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AIST Today VOL.1 No.7

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AIST Today / National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
 表紙 (PDF:849.2KB)
 目次
 メッセージ
産総研との巡り会い
日本製粉株式会社 代表取締役社長  澤田 浩 
 トピックス   
国際研究交流大学村開村 (PDF:553.6KB)
AIST Waterfront Symposium 開催 (PDF:620.9KB)
 最新情報           
ライソゾーム病の治療薬 分子細胞工学研究部門
窒化ケイ素セラミックスで世界一の熱伝導率を達成 シナジーマテリアル研究センター
高精度小型レーザ追尾干渉計 計測標準研究部門
「ひやり・はっと」センサー ヒューマンストレスシグナル研究センター
カテーテルに用いられる人工筋肉 人間系特別研究体
自分で形を変えるモジュール型ロボット 知能システム研究部門
21世紀の手術室 人間福祉医工学研究部門
カーボンナノチューブの量産 新炭素系材料開発研究センター
Co-Ni-Al系強磁性型形状記憶合金の開発 基礎素材研究部門
加熱成形が可能なセルロース 海洋資源環境研究部門
バイオマスからの天然物資の回収 生物遺伝子資源研究部門
海洋地質情報の新しいスタイル 海洋資源環境研究部門
 特集 (PDF:506.0KB)
情報・電子・通信分野の課題と産総研の取り組み(1)
 テクノ・インフラ (PDF:126.8KB)
測光放射測定諮問委員会/物質量諮問委員会報告
化学物質安全性データベースの開発
 フロンティア (PDF:490.4KB)
“ブラディオン連携研究体” 誕生
   ー変化と機動性に富む研究単位による目的達成型開発研究推進の実際ー
ブラディオン連携研究体  
研究体長 田中 真奈実 
 パテント (PDF:34.3KB)
産総研パテントポリシー/産総研技術移転ポリシーの紹介
 AIST NETWORK (PDF:360.5KB)
中部センター新施設が落成
米国セラミック学会よりフェローの称号を授与
産業技術連携推進会議「生命工学部会」開催
山口きらら博
関西センター公開
東北センター一般公開

ライソゾーム病の治療薬

−マンノース-6-リン酸型糖鎖を利用した細胞内輸送の応用−
千葉 靖典の写真
ちば やすのり
千葉 靖典
千葉連絡先
分子細胞工学研究部門

 ライソゾーム病は、細胞内の老廃物を代謝する際に必要な酵素の活性が低下しているために起こる遺伝病であるが、根本的な治療法は確立されていなかった。近年になり、患者のライソゾーム(老廃物を代謝する細胞内小器官)に欠損している酵素を細胞外から導入し、蓄積する老廃物を分解するという酵素補充療法が提唱された。その導入には、酵素の末端にマンノース-6-リン酸残基を有する糖鎖構造が重要である。補充療法に用いられる酵素は現在主に動物細胞で作られているが、培養に牛血清を用いるため生産コストが高くまた感染症の心配もある。したがって補充療法用酵素を安価で大量にかつ効率良く供給するために、我々は酵母を宿主としてマンノース-6-リン酸残基を有する酵素を生産させることを検討した(図1)。モデルとしてライソゾーム病の一種であるファブリー病の治療薬となるヒトα-ガラクトシダーゼ(α-GalA)を発現させた。

 リン酸含有糖鎖の割合を多くするためMNN4遺伝子が恒常的に発現した株を選び、酵母に特異的な外糖鎖生合成に関わる遺伝子(OCH1, MNN1)を破壊した。得られた株にα-GalA遺伝子を導入した。生産されたα-GalA中の糖鎖にはマンノースリン酸を付加した酸性糖鎖が多く含まれていた。しかしながら酵母の酸性糖鎖はリン酸とマンノースがジエステル結合しているため、そのままではマンノース-6-リン酸レセプターとの結合効率が低い。そこでα-マンノシダーゼ生産菌を新規に単離し、この酵素を用いてin vitroでα-GalAの糖鎖のリン酸に付加したマンノースを切断させることに成功した。この酵素を用いて、ファブリー病患者由来の細胞への取り込みを測定したところ、α-GalAは細胞内に取り込まれ、蓄積していた老廃物(CTH)をほぼ完全に分解した(図2)。

 このシステムを使うことにより、ファブリー病のみならず、他の多くのライソゾーム病の治療薬を安価に生産できると考えられる。

図1 図2
図1 酵母によるファブリー病治療薬の開発手段 図2 蛍光抗体染色によるα-GalAの評価
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窒化ケイ素セラミックスで世界一の熱伝導率を達成

−新規な焼結助剤を発見−
平尾 喜代司の写真
ひらお きよし
平尾 喜代司
平尾連絡先
シナジーマテリアル研究センター

 窒化ケイ素は高い強度とねばり強さを合わせ持つ優れた構造用セラミックスとして知られており、自動車部品、転がり軸受けなどの構造部材として用途が広がっている。これらの用途は窒化ケイ素セラミックスの持つ優れた機械的特性に着目したものである。一方、純粋な窒化ケイ素結晶は200W/(mK)を越える高い熱伝導率(金属アルミニウムに匹敵)を持つと予測されており、放熱材料としても高い期待が寄せられている。

 シナジーマテリアル研究センターでは、国家プロジェクト「シナジーセラミックスの研究開発」において、窒化ケイ素粒子を一方向に配向させることにより配向方向で120W/(mK)を越える材料をすでに開発している1)。しかし、この配向材料は強度、靱性に優れるものの粒子の配向方向に垂直な方向での熱伝導率は60W/(mK)程度と低く、またプロセスが煩雑でコストが高いなど放熱材料としての量産化を考えた場合大きな課題を残していた。 このため、当研究センター摺動材料チームでは等方的に高熱伝導を発現する窒化ケイ素の開発に取り組み、最近、上智大学板谷研究グループの協力のもと窒化ケイ素マグネシウム(MgSiN2)を焼結助剤として用いることにより高熱伝導化が可能であることを見いだした2)

 従来の窒化ケイ素は、焼結助剤として酸化物を用いるため結晶粒子内部に溶けこむ酸素量が多くなり、このことが熱伝導率を低下させていた(図1)3)。窒化物(MgSiN2)を焼結助剤の一部として用いることにより、結晶粒子内部の不純物酸素を極めて低い水準まで低下させることが可能であり、この結果、約150W/(mK)の高い熱伝導率の発現が可能となった(図2)。この値は、窒化ケイ素の熱伝導として報告されている世界最高の数値であり、従来からICパッケージ用の放熱材料として用いられていた高熱伝導窒化アルミニウムに匹敵する。一方、窒化ケイ素は窒化アルミニウムと比べて約2倍以上の強度と靱性を持つ。このため、今回開発した窒化ケイ素材料は優れた機械特性と高い熱伝導率を合わせ持つ放熱材料として幅広い用途が期待される。

図1 図2
図1 種々の窒化ケイ素焼結体の粒子内部の不純物酸素量と熱抵抗(熱伝導率の逆数)の関係 図2 種々の材料と開発材料の熱伝導率の比較
■関連情報
  • 1) K. Hirao, K. Watari, M.E. Brito, M. Toriyama, S. Kanzaki, J. Am. Ceram. Soc., 79, pp. 2485-88 (1996) .
  • 2) H. Hayashi, K. Hirao, M. Toriyama, K. Itatani and S. Kanzaki, J. Am. Ceram. Soc., in press.
  • 3) K. Hirao, K. Watari, H. Hayashi, and M. Kitayama, MRS Bulletin,26, pp. 451-455 (2001).
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高精度小型レーザ追尾干渉計

−次世代三次元座標標準の確立−
大澤 尊光の写真
おおさわ そんこう
大澤 尊光
大澤連絡先
計測標準研究部門

 自動車産業等、三次元形状測定を必要とする分野は幅広い。これら三次元形状測定には三次元測定機(CMM)が広く使用されているが、その構造上、大型対象物や、ロボットの動的な測定ができないなど欠点がある。そこで次世代三次元座標標準の確立を目指し、これらCMMでは不可能な測定を可能とする、レーザ追尾座標測定について研究を進めている。

 ここで簡単にレーザ追尾座標測定の原理を述べると、固定した3台のレーザ追尾装置(トラッカ)を用意し、移動する対象物に固定したレトロリフレクタ(光が入射すると入射した方向に戻す機能をもつ)をターゲットとして、ターゲットとトラッカの距離をレーザ干渉計にて測定する。これら3つのトラッカにより測長された値を用いて、三辺測量の原理からターゲットの座標が算出される。ターゲットが移動しても、トラッカは自動的にリフレクタを追いかけ、動的な三次元座標の測定が行える。

 今まで製作されたトラッカは、数µmの機械的誤差を持っていたため、この機械誤差以下の測定は不可能であった。そこで、図1に示すような首振り式半球ミラーという追尾機構を考案した。これは、半球に小さい円形ミラーを球の中心とミラー表面が一致するように取り付けたものである。この半球ミラーを3つの小球上に乗せ、半球下部に取り付けられたシャンク(操作軸)の先端をX-Yステージで駆動すると、半球ミラーにより反射されるレーザ干渉光を、その中心を一定に保ちながら任意の方向へ振ることができる。本トラッカの機械的誤差は0.8µm以下であり、三次元座標測定の結果から、120 mm立方の空間の三次元座標を2〜3µmの誤差で測定できることが確認された(図2)。この値は、高精度な三次元測定機とほぼ同程度の精度である。

 次世代三次元座標標準の確立を目指し開発したこのトラッカは、自重約5kgでどこにでも持ち運びでき、大型構造物(例:飛行機の機体)やロボットの運動性能評価等を短時間、高精度に測定できるため、今後様々な応用が期待できる。

図1 図2
図1 首振り式半球ミラー
図2 開発したトラッカによる座標測定の様子
■関連情報
  • Jiang Hong, et al., A Compact Laser Tracking System for the Calibration of CMM, 日本機械学会2000年度年次大会講演論文集(ii)p183.
  • Toshiyuki Takatsuji et al., The relationship between the measurement error and the arrangement of laser trackers in laser trilateration, Meas. Sci. Technol. 11 (2000) 477-483.
  • Toshiyuki Takatsuji et al., The first measurement of a three-dimensinal coordinate by use of a laser tracking interferometer system based on trilateration, Meas. Sci. Technol. 9 (1998) 38-41.
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「ひやり・はっと」センサー

−作業現場の安全確保のために−
谷口 正樹の写真
たにぐち まさき
谷口 正樹
谷口連絡先
ヒューマンストレスシグナル研究センター

 半建設工事等の作業現場において、事故に至る寸前、いわゆる「ひやり・はっと」場面は事故件数の数十倍もあるといわれている。しかし、「ひやり・はっと」場面に関しては届出の義務もないため、その詳細はほとんど記録されていない。そこで、作業現場で作業者が「ひやり・はっと」したことを自動的に検知して、詳細を記録することにより、作業現場での安全性を向上させることができると考えられる。

 そこで我々は、作業者が「ひやり・はっと」したことを検知する技術の開発を進めている。その原理としては、作業者の生理的な状態(心拍数、呼吸など)を常時計測して、その変化から作業者が「ひやり」としたり、「はっと」したことを検知するというものである。ただ、この研究を進めるためには、「ひやり・はっと」した際の生理的状態の変化傾向を、多くの被験者を用いて調べる必要があるが、実際の作業現場を使ってそのような実験を行うことは、安全面、倫理面から困難である。そこで我々は、大型のVR(ヴァーチャルリアリティ)装置を用いることにより、被験者を危険にさらすことなく、「ひやり・はっと」状態発生時の生理的状態の変化を計測した。図1に実験の様子を示す。実験後のアンケート調査から、VRによっても高い臨場感、恐怖感が実現され、被験者の多くが「ひやり・はっと」したことが確認された。

 得られた生理状態変化のデータから、「ひやり・はっと」状態を検知するアルゴリズムを作製した。これを適用することにより、「ひやり・はっと」状態を高精度に検知できることが解った。図2に「ひやり・はっと」状態検知の例を示す。「ひやり・はっと」イベントに対して、検知信号が出ていることがわかる。現在はまだ実験室内での検証段階であり、また多くの誤信号も出力されるレベルであるが、目下、より検知精度を高めること、また実際の現場での作業において使用可能なシステムにすることを目指して研究を進めている。なお、本研究は経済産業省の研究開発プロジェクト「人間行動適合型生活環境創出システム技術」において行っているものである。

写真1 図
図1 VR実験の様子
図2 ひやり・はっと検知の例
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カテーテルに用いられる人工筋肉

−応答感度の高いイオン交換樹脂/貴金属接合体−
安積 欣志の写真
あさか きんじ
安積 欣志
安積連絡先
人間系特別研究体

 筋肉は神経活導電位の微弱な電気信号にコントロールされる化学エネルギーを、直接力学的エネルギーに変換する装置であり、その性能は収縮率が30%、発生圧力が0.3MPa、応答速度が0.1sといわれている。筋肉のような材料を人工的につくりだすことができるならば(すなわち人工筋肉)、機械における動力部分(アクチュエータ)を生物と同じ動きをする柔らかいアクチュエータで構成することができ、機械工学に革命が起こる。従って、様々な試みが行われてきたが、今だ実用的なものは完成していない。最大の問題は、応答の速さと耐久性である。旧大阪工業技術研究所は、1991年に燃料電池の材料として注目をあびているフッ素樹脂系のイオン交換樹脂に貴金属(白金、金)を接合した接合体が電場に対して高速(最高0.03s)に応答して曲る現象を発見し(図1参照)、それ以来その現象の機構の解明、応答性の改良、医療用機器(能動カテーテル)への応用開発を進めてきた。曲る原理は、電場がかかった時、樹脂内の動くことができるイオン(フッ素樹脂系はカチオン交換樹脂が通常なのでプラスイオン)が水分子を伴って電極に引き寄せられ、それによってイオンの動いた電極の側(この場合マイナス)が膨潤することにより屈曲する。以上の原理をもとに、電極材料、接合方法、電極樹脂材料、膜内イオンの種類などが検討され、応答感度は飛躍的に向上した。

 このような材料開発実績をもとに、現在能動カテーテルの開発が積極的に進められている。能動カテーテルとは、図2に示すように血管内手術で用いるカテーテルの先端に、360゜任意の方向に動かすことのできるチューブ状の高分子アクチュエータを付け、それを体外から操作することによってカテーテルの方向を自在に操作しようというものである。現状の技術では難易度の高い脳血管内動脈瘤手術に適用することを目的としており、本システムの完成により患者への負担が極めて少ない血管内手術の普及が飛躍的に進むことが期待される。

図1 図2
図1 フッ素系イオン交換樹脂に金を化学メッキした接合体に、蒸留水中で2Vの電圧を加えた時の屈曲応答と、プラスイオンの移動に伴う水移動による応答モデル
図2 高分子アクチュエータを用いた能動カテーテルの模式図
■関連情報
  • 安積欣志:高分子、Vol.50, No.7, 450-453 (2001).
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自分で形を変えるモジュール型ロボット

黒河 治久の写真
くろかわ はるひさ
黒河 治久
黒河連絡先
知能システム研究部門
ロボットの写真
クローラ型移動ロボットから歩行ロボットへの変形動作の実験の様子

 モジュール型ロボットとは、互いに着脱できる部品(モジュールと呼ぶ)を多数組み合わせて作るロボットである。モジュールに必要な機能は、1)着脱機能(モジュール同士の結合・分離)、2)動作機能(モジュール間の相対運動)、3)制御・情報処理(外界の計測、運動の制御など)である。これらの機能によって、周りに合わせて自分の形を自分で変えること(自己組立)や、故障のときに故障したモジュールだけを捨てて残りのモジュールで機能を維持すること(自己修復)が可能となる。応用としては、未知の環境で自分の形を変えながら作業をしなければならない災害用ロボットや惑星探査ロボットなどがある。

 これまで開発されているモジュール型ロボットは、構造が複雑で重いとか、構造を自分で変えることができないなどの問題があった。今回、東京工業大学村田智助教授と共同で開発したモジュールはかまぼこ型の2つの部分をリンクでつないだもので、1)6個の着脱面と2つの回転駆動部のみのシンプルな構造、2)永久磁石と形状記憶合金バネによる小型着脱機構、3)結合面を使ったモジュール間配電、という特徴を持つ。これにより形状を変化させることと、歩行のようなロボット全体の動作が可能となった。左図は、9個のモジュールがクローラ型ロボットから脚ロボットに変形して移動を行う実験である。

 現在は、全モジュールはホストのコンピュータによって集中制御され、あらかじめ人が計画した動きを行っている。今後は、センサで外部環境を検知し各モジュールが自律的に動作を決定する自律分散制御や、ロボット全体の動作計画の自動化などのソフトウェア開発と、信頼性の高いモジュールのハードウェア開発を進めていきたい。

■関連情報
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21世紀の手術室

−手術支援ロボットとMRI−
鎮西 清行の写真
ちんぜい きよゆき
鎮西 清行
鎮西連絡先
人間福祉医工学研究部門

 手術の低侵襲化を一層進め、手術中にMRI画像のパワーを活かし、これを更に有効に利用する「21世紀の手術室」の実現を目指した、磁気共鳴画像(MRI)と協調動作する手術支援ロボットの研究を展開中である。

 MRIを手術中に撮影するメリットは、肉眼では確認できない組織内部の様子、特に腫瘍の位置を確認できるなど医師の新しい目としての機能にある。しかし、MRIは強大な電磁場を発生する一種の極限環境で、ロボットなどのメカトロニクス製品は、動作はおろかMRI室内に持ち込むことさえ許されない。我々は非磁性の機構部品、電気ノイズを出さないセンサなどを開発して、MRI撮影中にロボットを動作させても全く相互に影響しないシステムの開発に成功した。現在、前立腺がんの治療を想定した臨床研究使用に向けて米国ハーバード医学校・ブリガムアンドウィメンズ病院と共同研究研究中である。

 また、我々はMRI撮像中に使用可能なCCD内視鏡システムと手術ナビゲーションシステムの開発も進めている。内視鏡は、低侵襲手術のキーテクノロジーであるが、汎用の内視鏡はMRIと同時に使用することは不可能であった。我々の試作品は、使用に耐えるレベルであることを確認した。 MRI観察下の手術での、本格的な低侵襲手術の可能性を開くものと言える。

 そして、これらの技術を統合したMRI手術室を東京女子医大大学院・先端外科医学講座と共同研究中である。既に、MRI手術室は稼動していて、悪性脳腫瘍の切除率が従来の平均80%程度から95%程度に向上したことを確認している。これは、統計的な5年生存率の倍以上の向上を意味する。今後は手術ロボット、内視鏡のMRIとの同時使用を目指した研究を進める計画である。

写真1 写真2
手術用MRIに取り付けられたロボット
チタンなどの素材が多用されている
MRIと同時に使用可能な内視鏡の試作品
鏡筒部は樹脂製で、全く金属部品を有さない
■関連情報
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カーボンナノチューブの量産

−カーボンナノチューブの産業応用の推進−
湯村 守雄の写真
ゆむら もとお
湯村 守雄
湯村連絡先
新炭素系材料開発研究センター

 カーボンナノチューブは、熱伝導性、電気伝導性、機械的強度などで従来の物質にない優れた特性を持つことが確認され、次世代壁掛けテレビの電子源材料、Li電池の負極剤等の電池材料、水素等のガス貯蔵材料、複合樹脂材料まで幅広い用途への応用の可能性をもっていることから、21世紀の産業を支える重要な物質になると期待されている。カーボンナノチューブを工業材料として実用化を進める上で、最大の課題が低コストで大量供給が可能な合成技術の確立である。

 筆者らは、平成10年度より開始された通産省の産業科学技術研究開発プロジェクト「炭素系高機能材料技術」(フロンティアカーボンテクノロジー)において、昭和電工(株)とカーボンナノチューブの大量合成技術の開発を進めていたが、昨年度前半までの研究において、炭化水素と触媒を気相で1000℃以上の温度で反応させ、高効率で多層カーボンナノチューブが生成する事を確認した。本方法は化学的プロセスによる合成方法で、スケールアップが容易で、原料に炭化水素等を使うことから、コストも安い特徴を有している。

 この成果を受けて、平成11年3月より、物質研と昭和電工は、大型連続式反応試験装置の設計・製作に着手し、平成11年度末にはこの試験設備により、平均直径30nmの多層カーボンナノチューブが1時間当たり200g生成されることを確認した。そして平12年5月の後処理行程の完成により、カーボンナノチューブ合成装置の全設備が完成し本格的に量産の可能性を実証する事となった。本連続式生産技術が確立されれば、1日当たりの生産量が数kgから数百kgの量のカーボンナノチューブの生産への見通しが得られるものと期待される。

 フロンティアカーボンテクノロジープロジェクトでは量産技術の確立を受けて、カーボンナノチューブの試験供給を開始し、配布先は30社を超し、電子放出材料、水素吸蔵材料、電池材料、機械的応用等、幅広い応用分野で、工業材料としての可能性が検討されている(図3)。

図1
図1 超微粒子触媒を用いた化学合成法によるカーボンナノチューブ合成
図2 図3
図2 超微粒子触媒を用いた化学合成法による大型連続式反応試験装置
(昭和電工(株)生産技術センター内)
図3 サンプル配布による多層カーボンナノチューブの応用開発の状況
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Co-Ni-Al系強磁性型形状記憶合金の開発

−高速応答磁気駆動アクチュエータが実現可能に−
及川  勝成の写真
おいかわ かつなり
及川 勝成
及川連絡先
基礎素材研究部門

 強磁性型形状記憶合金は、形状記憶効果の発現に関連するマルテンサイト相(以下ではM相と称する)が強磁性を示す合金である。近年、このような合金で数%に及ぶ巨大な歪みが磁場により生じることが報告され、新しいスマート材料として注目されている。

 従来の形状記憶合金は、熱弾性型マルテンサイト変態を示し、大きな変位は得られるが温度変化により変位を制御するため、合金の冷却速度によりアクチュエータの応答速度が律速され、高速応答に適さない欠点があった。強磁性型形状記憶合金は、磁場により変位を制御でき、且つ、磁歪、電歪材料と比較して1、2桁大きな歪みが得られることから、高速応答が可能な磁気駆動アクチュエータへの応用展開が期待されている。

 我々のグループでは、東北大学の石田研究室と共同で、Co-Ni-Al系合金において熱弾性型マルテンサイト変態(以下ではM変態と称する)を示す、強磁性型形状記憶合金を新たに発見した(図1)。これまでにも、Ni2MnGa、Ni2MnAl合金などで強磁性型形状記憶合金は報告されているが、脆くて加工ができない、変態点が低いなどの欠点があり、研究として注目されるが工業用材料の対象とはならなかった。

 今回開発した材料は、組成と組織の制御により熱間・冷間での加工が可能となる。例えば、1300℃の熱延で、直径20mmのインゴットを厚さ1.3mmまで加工できる。また、2段熱処理を行うと加工性が更に向上し、冷延で厚さ200µmのテープ形状にすることもでき、従来の加工プロセスで製造できる。

 図2に29at.%Al断面における温度-組成相図を示す。Iの領域では、強磁性状態でM変態を生じ、典型的な強磁性型形状記憶合金となる。IIの領域は、M変態温度がオーステナイト相とM相のキュリー点の中間となり、M変態(一次変態)により自発磁化が生じる合金で学術的にも興味深い点である。M変態温度、キュリー温度は、CoとAl濃度により-150〜150℃まで制御することが可能であり、この面からも実用性に富むと言える。

 今後は、磁気駆動アクチュエータ、歪みセンサーなどへの実用化に向けた研究を進める予定である。

図1 図2
図1 Co-Ni-Al強磁性型形状記憶合金が示す形状記憶効果
(a)10℃で変形(b)加熱により形状が戻る
図2 温度-組成相図
■関連情報
  • 日経メカニカル 2001年7月 70-71.
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加熱成形が可能なセルロース

−メカノケミカルポリマーアロイ化法−
遠藤 貴士の写真
えんどう たかし
遠藤 貴士
遠藤連絡先
海洋資源環境研究部門

 セルロースやキチン・キトサンに代表される天然多糖類は、地球上で最も豊富なバイオマス高分子である。しかしながら、汎用プラスチックのように加熱しても柔らかくなる性質(熱可塑性)を持たず、また溶解できる溶媒も非常に限られている。そのため、工業的用途は紙やレーヨン繊維に限定されている。

 我々の研究グループでは、機械的処理による天然多糖類の材料化について開発研究を進めている。近年、セルロースと熱可塑性の合成高分子の混合物を、溶媒を加えることなく固体状態のままで、機械的粉砕によるドライプロセスで処理すると、固相独特の反応が起こり、セルロースと合成高分子が分子レベル(ナノレベル)で複合化(分子の混合・分散)することを見出した1−4)。我々はこの機械的(メカノ)処理により化学的(ケミカル)反応を起こさせ、高分子(ポリマー)を複合化(アロイ)する方法を、「メカノケミカルポリマーアロイ化法」と呼んでいる。

 熱可塑性合成高分子としてポリエチレングリコール(PEG)を用いた場合を例として、複合体におけるPEG由来の溶融温度の変化を図に示す。単純な混合物では、ほとんど熱特性の変化はみられないが、生成した複合体ではPEGの添加量に依存して融点が低下し、分子レベルでの相容化が起こっていることが分かる。種々の分析結果から、この複合体では、PEG分子がナノレベルでセルロース分子鎖の間に進入したり、その表面に集積することにより、お互いの分子間に水素結合が形成されて相容化していることが推定される。

 得られた複合体は、セルロースのように熱可塑性がない物質が高い割合で含まれている場合でも、加熱により成形が可能である(写真)。

 この手法は,これまで材料化方法が限定されていた、様々なバイオマス資源や合成ポリマーを他の物質と複合化して成形材料に転換できることから、新規な高機能材料の開発やリサイクル技術として大いに発展が期待できる。

図 写真1
図 PEG添加量による熱特性の変化
写真 セルロース(80重量%)−PEG(20重量%)複合体からの成形体
■関連情報
  • 遠藤貴士, 広津孝弘, 細川 純, 特許第2979135号, 科学技術庁第59回注目発明選定.
  • T. Endo, R. Kitagawa, F. Zhang, T. Hirotsu, and J. Hosokawa, Chem. Lett., 1999, 1155.
  • 遠藤貴士, 広津孝弘, 細川 純, 特許第3099064号.
  • 遠藤貴士, Cell. Commun., 7, 63 (2000).
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バイオマスからの天然物資の回収

−新規マイクロ波法−
三浦 正勝の写真
みうら まさかつ
三浦 正勝
三浦連絡先
生物遺伝子資源研究部門

 バイオマスのなかで賦存量の多い繊維系植物資源は、太陽エネルギーを光合成によって炭酸ガスを固定化したものである。水分を多く含み密度は小さい。発熱量は原油の40%、4300kcal/kg程度である。輸送・保存性が良くないことから活用地域が限られ、集荷コストが大きいことが最大の欠点といえる。しかし、バイオマスは適正な管理・育成によって再生産が可能な永久資源である。枯渇化が危惧されている化石資源のエネルギ変換は、炭酸ガス濃度を高め、地球温暖化の原因とされている。資源の延命化、地球温暖化を抑制するためにも、バイオマスの積極的な活用が世界の課題となっている。ここでは産総研が開発したマイクロ波法による熱的変換の概要を紹介する。

 技術の大略を図1に示す。他に醗酵など生物的変換法がある。熱分解では、物質は周囲から加熱される。その熱移動は原料の表面から内部に向かう。一方、内部で発生した揮発性の生成物は高温となった表層部の通過を余儀なくされることから、さらに分解反応が進む。減圧法や急速熱分解法は、この高次分解を抑制する効果がある。しかし、熱伝導性の良くないバイオマスの高次分解抑制は容易でなく、微粉砕することが必要不可欠である。

 一方、マイクロ波法では、電磁波のエネルギーによって内部から発熱が起こり、さらに木質材の発熱反応熱が加わることから塊状物を急速に加熱できる。内部から加熱されることから、揮発性の天然物質や低次分解物の回収が期待できる。実際、丸太材から、1,6-anhydro-b-D-glucopyranose (レボグルコサン:無水糖)の生成が確認でき、実用規模で期待できる。その新規マイクロ波法によるバイオマスの熱的変換の概要を図2に示す。現在、マイクロ波法による生成物の一次評価を終え、高次分解の抑制効果を確認している。図中の無水糖は次世代の化学薬品や機能性高分子などの原料にできる。生物資源の高度利用研究,無水糖の特性などを検討している。

図1 図2
図1 バイオマスの熱的変換技術の概要 図2 マイクロ波法による熱的変換
■関連情報
  • M. Miura, S. Tanaka, H. Kaga, K. Takahashi and K. Ando,"Rapid microwave pyrolysis of wood", J. Chem. Eng. Japan, 33,299-302 (2000).
  • T. Kakuchi, A. Kusuno, M. Miura and H. Kaga: "Polymerization of 1,6-anhydro-2,3,4-tri-O-allyl-D-glucopyranose as a convenient synthesis of dextran", Macromolecular Rapid Communications, 21, 1003-1006 (2000).
  • A. Kusuno, M. Mori, M. Miura, H. Kaga and T. Kakuchi : " Synthesis and optical resolution property of (1,6)-a-D- glucopyrantris(phenylcarbamate) as chiral stationary phase in HPLC", Enantiomer, 6, 27-33 (2001).
  • 特許第1928070号:セルロース系物質の熱分解、炭化物、無水糖類の同時製造方法とその装置.
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海洋地質情報の新しいスタイル

倉本 真一の写真
くらもと しんいち
倉本 真一
倉本連絡先
海洋資源環境研究部門

 地球表面積の約7割を占める「海」は、地球生命の誕生場であり、資源の宝庫であり、地球環境を左右する大きなエネルギー備蓄庫でもある。また大きな災害をもたらす巨大地震や津波の発生場でもある。「海」にはその歴史が延々と刻まれ、その解読によって過去の地球を知り、さらに現在そして未来の地球が理解できるのである。ではこの根本的な「海」に刻まれた歴史とは具体的にどのようなものであろうか。それは海底の堆積物であったり、それに含まれる生物の化石であったり、あるいは地質構造や鉱床として記録されている。30億年以上にわたる複合した地球の歴史を「海」は記録しているのである。

 この複合した地球の歴史を解読するために、さまざまな切り口からアプローチし、その局面での情報を平面図(地図)として表現してきた。それは海底地質図であり、海底資源図や堆積物の分布図などであった。基本的に位置(X, Y)情報に解析結果(Z)を付加する三次元情報を二次元的に表現してきた。この情報表現の利点は、目的に応じた情報を的確に表現できる点である。しかしながらその地図に表現された情報が他の情報とどのように関係しているのかが分かりにくいことが欠点であった。

 この欠点を補うためには、「海」の情報を多角的に解析した結果を目的に応じて重ね合わせて表現することが重要である。しかもそれはその情報を利用する者が自由に選択できることが重要である。旧地質調査所が2001年に発行した「日本周辺海域音波探査データベース(CD-ROM版)」では、最近のGIS(地理情報システム)技術やインターネット技術を応用して、利用者が自由に日本周辺海域の地質情報を閲覧できるようになっている(図1、2)。しかしながら、含まれている情報は地質学的な解析結果のみであり、多角的に表現されたとは言い難い。

 現在国際的に地球科学情報がデジタル化、データベース化されつつある。それらのデータや利用者各自のデータも簡単に統合できるシステム、つまり新たなZ軸を必要に応じて追加できることが、トータルに地球を理解することに貢献する。四次元、五次元・・・多次元情報の表現(統合化)から海洋を通した新たな地球観が育まれると確信する。

図1 図2
図1 日本周辺海域の音波探査データベース(地質調査所,2001)のトップページ
音波探査断面記録を簡単に検索、閲覧できる。 また海洋地質図や音波探査記録の解釈断面などとリンクがなされている。
図2 音波探査記録断面の例
■関連情報
  • 倉本 他(2001)日本周辺海域音波探査データベース(CD-ROM版)、数値地質図 M-1、地質調査所.
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