見和朋: 日本歯科理工学会論文集, Vol.20, No.37, 133 (2001).
  • 野浪 亨: バウンダリー, Vol.17, No.11 (2001).
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金属/半導体ハイブリッドナノ材料

−超高感度磁気センサーの開発を目指して−
秋永 広幸の写真
あきなが ひろゆき
秋永 広幸
秋永連絡先
ナノテクノロジー研究部門
JRCAT

 最近、パソコンで、テレビ番組の予約やビデオテープ編集が簡単に出来るようになった。動画のような大容量情報でも気軽に保存出来るようになったことで、ハードディスク(HD)はコンピュータのみならず多様な家電製品に装備されるようになると予想されている。HD記憶容量の年率100%という驚異的な伸び率を支えているのが、高感度磁気センサー技術である。HDでは小さな磁石に情報が記憶されており、その磁石から漏れる磁場を信号として読み取っている。単位面積当たりの記憶容量が大きくなれば、磁石のサイズが小さくなって発生する磁場が弱くなるので、それを信号として読み取るセンサー(読み取り用再生ヘッド)は、より高感度なものが必要とされる。

 現在のHD再生ヘッドには、強磁性金属の多層構造が応用されている。HDからの磁場によって強磁性金属層の磁化を反転させ、層間の磁化の向きに依存する抵抗の変化(磁気抵抗効果と呼ばれる)として信号を読み取っている。例えば、100エルステッド(Oe)程度の磁場によって、数〜数十%の抵抗変化がある。このHD再生ヘッドの性能は毎年飛躍的に向上しているが、このままHDの記憶容量が増加すると、数年の内に性能限界が来ることも同時に予測されている。

 我々は、金属ナノクラスターを分散した半導体GaAs基板(写真)の電流−電圧特性が磁場によって大きく変化することを発見し、磁気抵抗スイッチ効果と名付けた(図)。磁場による電流の変化分を抵抗の変化と見なせば、100 Oe 程度の磁場で約1000%、また図に示したように1000 Oe程度の磁場では10000%を超える桁違いに大きな磁気抵抗効果となっていることが分かる。この効果は、室温で観測される最も大きな磁気抵抗効果として注目を集めており、我々は、今年度から始まるNEDOプロジェクトにおいて、このナノ材料を次世代超高感度磁気センサーとして応用する研究を行う。

写真1 図
写真 半導体GaAs基板上に作製した金属ナノクラスターの原子間力顕微鏡像。
黄色の小さな凸起が1つのクラスターに対応している。金属はマンガンとアンチモンの合金。
図 磁場印加による電流の変化。
■関連情報
  • JRCAT: アトムテクノロジー研究体
  • H. Akinaga, M. Mizuguchi, K. Ono, and M. Oshima: Appl. Phys. Lett. Vol.76, No.3, 357-359 (2000).
  • 特開2000-340425「磁気抵抗効果薄膜」
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γ線ビームで物体の中を覗く

−レーザー逆コンプトン散乱γ線によるイメージング−
豊川 弘之の写真
とよかわ ひろゆき
豊川 弘之
豊川連絡先
光技術研究部門

 外観からは知ることができない物体内部を壊さずに調べること、すなわち非破壊検査は、人体、工業製品、材料等の故障や欠陥を調べ、健康状態を診断するという点において重要である。放射線を使った非破壊検査は、人体に対するレントゲン写真やCT、橋梁やビルの鉄筋コンクリートや航空機部品、さらには原子炉燃料集合体や格納容器等の検査等において、我々の役に立っている。これらの物体の故障や欠陥は、場合によってはそれが原因で大惨事につながる可能性があるため、定期的に内部の状態を非破壊で詳しく知る技術の確立が求められている。

 工業製品の非破壊検査にも、人体の場合と同様にレントゲン写真やCTなどが用いられる。しかし、人体を撮影する程度の放射線では、大型の工業製品に対して透過力が不足しがちである。例えば、1分で人体を撮影することができる放射線(X線;エネルギー〜100keV)を用いて、同じ厚さのコンクリートを撮影すると約4分、同じ厚さの鉄板では600万年かかってしまう。これをX線よりもはるかに波長の短いγ線(エネルギー〜10MeV)という放射線を用いると、鉄板を1分で撮影できる。

 レーザー逆コンプトン散乱を用いて発生させるγ線は高い指向性を持っているため、発生源から15m先で約1mmに絞っても、104〜105光子/秒が容易に得られる。さらに発生するエネルギーは1 〜40MeVの範囲で可変であるため、撮影したい材質によって適切なエネルギーを選択することができる利点がある。図は、加速器を用いたレーザー逆コンプトン散乱によって発生させた、エネルギー10MeVのγ線ビームを、直径5mm(左図)、および、直径1mm(中央図)のビームに絞り、それぞれ、広範囲を粗く撮影するモード(高速モード)と、狭い範囲を詳しく撮影するモード(高分解能モード)の2通りの方法で撮影したレントゲン写真である。高分解能モード(中央図)ではおよそ650µmの分解能が得られている。サンプルはFM波用の四極管であり、セラミックの絶縁物を意図的に写らなくする画像処理を施しており、金属のプレートやグリッド等の様子を鮮明に見ることができる。右図は中央図中A−A'の断層写真(CT像)である。現在、測定時間の短縮とCTの解像度の向上について開発を行っている。

図
図 レーザー逆コンプトン散乱γ線(10MeV)によるイメージング(ラジオグラフィ、CT)
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マイクロチャネルの速度・温度計測

−蛍光色素を用いた二次元時系列計測法−
佐藤 洋平の写真
さとう ようへい
佐藤 洋平
佐藤連絡先
機械システム研究部門

 Lab-on-a-chipやµTAS等にみられる幅数µmから数百µmのマイクロチャネルにおける流動構造解明は微量試料分析技術の飛躍的向上をもたらすが、現在まで数µmの高空間分解能を有する速度・温度計測技術は存在しなかった。当研究部門微小機構研究グループでは、慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科前田昌信教授および菱田公一教授と共同で、デジタルCCDカメラと顕微鏡を用い画像処理技術を駆使することにより、光学非接触方式によるマイクロチャネル内流体の速度・温度の計測技術開発に成功した。

 マイクロチャネル内流体速度計測においては、流体に追従する直径数百nmの粒子を混入して計測を行うが、粒径が波長より短いので蛍光色素が練り込まれた粒子を用いて、励起光を照射し蛍光を撮像することにより計測を行っている。また粒径があまりにも小さいことから、粒子のブラウン運動が計測結果に悪影響を及ぼしてしまう。速度検出への粒子のブラウン運動の影響を完全に除去するアルゴリズムを開発し、8µm×8µmの高空間分解能および時系列速度計測に成功した(図1)。

 マイクロチャネル内流体温度計測に関しては、蛍光色素の蛍光強度の温度依存性を利用している。常温において蛍光強度が著しく変化するルテニウムビピリジン錯体(Ru(bpy)32+)を用い、励起光を照射して得られた蛍光強度の変化を絶対温度に換算している。この計測法により10倍の対物レンズを用いた場合5µm×5µmの高空間分解能を達成することに成功している(図2)。

 以上の速度・温度計測法により、マイクロチャネル内では対流による熱輸送よりも熱伝導による熱輸送の方が約50倍も支配的であることが判り、マクロ流体の現象と逆転していることを初めて明らかにした。

図1 図2
図1 T字型マイクロチャネル内速度ベクトル分布 図2 T字型マイクロチャネル内温度分布
■関連情報
  • S. INABA, Y. SATO, K. HISHIDA and M. MAEDA: Flow measurements in microspace using sub-micron fluorescent particles (An effect of
    Brownian motion on velocity detection), Fourth International Symposium on Particle Image Velocimetry, Paper 1144, pp. 1-8 (2001).
  • G. IRISAWA, M. ISHIZUKA, Y. SATO, K. HISHIDA and M. MAEDA: Visualization of convective mixing in microchannel by fluorescence
    imaging, Fourth International Symposium on Particle Image Velocimetry, Paper 1159, pp. 1-8 (2001).
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微小重力下の液量計測技術

−軌道上燃料再補給システムの実現に向けて−
中納 暁洋の写真
なかのう あきひろ
中納 暁洋
中納連絡先
エネルギー利用研究部門

 米国の有人火星探査計画では、軌道上の宇宙ステーションから火星へ向かうことが予定されている。我が国でも将来型の宇宙輸送インフラストラクチャとしてOTV(Orbit Transfer Vehicle)ネットワーク構想がある1)。OTVとは、宇宙ステーションから他の宇宙ステーションへ、あるいは月や他の惑星へ移動するための軌道間輸送機を意味する。軌道間輸送を行うには燃料供給基地が必要であり、そこでは液体水素や液体酸素といった液体推進剤が取り扱われる。地上で液量を計測する場合、重力のため、気体と液体が分離して存在するので容易に計測を行うことができる。しかし、無重力環境の軌道上では気体と液体が混在し、液量を計測することは格段に困難となる。そこで我々は、ヘルムホルツ共鳴現象に着目し、このような無重力環境下で有効に働き、かつ低コストで実現できる液量計測装置の開発を目指した。

 ヘルムホルツ共鳴現象は、瓶の口から息を吹きかけると音が鳴る現象であり、一般によく知られている。この時、瓶の中の液量によって音の高さ、すなわち周波数が変わる。したがって、その周波数を調べることで逆に液量を求めることができる。これは音波による体積計測方法の1つで、測定対象(物)が液体か固体かを問わず計測できる方法である。また、測定対象の形状にも左右されないという特長を持つ。軌道上に置かれる容器には、液を出口に誘導する機構や蒸気を放出、あるいは再凝縮させる機構が必要なので、その内部の形状は必然的に複雑になる。しかし、本計測手法はこのような容器にも対応可能である。

 本研究では水と極低温推進剤を模擬した液体窒素を使用し、航空機による微小重力下での液量計測実験を実施した(写真)。写真は航空機に搭載した水用実験装置で、水量と共鳴周波数との関係を示す実験結果を得た(図)。実験値と理論値は良く一致しており、本計測方法が微小重力下でも有効であることを確認した2), 3)。一方、液体窒素のような極低温流体を扱った場合、音速が強い温度依存性を持つため、容器内の特に気相部の温度分布を正確に把握しておく必要があることが分かった。実用化にはさらに研究を重ねる必要がある。

写真1 図
写真 無重力環境での液(水)量計測実験装置
図 ヘルムホルツ共鳴周波数と液(水)量(実験結果)
■関連情報
  1. 中須賀真一: 日本航空宇宙学会誌, Vol.49, No.569, 128-132 (2001).
  2. 中納暁洋, 神谷宏治, 牧正根, 村上正秀: 日本マイクログラビティ応用学会誌, Vol.17, No.3, 183-189 (2000).
  3. 中納暁洋, 武藤美希, 藤山純一, 永井大樹, 村上正秀: 日本マイクログラビティ応用学会誌, Vol.18, No.4, 263-268 (2001).
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高分解能AFMによるナノメートル計測

−表面微小寸法・微細形状の精密測定−
三隅 伊知子の写真
みすみ いちこ
三隅 伊知子
三隅連絡先
計測標準研究部門

 ナノテクノロジーの進展によってナノメートル単位の微細加工が広く普及し、微小な寸法・形状の精密測定(ナノメトロロジー)が今後の進歩に重要な役割を果たす。例えば、半導体分野において100nmの微細加工の精度を管理するために寸法測定の不確かさが加工寸法の1%以下すなわち1nm以下であることが求められる。この要求に応えるため、我々はXYZ三軸に高分解能レーザ干渉計を搭載した写真の原子間力顕微鏡(測長AFM)を開発し、信頼性の高い実時間測定を世界で初めて実現した。この測長AFMを用いて、市販のAFMや走査型電子顕微鏡(SEM)の校正時に用いる一次元グレーティング(ナノ寸法スケール)標準試料の精密測定を行い、不確かさの評価を行った。

 測長AFMは、XYZ三軸にレーザ干渉計を搭載しているので、長さの定義に近い標準を装備した三次元測定機と言える。同時に干渉計信号を用いてピエゾ駆動ステージの実時間位置決め制御を行っている。レーザ干渉計の分解能は約0.04nm、ステージ走査範囲は17.5µm(X)×17.5µm(Y)×2.5µm(Z)である。測定に用いた試料は公称値で240nmピッチの一次元グレーティング(ナノ寸法スケール)である。

 測長AFMによる断面プロファイルに対し、大気の屈折率補正、試料の傾き補正を行った後、各ピッチの測定値を得た上で測定の不確かさの評価を行った。屈折率の補正誤差、アライメント誤差、ピッチ測定のばらつき、測定の繰返し性、干渉計の周期誤差など、13項目にわたる不確かさ成分を積算し、ピッチの測定値として239.98nmを、またその拡張不確かさとして0.280nmを得た。この(拡張)不確かさの値はサブナノメートルオーダであり、ナノテクノロジーにおける寸法測定への要求を十分に満たしている。

 なお、国際レベルでナノメートル領域の測定の同等性を確立する目的で実施された国際比較に測長AFMを使用したところ、その機能を充分に発揮し、我が国として良好な測定結果を出すことができた。図は国際比較で用いられた一次元グレーティング(700nmピッチ)のAFM像である。この成果を踏まえ、現在、一次元グレーティング(ナノ寸法スケール)の校正サービスを開始したところである。

写真1
写真 三軸レーザ干渉計搭載型AFM(測長AFM)
図
図 一次元グレーテイング(ナノ寸法スケール)のAFM像
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使いやすい球面ステッピングモータ

−ロボットの駆動機構をシンプルに−
矢野 智昭の写真
やの ともあき
矢野 智昭
矢野連絡先
知能システム研究部門

 軸先が球面をなぞるように動き回り、任意の方向に位置決めできるモータを球面モータと呼ぶ。球面モータを用いると、必要なモータの個数を減らすことができるため、機構がシンプルになるとともに省エネルギー・省資源にもなる。著者は、肩と手首を球面モータに置き換えることにより、7自由度人間腕型マニピュレータの重量を60%軽減できることを示した1)。また、ロボットの眼の駆動機構に応用すると構成をシンプルにできるなど、その応用範囲は広がりつつある。そのため、近年球面モータの研究開発が活発に行われるようになっている2)

 当研究部門では球面モータの研究を1985年から開始し、現在までに球面誘導モータ、球面同期モータ、および球面ステッピングモータを開発した。

 今回、ロボットの眼を駆動する目的で小型2自由度球面ステッピングモータを試作した。写真に試作した球面ステッピングモータに小型CCDカメラを装着したところを示す。

 試作機は2台のステッピングモータが入れ子になっており、内側の可動子が外側の固定子に固定され、外側の可動子がモータベースに固定されている。各ステッピングモータの回転軸は一点で交差し、出力軸を任意の方向に向けることができる。試験機の駆動は2相永久磁石バイポーラ方式で、励磁電流の1周期を外側は300分割、内側は600分割するマイクロステップ方式を採用し、CCDカメラの保持に十分なトルクと位置決め精度を達成している。表1、2に基本仕様、性能を示す。寸法はCCDカメラの制約を受けており、更なる小型化が可能である。

写真1
写真 CCDカメラを装着した小型球面ステッピングモータ

表1 球面ステッピングモータの基本仕様
重量 520 [g]
外寸法 70×70×68 [mm]
円弧半径 外側:35 [mm]
内側:17 [mm]
動作範囲 外側:90 [deg]
内側:17 [deg]
表2 球面ステッピングモータの基本性能
  外側 内側
電気角 3 [deg] 6 [deg]
位置決め精度 0.01 [deg] 0.03 [deg]
最高速度 180 [deg/sec] 180 [deg/sec]
励磁電流 1.8 [A] 1.8 [A]
保持トルク 0.2 [Nm] 0.03 [Nm]

■関連情報
  • http://staff.aist.go.jp/t.yano/
  • 1) T. Yano and M. Kaneko: Development of an Actuator with Multi Degrees of Freedom, Proc. ICARCV '92, Vol.3, R.O.2-2-1 (1992).
  • 2) 矢野: 多自由度アクチュエータ, 日本ロボット学会誌, Vol.15, No.3, 330-333 (1997).
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工具の損耗を自動計測

−レーザ変位計で高精度オンマシン検知−
Ryabov Olegの写真
リアボフ オレグ
Ryabov Oleg
Oleg連絡先
ものづくり先端技術研究センター

 エンドミル加工において、工具の摩耗や欠けは製品の精度劣化の大きな原因となる。従来、こうした工具の損耗診断は、熟練作業者が加工を中断して目視で行ったり、工具を工作機械から取り外して計測したりすることが一般的であった。そこで、工作機械に取り付けたままでも高精度に工具損耗を自動計測できるシステムの開発を進めている。

 開発した自動損耗計測システムはレーザ変位計とパソコンで構成され(図)、レーザ変位計は工作機械テーブル上の作業領域端部に設置される。加工中に計測指令が工作機械のNCに伝えられると、工作機械は回転しているエンドミル工具をレーザ変位計の測定領域内に移動させ、主軸を計測範囲内で上下させる。この時レーザ変位計はレーザ光を工具回転中心軸にあてて、工具までの距離と反射レーザ光の輝度を測定する。これらの情報はパソコンに送られ、距離情報は円筒座標に変換されて工具の3D外形が作成され、さらにこのイメージ上に輝度情報がグレースケールで重ねられる。図には、このようにして作成されたボールエンドミル工具先端部の3D形状イメージ例が表示されている。イメージはCCDイメージとほぼ同等の画質を示すと同時に、30µm以上の形状測定分解能をもつので、それ以上の大きさの切れ刃の欠けなどはスクリーン上の3Dイメージから、簡単に目視観察で見つけることができる。

 損耗の自動計測では、3D形状イメージから切れ刃付近のみの情報を抽出する。切れ刃に生じた摩耗部分は、レーザ光に垂直な平面となるため、その部分の輝度はステップ状の応答を示す。この測定値と様々な幅をもつステップ関数の共分散を求め、最も高い値をもったステップ関数の幅をもってその点での摩耗幅とする。画像上で最大摩耗幅を数値表示するとともに、図に示すように白黒の2値情報としてイメージ表示も行う。摩耗幅の最小測定幅は50µmである。

図
図 切削工具の自動損耗計測システムの構成と計測表示例
■関連情報
  • O. Ryabov, K. Mori and M. Higa: Proc. 2000 Japan-USA Symposium on Flexible Automation, Vol.1, 105-108 (2000).
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トルク標準機の開発

−ねじる力の標準供給に向けて−
大串 浩司の写真
おおぐし こうじ
大串 浩司
大串連絡先
計測標準研究部門

 航空機・自動車に代表される輸送機や工作機械から、ボルト、ナット、キャップなどの締結用部品に至るまで、トルク(力のモーメント)は安全管理や保証の観点から各種の産業分野で広く使われる力学量である。トルクの大きさはトルク変換器、トルクレンチ、トルクドライバなどのトルク計測機器を用いて検証され、管理される。これらトルク計測機器の性能を保証するため、トルク標準の確立が急がれ、産業界へ標準供給することが求められている。

 そこで質量力標準研究室ではトルクの国家計量標準器とする定格容量1kN・mの実荷重式トルク標準機を開発した(図1)。物理的な定義によれば、トルクはアームの長さと分銅質量および重力加速度の積で簡単に表される。しかしこのトルクを標準の量として10ppm(10万分の1)のオーダで正確に発生させようとすると容易ではない。まず力を発生させる分銅の一つ一つの質量は、重力加速度や空気の浮力も考慮して±5ppmの不確かさ(1kgに対して5mg)で厳密に測定されている。一方、分銅はアームの先端に吊り下げられるが、そのアーム長さは三次元測定機とゲージブロックを用いて、片腕500mmに対し±12ppm(6µm)の不確かさで測定されている。さらにアームは通常のステンレス鋼製(線膨張係数1.6×10-5/K)なので、温度変化の影響も考慮した。またアームと分銅負荷を支える支点には2列溝付空気静圧軸受を新規に開発し(図2)、支点摩擦損失の影響を極力小さく抑える工夫を行った。

 校正対象であるトルク計測機器に正確にトルクを伝達するためには、測定軸上で連結させるアダプタ類のミスアライメントを小さく抑えるか、カップリングにより、トルク以外の寄生分力を緩和させなければならない。開発したトルク標準機は、高剛性の架台と各部品の締結トルクの管理によって、本体ベッド上の反動軸受部のストローク800mm全長に渡って±60µm以内のミスアライメントを実現している。

 以上により、5N・m〜1kN・mの範囲において、50ppmの最高測定能力でトルクの校正が行えるようになった。現在、20kN・mまでの校正範囲の拡大、外国との国際比較の実施、標準供給体制の整備などを精力的に進めている。

図1 図2
図1 トルク標準機の外観 図2 支点軸受部の詳細(2列溝付空気静圧軸受)
■関連情報
  • K. Ohgushi, T. Tojo and A. Furuta: Proceedings of IMEKO-XVI World Congress, Vol.3, 217-223 (2000).
  • K. Ohgushi, T. Ota, Y. Katase and T. Tojo: Proceedings of 17th IMEKO TC-3 Conference, 326-332 (2001).
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北海道沖の日本海に地震空白域

−震源域における海底調査−
佐竹 健治の写真
さたけ けんじ
佐竹 健治
佐竹連絡先
活断層研究センター

 北海道西方の日本海では、20世紀に3つの大地震(いずれもマグニチュード7.5以上)が発生し、震動および津波による被害が生じた。日本海東縁部では、新たなプレート境界が生じつつあると考えられている。典型的なプレート境界では大地震が時空間的に連続して発生するが、日本海ではどうであろうか?日本海の大地震の震源域は連続しているのだろうか、それとも各震源域の間には近い将来大地震を起こす地震空白域があるのだろうか?海洋資源環境部門と当研究センターでは、日本海東縁部の地震発生ポテンシャルを調べるため、海洋科学技術センターの潜水調査船を用いた海底調査を行なっている。

 奥尻島に大きな被害をもたらした1993年北海道南西沖地震の北では、1940年に積丹半島沖地震が発生しているが、その震源域の広がりについてはよくわかっていなかった。そこで、この付近の10ヶ所以上の海底で潜水調査船による海底調査を行った。積丹半島沖地震の震央付近ではこの地震による斜面崩壊が多数観察された。一方、両震源域間の海底では、古い地震の痕跡のみが観察され、最近の地震による擾乱を受けていないことが明らかとなった。

 奥尻島の南に位置する渡島大島では、1741年(寛保元年)に火山噴火・津波が記録されている。最近の海底地形調査により、噴火に伴う山体崩壊は海底まで続く大規模なものであったことが明らかになった。この山体崩壊による地すべりモデルから津波の発生・伝播のコンピューター・シミュレーションを行ったところ、古文書に記録されている津波の高さを再現できた。すなわち、1741年の津波は地震でなく、火山噴火によることが確認された。

 これらの調査結果は、1993年北海道南西沖地震の北および南には、 それぞれ長さ約50km程度の大地震の空白域が存在し、遠くない将来に大地震が発生する可能性を示している。

図 写真1
図 北海道の日本海側における最近の大地震と空白域 写真 海洋科学技術センターの潜水調査船
「しんかい6500」
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