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AIST Today VOL.1 No.8

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AIST Today / National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
 表紙 (PDF:1.0MB)
 目次
 メッセージ (PDF:35.4KB)
産総研に期待されるもの
産業技術総合研究所フェロー 大塚 栄子 
 トピックス   
関西センター設立記念式典 (PDF:962.9KB)
設立記念シンポジウム
パネルディスカッション
(PDF:841.4KB)
 最新情報           
大腸菌O-157の迅速な検出 界面ナノアーキテクトニクス研究センター
超磁歪材料を微少重力環境で合成 微小重力環境利用材料研究ラボ
次世代SiCパワーデバイス パワーエレクトロニクス研究センター
新しい有機色素増感太陽電池の開発 光反応制御研究センター
アボガドロ定数の決定 計測標準研究部門
ナノ構造制御材料 高分子基盤技術研究センター
有機光学材料のナノポリッシング 基礎素材研究部門
窒化アルミニウム高感度圧力センサー 基礎素材研究部門
シリコーンラバーマイクロバルブ 機械システム研究部門
膜状リチウム吸着剤の開発 海洋資源環境研究部門
岩石の透水係数の高精度測定 深部地質環境研究センター
地中熱利用のための地質情報の研究 地圏資源環境研究部門
 特集 (PDF:742.6KB)
情報・電子・通信分野の課題と産総研の取り組み(2)
 テクノ・インフラ (PDF:333.9KB)
工業標準 , CCEM/WGKC, CCRI, CCTF, 地質図
 フロンティア (PDF:14.7KB)
産学官連携のための制度
 AIST NETWORK (PDF:499.5KB)
光技術研究部門シンポジウム開催
有機半導体デバイス・シンポジウム開催
産業技術連携推進会議「機械・金属部会総会」開催
産業技術連携推進会議「情報・電子部会総会」開催
KOBE2001ひと・まち・みらい 21世紀☆みらい体験博
サイエンスキャンプ2001開催
「テクノキッズ・イン・ウォーターフロント」開催
北海道センター・一般公開
第6回サイエンスパークサマーセミナー(四国センター)
研究職員 選考採用者の募集
オープンハウス2001

大腸菌O-157の迅速な検出

−新開発センサーで微量のベロ毒素を直接吸着−
鵜沢 浩隆の写真
うざわ ひろたか
鵜沢 浩隆
鵜沢連絡先
界面ナノアーキテクトニクス研究センター

 腸管出血性大腸菌O-157による食中毒は、平成8年に大発生し多くの患者と死者を出し、日本中をパニックに至らしめた。また、関係する産業界に多くの経済的ダメージも与えた。この食中毒が他の食中毒と異なり死亡率が高いのは、主に大腸菌O-157の生産するベロ毒素が、腎臓のベロ細胞に強力に結合し、尿毒症を併発するためである。その治療には、対症療法しかなく検査を迅速に正確に行うことが医療現場や社会のニーズになっている。

 界面ナノアーキテクトニクス研究センター高軸比ナノ構造制御チームでは、名古屋大学工学部、岐阜薬科大学の協力を得て、科学技術振興事業団と共同で、実際にヒトの体内で起こっているベロ毒素とベロ細胞との結合原理に着目し、人工の「特殊な糖鎖誘導体」を化学的に合成した。これを水晶振動子マイクロバランスに応用することによりベロ毒素を特異的に迅速に検出するための手法を最近開発できたので紹介する(写真)。

 これまでの分析法は、微量の遺伝子を増幅するPCR法、大学の研究室で行われているバイオアッセイ法、保健所などで利用されている免疫化学的方法などが知られているが、いずれも操作の簡便性や正確さなどにおいて問題のある方法であった。我々は、ベロ毒素が生体内の特殊な糖鎖構造を認識して結合することに着目し、まずベロ毒素を特異的に結合できる人工の糖鎖誘導体を分子設計し化学合成を行った。次に、腎臓の細胞の役目を果たすこの化合物を水晶振動子チップ上に固定化した。一定の電圧をかけると振動する水晶の周波数変化から吸着量を質量に換算して、短時間(30−40分程度)で正確にベロ毒素を検出することに成功した(図)。本分析法では、チップ上に数ナノグラム(ナノは10億分の1)のベロ毒素の吸着量を捉えることができる。

 現在我々のグループでは、O-157で汚染された食品やそれに感染した患者から採取した検体などを用いて実用化に向けた研究を進めている。

写真1 図
写真 ベロ毒素検出用センサーの装置
図 糖鎖と水晶振動子マイクロバランスを利用したセンサーシステムの概略
■関連情報
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超磁歪材料を微小重力環境で合成

−世界最大4300ppmの磁歪率−
皆川 秀紀の写真
みながわ ひでき
皆川 秀紀
皆川連絡先
微小重力環境利用材料研究ラボ

 強磁性体を磁界の中に置くと、伸びたり縮んだりする磁歪(じわい)と呼ばれる現象が観察される。このような強磁性体材料は磁歪材料と呼ばれ、直線状に動く動力源、アクチエーター、センサーや潜水艦のソナー等に利用が期待されている。小さな磁場で、大きく伸び縮みする磁歪材料が開発できれば、省エネルギーに役立つ他、高感度ソナーあるいは高感度センサーを作り出すことが可能となる。このような磁歪材料としては、TbFe2、DyFe2、そしてこれらの元素の複合合金であるTerfenol-Dと呼ばれる(Tb0.3Dy0.7)Fe2が用いられている。これらの磁歪材料は、一定方向に結晶面が並んだ大きい結晶は磁場中で大きく伸び縮みすることが知られている。しかし、常重力環境においてこれらの材料を溶融凝固した場合、融液に大きな熱対流が発生し、結晶軸の方向がバラバラの多結晶になってしまい、高い磁歪率(磁場中で伸び縮みする率)を得ることは困難である。微小重力環境下では、熱対流が抑制され、均一な融液状態が維持される。従って微小重力環境下で非常に弱い磁場中で一方向から凝固を行えば方向の揃った結晶成長が起こることが期待される。

 本研究ではTbFe2磁歪材の合成を常重力環境下と微小重力環境下において行い、凝固組織と磁歪率に大きな相違を発見した。常重力環境で一方向凝固した試料は、ランダムな径が10µm 〜50µm長さが100µm〜500µm程度の柱状晶組織が得られ、最大磁歪率が2000ppmであった。この値は凝固時の磁場強度を増加させても変化しなかった。一方、微小重力環境下において一方向凝固した試料は、凝固方向と同じ向きに[111]方向に配向した径が約30µm長さ1.0mm〜2.0mmの柱状晶組織が得られた(図1)。さらに磁歪率は凝固時の印加磁場強度の増加にともない、最大4300ppmの磁歪率を持つ世界最大の性能を持つ磁歪材が得られた(図2)。

図1 図2
図1 常重力環境下(a)と微小重力環境下(b)において、一方向凝固したTbFe2試料の組織観察結果
図2 常重力環境下(a)と微小重力環境下(b)において、異なる磁場強度の下で凝固したTbFe2試料の磁歪特性
■関連情報
  • Clark and H. Belson, AIP Conf. Proc., No.5(1972)1498.
  • T. Okutani, H. Minagawa, H. Nagai, Y. Nakata, Y. Ito, T. Tsurue and K. Ikezawa,Ceramic Engineering and Science Proceedings, 20, No.4, (1999) 215-226.
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次世代SiCパワーデバイス

−チャネル移動度の飛躍的向上に成功−
先崎 純寿の写真
せんざき じゅんじ
先崎 純寿
先崎連絡先
パワーエレクトロニクス研究センター

 優れた物性値を有する炭化珪素(SiC)を用いた金属−酸化膜−半導体電界効果型トランジスタ(MOSFET)は、通電状態の抵抗(オン抵抗)値が理論的にSi MOSFETよりも約2桁下がると予想されており、Siパワーデバイスの性能を凌ぐ超低損失・高速パワーデバイスとして期待されている。しかし、これまでに報告されているSiC MOSFETの反転型チャネル移動度は非常に小さく(〜5 cm2/Vs)、実際のオン抵抗の低減は極めて困難である。この低チャネル移動度はSiC MOS界面に高密度に存在する欠陥(界面準位)が原因であると考えられている。これに対して我々は、酸化膜形成後の高温H2アニールがこの界面準位密度の低減に有効であることを見出した1)。他方、従来広く使用されているSiC(0001)基板の代わりにSiC(数式)基板を用いることで実効チャネル移動度(µeff)が増加(〜30 cm2/Vs)することが報告された2)。今回、我々は4H-SiC(数式) MOSFET作製プロセスに高温H2アニール処理を適用した結果、チャネル移動度を飛躍的に向上させることに成功した。

 MOSFET作製には、p型エピタキシャル4H-SiC(数式)基板を用いた。ソース・ドレイン領域の形成のため、燐を高温イオン注入し、1500℃の活性化アニールを行った。ゲート酸化膜は1150℃のウェット酸化により約50 nm形成し、その後1150℃のAr雰囲気アニールを行った(試料A)。さらに、800℃で30分のH2雰囲気アニールを行なった(試料B)。

 図1に試料BのMOSFET静特性を示す。ドレイン電流(ID)が低ドレイン電圧(VD)側では直線的に増加し、高電圧側では飽和する良好なFET特性を示している。図2にチャネル移動度(µFE、µeff)に対するゲート電圧(VG)依存性を示す。試料Aに比べて試料Bのチャネル移動度は飛躍的に増加しており、反転型チャネル移動度として世界最高値の110 cm2/Vsが達成された。このチャネル移動度の飛躍的な向上は、高温H2アニールによる界面準位密度の低減によるものであると考えられる。今後は本技術を用いてSiCパワーMOSFETを設計・作製し、オン抵抗低減の理論的限界にチャレンジする予定である。

図1 図2
図1 SiC(数式) MOSFETのドレイン電流−電圧特性
図2 SiC(数式) MOSFETのチャネル移動度のゲート電圧依存性
■関連情報
  • 1) K.Fukuda, W.J.Cho, K.Arai, S.Suzuki, J.Senzaki and T.Tanaka: Appl. Phys. Lett. 77, 866 (2000).
  • 2) H.Yano, T.Hirao, T.Kimoto, H.Matsunami, K.Asano and Y.Sugawara: IEEE Electron Device Lett.20, 611(1999).
  • ・共著者:福田憲司(パワーエレクトロニクス研究センター)
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新しい有機色素増感太陽電池の開発

−世界最高の変換効率6%を達成−
荒川 裕則の写真
あらかわ ひろのり
荒川 裕則
荒川連絡先
光反応制御研究センター

 色素を用いた太陽電池である色素増感太陽電池は、近年比較的高い変換効率が得られるようになったこと、安い製造コストが予想されること、原材料の資源的制約が少ないことなどから次世代型の太陽電池の一つとして注目されている。

 光反応制御研究センターでは、新しいクリーンエネルギー生産技術の開発を目指して、安価で高性能な色素増感太陽電池の開発に力を入れている。研究開発のポイントの一つは、安価で、太陽光を広範囲に吸収し、電子移動がスムーズに行われる新色素の開発にある。高性能な色素としては高価な貴金属ルテニウム(Ru)を含む錯体色素が知られているが、安価で、吸光係数が高く、多種類存在し、分子設計が容易である有機色素は注目される材料である。しかし、従来の有機色素は光吸収幅が狭く太陽光を広く利用できないこと、色素から酸化物半導体への電子移動効率が低いことなどから、それを利用した太陽電池の変換効率は1%程度と低かった。

 本研究センターでは(株)林原生物化学研究所と有機色素を用いた高性能色素増感太陽電池について共同研究開発を行って来たが、このたび世界最高性能を示す有機色素増感太陽電池の開発に成功した。

 新しく開発した色素は図中に示すクマリン系色素である。従来のクマリン系色素にくらべ、可視光を幅広く吸収出来るように色素骨格に電子共役系部位を導入し、それに加え電子移動が効率的に行われるための電子吸引性のCN基、色素を半導体表面に強く固定するためのCOOH基を色素骨格末端に導入した。本色素を用いたチタニア太陽電池では図に示すように400nmから750nmまでの可視光を光電変換することが出来、その光電変換効率(IPCE)はルテニウム錯体色素のそれに匹敵する。これにより有機色素を用いた色素増感太陽電池としては世界最高性能を示す太陽エネルギー変換効率6.0%を達成した。本太陽電池の効率は、現在のところアモルファス太陽電池の性能より若干劣るが、価格、原材料資源などの点から優位で、将来的には、着色で透明な、あるいはフレキシブルな有機太陽電池への応用も期待でき、その波及効果は大きいと考えられる。写真に試作した有機色素増感太陽電池を示す。

図 写真1
図 新色素の構造とそれを用いた太陽電池の光電変換効率の波長依存性(Ru色素との比較)
写真 産総研で試作した有機色素増感太陽電池
■関連情報
  • 荒川裕則 企画監修「色素増感太陽電池の最新技術」、シーエムシー(2001).
  • K.Hara, K.Sayama, Y.Ohga, A.Shinpo, S.Suga,H.Arakawa, Chem.Commun.,2001,569.
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アボガドロ定数の決定

−原器に代わる原子質量標準をめざす−
藤井 賢一の写真
ふじい けんいち
藤井 賢一
藤井連絡先
計測標準研究部門

 アボガドロ定数は1モルの物質に含まれる原子や分子の数を表す基礎物理定数の一つであり、物質量の定義やジョセフソン定数KJ = 2e/heは素電荷、hはプランク定数を表す)と密接な関係がある。この定数が正確に決まれば、現在はキログラム原器という人工物で定義されている唯一のSI基本単位“キログラム”を、原子質量標準に置き換えることができる。このため、計測標準研究部門(NMIJ)ではその精度を8桁のオーダーまで高めるための研究を行っている。

 アボガドロ定数はシリコン結晶の密度、格子定数、モル質量の絶対測定から求められる。絶対測定とは、SI単位の定義に従って測ることであり、例えば長さ測定であれば、約500 THzのレーザ光源の周波数を測定して、光速度cの定義から波長を決めるところから開始する。このため、全ての量を絶対測定するには、標準についての総合的な技術力が必要となる。

 シリコン結晶はダイアモンドと同じ結晶構造を持ち、一辺の長さa(格子定数)の単位セルのなかに8個の原子が含まれる(図1)。シリコンの結晶は完全性が極めて高いので、巨視的密度ρは単位セルの微視的密度(原子レベルでの密度)8m/a3に等しい。従って、関係式ρ= 8m/a3が成立する。ここでmはシリコン原子1個あたりの質量を表わす。質量分析計で求められる平均モル質量をMとすれば、アボガドロ定数はNA = M/m = 8M/a3)として求められる。

 アボガドロ定数を正確に測定できるようになった技術的要因はいくつかあるが、直接の引き金になったのは、シリコン結晶でできた非常に真球に近い1 kgの球体が造れるようになったことである。従来、シリコン結晶の密度は、液体中での浮力測定から求められていたが、新しい方法では球体の直径のナノメートル計測と質量測定から直接決定できる(写真)。この方法による密度の測定精度(相対不確かさ)は1 × 10-7であり、当部門では光周波数を直接計測・制御してその精度をさらに3 × 10-8 まで高めるための研究を行っている。格子定数の測定には、シリコン結晶を加工して作られたX線干渉計を用いる。格子定数についても8桁のオーダーでの測定値が得られている(図2)。

 この方法によるアボガドロ定数決定の精度は今のところ3× 10-7 であるが、質量の単位の定義を書き換えるためには、この精度をあと一桁高める必要がある。海外の研究機関との協力のもとに、原子質量標準実現のための国際的な研究が進められている。

図1 写真1 図2
図1 シリコンの結晶構造
写真 単結晶シリコン球体の直径を測るレーザ干渉計
図2 X線干渉計による格子定数のフェムトメートル計測
■関連情報
  • 藤井, 「質量標準と基礎物理定数−質量の単位の定義をめぐる最近の動き−」, 応用物理, 68巻6号, 656-662 (1999).
  • K. Fujii, M. Tanaka, Y. Nezu, K. Nakayama, H. Fujimoto, P. De Bievre and S. Valkiers: Determination of the Avogadro constant by accurate measurement of the molar volume of a silicon crystal, Metrologia, 36, 455-464 (1999).
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ナノ構造制御材料

−金属微粒子をポリマーフィルム内に並べる−
堀内 伸の写真
ほりうち しん
堀内 伸
堀内連絡先
高分子基盤技術研究センター

 大きさが数ナノメートル(1nmは10億分の1m)と極めて小さい金属微粒子は、バルクの同一材料とは異なる反応性や物性を有することが知られている。この様な微粒子を安定に分散させ、かつ配列・集積化し、材料化やデバイス化を目指す研究が行われている。

 我々は、金属錯体蒸気をフィルム状ポリマーに接触させるだけのドライプロセスにより、金属微粒子を高分子フィルム中にナノスケールで配列させる方法を見いだした。図1(a)はポリスチレン(PS)とポリメチルメタクリレート(PMMA)からなるブロックコポリマー内に形成された平均粒径3.5nmのパラジウム微粒子の配列状態を示す透過型電子顕微鏡写真である。ブロックコポリマーは、互いに非相溶なポリマー鎖を末端で結合させたポリマーであり、互いの鎖が混ざりあわず、ポリマー鎖の長さに相当するスケール(数nm〜100nm)の相分離パターンが得られる。昇華性金属錯体であるパラジウム(II)ビスアセチルアセトナート(Pd(II)AA)とブロックコポリマーフィルムを窒素雰囲気下、180℃、2時間接触させると錯体蒸気はポリマー中に浸透し、同時に、ポリマー自身の還元作用により、熱分解、還元され、Pd金属がポリマー中に安定に分散する。用いたブロックコポリマーは、PS 相とPMMA 相が交互に積層するラメラ構造を有し、PS相内部で選択的に金属錯体の熱分解・還元反応が進むため、この様な金属微粒子の規則配列が得られることが明らかとなっている。また、ブロックコポリマーの示す相分離パターンは、構成ポリマーの分子量比により多様であり、図1(b)に示すような金属微粒子の球状集合体を作ることもできる。ブロックコポリマーはフィルムとしての形状を維持しつつ、金属錯体を還元、金属微粒子を形成、配列させるナノリアクターとして働き、大量の粒子を一度に大面積に並べることを可能にする。

図1(a) 図1(b)
図1 パラジウム金属微粒子が形成されたブロックコポリマーフィルム断面の透過型電子顕微鏡写真
(a)ラメラ状配列 (b)球状配列
■関連情報
  • S. Horiuchi, I. Sarwar, and Y. Nakao, Advanced Materials 12, 1507 (2000).
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有機光学材料のナノポリッシング

−分子レベルの平坦化を達成−
南條 弘の写真
なんじょう ひろし
南條 弘
南條連絡先
基礎素材研究部門

 DAST(4-dimethylamino-N-methyl-4-stilbazolium tosylate)と呼ばれる有機イオン結晶は、LiTaO3など無機結晶の30倍に達する極めて高い光学定数(d11=1040pm/V)を有する。また、1テラ(1兆)ヘルツ以上の高周波信号を検出できる超高速電気光学デバイス、あるいは無機結晶の100〜10000倍に達する光検出感度を示すセンサーの材料として優れた利点を有している。その反面、有機イオン結晶表面は大気中の水分を吸収した変質層等で覆われやすく、光の散乱や透過率の低下を招いている。従ってそれを抑制すれば、材料本来の高い光学特性が発現すると期待される。また、通常の切削や研磨に比べて機械的な強度が小さいことから表面研磨が困難であったり、切削時の発熱による分子の昇華や分子層の剥離が起こったり、研磨中における砥粒の埋込や削り子による研磨傷が生じたりするなどの問題点が発生する場合があり、それを克服する新たな研磨方法の開発が待たれていた。

 我々はDAST分子表面を原子間力顕微鏡(AFM)により観察する過程で、探針への加重を制御することにより、表面分子をイオン結晶の層ごとに研磨できることを見い出した(図1)。この知見をもとに、分子結晶の表面を数分子単位で切削研磨できるナノポリッシング法を提案し、1µmスキャナーで600nm四方に渡って分子レベルで平坦な表面(テラス)の作製に成功した(図2、3)。この広さはレーザー光径300µmに比べて小さいが、600nmごとに1nmのステップがあったとすれば、光学特性の乱れは高々0.2%であり、ステップの存在は無視し得る。さらに、このテラスは大きなスキャナーを使えば拡張可能である。本法は、10nN程度という微小な加重で切削するため、結晶の機械的強度が小さすぎて従来加工ができないとされてきたMNA(2-methyl-4-nitroaniline)結晶(94GHzのミリ波の変調が可能)など多様な有機分子結晶への適用も期待される。

図1 図2 図3
図1 DASTのイオン対層ごとの研磨 図2 DASTの分子レベル平坦化 図3 テラス上の分子像(1辺8nm)、左上は画像処理前の原画像
■関連情報
  • H. Nanjo, P. Qian, N. Sanada, T. M. Suzuki, H. Takahashi, H. Ito and K. Komatsu, Optics Letters, 25, 1107-1109(2000).
  • H. Nanjo, P. Qian, N. Sanada, T. M. Suzuki, K. Komatsu, H. Takahashi and H. Ito, Japanese J. of Applied Physics, Part 1, 40, 4556-4558(2001).
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窒化アルミニウム高感度圧力センサー

−車載燃料電池で実用化へ−
秋山 守人の写真
あきやま もりと
秋山 守人
秋山連絡先
基礎素材研究部門

 私たちの研究グループは、高周波(RF)マグネトロンスパッタリング法を用いて、これまで困難と考えられてきた多結晶基板上に、物理的および化学的に安定な窒化アルミニウム(AlN)の高配向性薄膜(XRDロッキングカーブ半価幅<3°)の作製に成功した。さらに、この薄膜作製技術を物理センサーの開発に応用した新方式の高感度圧力センサーの開発に成功し、大学・企業と共に「高感度薄膜圧力センサー連携研究体」を構成して実用化に向けた研究を進めている。

 開発した圧力センサーは、高配向性窒化アルミニウム薄膜の誘電率の変化を検出に応用した、新方式の高感度圧力センサーである。現在使用されている圧力センサーと比較した場合、(1)構造が単純であり、長寿命が期待できる。(2)耐高温性などの耐環境性に優れている。(3)感度が高い。(4)有害物質を使用しない。(5)低コストであるなどの優れた特性を持つ。このセンサーの具体的な用途としては、車載用や家庭用の燃料電池、携帯電話等の電子機器類、エアコン等の家電製品、自動車用制御機器等である(図)。

 従来、圧力センサーには、ダイヤフラム方式や半導体を利用した物が数多く開発され、利用されている。これらに比べ、新開発の薄膜圧力センサーでは、機械的な変形がないため本質的に振動、腐食に強く耐久性があり、高温下(200℃以上)でも安定して使用できる小型のセンサーの開発が容易となっている。過酷な条件で安定した動作が期待される自動車産業、特に近い将来実用化が期待されている車載用燃料電池の分野でも、信頼性を高める上で注目されている。本センサーの素材である窒化アルミニウムは物理的および化学的に安定であり、有害物質を使用しない耐久性の高い環境に優しい高感度圧力センサーとして実用化を目指している。

図
図 新方式高感度薄膜圧力センサーの用途
■関連情報
  • M.Akiyama, H.R.Kokabi, K.Nonaka, K.Shobu, T.Watanabe: J.Am.Ceram.Soc. 78, 3304-308(1995).
  • M.Akiyama, T.Harada, C.N.Xu, K.Nonaka, T.Watanabe: Thin Solid Films 350, 85-90 (1999).
  • M.Akiyama, C.N.Xu, M.Kodama, I.Usui, K.Nonaka, T.Watanabe: J.Am.Ceram.Soc. 84, (2001)(in press).
  • 特許第2909532号:秋山、徐、野中、渡辺
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シリコーンラバーマイクロバルブ

−化学分析チップの低コスト・高集積化−
細川 和生の写真
ほそかわ かずお
細川 和生
細川連絡先
機械システム研究部門

 マイクロマシン技術の応用として、化学分析機器の微小化、集積化は最も有望な分野の一つである。そのようなシステムはマイクロTAS(Micro Total Analysis Systems) と呼ばれ、試料の節減、分析の高速化、機器のポータブル化などの効果が期待されている。これらの効果は20世紀に起きたコンピュータの進化と比較して論じられている。現在のところ電気泳動や PCR (Polymerase Chain Reaction) など単機能のマイクロチップは多数発表されているが、今後それらを組み合わせて高度なシステムを構築するためには、マイクロバルブなどの微小な流体制御素子の開発が不可欠であり、とりわけ製造コストの低いデバイスが望まれている。なぜなら特に医療診断分野においては、デバイスは「使い捨て」以外には考えられないからである。

 我々はポリマーの成形加工を利用して、低コストで集積密度の高いマイクロバルブを実現した(図)。これは三つの独立したバルブを集積化したもので、全体として三方弁になっている。主な部品は断面図に示すチップ1、2、およびメンブレンであり、すべてシリコーンラバーでできている。 二つのチップの表面には微細な溝が成形加工されていて、これらの溝をメンブレンの両面でシールすることによって2層構造の流路が形成されている。チップ1側の流路(赤)は試料・試薬を流すためのもので、途中にあるギャップが弁座の役割を果たす。このバルブは「常時閉」タイプである。チップ2側の流路(青)は外部からの空気圧(負圧)を減圧室に導く。この空気圧によりメンブレンを変形させ、バルブを開く。製作したマイクロバルブの写真を示す。シリコーンラバーは柔らかいためチップ同士の位置合わせが難しく、現状ではこの工程が微細化の限界を決めている。

写真1 図
写真 マイクロバルブの光学顕微鏡写真 図 マイクロバルブのレイアウト
■関連情報
  • K. Hosokawa and R. Maeda: J. Micromech. Microeng. Vol. 10, 415-420 (2000).
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膜状リチウム吸着剤の開発

−低水圧型吸着装置の開発をめざして−
大井 健太の写真
おおい けんた
大井 健太
大井連絡先
海洋資源環境研究部門

 リチウムは二次電池用材料、冷媒、核融合トリチウムの原料として将来的に需要増が予測されている元素である。海水中には希薄ながらリチウムが含まれており、分離吸着材料開発グループでは、海水からのリチウム採取技術の確立に向けた研究を進めている。今までに、高性能リチウム吸着剤の開発、造粒法、流動床カラム実験、などを行い、技術的にリチウム採取が可能であることを見いだしている。

 さて、海水からのリチウム採取の経済性ということを考えると、海流、発電所温排水など自然の流れを利用する吸着装置を開発する必要がある。このような海流は、流れは速いものの水圧差が小さいという特性がある。粒状吸着剤を用いる吸着装置では、流動状態を達成するために大きな水圧差が必要であり、自然海流における吸着装置としては適していない。

図1
図1 膜状吸着剤の調製法

 我々は、NEDO派遣の梅野彩研究員を中心に低水圧でも有効なシステムとして膜状吸着剤を用いる装置を提案し、その技術的検証を進めている。膜状吸着剤を積層した吸着装置では、膜間の海水流れがスムーズであり低水圧でも有効な吸着装置を開発できること、モジュール化が容易であり、取り扱いが簡便になるものと期待している。今回、図1に示す溶媒置換法で高強度で安定性に優れる膜状吸着剤を開発することができた。この方法で調製した膜は表面に多くの細孔が形成され、内部は比較的空隙の多い構造となっている。弾性率、最大点応力などの引っ張り強度や振とう強度は良好な値を示す。図2に示すような層間平行流吸着装置を組み立て、膜状吸着剤を平行に取り付け海水からの吸着実験を行った。吸着剤膜面の海水流れが吸着速度に大きく影響し、スペーサの設置が有効であった。また、吸着量は10日間で9 mg/gに達しており、膜状吸着剤が良好な吸着性能を保持していることを確かめた。現在、吸着速度の向上、海水流れと水圧差に関する化学工学的検討など低水圧型吸着装置の設計に向けたデータを蓄積している。

図2
図2 層間平行流吸着装置
■関連情報
  • 特開2000-085880 膜状リチウム吸着材料、その製造方法及びそれを用いたリチウム回収方法
  • 新規リチウム吸着剤 R. Chitrakar, H. Kanoh, Y. Miyai, and K. Ooi, Chem. Mater., 12, 3151 (2000).
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岩石の透水係数の高精度測定

−汎用室内試験システムの開発に成功−
張 銘の写真
ちょう めい

張連絡先
深部地質環境研究センター

 岩石やコンクリート、アスファルトスーパー舗装および各種水理バリアなどの難透水性材料中の流体の流れやすさを正確に評価することは、各種地下開発利用、備蓄、交通、環境保全および廃棄物地層処分など様々な実用分野において非常に重要な研究課題となっている。

 材料中の流体の流れやすさの指標となる透水係数(permeability)は、基本的に1856年にフランスの水文科学者であるH. Darcyが提案したダルシー則により求められる。従来では、ある一定断面積を持つ柱状試験体の両端面間に、一定あるいは規則的に変化する水圧差を与え、定常または準定常状態における供試体を透過する水の流量を測定し評価を行ってきた。しかし、試験体の透水性が極めて低い場合では、流量が非常に小さくて、その計測も測定機器の限界や蒸発などの原因によって現実的に不可能であった。

 難透水性材料中の流体の流れやすさを迅速かつ正確に評価するために、当センターでは理論と装置開発の両方の研究課題に取り組み、系統的に研究を行ってきた。その結果、従来の定水位法のほか、定流量法およびパルス法(図1)の非定常状態の測定結果から難透水性材料の透水係数のみならず、水を貯める能力を表す貯留係数、水の流れ状態を表す動水勾配および実験装置自身による誤差をも評価できる厳密解析理論の確立に成功した1)〜3)。また、難透水性岩石試験体を、地下深部の存在状態を再現した高い拘束圧(地圧)と高い間隙水圧(地下水圧)の条件下で、一台の試験装置を用いて前述の三種類の透水試験を高精度に実施できる汎用室内試験システムの開発にも成功した4)。図2に稲田花崗岩で実施した測定例を示す。この図より、花崗岩内部の微小クラックが最も多く潜在するRift面に平行した方向の透水係数は直交した方向に比べ遙かに大きいことが分かる。現在はこの新しい試験システムの実用化および試験法の国際的基準化を目指して研究を進めている。

図1 図2
図1 室内透水試験法の概念 図2 稲田花崗岩の計測例
■関連情報
  • 1) M. Zhang, T. Esaki, H. W. Olsen and Y. Mitani : Geotechnical Testing J., 20, 296-303(1997).
  • 2) M. Zhang, M. Takahashi, R. H. Morin and T. Esaki : Geotechnical Testing J., 21, 52-57(1998).
  • 3) M. Zhang, M. Takahashi, R. H. Morin and T. Esaki : Geotechnical Testing J., 23, 83-99 (2000).
  • 4) 特許第3041417号銘,高橋 学,江崎哲郎
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地中熱利用のための地質情報の研究

−みんなの足もとにあるエネルギー−
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おおたに ともゆき
大谷 具幸
大谷連絡先
地圏資源環境研究部門

 井戸水に触れるとわかるように、地下水には夏は冷たく冬は暖かいという性質がある。これは地表の温度が季節によって、また昼と夜によって変化するのに対して、地中の温度はある程度の深さまで行くと一定になるためである。このような地表と地下の温度の違い(地中熱)を用いた地中熱源ヒートポンプ(図1)は従来の空気を熱源とするエアコンよりも効率的な運転が可能である。この地中熱ヒートポンプを冷暖房等に活用することにより、石油消費量の減少、ヒートアイランド現象の緩和、二酸化炭素の排出量削減への貢献が期待されている。地中熱利用は近年、アメリカ、スイスでは進んでいるものの、日本ではいまひとつ進んでいない。

 その理由として、日本における高価な掘削費とともに地中熱利用のために必要な地質情報に関する研究が進んでいないことが挙げられている。日本では地殻変動が激しいため、安定した大陸であるアメリカやスイスの地盤状況と比べて、軟弱な地盤が多く地下水が豊富である。地中の熱エネルギー分布は地下水流動の影響を受け偏在性を有するが、日本では特に偏在性が大きく、熱採取に必要な掘削深度など経済性を左右する問題となる。よって地中熱を経済的・効率的に利用するためには地下における偏在的な熱エネルギー分布の把握が不可欠である。また実際の地中熱の利用に際しては、人工的な熱採取による周辺への環境影響が懸念され、その対策も必要である。

 本年度より3ヶ年計画で上記の問題を解決するために「地中熱利用の最適化のための地下水水理予測手法に関する研究」を開始した(図2)。本研究開発では、地下温度・地下水・地質調査に基づいて、三次元地下温度構造・水理構造の解析手法を構築し、地中熱利用施設の最適配置を求める手法を開発することを目指している。同時に、数値モデル構築・シミュレーションにより地中熱利用の開発可能性を判断するために環境への影響を調べ、適正使用熱量、適正揚水量等の指標数値を算出する手法を開発する予定である。

図1 図2
図1 地中熱ヒートポンプ 図2 研究開発の流れ
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