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AIST Today VOL.1 No.10

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AIST Today / National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
 表紙 (PDF:283.8KB)
 目次
 メッセージ (PDF:13.3KB)
産総研との連携に期待
つくば市長  藤澤 順一  
 トピックス (PDF:302.8KB)
リアルワールド・コンピューティング(RWC)プロジェクトの集大成を展示
オープンハウス2001 (PDF:1.2MB)
 最新情報           
視覚障害者遠隔支援システム 次世代半導体研究センター
音声補完: 音声認識を使いやすく 情報処理研究部門
セキュリティ機能付きデータ圧縮 次世代半導体研究センター
進化型フェムト秒レーザーシステム 次世代半導体研究センター
レーザ光による微粒子の操作 海洋資源環境研究部門
可視光で100nmの微細加工 次世代光工学研究ラボ
レクチンによる白血病細胞の分離 基礎素材研究部門
生命情報科学と大規模PCクラスタ 生命情報科学研究センター
室温作動 水素ガスセンサー シナジーマテリアル研究センター
次世代パワー半導体結晶SiC パワーエレクトロニクス研究センター
強磁性トンネル接合の量子サイズ効果 エレクトロニクス研究部門
大きなイオンの生成と気相中への放出 計測標準研究部門
 特集 (PDF:217.7KB)
(PDF:443.5KB)
ナノテクノロジー・材料分野の課題と産総研の取り組み
 テクノ・インフラ (PDF:76.3KB)
計量標準総合センターの計量標準整備計画について
生体材料の標準化研究
第16回国際地質情報コンソーシウム(ICGSECS)会議報告
ライフサイクルアセスメント用ソフトウェア「NIRE-LCA Ver.3」の開発
 パテント 知能システム研究部門
技術移転いたします!
  三次元視覚システム
  布のハンドリング技術
 フロンティア
生物資源高度利用連携研究体 (PDF:21.5KB)
発根促進物質の利用 (PDF:123.7KB)
 AIST NETWORK (PDF:93.1KB)
生物情報解析研究センター設立記念式典
産総研計量標準総合センター(NMIJ)講演会
関西センター研究所公開
第2回産総研・技術情報セミナー
四国センター研究成果発表会
在庫切れ地質図の注文プリント開始
中部センター移転後の主な連絡先
イベント案内

視覚障害者遠隔支援システム

−視覚障害者の自立に貢献−
関田 巖の写真
せきた いわお
関田 巖
関田連絡先
次世代半導体研究センター

 視覚障害者遠隔支援システムは、視覚障害者のまわりの状況をメガネやイヤホンなどに仕込まれている超小型ビデオカメラで撮り、PHS通信などによって、遠隔地にいる支援者に動画像を提供するものである。支援者は、視覚障害者と同じ目線の動画像を見ながら音声で支援できる。

 視覚障害者は日常生活の中で、ヘルパーを呼ぶ程ではないが、ちょっとだけ介助してもらいたいときがしばしば生ずる。例えば、「郵便を分けたい」、「好みの色の服や靴下を選びたい」、「液晶表示の内容を確認したい」、「冷凍食品の種類を確認したい」、「自動販売機で好みのドリンクを選びたい」、「おつりを確かめたい」、「付近で助けてくれそうな人がどこにいるか教えて欲しい」などである。

 障害者には各種支援制度があるが、ヘルパーを利用できる時間、場所、目的に制約のあることが多く、予約なしに短時間だけでもすぐに利用することはできない。本システムを利用することによって、いつでもどこでもヘルパーを呼び出すことが可能となり、遠方にいる家族から支援を受けることも可能となる。また、肢体の不自由な方や、足腰の弱った高齢の方などが支援者となることもできる。

 開発したシステムには、以下の2つの特徴がある。

  1. ビデオカメラやマイク、スピーカーが目立たないように、「メガネやイヤホンに仕込まれていること」(例え役立つとも、目立つ機器は視覚障害者に使ってもらえないのである)(装着例 図1)。
  2. 視覚障害者のニーズに合わせた支援が行えるよう、動画像音声通信プログラムの機能(画質、明るさ、フレームレートfpsなど)を「遠隔地から制御できること」(支援者の例 図2)。

 開発にあたり、東京都心身障害者福祉センターなどの協力を得た。それは、視覚障害者のニーズや、支援機器の有効性について、客観的な評価を得るためである。また、評価実施母体として、特定非営利活動法人“目の不自由な人と共に歩行を考えるしろがめ塾”を設立した。10月のRWC2001では、電子出版のコンテンツとして、ガイドヘルプ技術の教科書を提供した。

 今後は、利用用途拡大を図るため、イメージセンサーの高性能化の研究も進めたい。

図1(a) 図1(b) 図2
図1 (a)イヤホン型カメラで看板を見ているところ 図1 (b)メガネ型カメラの装着例 図2 支援者の例
■関連情報
  • 共同研究者:樋口 哲也(次世代半導体研究センター)、内田ユリ子(次世代半導体研究センター)
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音声補完: 音声認識を使いやすく

−言い淀むと助けてくれる音声インターフェース−
後藤 真孝の写真
ごとう まさたか
後藤 真孝
後藤連絡先
情報処理研究部門

 コンピュータへの音声入力(音声認識)は、快適なインタフェースを実現する上で重要な役割を果たすことが期待されているが、従来の音声入力には、ユーザにとって心理的抵抗が大きく、話しかけにくいという問題点があった。その理由の一つとして、従来ほとんど指摘されていなかったが、ユーザにすべての音を最初から最後まで丁寧に発声することを暗黙の内に強いていた点が挙げられる。

 この問題点を解決し、話しかけやすい音声入力を実現するために、ユーザがある単語を一部しか思い出せずに断片だけを発声しても、音声入力システム側がその残りを補って入力することを可能にする補完機能「音声補完」を、世界で初めて、音声入力インタフェースに導入した。例えば、ユーザが「宇多田ヒカル」を音声入力したいときに、後半を思い出せずに、「うただー」と前半を言いながら言い淀むと、システム側が後半を補って、「宇多田ヒカル」を含む補完候補を提示してくれる(図)。このように、システムが手助けをしてくれることで、入力内容がうろ覚えなときや長くて複雑なときにも、容易に入力できるようになる。

 こうした手助けは、ユーザが必要としているときにだけ与えるべきである。そこで、人間が困ったときに、有声休止(母音の引き延ばし)によって言い淀む現象に着目した。そして、上記の例の「だー」のような有声休止をシステムが検出したときだけ補完候補を提示することで、わずらわしくない実用的な音声入力を実現できた。そのための技術として、任意の単語中の有声休止をリアルタイムに検出する技術、有声休止検出時に、音声認識の単語辞書との音響的な類似度に基づいて補完候補を生成・提示する技術の二つを新たに開発した。

 「音声補完」のように言い淀みを音声入力で積極的に活用する発想は従来なく、音声インタフェース研究の新たな展開に道を拓くものである。これは、音声入力が有効な多様な応用システムに適用できる基本的なアイデアであり、今後、音声入力インタフェースを構築する上で、不可欠な機能の一つになることが予想される。

図
■関連情報
  • http://staff.aist.go.jp/m.goto/SpeechCompletion/index-j.html (ムービーファイル有)
  • 後藤 真孝, 伊藤 克亘, 速水 悟: 「音声補完: 単語補完ができる新たな音声入力インタフェース」, 日本音響学会 2000年秋季研究発表会, 2-Q-10, 109-110 (2000). (粟屋潔学術奨励賞およびポスター賞を受賞)
  • 後藤 真孝, 伊藤 克亘, 秋葉 友良, 速水 悟: 「音声補完: 音声入力インタフェースへの新しいモダリティの導入」, 日本ソフトウェア科学会 WISS 2000, 153-162 (2000). (論文賞および発表賞を受賞)
  • M. Goto, K. Itou, T. Akiba, S. Hayamizu: Speech Completion: New Speech Interface with On-demand Completion Assistance, Proc. of HCI International 2001, Vol. 1, 198-202 (2001).
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セキュリティ機能付きデータ圧縮

−測量地図配信で実用化−
坂無 英徳の写真
さかなし ひでのり
坂無 英徳
坂無連絡先
次世代半導体研究センター

 データ圧縮は、テキストや音声をより小さなデータに変換する技術である。産総研が開発した分散参照方式(Dispersed Reference Method)に基づくデータ圧縮技術(以下DR圧縮)は、特に印刷データの圧縮に秀でており、現行の国際標準の約2倍の圧縮率を達成したものである。様々なタイプの画像において高い圧縮率を得ることができ、その平均圧縮率は約30(元のデータの30分の1の大きさに圧縮)、最大で50以上の性能を、ロスレス圧縮(圧縮したデータを復元したとき、もとのデータが一切失われることのない圧縮)で実現している。この高圧縮率の達成により本DR圧縮は現在ISOで標準化中である。

 このDR圧縮に対して、信州大学の田中清助教授は暗号化と電子透かしを組み込み、非常に堅牢なセキュリティ機能を持たせた。このセキュリティ機能は、地図データ専用に開発したもので、第三者からの攻撃(改ざん、切り取り)に対しても強い耐性を示す。これによって、従来はその大きさのために宅急便で送らざるを得なかった測量地図を、メールに添付できるサイズまで圧縮可能になり、かつセキュリティ機能を実現することで、たとえば公共工事支援の統合情報システムなど、電子的な地図、設計データのやり取りが可能になることが期待される。主なメリットをまとめると次のとおりである。

 ○ 測量地図データの保管、検索、配信の効率化
 土木建設工事の大量の地図、図面をDR圧縮によりコンパクトに保存できる。また、工事現場と設計事務所間の地図、設計データ配信をメールで行える。

 ○ 電子納品時代への対応
 国土交通省が推進する建設CALS/EC(2010年までに全国自治体の受発注者間の図面、写真などのやりとりをすべて電子化)において、このDR圧縮は、圧倒的な圧縮が可能である。

 ○ 改ざんおよび不正二次利用の防止、著作権保護
 地図データ専用に開発された暗号化、電子透かしの機能により、これらを実現する。

 なお、本技術は通商産業省(現経済産業省)の第一号ベンチャーである(株)進化システム総合研究所より(株)ジェックとともに実用化される予定である。

図1
図1 データ圧縮の原理
予測機は、参照画素の値を観測し、注目画素(?で示す)の値を予測する。
図中、?は注目画素、灰色は予測時に参照可能な領域で、黄色の画素は実際に予測時に選ばれたことを示す。
図2
図2 測量地図配信のしくみ
■関連情報
  • 共著者:樋口 哲也(次世代半導体研究センター)
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進化型フェムト秒レーザーシステム

−自動調整・小型化の実現で産業応用を加速−
樋口 哲也の写真
ひぐち てつや
樋口 哲也
樋口連絡先
次世代半導体研究センター

 フェムト(10-15)秒レーザーは、その短パルス性と高いピーク強度という特徴から、次世代光源として、高品質の加工だけでなく半導体プロセスへの応用が期待されている。しかし、内部の光強度がメガ(1,000,000)ワット以上のため、光非線形と呼ばれる効果が顕在化する。そのため、最適配置を実現するには、鏡の位置をマイクロメートルの精度で設置する必要がある。一軸当たりの探索を100(1mmを10µmの精度で調整することに相当する)とすると、調整箇所が10個所あると、探索空間は10010という天文学的なものとなる。フェムト秒レーザーの調整箇所は10軸以上であることから、その初期調整の最適化は熟練者により行われており、1週間以上の調整時間となる。

 我々は、以下の3技術を開発し、システムとして統合することにより、進化型フェムト秒レーザーシステムを世界で初めて実現した。

(1)多数の調整パラメータから最適な解を導き出すアルゴリズム
(2)小型で高精度の位置センサー
(3)小型で高精度の駆動機構

 システムの構成を図1に示す。M1からM4からなる4つの自動調整ホルダーが内蔵されており、あおり・ふれ・焦点の自動調整が可能となっている。システムの制御は、市販のノートパソコンで行った。位置センサーは、静電容量式である。センサーの位置分解能と、駆動機構の位置精度はマイクロメートル以下である。センサーと駆動機構をホルダと一体化することにより、レーザーの小型化が実現された。調整結果を図2に示す。横軸が調整回数に相当し、縦軸がフェムト秒の出力に相当する。並列的なアルゴリズムであることから、調整途中では配置の違いによるばらつきが出る。ばらつきの最小値と最大値と平均値が示されており、調整とともに収束して行くことが判る。その結果、調整時間を従来の100分の1以下の30分と大幅に短縮した。その場での自動調整が可能な小型フェムト秒レーザーを実現したことから、実験室内に留まっていたフェムト秒レーザーを、産業の現場に持ち込むことが可能となる。開発されたシステムは、フェムト秒レーザーのみならず、各種光応用計測にも応用が可能であり、今後の産業応用が期待される。

図1 図2
図1 システムの構成図 図2 出力図
■関連情報
  • 共著者:板谷 太郎(光技術研究部門)
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レーザ光による微粒子の操作

−同期走査光による非接触マイクロ配置−
田中 芳夫の写真
たなか よしお
田中 芳夫
田中連絡先
海洋資源環境研究部門

 光が物質の界面で反射・屈折する際、その界面には力(光放射圧)が発生する。この放射圧を利用して、1970年にベル研究所のAshkin博士らが、水中の高分子微粒子のレーザ光による捕捉に成功した。それ以来、この技術はナノからマイクロメートルサイズの対象物を、非接触で捕捉、操作できる方法として注目されている。特に、分子生物学等の分野においては、非破壊的に細胞やDNA操作を行える研究ツール(光ピンセット)として知られている。しかし、この光ピンセットは、周囲の媒質より低屈折率の物質や光を反射する物質を捕捉、操作できないことが欠点であった。

 我々の研究グループでは、複数のレーザ光の同期走査により光の空洞を形成し、この中に周囲の媒質より低屈折率の物質や光を反射する物質を閉じこめることで、光ピンセットでは操作できなかった対象物のマイクロ操作を可能とした(レーザ走査マニピュレーション)。図1は、この方法による金属微粒子配置の原理を示している。レーザ光を顕微鏡の対物レンズで集光して金属微粒子に照射した場合、光放射圧により、微粒子ははじき飛ばされてしまう(図1(a))。しかし、複数のレーザ光を同期して走査することで、間に光の空洞が形成され、この中に微粒子を配置することが可能となる(図1(b))。図2は、2本のレーザ光の同期走査により光の空洞を形成し、その中に銀微粒子を直線および円弧状に配列した写真である。

 レーザ走査マニピュレーションと光ピンセットを相補的に用いることで、光の屈折率に関係なく、微粒子の非接触マイクロ操作が可能となった。レーザ光を用いた非接触マイクロ操作の特徴は、ミクロンサイズの液滴や気泡の操作も可能であることと、コンピュータによる自動化に適している点にある。現在、これらの特徴を生かして、海洋生物由来の極微量の生体高分子、液滴等を高精度にマイクロ配置する技術の確立をめざして研究を進めている。

図1
図1 レーザ走査マニピュレーションによる微粒子配置操作の原理
図2
図2 銀微粒子を光の空洞に閉じ込め配列させた様子
■関連情報
  • 田中芳夫,三澤弘明,木内陽介:計測自動制御学会論文集, Vol. 36, No.5, 459-461 (2000).
  • 田中芳夫,三澤弘明,木内陽介,住友敬,榊原実雄:特開2001-232182, 微粒子の配列方法.
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可視光で100 nmの微細加工

−レジストの熱反応を利用、次世代光記録に−
桑原 正史の写真
くわはら まさし 
桑原 正史
桑原連絡先
次世代光工学研究ラボ

 次世代光工学研究ラボでは、可視光を用いて100 nm(nmは10-9m)の微細パターンを形成できる新しい加工技術を開発した。従来の光利用の加工方法でこのような微細パターンを形成しようとすると、高価な短波長光源の露光装置が必要となるが、今回用いた光源は赤色半導体レーザーであり、低コストの微細パターン形成技術となり得る。今後さらに研究を進めることによって、次世代の大容量光ディスクの原盤作製技術として応用できるものと期待している。

 今回の開発技術では、レーザー光の照射で発生する熱によってレジスト膜にパターンを形成する方式を利用した。このような方式は、熱リソグラフィとして知られているが、反応を微細領域に限定することは困難であった。今回の開発技術のポイントは、基板構造やレーザー照射条件を工夫することによって、熱発生の領域をレーザーのスポット径よりはるかに微細化できたことにある。

 実験では、光ディスク基板上に、レーザー光を効率よく吸収して熱を発生する性質の膜(相変化記録材料であるGe2Sb2Te5)を形成し、その表面に熱によって反応するタイプのフォトレジストを塗布して試験用光ディスク基板とした。レーザー照射でGe2Sb2Te5膜中に熱を発生させ、その熱でレジスト中に反応を起こすことにより、微細な構造の作製を試みた。この試験光ディスクを線速6m/sで回転させながら、裏面から波長635nmの赤色レーザーを照射し、加熱を行った。レーザーのパワーや試料の回転速度を制御することによって、熱の広がりをレーザースポット径(約1ミクロン)よりはるかに小さくすることができ、その結果、連続光照射で線幅110nmのラインパターン(図1)、パルス光照射で直径80nmのドットパターン(図2)を形成することができた。レジスト膜を直接加熱するのではなく、Ge2Sb2Te5膜を形成してこの膜に波長635nmの可視光を照射し、発生した熱をレジスト反応に利用することによって照射光の波長の6分の1程度の微細加工に成功した。

図1 図2
図1 加工後の原子間力顕微鏡像
ライトパターン
図2 加工後の原子間力顕微鏡像
ドットパターン
■関連情報
  • M. Kuwahara et al. : Abatract of Micro and Nano-Engineering(MNE)2001, 414-415, France, Grenoble.
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レクチンによる白血病細胞の分離

−カラムと磁性微粒子による手法の有用性−
大庭 英樹の写真
おおば ひでき
大庭 英樹
大庭連絡先
基礎素材研究部門

 レクチンは糖と特異的に結合する蛋白質の総称で、赤血球凝集作用、リンパ球の分裂促進、細胞毒性やガン細胞特異的凝集作用などの様々な生物活性を有する。これらの生物活性はいずれもレクチンの細胞表面糖鎖への結合により引き起こされる。一方、白血病は悪性腫瘍の中でも特に重篤な疾病に挙げられていて、その発症率は年々増加の傾向にあるが、現行の治療法には限界があるため、それを補う新規な治療法の開発が求められている。当研究グループでは新規な白血病細胞分離用システムの開発を目指して、レクチンの糖鎖構造識別能を応用した当システムのための基盤材料、すなわち白血病細胞と正常リンパ球を識別できる分離材の作製を、下記に紹介する2つの方法で試みている。

 1つはガラス管中に吸収担体をセットしたカラムを用いる方法で、レクチンをアガロースやセルロースからなるカラム担体に官能基を介して共有結合させて親和性カラム(図1)を調製し、白血病細胞と正常リンパ球を分離するものである。CNBr活性化セファロース“6MB”にトウアズキ種子レクチンを共有結合させて調製したカラムに健常人の末梢血から分離した正常リンパ球と急性リンパ性白血病由来のJurkat細胞を添加した。カラムに捕捉された両細胞は、濃度の異なるラクトースによって分離してカラムから溶出された。この結果はこのレクチンカラムが白血病細胞と正常リンパ球を分画できることを示している。

 次の方法として直径数µmの磁性微粒子に植物種子レクチンを担持させたレクチン担持磁性微粒子を調製した(図2)。担持されたレクチンが細胞表面糖鎖を認識して細胞と結合したのち、この磁気を帯びた細胞を磁石により分離するものである。我々は正常リンパ球とJurkat細胞を用いてこの方法の有用性を証明した。

 今後はこれら分離材の実用化に向けて、他の白血病由来の株化細胞に加え、白血病罹患者から分離したリンパ球を用いたデータを蓄積していく予定である。

図1 図2
図1 レクチン親和性カラムの調整 図2 レクチン担持磁性微粒子の調整
■関連情報
  • 大庭英樹:化学と生物、第34巻(11)706-707 (1996).
  • S. MORIWAKI, H. OHBA, O. NAKAMURA, I. SALLAY, M. SUZUKI, H. TSBOUCHI, N. YAMASAKI: J. Hematotherapy & Stem Cell Res., Vol.9 (6), 877-883 (2000).
  • I. SALLAY, S. MORIWAKI, O. NAKAMURA, S. YASUDA, M. KIMURA, N. YAMASAKI, K. ITOH, H. OHBA: J. Hematotherapy & Stem Cell Res., Vol.9 (1), 47-53 (2000).
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生命情報科学と大規模PCクラスタ

−Pentium系で世界一の654GFlopsを達成−
秋山 泰の写真
あきやま ゆたか 
秋山 泰
秋山連絡先
生命情報科学研究センター

 バイオインフォマティクス(生命情報科学)は、並列計算技術との相性が特に良い分野である1)。近年では米国セレラ社が数百億円相当の計算機を投じ、迅速なヒトゲノム解析を行った事が記憶に新しい。強力な計算パワーを有するか否かは、単なる時間節約の問題ではなく、いまや研究の生命線である。なぜなら単純な相同性解析で機能推定を行う牧歌的時代が去り、遺伝子発現制御ネットや代謝経路のシステム的な理解、異種ゲノム間比較、タンパク質の立体構造予測など膨大な計算量を伴う方法論に足を踏み入れない限り、未知遺伝子の機能理解が困難になってきたためである。これら複雑な手法を、試行錯誤しながら開発するには、従来より数桁高速な計算環境が必要である。

 我々は世界に先駆けて約4年前から種々のパソコン(PC)クラスタを構築し、並列バイオインフォマティクス研究を進めてきた。2001年2月には、933MHzのPentium IIIプロセッサを合計1040台用いた大規模PCクラスタ(写真)を構築した。往復4Gbpsの速度をもつMyrinet2000による相互接続網、SCore並列OSの搭載などPC間の通信能力を高め、通信重視の分子シミュレーション等も可能とした。現在、当研究センターの基幹マシンとして、タンパク質立体構造予測、ゲノムからの遺伝子発見、電顕画像からの単粒子解析など様々な研究に駆使している。

 本年9月、我々はスパコンの性能比較に用いられるLinpackベンチマーク2)を実行し、同クラスタの実効演算能力を調べた。Linpackはガウス消去法による大規模密行列解法を行い速度を測定するものだが、並列計算機向けカテゴリでは、行列サイズや分割法など様々なパラメータをマシンの特性に合わせて調整して良いルールになっており、良くも悪くも生のハードウェア性能だけでなく、システムソフトウェアの整備や測定者の技量が関与する。我々は産総研先端情報計算センター(TACC)と新情報処理開発機構(RWCP)の協力を得て、最終的に654GFlops(1GFlopsは1秒間に10億回の実数値演算)の性能を記録した。世界のスパコンをLinpack性能順に並べたTop500統計3),4)の最新版(表)によれば同性能は世界第39位。Pentium系PCクラスタでは従来最高だったIBM製クラスタ(第41位)を抜き世界一である。ただしPCの範疇かは別として、新型のItaniumプロセッサ(64bit)のクラスタ(第34位)も登場している。

 生命情報科学研究において、大規模PCクラスタは先端的な実験装置のような役割を担っている。使いこなす利用技術の地道な蓄積と、それを活かす素晴らしい研究アイデア5)の両輪が常に重要である。

写真1 表1
写真 1040プロセッサのPCクラスタ “CBRC Magi” 表 Top500リスト(2001年11月版)から抜粋
■関連情報
  • 1)秋山 泰: 大規模並列計算機によるタンパク質情報解析, 人工知能学会誌, Vol.15, No.1, 27-34 (2000).
  • 2)建部修見: LINPACKベンチマーク, bit, Vol.33, No.2, 11-13 (2001).
  • 3)Top500 2001年11月版 ( http://www.top500.org/lists/2001/11/
  • 4)朴 泰祐: TOP500, bit, Vol.33, No.2, 14-16 (2001).
  • 5)諏訪牧子: GPCRの網羅的発見と解析, AIST Today p.8 (2001.10).
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室温作動 水素ガスセンサー

−水素エネルギー社会の到来に向けて−
村山 宣光の写真
むらやま のりみつ
村山 宣光
村山連絡先
シナジーマテリアル研究センター

 21世紀は水素エネルギー社会と言われており、燃料電池自動車や家庭用分散型燃料電池発電装置の研究開発が、精力的に進められている。水素ガスは潜在的には豊富な燃料であり、環境負荷が少ないといった利点がある反面、爆発しやすいなどの欠点もある。水素エネルギー社会の到来を控え、水素濃度を精密に制御するための水素濃度センサーや、安全性を確保するための水素ガス漏れ検知センサーの重要性は高まると考えられる。

 従来の水素ガスセンサーは、酸化物半導体の一つである酸化スズの表面に吸着している酸素と、水素ガスとの反応に伴う酸化スズの電気抵抗の変化を検出している。このため、酸素分子の吸脱着を十分起こさせるためにはセンサー素子を400 ℃程度に加熱する必要があった。さらに、水素ガスの他にもメタンガス、一酸化炭素等の可燃性ガスにも応答してしまうといった問題があった。

 当研究センター環境認識材料チームは、熱電変換材料と白金触媒の組み合わせにより、水素ガスだけに応答し、かつ室温で作動するガスセンサーを考案し、その基本動作の確認に成功した。新しい水素ガスセンサーは、熱電変換材料膜とその表面の一部の上に形成された白金触媒膜で構成される(図1)。熱電変換材料とは、温度勾配をゼーベック効果により電圧に変換する材料である。水素ガスと白金触媒膜との発熱反応により発生する局部的な温度差を、熱電変換材料膜により電圧信号に変換する。室温では白金触媒が水素ガスだけに反応するため、水素ガスに対する優れた選択性が実現される。また、室温作動を実現したことは、従来型のセンサーのように常時加熱が不要となり、構造が単純で、消費電力が少なく、かつシリコン基板上への集積化を容易にする。

 今回試作したセンサー素子では、熱電変換材料としてリチウムを添加した酸化ニッケルを用いた。スクリーン印刷法により酸化ニッケル厚膜を作製し、その上の一部にスパッタリング法により白金触媒膜を形成した。室温では、水素1%空気の混合ガスに対して、電圧信号が約0.15mVであり、水素ガスセンサーとしての基本動作を確認した(図2)。また、水素ガス選択性も確認した。さらに、水素ガス濃度が高くなるほど電圧信号は高くなり、濃度センサーとしての応用も期待される。今後は、白金触媒膜および熱電変換材料の最適化ならびにデバイス化を進め、実用化を目指す。

図1 図2
図1 新しい水素ガスセンサの原理と作動中のセンサー素子の様子 図2 室温での水素ガス応答特性
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次世代パワー半導体結晶SiC

−SiC単結晶成長の欠陥を抑制−
加藤 智久の写真
かとう ともひさ
加藤 智久
加藤連絡先
パワーエレクトロニクス研究センター

 SiC(炭化珪素)パワーデバイスは既存のSiデバイスに比べ損失の少ない素子が実現可能とされ、電力エネルギーの有効利用に一資すると期待されている。低損失SiCパワーデバイスを実現するためには、その基板材料であるSiCバルク単結晶の高品質化が不可欠である。SiCバルク結晶は黒鉛坩堝に装填されたSiC原料粉末を2000℃以上に加熱し、SiC種結晶上に昇華再結晶化させる方法(昇華法)で成長させる。ところが、成長結晶中の転位密度は〜数十万cm-2と多い上、マイクロパイプと呼ばれる直径〜10µmの特異な中空のパイプ状貫通欠陥も50〜100cm-2存在する。欠陥が及ぼすデバイス特性への影響もすでに報告されているが、転位や欠陥を完全に抑制する手段は未だ見つかっていない。昇華法によるSiC成長の実時間観察装置を用いて欠陥発生の起源を詳しく調べたところ、欠陥の多くは成長初期に発生する転位が起源であることが判明した1)。これは種結晶表面に残る研磨のダメージや、種結晶形状が坩堝内の等過飽和度曲線(等温度線)に沿わないため初期の成長速度に分布が出来てしまうことが原因と考えられる。そこで、種結晶表面を改善することで転位発生を抑制する着想を得て、成長前にインプロセスで種結晶を昇華エッチングした後、連続的に成長へ移行する新しい手法を開発した2)。 本手法では、エッチングから始まるように種結晶の形状を周辺の等温度線より大きく突出させて準備し、坩堝の壁に析出する多結晶を利用して温度分布の変化をうまく制御することでエッチングから成長へ自動的に移行する仕組みとなっている。また、坩堝の加熱条件を全く変化させることなく行えるため簡便で、かつ高いエッチングレートでも結晶の炭化による失敗が極めて発生しにくい特徴がある。図1は本手法により成長したSiC結晶の縦断面の写真とそのX線トポグラフである。写真中の結晶の右半分だけをインプロセスエッチングされるようにしたところ、結晶の左半分はらせん転位などの発生が多数観察されるが、右半分からはそれが観察されず、インプロセスエッチングによる転位の抑制効果が明確に示されている。またこの手法を用いると、成長初期の転位を抑制するだけでなく、種結晶に存在するマイクロパイプを成長結晶との界面で効果的に閉塞でき、一回の成長でマイクロパイプの密度を最高1/10まで減らすことに初めて成功した(図2)2)。本手法を大口径SiC結晶にも応用することによって、デバイスサイドからの要求に充分応えられる大型高品質SiCウェハを実現することが次の目標である。

図1(a) 図1(b) 図2
図1 (a)インプロセスエッチング後に成長させたSIC結晶の断面写真と(B)そのX線トポグラフ
図2 種結晶−成長結晶界面で閉塞されたマイクロパイプ
■関連情報
  • 1) T.Kato, N.Oyanagi, H.Yamaguchi, S.Nishizawa, M.N.Khan, Y.Kitou and K.Arai : Journal of Crystal Growth, Vol.222, 579-585 (2001).
  • 2) T.Kato, S.Nishizawa and K.Arai : Journal of Crystal Growth, Vol.233, 219 ー225 (2001).
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強磁性トンネル接合の量子サイズ効果

−電子スピンを利用した能動素子の開発に道−
長浜 太郎の写真
ながはま たろう
長浜 太郎
長浜連絡先
エレクトロニクス研究部門

 強磁性トンネル接合とは、アルミナ等の絶縁障壁層を強磁性金属で挟んだ素子である(図1(a))。障壁層が非常に薄いと、この層を通してトンネル電流が流れるが、その電流はスピン偏極*しているために両電極の磁化の相対的な向きに依存する。例えば、磁化の向きにより抵抗値が70%も変化する。この大きな磁気抵抗効果を利用して、MRAM(強磁性RAM)や磁気ハードディスクの読み出しヘッド、さらには量子演算素子までも作ろうという研究が、今注目を集めており、"スピントロニクス"という新しい研究分野を形成しつつある。

 我々は、世界で初めて数原子層の単結晶鉄からなる強磁性電極をもつ素子を開発し、トンネル磁気抵抗における量子サイズ効果を観測することに成功した。図1(a)は単結晶鉄からなる下部電極をもつ素子の断面透過電子顕微鏡写真である。下部電極の格子像が見られ単結晶となっている。量子サイズ効果は、電子の波動性による干渉効果であり、不純物や粒界などの散乱が多いと観測されない。そのため、良質な単結晶薄膜作製技術が重要である。図2は極薄鉄電極をもつ素子の微分伝導率からバックグラウンドをひいたものである。明らかに正の印加電圧に対し伝導率が振動している。これは、障壁層をトンネルした電子が鉄層中で多重干渉するためである(図1(b))。印加電圧を変えると電子の波長が変化するので伝導率が振動する。同様の振動は磁気抵抗効果においても観測された。これは、下地であるクロムとの間の電子の反射率が電子スピンの向きにより異なるためである(図1(b,c))。この我々の実験結果は、電子スピンを制御することによって、増幅と記録の機能を兼ね備えた新しい素子が実現出来ることを示している。現在、この素子を三端子化したスピン共鳴トンネルトランジスタの開発を目指している。

*スピン偏極 : 電子集団のスピン(電子の小さな磁石としての性質)の向きが揃っていること。

図1(a) 図1(b)(c)
図1 (a) 単結晶鉄電極トンネル磁気抵抗素子の断面透過電子顕微鏡像1)
(b)多数スピンの電子は鉄とクロムの界面で反射されるために干渉する。
(c)少数スピンの電子はよく透過する。
図2
図2 単結晶鉄電極トンネル磁気抵抗素子の微分伝導率(dI/dV)2)
膜厚が9ML(1ML=0.14nm)から2MLまで異なる試料についての測定結果。
■関連情報
  • 1)S. Yuasa et al. : Euro. Phys. Lett. 52, 344 (2000).
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大きなイオンの生成と気相中への放出

−固体質量分析法の定量性の確立を目指して−
富樫 寿の写真
とがし ひさし
富樫 寿
富樫連絡先
計測標準研究部門

 質量分析法は、極微量の物質の迅速で高感度な検出が出来るため、バイオテクノロジーや材料開発等の分野で広く用いられている。この方法はレーザービームなどで分子にエネルギーを与えイオンに変え、真空中で電気・磁気的な力を用いて質量ごとに分離・検出して質量スペクトルを作成し、元の分子を特定するものである。従来は蒸発しにくい大きな分子のイオン化が難しかったために質量分析法が適用できる物質の範囲が限られていたが、近年の新しいイオン化法の開発により生体物質や合成高分子などの大きいイオンが容易に生成できるようになった。

 その一つにマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法がある。これは、測定対象の分子をマトリックスと呼ばれる大量の有機分子と混ぜて固体化し、真空中のレーザー照射によりマトリックスを瞬時に蒸発させ、対象分子を水素イオンや金属イオンと結合した大きなイオンとして、壊すことなくそのまま気相中に放出させる技術である。しかし、MALDI法を含め固体からイオンが発生する現象はそのメカニズムの複雑さのために、元の分子の量を十分な精度で測れるまでには解明されておらず、潜在的な需要が強い定量分析には殆ど用いられていない。この問題を克服するために我々は、工業的に広く用いられ種類も多い非イオン性界面活性剤の分子について調べており、鎖状の分子であるポリエチレングリコール(HO(-CH2CH2O-)nH)ではイオン強度のnに対する分布が金属イオンの種類に依存するのに、繰り返し単位の1個の水素がメチル基で置き換わっただけのポリプロピレングリコール(HO(-CH2CH(CH3)O-)nH)では依存性がないことなど、分子内の鎖の化学構造がイオンの生成に重要な影響を及ぼすことを見出した。今後我々は実験等の知見をもとにMALDI現象のモデル化を進め、定量性の確立に向けて研究を進めていく予定である。

図1 図2
図1 ポリエチレングリコールのMALDI過程の模式図。
ポリエチレングリコール分子(赤い鎖)と金属イオン(黄色の丸)がマトリックス(緑色)と共に真空中へ放出され、結合して大きなイオンとなる。
図2 ポリエチレングリコールの質量スペクトル。
様々な大きさの分子(nは分子内の繰り返し単位(-CH2CH2O-)の数)にアルカリ金属イオン(Li+,Na+,K+)が結合したものが観察される。
■関連情報
  • H. Togashi: Chem. Lett., 704-705 (2000).
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