神経堤は脊椎動物の発生初期に神経板と表皮の境界部に生じる細胞集団で、その細胞は神経管が閉じたあと体内を移動し分化する(図1)。神経堤細胞は感覚神経、内分泌細胞、色素細胞など様々な細胞種に分化することから、その分化メカニズムの解明は再生医学や発生工学の分野で重要な課題となっている。神経堤細胞が発生過程でどのような細胞種になるかは移動前の位置、移動開始時期、移動経路、移動先などの複合的要因により決定することが知られているが、分化制御メカニズムはほとんど分かっていない。
我々は神経堤細胞の分化メカニズム解明を目指し、海産無脊椎動物のホヤを用いて、感覚神経の分化発生を研究している。ホヤを使う理由として、1)単純な神経系で関連する遺伝子が少ないこと、2)胚の形態および発生様式が脊椎動物と類似していること、3)胚細胞の分裂パターンに個体差がほとんどないこと、4)遺伝子導入などの実験操作が確立していることが挙げられる。
我々は感覚神経の分化に関する研究の中で、ゲルゾリン(アクチン結合タンパク質の一種)がホヤ感覚神経に特異的に発現することを見出し、その結果をもとに、ゲルゾリンを感覚神経のマーカーとして利用する手法を開発した(図2)。この手法を用いることにより、感覚神経の前駆細胞が表皮と神経板および表皮と筋肉の境界部に存在し、神経管が閉じたあとに正中線上で分化することを明らかにした(図1)。また、感覚神経の分化誘導が胚の前方と後方で異なることを明らかにした。ホヤ感覚神経の細胞系譜および分化誘導は脊椎動物のものとよく似ており、ホヤ感覚神経の前駆細胞は神経堤細胞の祖先型とも言うべき細胞であることを示唆している。我々はホヤという単純な系を神経堤細胞分化の研究モデルに用いることで、神経堤細胞分化の解明に向けた新たな道を拓いた。
(この研究成果は Developmental Biology 誌11月号に掲載された。)



































