腸管出血性大腸菌O-157による食中毒は、平成8年に大発生し多くの患者と死者を出し、日本中をパニックに至らしめた。また、関係する産業界に多くの経済的ダメージも与えた。この食中毒が他の食中毒と異なり死亡率が高いのは、主に大腸菌O-157の生産するベロ毒素が、腎臓のベロ細胞に強力に結合し、尿毒症を併発するためである。その治療には、対症療法しかなく検査を迅速に正確に行うことが医療現場や社会のニーズになっている。
界面ナノアーキテクトニクス研究センター高軸比ナノ構造制御チームでは、名古屋大学工学部、岐阜薬科大学の協力を得て、科学技術振興事業団と共同で、実際にヒトの体内で起こっているベロ毒素とベロ細胞との結合原理に着目し、人工の「特殊な糖鎖誘導体」を化学的に合成した。これを水晶振動子マイクロバランスに応用することによりベロ毒素を特異的に迅速に検出するための手法を最近開発できたので紹介する(写真)。
これまでの分析法は、微量の遺伝子を増幅するPCR法、大学の研究室で行われているバイオアッセイ法、保健所などで利用されている免疫化学的方法などが知られているが、いずれも操作の簡便性や正確さなどにおいて問題のある方法であった。我々は、ベロ毒素が生体内の特殊な糖鎖構造を認識して結合することに着目し、まずベロ毒素を特異的に結合できる人工の糖鎖誘導体を分子設計し化学合成を行った。次に、腎臓の細胞の役目を果たすこの化合物を水晶振動子チップ上に固定化した。一定の電圧をかけると振動する水晶の周波数変化から吸着量を質量に換算して、短時間(30−40分程度)で正確にベロ毒素を検出することに成功した(図)。本分析法では、チップ上に数ナノグラム(ナノは10億分の1)のベロ毒素の吸着量を捉えることができる。
現在我々のグループでは、O-157で汚染された食品やそれに感染した患者から採取した検体などを用いて実用化に向けた研究を進めている。





































