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AIST Today VOL.1 No.9

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AIST Today / National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
 表紙 (PDF:269.5KB)
 目次
 メッセージ (PDF:17.1KB)
産総研の研究者よ!取りに行こう!
産業技術総合研究所 監事 小野田 武 
 トピックス (PDF:224.2KB)
全国のセンターで一般公開
 最新情報           
GPCR の網羅的発見と解析 生命情報科学研究センター
DHA やEPA 合成に関与する遺伝子群 生物遺伝子資源研究部門
膜タンパク質のトポロジー 分子細胞工学研究部門
高分子/無機ナノハイブリッド 基礎素材研究部門
新しい耐環境性材料 基礎素材研究部門
プラスチックのグレード判別技術 計算科学研究部門
プロピレン空気酸化用触媒の開発 環境調和技術研究部門
化学炎プロセスの新たな可能性 セラミックス研究部門
超電導テープ線材の損失挙動を解明 電力エネルギー研究部門
複数の光パルスは合成出来るか? 光技術研究部門
実流校正不要な標準型渦流量計 計測標準研究部門
超高速ネット経由でスパコン稼働 情報処理研究部門
 特集 (PDF:49.5KB)
(PDF:527.0KB)
環境分野の動向と産総研における取り組み
テクノ・インフラ (PDF:76.3KB)
2001 分析展で計量標準の成果をアピール
地質図表現の統一をめぐる最近の動向
 フロンティア (PDF:79.4KB)
AIST ・・・使えます!!
高分子型人工筋肉の実用化へ前進
 AIST NETWORK (PDF:1.4MB)
軟質材料の高分解能観測で覚書締結− 仏 ボルドー大学(CPMOH)と産総研東北センター−
シンガポール副首相来訪
特許庁長官来訪
産業技術連携推進会議「窯業部会」開催
産業技術連携推進会議「繊維部会」開催
国際シンポジウム −ナノテクノロジーが拓く21 世紀の産業技術−
中部センター 一般公開
研究講演会「人間の自立を支える新技術」−人・ゲノム・細胞−
イベント案内

GPCR の網羅的発見と解析

−ヒトゲノムへの応用−
諏訪 牧子の写真
すわ まきこ
諏訪 牧子
諏訪連絡先
生命情報科学研究センター

 G タンパク質共役型受容体(GPCR )は7 本のへリックス構造を持つ膜タンパク質である。世界中の薬の実に半数近くは、このタンパク質の機能制御を目的としており、創薬の観点から極めて重要なタンパク質である。これら全てを、既に約90 %以上の配列が決定されたヒトゲノムから網羅的に発見して解析すれば非常に重要でしかも全く新しい知見が得られるものと期待される。

 私たちはヒトゲノム配列からGPCR を同定する自動システムを開発した。このシステムでは、まずヒトゲノムデータから主に遺伝子発見プログラムGeneDecoder 1) を用いてアミノ酸配列全てを得る。次に、生成アミノ酸配列を基に、配列検索、モチーフおよびドメイン帰属、膜貫通ヘリックスの予測を行いGPCR を同定する。最後に、重複配列の消去、スプライス部位の誤予測による断片配列の融合などにより遺伝子候補を精密化する。

 遺伝子同定用の各プログラムの閾値を予め既知のセットで評価しておき、これらの閾値の組合わせにより、888 本の最善選択性配列群から2,298 本の最善感度配列群に至るまでの様々な精度の配列群を得ることが可能になった(図1 )。全セットで11 番染色体に最も多くのGPCR 候補が見られ、1,3,6,19 番染色体でも多数のGPCR 候補が見出された。一方、21番、Y 染色体では候補は極めて少なかった。最善選択性配列群は誤配列は含んで無いと言えるほど精度が高いので、これを詳細に解析したところ、最大のファミリーは嗅覚、味覚受容体で特に1 1 番染色体のGPCR の9 割以上を占めていた。 創薬の観点から言え
ば、実はこのファミリーを除いて考えるのが普通だが、それでも全体で300 程度(内数十が新規)の存在が確認されている。

 私たちは、以上のシステムおよび配列群の特許申請を済ませたところであるが、この成果が医療、創薬の分野で大きく貢献するものと期待している。

図
図1 ヒトゲノム全体からの網羅的GPCRデータベース
■関連情報
  • 1) Asai,K.,Itou,K.,Ueno,Y.,and Yada,T.:"Recognition of Human Genes by Stochastic Parsing,Pacific Symposium on Biocomputing 98",pp.228‐ 239 (PSB98,1998).
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DHA やEPA 合成に関与する遺伝子群

−海洋細菌から見出された新たな遺伝子資源−
森田 直樹の写真
もりた なおき
森田 直樹
森田連絡先
生物遺伝子資源研究部門

 細胞を外界から隔てる細胞膜は、脂肪酸を分子内に含む脂質が主成分の一つとなっている。一般に高度不飽和脂肪酸(PUFA)に富んだ細胞膜は、低温下でも膜の機能を維持できると言われている。多くの細菌は飽和脂肪酸とモノ不飽和脂肪酸しか合成できないが、ある種の海洋細菌はDHA (ドコサヘキサエン酸)やEPA (エイコサペンタエン酸)等のPUFA を合成できる能力を有している。このような海洋細菌は、極地方・深海といった低温海域や、このような低温環境に棲息する海洋生物の腸内に多く見出されている。

 生物遺伝子資源研究部門分子環境適応研究グループでは北海道大学大学院地球環境科学研究科奥山英登志助教授と共同で、機能性食品や医薬品として重要なDHA やEPA (図1 )の合成機構を明らかにすることを目的に、DHA やEPA を合成できる海洋細菌の脂肪酸合成関連遺伝子の探索を行ってきた。その結果、DHAやEPAを合成できる細菌には、一般の細菌がもっている脂肪酸合成酵素(FAS)をコードする遺伝子群とは別にDHAやEPA を合成するための遺伝子群が存在すること、DHA やEPA 合成に関与する遺伝子はFAS 遺伝子群と同様に遺伝子クラスター構造をとっていることを明らかにした(図2 )。更にPUFA 合成に関与する遺伝子群がコードする酵素は、一つのポリペプチド鎖にFAS を構成する酵素と相同性を示す活性部位が存在していることから、多機能酵素であるという可能性を示していた。PUFA 合成に関与する遺伝子群はFAS 遺伝子群とは独立に存在しているので、それを遺伝子導入することにより他生物にPUFA 合成系を付与することも可能であると考えられる。

 魚油等に含まれるPUFA は、植物プランクトンが生産し、動物プランクトンを経て魚へと食物連鎖を通じて蓄積されていくと考えられている。本稿で紹介した海洋細菌も海洋におけるDHA やEPA の一次生産者の一つと考えることができる。海洋細菌に見出されたDHAやEPA 合成に関与する遺伝子群は、生物界におけるDHA やEPA の起源、また産業上の利用(例えば遺伝子組換え微生物や植物によるDHA ・EPA 生産)を考える上でも重要な遺伝子資源であると言える。

図1
図1 DHAおよびEPAの構造、機能および分布
図2
図2 細菌に見出される脂肪酸合成に関与する遺伝子
EPAやDHAを合成できる細菌には、PUFAを合成できない細菌がもつ脂肪酸合成酵素(FAS)遺伝子群の他に、EPA、DHA合成に関与する遺伝子群が存在している
■関連情報
  • N.Morita,et al.:Biotechnol.Lett.21,641‐ 646 (1999).
  • M.Tanaka,et al.:Biotechnol.Lett.21,939‐ 945 (1999).
  • N.Morita,et al.:Biochem.Soc.Trans.28,943‐ 945 (2000).
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膜タンパク質のトポロジー

−光ラベルによる解析に成功−
小川  昌克の写真
おがわ よしかつ
小川 昌克
小川連絡先
分子細胞工学研究部門

 タンパク質の膜中構造を原子レベルで知ることは容易ではない。例えば、グリコフォリンA (GPA)という膜タンパク質のアミノ酸配列は20 年以上前から知られているが、その膜中構造はよく分かっていなかった。GPA は131 個のアミノ酸を持ち、N 末端側の細胞外ドメイン、約20 アミノ酸残基からなる膜貫通ドメイン、およびC 末端側の細胞内ドメインから構成されている。1982 年にKhorana 教授らのグループは、光活性基を持つリン脂質プローブを用いた実験から、70 番目のグルタミン酸残基が膜中に存在すると報告した。しかし、疎水性およびサイズを考えると、このグルタミン酸残基は膜表面に位置すべきであり、彼らの結果には疑問が残っていた。また、Engelman 教授らのグループは、GPA が膜貫通ドメインで2 量体構造をとることを示し、立体構造モデルを発表した。しかし、この膜貫通ドメインと脂質膜の位置関係(トポロジー)は不明のままであった。そこで、我々はフランス、ルイパスツール大学・CNRS の膜研究グループ(中谷陽一教授ら)と共同で、光反応性リン脂質型プローブ(図1)を用いたGPA の膜中におけるトポロジー解析を試みた。このプローブは中心に光活性基を持つ膜貫通型リン脂質プローブであり、コレステロールの存在下の二重膜中にて紫外線の照射により脂質二重膜の中心に位置する様々な分子と光活性基を介して共有結合する。従って、このプローブの付いているアミノ酸残基を決めることにより、GPA の膜中における位置を知ることができる。その結果、GPA の80 番目のバリン残基と81 番目のメチオニン残基が、膜の中央に位置していることが分かった(図2)。

 今までに膜内タンパク質の位置選択的光ラベルに成功した例はなく、本方法は画期的なものであり、生物学と化学の分野融合により問題解決の糸口を見い出した研究である。今後、本方法を用いることにより、膜貫通型タンパク質の原子レベルの研究、すなわちナノバイオ研究の推進に貢献することが期待される。

図1
図1 光反応性リン脂質型プローブ
図2
図2 プローブによる膜中心特異的なGPAの光ラベル
■関連情報
  • Y.Ogawa,et al.:Angew.Chem.Int.Ed.Vol.40,944‐ 946 (2001).
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高分子/無機ナノハイブリッド

−無機層状ナノ微粒子によるPET の高性能化−
今井 祐介の写真
いまい ゆうすけ
今井 祐介
今井連絡先
基礎素材研究部門

 高分子材料の利用範囲を広げるため、ガラス繊維強化プラスチックのように、従来から無機物質の添加による高性能化が図られてきた。無機強化剤の一種である粘土鉱物は、厚さ1nm 、幅数十nm 〜数µmの層状構造を持つ珪酸塩が積層した構造をしている。近年、粘土鉱物の層間にある種の有機物質が取り込まれる性質を利用して、高分子中に層状珪酸塩をナノレベルにまで剥離・分散させ、界面積の増大効果等により、高分子をより強化することが試みられている。高分子/層状珪酸塩ナノ複合材料は、ほんの数重量%の層状珪酸塩の添加によって、剛性、強度、耐熱性、ガスバリア性、難燃性等の諸物性が著しく向上することが期待され、大きな注目を集めている。

 ペットボトル、ポリエステル繊維として身近な存在であるポリエチレンテレフタレート(PET)は、価格/性能比に優れ、幅広い用途に用いられている汎用性高分子である。我々は、ガラス繊維強化PET の軽量かつリサイクル可能な代替材料およびガスバリア性の高いPET 材料を目指して、コープケミカル(株)、(株)東洋紡総合研究所と共同で、PET /層状珪酸塩ナノ複合材料の開発を行ってきた。

 層状珪酸塩はイオン的な性質を持っており、本来PET のような有機物質とは混ざりにくい。そこで、図1に示すような、PET と層状珪酸塩を結合する相溶化剤分子を新規に開発し、これを用いてナノ複合材料の合成を行った。その結果、相溶化剤を用いない場合と比較して、PET 中への層状珪酸塩の分散性が大幅に向上することが確認された。得られたPET /層状珪酸塩ナノ複合材料は、 最大でPET の1.7 倍を超える高い曲げ弾性率を示した(図2)。相溶化剤の採用により層状珪酸塩のPET マトリックス中への分散性が向上したこと、およびPET マトリックスと層状珪酸塩とを化学的に結合したことによってマトリックスに掛かる応力を効率的に強化剤である層状珪酸塩に伝達することが出来たこと、によって高性能化が図られたものと考えられる。

図1 図2
図1 PET/層状珪酸塩ナノ複合材料の概念図
図2 ナノ複合材料の曲げ弾性率
■関連情報
  • 今井,西村,安孫子,山口,青山,田口 : 高分子学会予稿集 Vol.50,No.11,2680 (2001).
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新しい耐環境性材料

−複相組織を賢く利用−
坂本 満の写真
さかもと みちる
坂本 満
坂本連絡先
基礎素材研究部門

 これからの社会では廃棄物ゼロは当然として、その言葉自体もなくなることが理想であるが、当面は廃棄物からできる限り物質と熱エネルギーを回収することが重要である。このためには、様々のエネルギー・環境機器の高効率化が必須であり、これを低い社会的コストで実現するには耐熱性・耐酸化性・耐高温腐蝕性・耐高温摩耗性などの様々な機能を併せ持つ長寿命の耐環境性材料の速やかな実用化が前提条件になる。

 このような材料は従来技術の延長で開発することは難しく、何らかのブレークスルーが必要である。我々は、複合化技術を駆使した新しい複相組織の探索とその制御技術の検討を通じて、新しい耐環境性材料の開発に取り組んでいる。複合化においては、様々の機能が高レベルでバランスすることは勿論として、人知を越えた新しい付加的な機能が発現するように賢く設計されねばならない。

 写真は、新開発のFe-Cr-Ni-MX-C系複相合金をベースとしてこれにセラミックス相を最適分散し、複数の機能を重層的に発揮させることを意図して開発したアルミナ短繊維分散複合材料の組織を示す。複合材料の基地合金は繊維/基地合金の間に発生する界面エネルギーの働きで凝固組織が著しく微細・均質化し、通常凝固の合金に比べておよそ一桁小さい組織サイズとなっている。この現象は有用なバルク材料の組織制御方法として、今後広い応用が期待される。図は、開発材料の高温アブレージョン摩耗特性を実用材料と比較したものである。高温摩耗は材料の強度や硬さ、耐酸化性等の機能の総合として発現するので、開発材料は高いレベルの耐環境機能を保持することがわかる。複合材料は、微細安定相の均一分散や基地組成の均質化、酸化被膜保持効果等の効果が相乗する結果として、高温での機械的性質とともに耐酸化性も顕著に向上する。

 現在、これらの新開発材料については実際の発電プラントやごみ発電実証試験プラントにおいて実環境での耐久性評価試験を実施中である。今後はより苛酷なニーズに対応するために、より高機能を付加する組織制御や新しい材料コーティング技術、特性評価・寿命予測技術の開発を目指している。

写真1 図
写真 新開発材料の組織
図 開発材料の高温アブレージョン摩耗特性
■関連情報
  • M. Sakamoto, S. Akiyama, M. Nomura, K. Ogi : Proceedings of 6th Asian Foundry Congress, 249-256 (1999).
  • M. Sakamoto, H. Liu, M. Nomura, K. Ogi : Wear, (2001) (in press).
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プラスチックのグレード判別技術

−リサイクル高度化の推進−
田辺 和俊の写真
たなべ かずとし
田辺 和俊
田辺連絡先
計算科学研究部門

 廃プラスチックのリサイクルは技術的にもここ数年で大きく進展し、容器包装類、家電製品、自動車、農業用品、建築廃材など色々な分野で取組みが行なわれている。そんな中、リサイクルへの要求が年々高度化してきており、マテリアルリサイクルでは樹脂ごとの分別だけでなく、リサイクル製品の品質低下を防ぐために同じ樹脂でもグレード別に分別することが要求されている。従来、高分子材料の密度測定には水中置換法、ピクノメーター法、浮沈法、密度勾配管法、等の方法が使用されている。しかしこれらの方法は迅速性に欠けるため、現時点で実際のリサイクルの際に用いることができない。

 我々は既に高分子材料について近赤外スペクトルを測定し、データをケモメトリックスにより解析して、多種類のプラスチックを迅速に識別する手法を開発した。近赤外領域では高分子材料は適度な吸収強度となるので前処理を行なう必要がないため、迅速に識別することが可能となる。本研究ではこの方法を用いて近赤外スペクトルのデータから密度の識別が可能かどうかを検討した。

 本研究では密度測定対象の高分子としてポリエチレンを選び、市販の密度既知のポリエチレンペレットおよび粉末23種(密度0.898〜0.960)についてオプト技研PlaScanを用い、1.1〜2.2µmの近赤外スペクトルを5回測定した(図1)。ノイズ除去のための平滑化、ピークの先鋭化のための2次微分、および規格化の前処理を行った後、このデータをニューラルネットワークのソフト富士通NEUROSIM/Lの入力層に入力し、出力層には密度の実測値を教師データとして入力して、error-back-propagation法で学習を行った。

 本法による密度予測能力を判定するために、5回の測定の内の4回のデータを用いてニューラルネットワークを学習し、収束後のニューラルネットワークに未学習の1回のデータを入力して密度の予測値を求め、実測値と比較した。その結果、図2に示すように密度の予測値は実測値と平均誤差0.0003内で一致し、今回の方法でポリエチレンの密度が迅速に決定できることがわかった。

 この方法はポリエチレン以外の高分子材料の密度測定に適用可能であり、プラスチックのマテリアルリサイクルの推進に寄与すると期待される。

図1 図2
図1 ポリエチレンの近赤外スペクトル
図2 密度の予測値と実測値
■関連情報
  • 田辺 他 : 化学とソフトウェア, 17, 127 (1995).
  • 田辺 他 : 分析化学, 48, 483 (1999), 50, 223 (2001).
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プロピレン空気酸化用触媒の開発

−Ti/シリカライト系触媒の発見−
村田 和久の写真
むらた かずひさ
村田 和久
村田連絡先
環境調和技術研究部門

 自動車の内装、家電製品に汎用されるポリウレタン樹脂の原料となるプロピレンオキシドは、プロピレンから二段階の反応を経て合成されている。これらのプロセスは、塩素を用いる古典的なクロロヒドリン法と、現在の主流である有機過酸化物を用いるハルコン法であるが、有害な有機ハロゲン化物の副生や副生成物の需給ギャップなどの問題点がある(図1)。近年の反応プロセスの安全性の向上、省エネ化(シンプル化)への関心の高まりと共に、最も安全かつシンプルな方法である直接空気酸化法によるプロピレンオキシド合成を目指した研究が活発化している。しかし、エチレンからエチレンオキシドの一段合成に使われている銀触媒のような決定的な触媒が見いだされておらず、世界的な開発競争の最中にある。

 我々は、プロピレンの空気酸化のための触媒を探索し、特定のシリカ/アルミナ比を有するゼオライトをチタンにて修飾した触媒系が、当該目的に比較的合致しており、これまで報告された世界最高レベルのプロピレンオキシド(PO)収率(20%)が得られることを見いだした(図2)。具体的には、400℃であらかじめ真空排気処理したシリカライト(Si/Al比=1900)にチタンを7.5重量%担持し700℃で焼成した触媒に、プロピレン(C3')/14%酸素/56%窒素の組成のガスを導入して反応させた。Ti存在下でもアルミナ量の多いシリカライト(Si/Al比68及び190等)担体を用いた場合や、Si/Al=1900の担体のみでTiなしの場合には炭化水素やコークがはるかに多いことなどの結果が得られた。

 今後の課題として、①PO収率の向上(40〜50%程度なら実用化も可能)、②触媒上への含酸素生成物の付着・重合化による活性低下の克服、③反応機構の詳細解明による画期的ゼオライト含有触媒系の創出などがあり、当該部門の研究課題の一つとしてさらなる開発を進める予定である。

図1 図2
図1 本法と従来法の比較
図2 空気によるプロピレン一段酸化によるプロピレンオキシド合成における触媒性能比較
■関連情報
  • 杉田・八木(住友化学)、特開平05-196040 (EP 640598 (1995)).
  • A. P. Kahn (ARCO Chem. Tech.), US 903127 (1997).
  • T. A. Nijhuis, S. Musch, M. Makkee, J. A. Moulijn : Appl. Catal., A: General, 196, 217-224 (2000).
  • K. Murata and Y. Kiyozumi : J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1356-1357 (2001).
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化学炎プロセスの新たな可能性

−丸いフィラーサイズの窒化アルミニウム粉体の合成に成功−
高尾 泰正の写真
たかお やすまさ
高尾 泰正
高尾連絡先
セラミックス研究部門

 半導体素子では消費電力低減と携帯化対応で素子の微細化が、また環境問題からは鉛フリーはんだ使用が緊急課題となり、そのため基板からの放熱の問題がクローズアップされてきている。半導体封止材料はICやコンデンサなどを素子に収めるシール材で、絶縁・補強と共に、素子内で発生した熱の速やかな放散を可能とする高熱伝導性の材料が望まれる。現在、球状シリカフィラー粉体と樹脂の混合系が主に封止材料として用いられ、高熱伝導を達成するためシリカを高密度充填する努力が続けられている。しかしながら、高密度充填は成形性の低下を招き、近年求められているシステムインパッケージ等の超微細化・多層構造化の要望に応えきれず、打開策が切望されていた1, 2)

 窒化アルミニウムは熱伝導性がシリカより遥かに高く、フィラーとして期待される。一方、従来のアルミナ還元窒化法やアルミニウム直接窒化法では、フィラーとして必要なミクロンオーダーで高い球形度を有する粉体の合成は困難で、そのままでは成形性の低下を招き、フィラーとして使えなかった(写真1)。

 我々は生産性の高い化学炎プロセスで球状窒化アルミニウムの合成を試みた。本プロセスは球状シリカフィラーの製造に用いられているものである。火炎(外炎)は酸素が必須で、今まで非酸化物の合成には不向きと考えられてきたが、内炎は還元性が高く、ダイヤモンドや炭化物等の非酸化物の合成に用いられた例もある。今回、窒素拡散と気相反応に基づく合成機構をベースに気相中の粒子形成制御を行い、球状でフィラーサイズの窒化アルミニウム粉体の合成に成功した(写真2)3)

 さらに本プロセスの適用により、酸窒化アルミニウムの球状微粒子も合成することができ、耐熱・光学系材料としての応用が注目される。

写真1 写真2
写真1 従来法で製造したフィラーサイズの窒化アルミニウム粉体
高異方性の角状粒子が主体(高充填に不利)
写真2 化学炎プロセスを応用した新製法による窒化アルミニウム粉体
球形度向上および粒子径分布の広域化に成功(高充填に有利)
■関連情報
  • 1)http://staff.aist.go.jp/yas.takao/
  • 2)Y. Takao, M. Naito and H. Kamiya : Advanced Powder Technol. 12, 17-31 (2001).
  • 3)Y. Takao and M. Sando : J. Chem. Eng. Japan, 34, 828-833 (2001).
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超電導テープ線材の損失挙動を解明

−次世代超電導線材の電力応用に向けて−
山崎 裕文の写真
やまさき ひろふみ
山崎 裕文
山崎連絡先
電力エネルギー研究部門

 最近、液体窒素温度(絶対温度77K)で使える高磁界超電導マグネットや超電導送電ケーブル等への応用を目指して、YBa2Cu3O7 (YBCO) 化合物のテープ線材を作製する研究が、日米欧で盛んに行われている。現在使われている電力機器のほとんどは交流機器であるので、超電導線材の電力応用に当たっては、交流電流通電時の損失(交流損失、特にヒステリシス損失)を極力少なくする必要がある。我々は、ハステロイ合金テープ上に作製した高臨界電流密度(Jc≈106 A/cm2)の YBCO 厚膜線材(膜厚約 1µm)のヒステリシス磁化を磁界と膜面のなす角度 θの関数として精密に測定し、アスペクト比(テープの幅/超電導膜厚)が非常に大きい超電導テープ線材のヒステリシス損失挙動を明らかにした。

 図1にテープ面に平行に近い磁界中、温度 T = 60 K での通常の磁化(縦磁化)の角度依存性(実線)を示す。θとともに磁化が急激に大きくなるが、これは磁界が傾いてきて垂直磁界成分 (H= Hsinθ)が生じてくると、それによる磁化 Mが急激に大きくなり、また、その縦磁化への寄与も sinθに比例するためである。その確認のため、cosθ≈1 のとき垂直磁化 M と等しくなる横磁化 Mtrans(印加磁界と垂直方向の磁化)を測定した。その縦磁化への寄与 Mtranssinθを図1にマーカー(+、○ 等)で示す。平行から3度以上ずれると実線とマーカーはほとんど一致するようになり、測定される磁化は M によることが確認された。しかし、θ≤1°の場合、実線はヒステリシスを示すが、マーカーは可逆的であったため、この場合には、ヒステリシスは平行磁化 MIIによることが明らかとなった。ヒステリシス損失(縦磁化曲線(実線)の囲む面積)は、θ = 0 − 2°で2倍程度しか変化しないが、これは平行磁化 MIIの寄与が大きいためである。これに対し、より高温度(77 K)では、ヒステリシス損失の角度依存性はたいへん顕著であった(図2)。θ= 1°でもマーカーはヒステリシスを示し、ヒステリシス損失への M ⊥ の寄与が大きい。そして、ヒステリシス損失はθ= 2°で平行の場合の 20 倍以上になった。なお、これらの挙動は、単結晶基板上に作製した均質な YBCO 厚膜について我々がこれまで調べた結果と同じであった 1, 2)

 ヒステリシス損失を低減するためには、テープ線材にかかる磁界の垂直成分を極力減少させる必要があることを確認し、垂直磁化の効果は臨界電流密度が低下する高温度でより顕著になることを明らかにした。

図1 図2
図1 YBCO テープの平行付近の磁界中での磁化の角度依存性(挿入図)
θ= 0°, 1° のデータの拡大図
図2 同じYBCOテープの、より高温度(77 K)における平行付近の磁界中での磁化の角度依存性
■関連情報
  • 1) A. Rastogi, H. Yamasaki and A. Sawa : Phys. Rev. B 62, 14452 (2000).
  • 2) H. Yamasaki, A. Rastogi and A. Sawa : Cryogenics 41, 69 (2001).
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複数の光パルスは合成出来るか?

−サブフェムト秒パルス列発生を目指して−
小林 洋平の写真
こばやし ようへい
小林 洋平
小林連絡先
光技術研究部門

 光の超短パルス化が進みパルス内に光電場が2サイクル程度しかないパルスが実現している。我々はさらなる短パルス化によりサブフェムト秒(1フェムト秒=10-15秒)領域のパルスを発生させる方法として複数の光のフーリエ合成の技術を研究している。これは、整数倍の光周波数を持つパルスを複数合成して短パルスを発生させる方法である。そのためには、1)整数倍の周波数比を持つ時間同期したパルスを発生させる。2)それらのパルス内光波位相を同期する。3)得られたパルスを計測する、という3段階の技術が必要である。

図1
図1 フーリエ合成によるアト秒パルス発生法

 1)についてはポンプ光(光周波数を3ωと定義する)からフェムト秒パラメトリック発振器(OPO)によってアイドラー(ω)、シグナル(2ω)、非線形混合光(4ω、5ω、6ω)の6つの整数倍の周波数を持つ光パルスを発生させた。

 次に2)について、シグナルの第二高調波(4ω)とポンプとアイドラーの和周波(4ω)の同じ波長の重ね合わせから位相情報をビートとして検出する方式を開発した1)。さらにポンプ、シグナル、アイドラー間の相対位相のずれ方はポンプレーザーとOPOとの共振器長に依存することを利用し、ポンプパルスの光波位相に対するシグナル、アイドラーパルスの光波位相のずれ方を繰り返し周波数の1/6に制御することに成功した2)。これは6パルスごとにパルス内光波位相が同期していることを示す。つまり6パルスごとにサブフェムト秒パルス列の発生が可能となる。また、任意の位相で重ね合わせることにより光電場の任意波形発生器が可能となる。これまで時間軸上で議論してきたが、周波数軸上ではこの位相同期技術は非常に広い周波数領域にわたり光周波数の定規を提供することになる。

 3)のアト秒(1アト秒=10-18秒)パルス計測について現在研究を進めている。本研究は従来にない特性の光源として新しい応用を開くものと期待している。

図2 図3
図2 実験配置図
図3 位相ロック信号
■関連情報
  • 1) Y. Kobayashi and K. Torizuka : Opt. Lett. Vol. 25, 856-858 (2000).
  • 2) Y. Kobayashi and K. Torizuka : Opt. Lett. Vol. 26, 1295-1297 (2001).
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実流校正不要な標準型渦流量計

−新しい設計法の国際普及に向けて−
寺尾 吉哉の写真
てらお よしや
寺尾 吉哉
寺尾連絡先
計測標準研究部門

 石油化学コンビナートや半導体製造装置等には多数の流量計が取り付けられていて、これらの流量計が正確であることは製品の高品質化や工場の省エネルギー化に不可欠である。また、水道水や都市ガスの取引に使われているメーターも流量計の一種であり、メーターの正確さを保証することは、公正な取引の基盤となる。このように、正確な流量の測定は社会や産業のあらゆる局面で重要である。このため、様々な種類の流量計がこれまでに実用化されてきたが、正確な測定には実流校正が必要であることが共通の問題であった。実流校正とは、流量計に基準となる流量を流し、基準値と流量計の指示を比較して補正値を求めたり、流量計が正確な値を示すように調整したりすることで、原則的に、製作された流量計は使用前に1台ずつ実流校正する必要がある。

 我々が研究対象としたカルマン渦流量計(以下渦流量計という。図、写真)も同様で、このタイプの流量計には測定レンジが広い、長期安定性がある、維持管理費が低廉である、などの様々な利点があるが、個々の製品に対しメーカによる実流校正が必要であった。

 計測標準研究部門では、渦流量計の主要な構成要素である渦発生体の寸法形状を系統的に変化させて多数の実験を行うことにより、広い流量範囲で安定した流量測定が可能となるような最適な渦流量計の寸法形状を見出した。また、最適形状の近傍で各寸法を微小に変化させ,その変化が流量の測定値に与える影響を求め、この結果から、各使用条件で必要とされる流量の測定精度を確保するためには、各寸法の製作誤差をどの範囲に抑えればよいかが、明確に判断できるようになった。これらは多数の流量計メーカや工業会の協力を得て、旧計量研究所時代から10年以上にわたり継続的に行われた研究の成果である。

 この結果をJIS Z 8766-2001「渦流量計−流量測定方法」(出版手続き中)として制定し、詳細な設計手法を公開した。この規格に従って渦流量計を製作すれば、個々の渦流量計を使用前に実流校正する必要はなくなり、流量計の製作コストの大幅な低減につながると同時に、高精度な流量測定が可能となる。今後は、この標準型カルマン渦流量計をISOにも提案し、国際的に普及させていく予定である。

図 写真1
図 カルマン渦流量計の原理図 写真 標準型カルマン渦流量計の外観
(手前から奥に向かって流体が通過する)
■関連情報
  • 寺尾,高本 : 計測自動制御学会論文集,Vol.35, No.5, 623-629 (1999).
  • 寺尾,高本 : 計測自動制御学会論文集,Vol.35, No.12, 1628-1630 (1999) .
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超高速ネット経由でスパコン稼働

−世界で初めてグリッド技術をスパコンに搭載−
関口 智嗣の写真
せきぐち さとし
関口 智嗣
関口連絡先
情報処理研究部門

 情報処理研究部門は、日本電気株式会社(以下「NEC」という)との共同研究により改良したソフトウエア『GLOBUS(グローバス)』を用いて、世界で初めて640Mbpsの高速ネットワークを経由して、遠隔地よりスーパーコンピュータと手元のコンピュータを協同して計算させることに成功した。

 今回の成果は、通信・放送機構 つくば情報通信研究開発支援センター(以下「ギガビットラボ」という)のスーパーコンピュータSX−4B(NEC製)と、産総研のコンピュータを、高速ネットワークである『つくばWAN』に接続し、ギガビットラボのスーパーコンピュータと産総研のコンピュータを協同して稼働させた。計算処理の中で、演算量が多く、手元のPCやワークステーションでは処理時間を要するものに対して、ネットワーク経由で接続されたスーパーコンピュータにその部分の計算処理を依頼することにより、全体としての処理時間を削減することができた。従来は処理に必要なデータを送受するために時間がかかり、計算の高速化が実現しなかったが、スーパーコンピュータに見合う高速ネットワークを用いることによりこれを達成した。

 次世代インターネット技術として、ネットワークに接続された様々な情報資源(コンピュータ、データベース、実験装置、個人携帯端末等)を誰でも、どこからでも、いつでも自由自在に利用するための技術は『グリッド』と呼ばれ世界中で活発な研究開発が行われているが、今回の成功は、スーパーコンピュータがグリッドの構成要素となり、自在に利用できるための課題を克服したことに意義がある。

 グローバス*は世界でグリッドに関する標準的なソフトウェアの一つであり、これを搭載することで、他のワークステーション、パソコンやスーパーコンピュータ相互の通信が簡単に可能となり、仮想的には超大規模なスーパーコンピュータを簡単に出現させることが出来る。

 今後つくばWANは他省庁の研究機関や独立行政法人と接続され、共同研究等に供される予定である。さらに、これらに接続される予定の他のスーパーコンピュータや、世界中のネットワークに接続された情報資源との相互接続を行う予定である。

* グローバス 米国アルゴンヌ国立研究所ならびに南カリフォルニア大学で開発されているソフトウェアのこと

図 写真1
図 ネットワーク構成イメージ(平成13年9月現在)
写真 つくばWAN接続装置
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