| AIST Today / National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST) |
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ごとう まさたか
後藤 真孝

情報処理研究部門
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音声補完: 音声認識を使いやすく
−言い淀むと助けてくれる音声インターフェース−
コンピュータへの音声入力(音声認識)は、快適なインタフェースを実現する上で重要な役割を果たすことが期待されているが、従来の音声入力には、ユーザにとって心理的抵抗が大きく、話しかけにくいという問題点があった。その理由の一つとして、従来ほとんど指摘されていなかったが、ユーザにすべての音を最初から最後まで丁寧に発声することを暗黙の内に強いていた点が挙げられる。
この問題点を解決し、話しかけやすい音声入力を実現するために、ユーザがある単語を一部しか思い出せずに断片だけを発声しても、音声入力システム側がその残りを補って入力することを可能にする補完機能「音声補完」を、世界で初めて、音声入力インタフェースに導入した。例えば、ユーザが「宇多田ヒカル」を音声入力したいときに、後半を思い出せずに、「うただー」と前半を言いながら言い淀むと、システム側が後半を補って、「宇多田ヒカル」を含む補完候補を提示してくれる(図)。このように、システムが手助けをしてくれることで、入力内容がうろ覚えなときや長くて複雑なときにも、容易に入力できるようになる。
こうした手助けは、ユーザが必要としているときにだけ与えるべきである。そこで、人間が困ったときに、有声休止(母音の引き延ばし)によって言い淀む現象に着目した。そして、上記の例の「だー」のような有声休止をシステムが検出したときだけ補完候補を提示することで、わずらわしくない実用的な音声入力を実現できた。そのための技術として、任意の単語中の有声休止をリアルタイムに検出する技術、有声休止検出時に、音声認識の単語辞書との音響的な類似度に基づいて補完候補を生成・提示する技術の二つを新たに開発した。
「音声補完」のように言い淀みを音声入力で積極的に活用する発想は従来なく、音声インタフェース研究の新たな展開に道を拓くものである。これは、音声入力が有効な多様な応用システムに適用できる基本的なアイデアであり、今後、音声入力インタフェースを構築する上で、不可欠な機能の一つになることが予想される。
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| (PDF:291.4KB)
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| ■関連情報 |
- http://staff.aist.go.jp/m.goto/SpeechCompletion/index-j.html (ムービーファイル有)
- 後藤 真孝, 伊藤 克亘, 速水 悟: 「音声補完: 単語補完ができる新たな音声入力インタフェース」, 日本音響学会 2000年秋季研究発表会, 2-Q-10, 109-110 (2000). (粟屋潔学術奨励賞およびポスター賞を受賞)
- 後藤 真孝, 伊藤 克亘, 秋葉 友良, 速水 悟: 「音声補完: 音声入力インタフェースへの新しいモダリティの導入」, 日本ソフトウェア科学会 WISS 2000, 153-162 (2000). (論文賞および発表賞を受賞)
- M. Goto, K. Itou, T. Akiba, S. Hayamizu: Speech Completion: New Speech Interface with On-demand Completion Assistance, Proc. of HCI International 2001, Vol. 1, 198-202 (2001).
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おおば ひでき
大庭 英樹

基礎素材研究部門
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レクチンによる白血病細胞の分離
−カラムと磁性微粒子による手法の有用性−
レクチンは糖と特異的に結合する蛋白質の総称で、赤血球凝集作用、リンパ球の分裂促進、細胞毒性やガン細胞特異的凝集作用などの様々な生物活性を有する。これらの生物活性はいずれもレクチンの細胞表面糖鎖への結合により引き起こされる。一方、白血病は悪性腫瘍の中でも特に重篤な疾病に挙げられていて、その発症率は年々増加の傾向にあるが、現行の治療法には限界があるため、それを補う新規な治療法の開発が求められている。当研究グループでは新規な白血病細胞分離用システムの開発を目指して、レクチンの糖鎖構造識別能を応用した当システムのための基盤材料、すなわち白血病細胞と正常リンパ球を識別できる分離材の作製を、下記に紹介する2つの方法で試みている。
1つはガラス管中に吸収担体をセットしたカラムを用いる方法で、レクチンをアガロースやセルロースからなるカラム担体に官能基を介して共有結合させて親和性カラム(図1)を調製し、白血病細胞と正常リンパ球を分離するものである。CNBr活性化セファロース“6MB”にトウアズキ種子レクチンを共有結合させて調製したカラムに健常人の末梢血から分離した正常リンパ球と急性リンパ性白血病由来のJurkat細胞を添加した。カラムに捕捉された両細胞は、濃度の異なるラクトースによって分離してカラムから溶出された。この結果はこのレクチンカラムが白血病細胞と正常リンパ球を分画できることを示している。
次の方法として直径数µmの磁性微粒子に植物種子レクチンを担持させたレクチン担持磁性微粒子を調製した(図2)。担持されたレクチンが細胞表面糖鎖を認識して細胞と結合したのち、この磁気を帯びた細胞を磁石により分離するものである。我々は正常リンパ球とJurkat細胞を用いてこの方法の有用性を証明した。
今後はこれら分離材の実用化に向けて、他の白血病由来の株化細胞に加え、白血病罹患者から分離したリンパ球を用いたデータを蓄積していく予定である。
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| 図1 レクチン親和性カラムの調整 |
図2 レクチン担持磁性微粒子の調整 |
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| (PDF:74.1KB)
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| ■関連情報 |
- 大庭英樹:化学と生物、第34巻(11)706-707 (1996).
- S. MORIWAKI, H. OHBA, O. NAKAMURA, I. SALLAY, M. SUZUKI, H. TSBOUCHI, N. YAMASAKI: J. Hematotherapy & Stem Cell Res., Vol.9 (6), 877-883 (2000).
- I. SALLAY, S. MORIWAKI, O. NAKAMURA, S. YASUDA, M. KIMURA, N. YAMASAKI, K. ITOH, H. OHBA: J. Hematotherapy & Stem Cell Res., Vol.9 (1), 47-53 (2000).
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あきやま ゆたか
秋山 泰

生命情報科学研究センター
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生命情報科学と大規模PCクラスタ
−Pentium系で世界一の654GFlopsを達成−
バイオインフォマティクス(生命情報科学)は、並列計算技術との相性が特に良い分野である1)。近年では米国セレラ社が数百億円相当の計算機を投じ、迅速なヒトゲノム解析を行った事が記憶に新しい。強力な計算パワーを有するか否かは、単なる時間節約の問題ではなく、いまや研究の生命線である。なぜなら単純な相同性解析で機能推定を行う牧歌的時代が去り、遺伝子発現制御ネットや代謝経路のシステム的な理解、異種ゲノム間比較、タンパク質の立体構造予測など膨大な計算量を伴う方法論に足を踏み入れない限り、未知遺伝子の機能理解が困難になってきたためである。これら複雑な手法を、試行錯誤しながら開発するには、従来より数桁高速な計算環境が必要である。
我々は世界に先駆けて約4年前から種々のパソコン(PC)クラスタを構築し、並列バイオインフォマティクス研究を進めてきた。2001年2月には、933MHzのPentium IIIプロセッサを合計1040台用いた大規模PCクラスタ(写真)を構築した。往復4Gbpsの速度をもつMyrinet2000による相互接続網、SCore並列OSの搭載などPC間の通信能力を高め、通信重視の分子シミュレーション等も可能とした。現在、当研究センターの基幹マシンとして、タンパク質立体構造予測、ゲノムからの遺伝子発見、電顕画像からの単粒子解析など様々な研究に駆使している。
本年9月、我々はスパコンの性能比較に用いられるLinpackベンチマーク2)を実行し、同クラスタの実効演算能力を調べた。Linpackはガウス消去法による大規模密行列解法を行い速度を測定するものだが、並列計算機向けカテゴリでは、行列サイズや分割法など様々なパラメータをマシンの特性に合わせて調整して良いルールになっており、良くも悪くも生のハードウェア性能だけでなく、システムソフトウェアの整備や測定者の技量が関与する。我々は産総研先端情報計算センター(TACC)と新情報処理開発機構(RWCP)の協力を得て、最終的に654GFlops(1GFlopsは1秒間に10億回の実数値演算)の性能を記録した。世界のスパコンをLinpack性能順に並べたTop500統計3),4)の最新版(表)によれば同性能は世界第39位。Pentium系PCクラスタでは従来最高だったIBM製クラスタ(第41位)を抜き世界一である。ただしPCの範疇かは別として、新型のItaniumプロセッサ(64bit)のクラスタ(第34位)も登場している。
生命情報科学研究において、大規模PCクラスタは先端的な実験装置のような役割を担っている。使いこなす利用技術の地道な蓄積と、それを活かす素晴らしい研究アイデア5)の両輪が常に重要である。
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| 写真 1040プロセッサのPCクラスタ “CBRC Magi” |
表 Top500リスト(2001年11月版)から抜粋 |
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| (PDF:45.1KB)
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| ■関連情報 |
1)秋山 泰: 大規模並列計算機によるタンパク質情報解析, 人工知能学会誌, Vol.15, No.1, 27-34 (2000).
2)建部修見: LINPACKベンチマーク, bit, Vol.33, No.2, 11-13 (2001).
3)Top500 2001年11月版 ( http://www.top500.org/lists/2001/11/ )
4)朴 泰祐: TOP500, bit, Vol.33, No.2, 14-16 (2001).
5)諏訪牧子: GPCRの網羅的発見と解析, AIST Today p.8 (2001.10).
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かとう ともひさ
加藤 智久

パワーエレクトロニクス研究センター
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次世代パワー半導体結晶SiC
−SiC単結晶成長の欠陥を抑制−
SiC(炭化珪素)パワーデバイスは既存のSiデバイスに比べ損失の少ない素子が実現可能とされ、電力エネルギーの有効利用に一資すると期待されている。低損失SiCパワーデバイスを実現するためには、その基板材料であるSiCバルク単結晶の高品質化が不可欠である。SiCバルク結晶は黒鉛坩堝に装填されたSiC原料粉末を2000℃以上に加熱し、SiC種結晶上に昇華再結晶化させる方法(昇華法)で成長させる。ところが、成長結晶中の転位密度は〜数十万cm-2と多い上、マイクロパイプと呼ばれる直径〜10µmの特異な中空のパイプ状貫通欠陥も50〜100cm-2存在する。欠陥が及ぼすデバイス特性への影響もすでに報告されているが、転位や欠陥を完全に抑制する手段は未だ見つかっていない。昇華法によるSiC成長の実時間観察装置を用いて欠陥発生の起源を詳しく調べたところ、欠陥の多くは成長初期に発生する転位が起源であることが判明した1)。これは種結晶表面に残る研磨のダメージや、種結晶形状が坩堝内の等過飽和度曲線(等温度線)に沿わないため初期の成長速度に分布が出来てしまうことが原因と考えられる。そこで、種結晶表面を改善することで転位発生を抑制する着想を得て、成長前にインプロセスで種結晶を昇華エッチングした後、連続的に成長へ移行する新しい手法を開発した2)。 本手法では、エッチングから始まるように種結晶の形状を周辺の等温度線より大きく突出させて準備し、坩堝の壁に析出する多結晶を利用して温度分布の変化をうまく制御することでエッチングから成長へ自動的に移行する仕組みとなっている。また、坩堝の加熱条件を全く変化させることなく行えるため簡便で、かつ高いエッチングレートでも結晶の炭化による失敗が極めて発生しにくい特徴がある。図1は本手法により成長したSiC結晶の縦断面の写真とそのX線トポグラフである。写真中の結晶の右半分だけをインプロセスエッチングされるようにしたところ、結晶の左半分はらせん転位などの発生が多数観察されるが、右半分からはそれが観察されず、インプロセスエッチングによる転位の抑制効果が明確に示されている。またこの手法を用いると、成長初期の転位を抑制するだけでなく、種結晶に存在するマイクロパイプを成長結晶との界面で効果的に閉塞でき、一回の成長でマイクロパイプの密度を最高1/10まで減らすことに初めて成功した(図2)2)。本手法を大口径SiC結晶にも応用することによって、デバイスサイドからの要求に充分応えられる大型高品質SiCウェハを実現することが次の目標である。
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図1 (a)インプロセスエッチング後に成長させたSIC結晶の断面写真と (B)そのX線トポグラフ |
図2 種結晶−成長結晶界面で閉塞されたマイクロパイプ |
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| (PDF:80.7KB)
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| ■関連情報 |
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1) T.Kato, N.Oyanagi, H.Yamaguchi, S.Nishizawa, M.N.Khan, Y.Kitou and K.Arai : Journal of Crystal Growth, Vol.222, 579-585 (2001).
2) T.Kato, S.Nishizawa and K.Arai : Journal of Crystal Growth, Vol.233, 219 ー225 (2001).
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| ■関連情報 |
- H. Togashi: Chem. Lett., 704-705 (2000).
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