独立行政法人産業技術総合研究所
現在位置広報活動 > 出版物 > 産総研 TODAY Vol.1(2001) 一覧 > VOL.1 No.11

AIST Today VOL.1 No.11

電子ブックで読む PDFで読む [ PDF:3.5MB ] ※PDFファイルをご覧頂くためには、Acrobat Readerが必要です。
 Acrobat Readerをお持ちでない方はダウンロードしてご覧下さい。
Get Acrobat Reader
AIST Today / National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
 表紙 (PDF:543.8KB)
 目次
 メッセージ (PDF:275.7KB)
産業技術力雑感
東北大学総長  阿部 博之  
 トピックス
産総研国際シンポジウム 「ナノテクノロジーが拓く21世紀の産業技術」
 最新情報
原索動物ホヤに見る感覚神経の分化 脳神経情報研究部門
生物時計が支配する交尾行動リズム 分子細胞工学研究部門
リポソームを利用した遺伝子導入法 環境調和技術研究部門
蛍光標識磁気ビーズでSNP検出 分子細胞工学研究部門
ナノ微粒子でタンパク質を釣る 分子細胞工学研究部門
触媒法で有機リン類のクリーン合成 グリーンプロセス研究ラボ
NOx浄化で世界最高性能 シナジーマテリアル研究センター
環境にやさしい吸着材 基礎素材研究部門
超高効率薄膜太陽電池 電力エネルギー研究部門
オレフィン系高分子の機能化 高分子基盤技術研究センター
次世代半導体 : 鉄シリサイド 微小重力環境利用材料研究ラボ
ガラス材料の微細加工と新機能発現 光技術研究部門
 特集 (PDF1.0MB)
エネルギー分野の動向と産総研の取り組み
 テクノ・インフラ (PDF:90.7KB)
・標準供給の新しい考え方…e-measureの概念
・韓国地質資源研究院(KIGAM)の紹介
 パテント セラミックス研究部門
技術移転いたします!
多層ガスセンサー
塑性加工が可能な炭酸アパタイト
 産学官連携 (PDF:139.6KB)
研究者と起業家の連携推進の場
 フロンティア (PDF:64.5KB)
クラスタープロセス研究の新展開
 AIST NETWORK (PDF:186.5KB)
・産総研モニュメントおよび地質標本館門柱の除幕式
・尾身科学技術政策担当大臣関西センター来訪
・ユーゴスラビア連邦開発科学長官つくばセンター来訪
・中国センター 一般公開
・広島中央テクノフェア2001
・北陸技術交流テクノフェア2001
・関西センター 研究講演会
・平成13年秋の叙勲 受章者
・産業技術連携推進会議
  「物質工学部会」「資源・エネルギー・環境部会」合同総会開催
・「ベンチャー支援室」発足
・カレンダー

原索動物ホヤに見る感覚神経の分化

−神経堤細胞の分化メカニズム解明に向けて−
大塚 幸雄の写真
おおつか ゆきお
大塚 幸雄
大塚連絡先
脳神経情報研究部門

 神経堤は脊椎動物の発生初期に神経板と表皮の境界部に生じる細胞集団で、その細胞は神経管が閉じたあと体内を移動し分化する(図1)。神経堤細胞は感覚神経、内分泌細胞、色素細胞など様々な細胞種に分化することから、その分化メカニズムの解明は再生医学や発生工学の分野で重要な課題となっている。神経堤細胞が発生過程でどのような細胞種になるかは移動前の位置、移動開始時期、移動経路、移動先などの複合的要因により決定することが知られているが、分化制御メカニズムはほとんど分かっていない。

 我々は神経堤細胞の分化メカニズム解明を目指し、海産無脊椎動物のホヤを用いて、感覚神経の分化発生を研究している。ホヤを使う理由として、1)単純な神経系で関連する遺伝子が少ないこと、2)胚の形態および発生様式が脊椎動物と類似していること、3)胚細胞の分裂パターンに個体差がほとんどないこと、4)遺伝子導入などの実験操作が確立していることが挙げられる。

 我々は感覚神経の分化に関する研究の中で、ゲルゾリン(アクチン結合タンパク質の一種)がホヤ感覚神経に特異的に発現することを見出し、その結果をもとに、ゲルゾリンを感覚神経のマーカーとして利用する手法を開発した(図2)。この手法を用いることにより、感覚神経の前駆細胞が表皮と神経板および表皮と筋肉の境界部に存在し、神経管が閉じたあとに正中線上で分化することを明らかにした(図1)。また、感覚神経の分化誘導が胚の前方と後方で異なることを明らかにした。ホヤ感覚神経の細胞系譜および分化誘導は脊椎動物のものとよく似ており、ホヤ感覚神経の前駆細胞は神経堤細胞の祖先型とも言うべき細胞であることを示唆している。我々はホヤという単純な系を神経堤細胞分化の研究モデルに用いることで、神経堤細胞分化の解明に向けた新たな道を拓いた。

 (この研究成果は Developmental Biology 誌11月号に掲載された。)

図1 図2
図1 ホヤと脊椎動物における感覚神経分化の比較 図2 ゲルゾリンの発現で見るホヤ感覚神経の分布
■関連情報
  • Ohtsuka, Y., Okamura, Y., and Obinata, T. : Changes in gelsolin expression during ascidian metamorphosis. Dev. Genes Evol. 211, 252-256 (2001).
  • Ohtsuka, Y., Obinata, T., and Okamura, Y. : Induction of ascidian peripheral neurons by vegetal blastomeres. Dev. Biol. 239, 107-117 (2001).
トップへ

生物時計が支配する交尾行動リズム

−少子化時代への時間生物学的ヒント−
石田 直理雄の写真
いしだ のりお
石田 直理雄
石田連絡先
分子細胞工学研究部門

 動物の交尾行動は、良いパートナーを選び、その子孫を維持するために重要な行動である。昆虫からラットなどの幅広い種において、交尾行動を起こしやすい時刻に種による違いがあることは1946年以来よく知られた事実であったが、この行動を司る遺伝子発現機構に関して全く解明されていなかった。

 一方、血圧、体温、覚醒睡眠などの約24時間周期を作り出す元となる遺伝子群の研究(サーカディアンリズム)が近年急速に進歩し、時計遺伝子と呼ばれている 1)

 時計遺伝子として最初に単離されたのがショウジョウバエperiod遺伝子で、1984年のことである。この発見に引き続き、当時の最高峰にいたKyriacouらは当然のごとく、この遺伝子欠損株が交尾行動リズムに影響を与えるとの仮定のもと数々の実験を行った 2)。しかし、今一つその結果は釈然としないものであった。

 1997年の暮れ、生物時計グループに何人かのポスドク候補者の中から坂井貴臣(現群馬大学行動遺伝学助手)を迎えた。彼はこの古くて新しい問題に興味を抱き、Kyriacouらの取ったオスの求愛行動(courtship song)のみを測定する方法に疑問を抱いた。そこで我々は、この系とは全く異なる観点で実験をした。ショウジョウバエ雄と雌5匹ずつを同じビンに入れ、20分後に雌の受精率を直接顕鏡するという方法で交尾リズムを測定した(arranged marriage3) )。見事に昼と夜にピークを持つ交尾リズムが取れ、さらにそれが雌の時計遺伝子欠損株と野生型の雄の組み合わせで失われることが示され、その成果を2001年のPNAS USA に発表した 4)。この結果は、雌の性的受容性が時計遺伝子に支配されている事を示している。

 さらに、同じ地域に生息する近縁種のショウジョウバエの交尾リズムを調べてみると、まったく逆のパターンを示したことから、時計遺伝子による交尾時間の違いが種の保存にも影響を及ぼしていると考えられた。

 この原理が直ちにヒトの問題に応用できるかはともかく、今後少子化を迎える我が社会において、東洋的な「気が合う、間が合う」という言葉の本質を、意外にも時計遺伝子で語れる日もそう遠くないかもしれない。

写真1 写真2
写真1 オスの求愛行動(下がオス)ハネを特定のリズムで振動させる行動は、courtship song (求愛歌)と呼ばれる。(写真提供: 坂井 貴臣) 写真2 キイロショウジョウバエの交尾行動
(写真提供: 坂井 貴臣)
■関連情報
  1. N. Ishida, M. Kaneko and R. Allada : PNAS USA 96, 8819-8820 (1999).
  2. F.V. Schilcher : TINS 12, 311-313 (1989).
  3. N. Ishida, K. Miyazaki and T. Sakai : BBRC 286, 1-5 (2001).
  4. T. Sakai and N. Ishida : PNAS USA 98(16), 9221-9225 (2001).
トップへ

リポソームを利用した遺伝子導入法

−バイオサーファクタントで飛躍的に効率アップ−
北本 大の写真
きたもと だい
北本 大
北本連絡先
環境調和技術研究部門

 特定の遺伝子を細胞に入れることは、癌などの「遺伝子治療」において必須の操作である。これまでの遺伝子治療では、遺伝子の「運び屋」として、病原性を抑制したウィルスが利用されてきたが、ウィルスの感染性や抗原性が大きな問題であった。

 「運び屋」としてリポソーム(脂質から作られる微小なカプセル)を用いる方法は、ウィルス法に比べ非常に簡便かつ安全であるが、導入効率が低かった。我々は、名古屋市立大学薬学部の中西 守教授のグループと共同で、バイオサーファクタント(微生物が作り出す機能性脂質)を材料とした新しいタイプのリポソームの開発を試みた。その結果、動物の培養細胞への遺伝子導入効率を、従来に比べ最大70倍と世界一のレベルまでアップさせることに成功した。

 我々は、環境にやさしい機能性材料の開発研究において、酵母菌が植物油から大量に作り出すバイオサーファクタント(図1)が、抗癌剤に類似した機能を持つことを見出していた。一方、中西教授のグループは、新しい陽イオン性脂質(コレステロール誘導体)を含むリポソームを開発し、遺伝子導入効率を改善することに成功していた。

 今回、これらの技術を総合して、従来のものに比べ、遺伝子との結合性が高く、サイズがコンパクトで細胞への付着や取り込みが起こり易い画期的な新しいリポソームの開発に成功した(図2)。

 この新しいリポソームを用いる手法によって、遺伝子導入操作が大幅に効率化され、ライフサイエンスにおける遺伝子機能の研究や、医療における遺伝子治療の研究が大きくスピードアップできるものと期待される。

図1
図2
図1 酵母により作り出されるバイオサーファクタント 図2 リポソームを利用した細胞内への遺伝子導入
■関連情報
  • D. Kitamoto, et al. : Chem. Commun., 861-862 (2000).
  • D. Kitamoto, et al. : Biotechnol. Progress 17, 362-365 (2001).
  • D. Kitamoto, et al. : Biotechnol. Lett. 23, 1709-1714 (2001).
  • Y. Inoh, et al. : Biochem. Biophys. Res. Commun. 289, 57-61 (2001).
トップへ

蛍光標識磁気ビーズでSNP検出

−ヒトゲノム検査の高速自動化−
町田 雅之の写真
まちだ まさゆき
町田 雅之
町田連絡先
分子細胞工学研究部門

 ヒトゲノムの全塩基配列の解析はほぼ完了し、この貴重で膨大な情報の意味を明らかにし、如何に有効に利用するかについての様々な研究が進められている。ヒトゲノムの塩基配列は、個人毎に欠失、挿入、置換などの様々な異なる変異が存在するが、その中でも最近一塩基多型(SNP)が注目されている。SNPとは、点突然変異による1塩基の置換、挿入、欠失を含む総称であり、約30億の塩基対からなるヒトゲノム中に約300万個存在すると言われている。これらの中には、病気の原因や薬効・副作用に関わるものなど、医療面として重要な個人の性質に関わるものが存在する。そこで、どのSNPがどの様な性質に関っているかが明らかになれば、予防医療やオーダーメイド医療などでの意味は大きく、製薬企業やベンチャー企業が解析にしのぎを削っている。

 我々は、SNPを高速かつ簡便に解析するための技術について、磁気ビーズと蛍光検出を利用して開発を進めている。磁気ビーズは、磁石を近づけたり遠ざけたりすることによって、水溶液中から回収したり分散させたりすることが容易で、生体物質を自動的に分離抽出するために優れた素材である。我々は、蛍光標識されたDNA断片の塩基配列特異的な連結反応と、磁気ビーズへの結合を利用して、SNPを高い信頼性で検出する技術を開発した(図1)。また、蛍光標識によって異なるDNA断片を固定化した磁気ビーズの1個1個を識別する技術を開発し、これまで個別の反応容器中で行っていた複数のDNAの検査を一括して行うことができる技術を開発した(図2)。これらの解析技術は、ベンチャー企業であるプレシジョン・システム・サイエンスなどと共同で開発を進めており、ハイスループットな磁気ビーズ処理装置として自動化している。今後、医療検査やバイオテクノロジーの生産管理などの分野において、熟練した技術者でなくても短時間で容易に分析が可能な検査装置の開発を目指している。

図1
図1 磁気ビーズと蛍光検出によるSNPの解析
図2
図2 蛍光標識された磁気ビーズによる多重化反応
■関連情報
  • 特願平10-206057 「標識化複合粒子並びにその製造及び使用方法」
  • 13th International Genome Sequencing and Analysis Conference (TIGR), Abstracts, 69(P065) and 95(P159).
トップへ

ナノ微粒子でタンパク質を釣る

−損傷DNAに結合するタンパク質の精製と解析−
友廣 岳則の写真
ともひろ たけのり
友廣 岳則
友廣連絡先
分子細胞工学研究部門

 化学物質や紫外線、活性酸素などが引き起こすDNAへのストレスは多様な疾病を生む。しかし、損傷などによるDNAの構造変化を認識するタンパク質の解析は、その結合が比較的弱いことやタンパク質の種類が多岐に渡るため決して容易ではなかった。そこで我々は、抗癌剤シスプラチン(CDDP)に注目して、そのDNA損傷に関わるタンパク質を簡便かつ網羅的に精製・解析する手法を探索した。

 通常、親和性タンパク質を精製する場合は、数十〜数百mmの多孔質なアガロース担体などによるアフィニティーカラム法を用いる。しかし、高価な精製装置が必要なことや粒子内部への拡散などによるタンパク質の吸着が多く、特に親和性の小さいタンパク質の精製にはかなりの労力が必要であった。そこで我々は、東京工業大学フロンティア創造共同研究センターの半田 宏教授と共同で、スチレン−グリシジルメタクリレート共重合体を核とする充密な担体(SG beads)にCDDPで損傷させたDNAを固定した直径200nmの均一な微粒子を作製した(図1)。その表面には多数のエポキシ基が存在するため、少量の微粒子に多くのDNAを容易に固定できる。ヒト子宮頸癌HeLa細胞のタンパク質粗抽出液から直接、親和性タンパク質を精製した結果(SDS-PAGE)を図2に示す。HPLCなどの3種類の精製過程を経た従来法(左側)に比較し、1.5mLの遠心チューブを用いて数時間でワンステップ精製したもの(右側)は明らかに非特異的吸着が少なく、結果的には既に報告されているものを含め複数の親和性タンパク質を精製・確認することができた。現在は各種のCDDP誘導体で比較しながら、DNA構造変化と作用機構との関連を検討している。新しい手法や材料は研究を飛躍的に展開させる力があり、化学と生物学などの異分野融合によるナノバイオ研究に一層取り組む方針である。

図1 図2
図1 CDDP-DNA固定微粒子 図2 CDDP-DNAに対する親和性タンパク質の精製
■関連情報
  • T. Tomohiro, et al.: Proceedings of 219th ACS meeting, BIOT 202 (2000).
トップへ

触媒法で有機リン類のクリーン合成

−古典的合成手法からの脱却を目指して−
韓 立彪の写真
かん りつぴょう
韓  立彪
韓連絡先
グリーンプロセス研究ラボ

 リンは地殻で10番目に多い資源量豊富な元素であり、また生物のライフプロセスに深い関わりを持つ元素でもある。有機リン化合物は殺虫剤や抗生物質、さらにウランなどの放射性物質の抽出剤やその廃液の処理剤に広く用いられている。

 このように多岐の用途を有する有機リン化合物の合成には、古くから有機リチウムや有機ハロゲン化合物などを原料とする置換反応が頻用されてきた(式1)。しかし、これらの反応からは必ず目的物(C)と等量の非目的物(D)が併生してしまう。一方、水素−リン結合を持つ水素ホスホン酸エステル(HP(O)(OR)2)やホスフィンオキシド(HP(O)R2)類は、安価で入手容易なリン化合物原料である。金属触媒を用い、これらの化合物を炭素−炭素不飽和結合に効率よく付加させることができれば(式2)、様々な有機リン化合物をこれら安価な原料から副生成物の発生を伴うことなく高効率的に合成することができ、魅力的な合成法と言える。しかし、有機リン化合物は金属触媒に配位し触媒を不活性化する(触媒毒)性質を持つ。このため、その合成に敢えて金属触媒を用いる方法は当時無謀とも考えられ、誰も試みなかった。

 我々は、まず遷移金属錯体による水素−リン結合活性化から着手し、意外にもこれらの結合が容易に切断され、反応活性な水素−金属結合を有する活性種を与えるという結果を見出した(式3)。さらに触媒的付加反応へと研究を展開したところ、図に示すようにわずかな金属錯体触媒で効率よく付加反応が進行することを見出した 1)。すなわち、金属錯体触媒を用いることにより、ホスホン酸ジエステルなどがアセチレン化合物への効率的な付加を実現し、有用でありながらも通常の方法で合成困難な一群のビニルリン化合物の合成に成功した。開発した新規触媒付加反応では、用いる触媒の種類や添加物の有無により、その立体および位置選択性を完全に制御することができる。

 我々が開発したこれらの新規触媒反応は、古典的な手法とは異なる数少ない有機リン化合物のクリーンな合成法として内外から注目され始めている 2)。大きなスケールへと展開できるなどの特徴も持つので、その実用化を目指して、低コストで目的物を合成できるように、触媒性能の向上や安価な触媒を用いた反応の開発などを精力的に行っている。

化学式 図
式 研究のストラテジー 図 新規高効率触媒反応による有機リン化合物の合成
■関連情報
  1. L.-B. Han, C.-Q. Zhao and M. Tanaka : J. Org. Chem. 66, 5929 (2001) ; C.-Q. Zhao, L.-B. Han, M. Goto and M. Tanaka : Angew. Chem. Int. Ed. 40, 1929 (2001) ; F. Mirzaei, L.-B. Han and M. Tanaka : Tetrahedron Lett. 42, 297 (2001) ; C.-Q. Zhao, L.-B. Han and M. Tanaka : Organometallics 19, 4196 (2000) ; L.-B. Han, F. Mirzaei, C.-Q. Zhao and M. Tanaka : J. Am. Chem. Soc. 122, 5407 (2000) ; L.-B. Han and M. Tanaka : Chem. Lett. 663 (1999) ; L.-B. Han, R. Hua and M. Tanaka : Angew. Chem., Int. Ed. Eng. 37, 94 (1998) ; L.-B. Han, N. Choi and M. Tanaka : Organometallics 15, 3259 (1996) ; L.-B. Han, N. Choi and M. Tanaka : J. Am. Chem. Soc. 118, 7000 (1996) ; L.-B. Han and M. Tanaka : J. Am. Chem. Soc. 118, 1571 (1996).
  2. 化学工業日報(2000年4月19日) ; Chemical & Engineering News (September 4, 2000) ; 韓, 田中 : 化学と工業 54, 187 (2001) ; 韓 : 化学と工業 52, 142 (1999).
トップへ

NOx浄化で世界最高性能

−電気化学セルの高次構造制御で実用化へ前進−
淡野 正信の写真
あわの まさのぶ
淡野 正信
淡野連絡先
シナジーマテリアル研究センター

 年々深刻化する地球環境問題の解決の一つとして、自動車排ガス中に含まれるNOxなどの有害物質の分解浄化が不可欠である。その一方で、環境対策と同時にエネルギー問題も併せて考える必要がある。低燃費運転(リーンバーン条件)では、エンジン燃焼ガスに過剰酸素が含まれるため、従来の排ガス浄化触媒材料では、NOx浄化機能が激減する点が問題である。

 当研究センター環境浄化材料チームでは、「シナジーセラミックス」プロジェクトにおいて、NOx浄化触媒の表面から連続的に酸素を取り除いて高いNOx浄化性能を実現するための材料開発 1) を進めている。その中で、従来は実用化が困難と見られていた「電気化学セル」方式において、高効率NOx浄化が可能であることを見出した 2),3)

 電気化学セルは、NOx浄化の妨げとなる触媒表面に吸着した酸素分子をイオン化して酸素イオン伝導体を通じて取り除くもので、現状技術で触媒活性化のために行われる燃料の間欠的導入が不要という特長がある。しかし、共存する酸素のイオン化と除去に大電流を必要とする点が問題であった。そこで、電気化学セルの作動電極側に、三次元的に貫通したナノポアを取り巻いて、ナノ〜ミクロレベルでネットワーク状構造を形成する酸素イオン伝導体と電子伝導体の壁ができるように高次構造制御を行った(図1)。その結果、共存酸素分子が上部層でトラップされイオン伝導体を通じて除去され、セルに加えた電流が共存酸素の除去よりも、NOx浄化自体により多く使われることにより、反応時の必要電流が大幅に低減した(図2)。

 今回開発した電気化学セルは、自動車の排ガス廃熱を利用した熱電変換技術との組み合わせにより、外部からのエネルギー供給を必要とせず連続的なNOx浄化を可能とする、「自立型浄化材料」の実現を図る上で重要な成果である。

図1 図2
図1 高次構造制御された電気化学セルの断面構造 図2 NOx浄化性能と電気化学セル作動電流の関係
■関連情報
  1. S.Bredikhin, K.Maeda, M.Awano : J.Ionics Vol.7, 109-115 (2001).
  2. S.Bredikhin, K.Maeda, M.Awano : Solid State Ionics Vol.144, 1-9 (2001).
トップへ

環境にやさしい吸着材

−多糖類系半金属吸着材の開発−
犬養 吉成の写真
いぬかい よしなり
犬養 吉成
犬養連絡先
基礎素材研究部門

 元素周期表で金属と非金属の中間に位置するゲルマニウム、セレン、ホウ素などの半金属は半導体材料やガラス工業などに使われ、ほとんど全量を輸入している有用元素であるが、一方、セレン、ホウ素などの半金属は、健康障害を引き起こす有害元素でもある。このように半金属は二面性を持っており、有用半金属の回収および有害半金属の除去という観点から、半金属選択性吸着材が産業界から広く求められている。しかし、半金属は弱酸性〜アルカリ性で無電荷のオキソ酸またはその陰イオンとして溶存しているため、従来の金属陽イオンを対象とした吸着材は適用できない。

 ホウ素、ゲルマニウムなどのオキソ酸またはオキソ酸陰イオンは、多数の水酸基を有するポリオール化合物と錯体を形成することが知られており、我々は、この錯形成反応を利用して水溶液中の半金属を選択的に捕捉するための多糖類系吸着材開発を目指してきた(図1)。また、陰イオン交換反応を利用することも考え、多糖類系セレン吸着材の開発も行ってきた(図1)。天然高分子である多糖類を母材とすることにより、使用後の廃棄処分が容易な環境調和型吸着材となるので、これまでに各種のキトサン系半金属吸着材を創製した。

 今回、キレスト(株)および中部キレスト(株)と共同で、セルロース系のゲルマニウム吸着材およびセレン吸着材を開発した。セルロースにジエタノールアミンまたはポリエチレンイミンを化学結合させた構造の吸着材で、それぞれ、ゲルマニウム(IV)(図2)またはセレン(VI)を他の半金属が共存する水溶液から選択的に、しかも素早く吸着することができる。合成高分子系の半金属吸着材も存在するが、これらのセルロース系吸着材は、合成高分子系吸着材よりも吸着速度が速くて吸着量も多く、大量の水処理に適した環境にやさしい半金属吸着材であるのが特徴である。

図1 図2
図1 多糖類系半金属吸着材の開発 図2 カラム漏出曲線(ゲルマニウムの選択吸着)
■関連情報
  • キトサン系半金属吸着材 : Anal. Chim. Acta, 343, 275 (1997) ; 371, 187 (1998) 等.
  • セルロース系半金属吸着材 : 公開特許公報, 2001-113179 ; 2001-113272
トップへ

超高効率薄膜太陽電池

−低コスト化と高効率化へ新プロセスの芽−
山田 昭政の写真
やまだ あきまさ
山田 昭政
山田連絡先
電力エネルギー研究部門

 地上に到達する太陽光エネルギーは密度が小さいのでまとまったエネルギーを得るには広大な面積の太陽電池を必要とする。このため、製造コストを極力小さくすることが求められる。また、光−電気変換効率を高くすると面積を小さくできるので、コストを下げることができる。高効率太陽電池の光吸収層材料の一つとして、Cu(InGa)Se2がある。CuInSe2から出発してInに対するGaの比率を変えることによって地上の太陽光スペクトルのもとで理論的な限界効率(25〜26%)を得られる禁制帯幅(半導体中の電子が自由に動けるようになるために必要なエネルギー)に合わせることが可能であり、15%を超える実用効率を目標にできる。しかし、最適化は必ずしも完成しておらず、末端物質であるCuGaSe2も含めて材料研究が世界的に進められている。材料固有の性質を明らかにする研究においては、それが不純物を含まず単一の結晶(原子が規則正しく並んだ固体)になっていることが不可欠である。我々は、真空中で成分元素を原子あるいは分子の形で堆積させることでこのような材料を膜状に作り、その膜を分析することによって初めて明らかになった様々な知見を得てきた 1)。その一端を以下に紹介する。

 CuGaSe2はCuInSe2と異なって双晶(原子の配列が鏡対称になった部分を含む結晶で、その境界は欠陥とみなされる)の発生が著しいことが解り(図1)、Ga組成比の高い吸収層作製に当たって考慮すべき要素の一つと考えられる 2)。また、CuGaSe2化学量論比よりGaが多いCu-Ga-Se化合物の単結晶膜を酸素を含む気体の中で加熱すると、表面で酸化反応が起こり酸化物の層ができる。図2はこのような膜をEPMAで組成分析した結果の一例である。EPMAは細くした電子ビームの照射に応じて発生する元素の特性X線の強度を測定して組成比を決める方法である。電子の加速電圧に対応して侵入の深さが変わるので、図の横軸から厚み方向の情報を得ることができる3)。これを解析・照合した結果、表面にGa2O3が生成されるとともに、Cu-Ga-Se化合物が化学量論比のCuGaSe2に変わり、材料の品質が向上することが解った。Ga2O3は禁制帯幅が大きく伝導型がCuGaSe2固有のそれとは反対の半導体であるので窓層材料としての条件を備えており、酸化によって自然に作り込まれた接合を形成できる可能性がある。このことより作製法が単純になるため、低コストプロセスの開発が期待できる。

図1 図2
図1 Ga組成比と欠陥の増加(X線解析の極点表示) 図2 厚み方向の結晶膜組成変化(EPMA法)
■関連情報
  1. A. Yamada, P. Fons, R. Hunger, K. Iwata, K. Matsubara, S. Niki : Appl. Phys. Lett. Vol. 79, No. 5, 608-610 (2001).
  2. A. Yamada, P. Fons, S. Niki, H. Oyanagi : Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 39, Suppl. 39-1, 200-202 (2000).
  3. A. Yamada, P. Fons, S. Niki, H. Oyanagi : Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 38, L96-L98 (1999).
トップへ

オレフィン系高分子の機能化

−水酸基含有ポリオレフィンの合成−
萩原 英昭の写真
はぎはら ひであき
萩原 英昭
萩原連絡先
高分子基盤技術研究センター

 ポリエチレン、ポリプロピレンといったオレフィン系高分子(ポリオレフィン)は優れたプラスチック材料として様々な分野で用いられており、現在もその需要は拡大している。これらの特徴としては、高分子の立体的な構造を変えることでいろいろな物理的性質を持つ材料を作れることや、比較的安価で製造できること、また基本的に炭素と水素しか含まないため環境に対する負荷が非常に小さい事などが挙げられる。

 しかし一方で、炭素と水素しか含まない材料は、色が付かない・接着性がよくないなど、機能に乏しいという面がある。こういった機能性を出すためには、高分子中に酸素原子などを含む極性部位がないと難しい。もし、少量の極性部位を有するポリオレフィンが合成できれば、上記のような特徴と機能性を併せ持った、より様々な用途や製品に利用できる材料となることが期待できる。

 一般的にポリオレフィンは、チタンやジルコニウムといった遷移金属の化合物を触媒とし、エチレンやプロピレンを重合して作られる。しかし、これらの触媒は極性基が反応系中にあると、ほとんどの場合働かなくなってしまう。そこで我々は、水酸基をもつオレフィン類をアルミニウム化合物で処理し、これをジルコニウム触媒によりエチレンやプロピレンと共重合する方法を開発してきた(図)。

 この方法では、体積の大きいアルミニウム化合物を用いると効率よく反応を進行させることができる。また触媒の構造を変えることで、様々な構造の水酸基含有ポリオレフィンを合成することができる。例えばこれまでに、エチレンと水酸基ユニットが交互に並んだものや、結晶性のポリプロピレン中に水酸基を含むものなどの合成に成功している。これらの材料はこれまでのポリオレフィンに比べて水によくなじむため、染色性や接着性の向上が期待される。

図
図 水酸基含有ポリオレフィンの合成方法
■関連情報
  • Hagihara H., Murata M., Uozumi T. : Macromol. Rapid Commun. 22, 353-357 (2001).
トップへ

次世代半導体 : 鉄シリサイド

−微小重力下での新しい合成法−
永井 秀明の写真
ながい ひであき 
永井 秀明
永井連絡先
微小重力環境利用材料研究ラボ

 半導体と言えば、今やあらゆるところで使用されるほどポピュラーな材料で、現在の主流はケイ素(シリコンとも呼ばれている)単体でできており、更なる高機能を求めてガリウム砒素やインジウム燐などの化合物半導体が研究、製造されている。しかし、これらの化合物半導体はその資源量が少なく有毒な原料を用いることが多いため、次世代の化合物半導体として資源量が豊富で無毒な鉄とケイ素でできたβ−鉄シリサイド(β相)が注目を集めている。β−鉄シリサイドは鉄とケイ素が 1:2 の原子比で結びついたもので、熱を電気に変換する熱電半導体や高効率な発光素子、太陽電池としての利用が期待されている。良いことずくめのように聞こえるが、鉄とケイ素の化合物は多種多様で半導体としての特性を示すβ相以外に鉄とケイ素が 1:1 の化合物(ε相)と 1:2.25の化合物(α相)などが存在するので、融液から単純に冷却しただけではβ相単相を得ることは難しい。β相組成の凝固物をメカニカルアロイ法で一旦微粉砕混合し、その熱処理によるβ相単相の作製が試みられているが、現在のところβ相単相は得られていない。

 本研究では、ケイ素と鉄がナノレベルで均一に分散した原料を微小重力下で融液を急速に凝固することで作製し、ナノレベルで分散したケイ素と鉄の熱処理により、β相単相を作製することを試みた。その結果、微小重力下では重力の影響が無視できるほど小さくなるため、熱対流や比重差による物質の沈降が抑制され、均一な融液の状態が維持できる。この融液を銅板などの冷却媒体に衝突させることによって均一な融液の状態を急速に凝固させることができ、ナノレベルでケイ素と鉄が分散した凝固物が得られた。この凝固物を850℃に昇温するだけでβ相単相が得られた。

 今後は、融液を利用できることを生かした半導体特性の制御に不可欠な不純物の均一添加や、均一な凝固物を出発原料とした単結晶材料の合成を試みる予定である。

写真1 図
写真 微小重力下で急速凝固したFe-Si合金 図 Fe-Si合金の急冷装置の概略
■関連情報
  • 奥谷猛, 永井秀明, 皆川秀紀, 中田善徳, 鶴江孝, 折橋正樹 : 特許第3087964号 「自由落下液滴の衝突凝固による高品質結晶材料の製造方法」
トップへ

ガラス材料の微細加工と新機能発現

−光通信分野におけるガラス材料の高機能化−
西井 準治の写真
にしい じゅんじ
西井 準治
西井連絡先
光技術研究部門

 光情報通信分野では様々なガラス製機能素子が使われており、その一部は半導体分野と同じフォトリソグラフィーとよばれる微細加工技術を駆使して作られている。しかしながら、ガラス材料は微細加工が極めて難しく、小型化や機能集積化には限界がある。我々は、次世代光デバイスへの応用を目指して、ガラス表面や内部への高精度な二次元的あるいは三次元的な微細加工技術の開発に取り組んでいる。

 図1は、ガラス表面に蛾の目を模倣した周期構造を形成した例である。写真中の一つの構造単位は1/1000mmであるが、さらに極微な加工も可能になりつつある。蛾は微弱な光を捕らえて暗いところでも飛ぶことができる。このような構造を光デバイス表面に形成すれば、微弱な光信号をたとえ斜めから入射しても、常に反射率0.1%以下で素子内部に取り込むことができる。この技術はフラットパネルディスプレイにも応用でき、斜めから見ても明るく鮮明な画像が映し出されることが期待できる。

 一方、光通信の分野では、信号をユーザー毎に分別するためにフィルターが使われる。図2は「光導波路」とよばれる素子の上面写真である。その途中には、必要な信号だけを取り出すために1/2000mmの周期構造をもつフィルターが形成されている。このデバイスは電柱やマンホールなどの過酷な環境下に置かれ、現状では厳密な温度制御をしなければ安定した通信状態が得られない。温度制御にはペルチェ素子とよばれる半導体デバイスが使われ、デバイス1個あたり数十Wの電力の供給が必要である。

 我々は、ガラス組成を改良することによって、フィルター特性の温度による変動を従来比で2/3に低減させ、今後は温度制御を不要にするために、さらに1/10以下を目指す。このような技術は、情報通信分野だけでなく、電子デバイスの間を接続するメタル配線を光配線に置き換える際にも有効であり、情報処理の一層の高速化への貢献が期待される。

図1 図2
図1 ガラス表面に形成した無反射構造
(大阪府立大学 菊田博士との共同研究)
図2 光導波路フィルターのアサーマル化
■関連情報
  • K. Kintaka, J. Nishii, A. Mizutani, H. Kikuta, and H. Nakano : Opt. Lett. Vol. 26, No. 21, pp. 1642-1644 (2001).
トップへ