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AIST Today VOL.1 No.6

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AIST Today / National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
 表紙 (PDF:1.4MB)
 目次
 特集  
ライフサイエンス分野の動向と戦略
研究コーディネータ  中村 吉宏 
(PDF:981.2KB)
生物情報解析研究センター
ティッシュエンジニアリング研究センター
ジーンディスカバリー研究センター
(PDF:1.2MB)
ヒューマンストレスシグナル研究センター
生物遺伝子資源研究部門
分子細胞工学部門
人間福祉医工学研究部門
脳神経情報研究部門
人間系特別研究体
(PDF:3.0MB)
ライフエレクトロニクス研究ラボ (PDF:812.4KB)
 最新情報   
手の交差で時間が逆転 −脳の中の時間− 脳神経情報研究部門
光周波数の絶対計測を実現 −フォトニック結晶光ファイバーを利用− 計測標準研究部門
プラスチックLab-on-a-Chip −LIGAプロセスで加工− ヒューマンストレスシグナル研究センター
微細な作業を楽々と −全焦点カメラ開発− 知能システム研究部門
次世代メモリ用強誘電体薄膜を合成 −テーラードリキッドソースの利用で可能に− セラミックス研究部門
リポソームの大量生産 −超臨界二酸化炭素で可能に− 環境調和技術研究部門
高速気流選別機と磁力利用凝集法の開発 −環境保全のための高度粒子分離技術− 環境調和技術研究部門
メタンハイドレート −次世代の巨大な天然ガス資源− 地圏資源環境研究部門
骨を創る −オーダーメイド関節の実現に向けて− ティッシュエンジニアリング研究センター
立体形状物に高密着製膜 −プラズマイオン表面処理− 純度制御材料開発ラボ
微生物の見えざる世界 −もっとも多様な生物資源− 生物遺伝子資源研究部門
数値地質図 −日本の新生代火山岩の分布と産状− 地球科学情報研究部門
 テクノ・インフラ
(PDF:474.7KB)
特許生物寄託センターの現状と課題
計量標準国際相互承認へ向けての活動
 フロンティア (PDF:442.5KB)
DNAチップの研究成果を事業化 −役員兼業でバイオベンチャー企業支援−
 AIST NETWORK  
関西センター設立記念事業開催
第28回「環境賞」受賞
北陸先端科学技術大学院大学と産総研との教育研究連携に関する協定調印
(PDF:2.6MB)
日豪ナノテクノロジーシンポジウム開催
テクノキッズ・イン・ウォーターフロント参加者募集
KOBE2001 ひと・まち・みらい 21世紀☆みらい体験博 〜ユメみたいなユメみたい〜
(PDF:591.7KB)
地質標本館は土曜日・日曜日も開館中です!
つくばセンター一般公開
九州センター一般公開
(PDF:2.0MB)
地球科学図・新刊案内 (PDF:2.5MB)
 相談窓口リスト (PDF:237.9KB)

手の交差で時間が逆転

−脳の中の時間−
北澤 茂の写真
きたざわ しげる
北澤 茂
北澤連絡先
脳神経情報研究部門

 コンピュータには同期用のクロックがある。1000万に及ぶトランジスタに同期用の信号を行き渡らせて、情報の交通整理をしている。一方、脳には水晶クロックはない。しかも、数多くのループがあるので、時間の順序はすぐに失われる。時間にとっては不利な条件が揃っているにもかかわらず、100億もの神経細胞がコンピュータも未だ及ばない高度な情報処理を実現している。

 われわれは、脳の中の時間の謎に迫る手始めとして、右手と左手を短い間隔で触った時の時間順序を脳がどのようにして判断しているかを調べることにした。右手に加えた刺激は左の大脳の一次体性感覚野に、左手に加えた刺激は右の一次体性感覚野に、それぞれ到達する(図1)。この左と右の一次体性感覚野に信号が着いたかどうかを監視している時間順序判断のセンター(図1)があるかどうか。それを調べるために、われわれは手を交差した場合と交差しなかった場合の時間順序判断の能力を調べることにした。手を交差してもしなくても、一次体性感覚野までの信号伝達に影響はないから、もし図1の通りなら、時間順序判断には何の変化もないはずである。

図1
図1 時間順序判断のセンターは?

 我々が得た結果は、想像を超えていた。手を交差しない場合は、誰でも右手と左手の刺激時間差が0.1秒あれば確実に正解することができた(図2の白丸)。手を交差しても(赤丸)、刺激時間差が1秒を越えると、やはりほぼ確実に正解することができた。ところが、驚いたことに、刺激時間差が0.3秒以内の場合には、時間順序判断が逆転した。図2の例ではほぼ完全に逆転し、グラフはN字状になった。一方、右手単独、あるいは左手単独の刺激の場合にはどちらの手を刺激されたかの判断を誤ることは無かった。つまり我々の発見した現象は、左右の手の単純な取り違えでは説明できない。手の空間配置が時間順序判断を劇的に変化させたと結論できる。

 この結果は何を意味するのか。まず、脳には一次体性感覚野を直接監視する時間順序判断のセンターはない。一次体性感覚野の情報に手がどこにあるかという空間配置の情報を加えて、刺激が空間内のどこにあるか、を計算した上で初めて時間の順序の処理が始まるのだ。つまり「脳の中に再現された空間」に信号を配置してから時間の処理が始まるらしい。脳が時間順序をつけるべき対象は皮膚からの信号に限らない。空間座標には、全ての感覚入力を位置付けることができるから、異種感覚由来の情報に時間順序を付与するにはまさにうってつけな方法であると言えよう。この脳の空間、時間処理の関係に関する新発見は7月号のNature Neuroscience誌に掲載された。

図2
図2 手の交差による時間順序判断の逆転
■関連情報
  • Yamamoto S & Kitazawa S (2001) Reversal of subjective temporal order due to arm crossing. Nature Neuroscience 4:759-765.
  • 共著者:山本 慎也 (Presto,筑波大学大学院)
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光周波数の絶対計測を実現

−フォトニック結晶光ファイバーを利用−
松本 弘一の写真
まつもと ひろかず
松本 弘一
松本連絡先
計測標準研究部門

 計測標準研究部門では、超短パルスレーザーを新しい光ファイバーに入射させ、広いスペクトル領域で精密な光周波数の「目盛り」を実現することによって、光の周波数の絶対測定に成功した。
光の周波数は途方もなく高いため、直接測ることはごく最近まで極めて困難であった。1980年代になって、大きな実験室一杯の装置群を多人数で稼働させてやっと測れる状況になった。また、測りたい光の周波数(色)が変われば、その測定装置の構成を大きく変えなければならなかった。

 ここで開発された技術では、フェムト秒(10の15乗分の1秒)領域のパルス幅の超短パルスレーザーを安定化し、広いスペクトル領域において光周波数が正確に一定の間隔で並ぶ「光周波数の物差し」を形成している。さらに、このレーザーを、複数中空(径が数100 nm)よりなる新しい光ファイバー(英国バース大学製)(図1)に入射させると、光周波数領域の物差し(図2)が可視から近赤外の領域まで広がる。この時、普通の光ファイバーでは、パルス幅が広がるとともに、正確に並んだ光周波数群にならないが、この新しい光ファイバーを用いると、パルス幅は殆ど変化しないでスペクトルが大幅に広がり、光周波数が正確に一定間隔で並んだ新しい物差しが、可視光や近赤外線において実現される。この光周波数物差しを、被測定レーザー光と混合させて得られる光ビート(うなり)信号をカウンターで計数することによって、被測定レーザー光の光周波数を一義的に決定できる。この光周波数の間隔は、11〜13桁の精度であるので、光を周波数領域で精密に測定することが可能である。今回、我々はよう素安定化YAGレーザーの光周波数の絶対計測に成功した。

 今後、この技術は各種のレーザー光の波長校正に、さらに、欲しい周波数の光を発生させる「光シンセサイザー」に発展させていく予定である。これによって、現場における光周波数・波長標準の高精度化が実現されるだけでなく、多くの分野への普及が期待される。

フォトニック結晶光ファイバーと呼ばれる。〉

図1
図1 新しい光ファイバー(英国バース大学製)より得られた視光
図2
  図2 光周波数領域の物差し
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プラスチックLab-on-a-Chip

−LIGAプロセスで加工−
脇田 慎一の写真
わきだ しんいち
脇田 慎一
脇田連絡先
ヒューマンストレスシグナル研究センター

はじめに

 ガラスなどの小さな基板に微細な溝やくぼみを刻んだチップに、化学反応、細胞培養や分離検出などのラボプロセスを集積化させたLab-on-a-Chip(実験室チップ)が、DNAチップに続く次世代のチップとして、注目を集めている。今年のマサチューセッツ工科大テクノロジーレビューには、世界を変える10大技術とされる画期的な技術である。

 我々は、関西地域の有機的な産学官連携の中で、卓越したインフラを用いて、研究開発を進めている。現在は、直接描画法によるチップ設計研究、電気泳動原理を用いる濃縮・分離にポイントを絞り、細胞内のシグナル伝達や代謝生成物の解析チップ及び生活の質(QOL)評価チップの構築を目指している。

なぜ、プラスチック製のチップ?

 Lab-on-a-Chipの誕生は、ガラス基板のマイクロ加工技術によると言っても過言ではない。試料溶液の微小領域での流体制御が比較的容易である特長を持つ。一方、プラスチックチップは、流体制御が容易でないが、安価であり、生体試料や細胞などを対象とした使い捨て型のチップに有利である。

LIGAプロセスによるプラスチックチップの作製

 我々は、LIGAプロセスに注目し、アスペクト比の高い、精密なチップを作製することにより、マイクロ流体制御の高度化や検出感度の飛躍的な向上を図る研究戦略を考えた。

 立命館大学理工学部の田畑研、白石研の研究協力を得て、図1に示すLIGAプロセスによりプラスチックチップ作製を行っている。(株)島津製作所基盤技術研究所の研究協力を得てマスクを設計し、X線リソグラフィーによりパターニングを行った後、スルファミン酸系ニッケル浴で電解メッキによりニッケル製の鋳型を作製した。基板にはポリカーボネートを用い、加熱加圧成形することにより鋳型のレプリカを作製し、溶液リザーバー用に穴を開けたポリカーボネート板と加熱融着させることにより、図2に示すプラスチックチップを得た。

 現在、チップの評価ならびにプロセスの改良を行っており、今後は、検出器などをオンチップ化したデバイスの作製を進める予定である。

図1 図2
図1 LIGAプロセスによる微細加工技術
図2 作製したプラスチックチップ
■関連情報
  • 電気学会技術報告第812号「マイクロ化学分析システムの技術動向」(電気学会、2000年12月)
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微細な作業を楽々と

−全焦点カメラ開発−
大場 光太郎の写真
おおば こうたろう
大場 光太郎
大場連絡先
知能システム研究部門

全焦点カメラとは

 人間が目で物を見る時、近い物体も遠い物体もピントが合っている様に感じられる。これは目が焦点距離を自動的に調整する機構となっており、頭の中で、近い物体のピントが合った画像と、遠い物体のピントが合った画像を合成しているためである。それに対して、普通、カメラにおいてレンズを通して物を見るためには、レンズのピントを合わせる必要がある。オートフォーカスカメラは自動的にピントを合わせることができるが、あくまで一定の距離だけにピントを合わせることができる単焦点カメラである。それに対して、全焦点カメラは人間の目と同じように全部の距離にピントが合っているカメラのことで、ピント調整は不必要で、いつも全視野がピントの合った状態のカメラのことを指す。

何に使えるのか?

 通常、マイクロマシン環境における操作として、顕微鏡画像を覗きながら対象物を操作する事が求められる。しかしながら顕微鏡画像などの被写体深度が浅い光学系では、物体を操作する際、物体に焦点を合わせると他の物体に焦点が合わないという例が多く見受けられる。しかしながらスペース効率とエネルギー効率を実現するための超微細加工技術のヒューマン・マシン・インタフェースや、マイクロサージェリーのため、微視的な環境を作業者に理解し易い形で提示するシステムは、その操作性と作業効率を向上させる利点から、必要性が高まっている。

 ここで開発した全焦点顕微鏡カメラは、これらの顕微鏡画像の問題を解決するため、高速に焦点距離を移動する機構と、通常の画像データを超える一秒間に240枚もの画像を高速に処理することで、どこでもピントの合った画像(全焦点画像)と、対象物体の三次元的構成を実時間で生成・表示する事を可能とした。全焦点画像と三次元構成を同時に獲得する事により、対象物体を詳細に観測する事が可能となると同時に、対象物体を希望の視点から観測する事を可能としたものである。

図
■関連情報
  • 大場光太郎、Jesus Carlos Pedraza Ortega、谷江和雄、林学明、段木亮一、武井由智、金子卓、川原伸章:「実時間マイクロVRカメラの試作」電気学会論文誌, 120-E,No.6,264 -271, 2000/06/01
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次世代メモリ用強誘電体薄膜を合成

−テーラードリキッドソースの利用で可能に−
加藤 一実の写真
かとう かずみ
加藤 一実
加藤連絡先
セラミックス研究部門

 強誘電体薄膜をシリコン半導体回路上に集積することにより構成される次世代型の強誘電体メモリは、電源を切ってもデータが失われない、低消費電力で駆動する、応答速度が速い等の優れた特徴を備えるため、各種モバイル機器やICカードへの搭載により、来る高度情報化社会における情報処理に欠かせないデバイスの一つになると考えられている。次世代強誘電体メモリを実現するためには、半導体プロセスとの協調やデバイスの微細化に対応が可能な新規強誘電体材料の開発が緊要である。

 このような、複数の機能が集積することにより、新規機能の発現や既存特性の飛躍的な向上が可能になる機能集積材料を創製するには、原料に対する従来概念を見直さなければならない。すなわち、目的とする材料の結晶学的構造や微構造を誘起する分子構造を予め内包した液相原料(テーラードリキッドソース)の適用により、強誘電体薄膜等の機能性材料をシリコン半導体の様な精密材料上に集積することが初めて可能になるのである。

 単独の金属を含むアルコキシドの化学反応を制御することにより、一分子内に二種以上の金属を含む複合アルコキシドを合成することができる。これにより、その後の加水分解反応を均一に進め、生成物の化学組成を精密に制御することが可能になる。個々のCa, Bi, Ti アルコキシドの化学反応を制御して調製した均一なCa-Bi-Tiアルコキシド溶液は、二種のダブルアルコキシドが分子レベルで均一に混合した状態にあると考えられ、この溶液を白金電極付シリコン基板上にスピンコートし、酸素気流中において100℃/sで650℃まで昇温し加熱処理することにより、初めてCaBi4Ti4O15強誘電体を薄膜化することが可能になった。膜厚約100nmのCaBi4Ti4O15薄膜は緻密な柱状構造(図1)を備え、等方性の粒子から構成されるため平滑な表面を有することが分かった。この薄膜は良好な電圧-分極ヒステリシス特性(強誘電体特性)を示し、電圧パルスを繰り返し印加しても分極値が安定(図2)であった。

 以上のように、液相原料の構造を制御することによって初めて薄膜化に成功した、新規CaBi4Ti4O15新規強誘電体薄膜は、既存メモリ用材料のSrBi2Ta2O9薄膜が抱える問題点を克服し、低温で合成した場合にも安定した特性が得られる、薄膜面内及び膜厚方向で均一な微構造を有するためデバイスの微細化に対応できる等の優れた特長のため、上記メモリへの応用展開に向けた有力候補材料として期待される。

図1 図2
図1 シリコン半導体上の積層構造とCaBi4Ti4O15薄膜の断面透過電子顕微鏡写真
図2 CaBi4Ti4O15薄膜の繰り返し分極反転操作に対する疲労特性
■関連情報
  • K. Kato, K. Suzuki, K. Nishizawa, T. Miki, Appl. Phys. Lett., 78, 1119-1121 (2001).
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リポソームの大量生産

−超臨界二酸化炭素で可能に−
大竹 勝人の写真
おおたけ かつと
大竹 勝人
大竹連絡先
環境調和技術研究部門

 生物のからだを構成する物質のうち水に溶けにくく、有機溶媒に溶けやすい物質を脂質と呼ぶ。リン脂質や糖脂質などの天然脂質は、生体の細胞膜や神経組織などの重要な構成成分となっている。このような脂質は、水中で人工脂質二分子膜のマイクロカプセル(リポソーム)を形成する。リポソームは水溶性物質を内部の水相に、脂溶性物質を二分子膜の膜内に保持することができる。また、リポソームはその由来から生体に対する親和性が高いため、カプセル化した薬物の徐放システム(DDS)や化粧品基材として注目されている。しかし、これまでのリポソーム製造法では、有害な有機溶媒を多量に使用するとともに、大量のエネルギーを消費する多段階の操作が必要であった。そのため、リポソームの大量生産は困難であった。

 環境調和技術研究部門超臨界流体工学研究グループでは、東京理科大学理工学部の阿部正彦教授およびシュウウエムラ化粧品(株)と共同で、スケールアップが容易で大量生産に適したリポソームの生産法の開発に成功した。この方法は、有機溶媒のかわりに超臨界二酸化炭素を利用するもので、従来の方法に比べ、カプセル化の効率も高い。

 本法では、超臨界二酸化炭素と脂質および微量のエタノールが均一に溶解した混合物に、種々の薬剤やタンパク質などを溶かした水溶液を所定量導入して攪拌した後、減圧することによってリポソームを形成する。本法を用いれば、人体に有害な有機溶媒を用いることなく、薬剤の保持効率の高い「大きな一枚膜リポソーム(LUV)」を容易に調製することができる。下にL-α-dipalmitoylphosphatidylcholine (DPPC)を用いて作製したリポソームの凍結割断電子顕微鏡写真を示す(写真1、2)。

写真1 写真2
写真1 本法に特徴的な扁平な巨大一枚膜リポソーム
写真2 不定形の扁平な巨大一枚膜リポソーム
■関連情報
  • Otake K., Imura T., Sakai H., Abe M., Langmuir, 2001, 17, 3898-3901
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高速気流選別機と磁力利用凝集法の開発

−環境保全のための高度粒子分離技術−
四元 弘毅の写真
よつもと ひろき
四元 弘毅
四元連絡先
環境調和技術研究部門

はじめに

 粒子を分離・回収する技術は環境保全の分野でも重要であり、廃棄物や使用済み製品から有価金属やプラスチックを回収する場合や廃水処理において粒子を除去して水を清澄化する場合などに利用されている。当グループでは、そのための乾式及び湿式分離技術を研究しており、開発した技術の一例を紹介する。

カラム型気流選別機による分離1)

 縦型カラム内の上昇流を利用して、比重や形状の異なった粒子を分離する装置である(図1参照)。同じ原理を利用する装置は他にも存在するが、当グループでは、断面積を少し小さくした部分(オリフィスという)をカラム内に配置した装置を考案し、これにより粒子の分離が達成される時間を1/10以下に短縮した。リサイクルでは、銅とアルミなど金属の相互分離、プラスチックとアルミの分離、プラスチックの相互分離に適用可能である。写真は口径60mm、全長1mのカラムを用いた分離試験の模様である。ポリエチレン(比重0.9 緑色)と塩化ビニル(比重1.4 灰色)の粒子が上下に分かれている様子がわかる。

磁性凝集核による分離2)

 水中に懸濁している微粒子は、プラスあるいはマイナスのどちらかの電荷を帯びているが、これと反対の電荷をもった粒子を近づけると、その粒子を核にして微粒子を凝集させることができる。凝集核となる粒子が磁性を持っている場合は、磁石を用いて凝集体の沈降を促進することができる。当グループでは、図2に示すように、高分子電解質で磁鉄鉱粒子を被覆することにより、幅広いpH範囲で水中の微粒子と反対の電荷を有する凝集核の製造に成功した。回収後は、pHを大きく変化させることにより凝集核の荷電を反転させて、微粒子を放出させ、凝集核は繰り返し使用できる。この凝集核を用いると、凝集剤などの化学試薬を用いることなく廃水中の懸濁粒子を迅速に除去することができ、残存する化学試薬のための廃水処理が不要になる。

図1 写真1 図2
図1 カラム型気流選別機 写真 ポリエチレン(緑)と塩化ビニル(灰)の分離 図2 磁性凝集核の原理
■関連情報
  1. 特許:(国内)特2913034特2757333特2659087特2636160特2535778、(独)19508314、(米)5794786
  2. 大木、四元、“陽電荷型磁性凝集核の製造に関する基礎的研究”、資源と素材、114巻13号、pp.959-964、(1998)
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メタンハイドレート

−次世代の巨大な天然ガス資源−
奥田 義久の写真
おくだ よしひさ
奥田 義久
奥田連絡先
地圏資源環境研究部門

 メタンハイドレートは、水分子がつくる籠の中にメタン分子がとり込まれて火をつけると燃焼する氷状物質(図1、写真)であり、資源小国日本の周辺海域にも分布するため、未来エネルギー資源として期待されている。

 メタンハイドレートが存在するには低温・高圧の条件が必要で、例えば、0℃で26気圧、10℃で76気圧以上の圧力が必要である。すなわち、海底温度が0℃の場合は260m以上の水深が、10℃の場合は760m以上の水深が必要であるため、その分布は極地の永久凍土地帯と大陸近くの大水深海域に限られる。

 また、メタンハイドレートの生成には、地下における大量のメタンの存在が必要である。このような地下での大量メタン発生のメカニズムは、海底下の微生物発酵で発生するメタンを起源とする微生物起源と、生物遺骸が埋没し地温・圧力の増加により続成作用を受けて発生するメタンを起源とする熱分解起源があり、この成因の差で探査指針が異なる。

 米国地質調査所とエネルギー省及び地質調査所(現産総研)は、世界のメタンハイドレート資源量試算を実施し、陸域では概ね数十兆m3、海域で数千兆m3のオーダーの結果が得られた。これは世界の天然ガス確認埋蔵量(145兆m3)の数十倍以上に相当する。

 日本周辺海域でも、米国エネルギー省が南海トラフ北側に4200億〜4兆2000億m3の資源量を試算した。また、地質調査所(現産総研)の調査では、南海トラフや北海道周辺海域等に分布が予想(図2)され、日本周辺海域の資源量を約6兆m3と試算した。この資源量は、日本の天然ガス年間使用量の約百倍程度に相当する。

 海域のメタンハイドレートの存在は、昨年国の基礎試錐でも確認されており、水深2000m以上の大水深域にも多くの資源分布が予想される。その開発利用には、商業的鉱床を発見する大水深探査・掘削技術や生産技術の開発が必要である。地下に眠るすべての資源の開発には100年以上かかるため、メタンハイドレートは、次世代天然ガス資源とも言えよう。

図1 写真1 図2
図1 メタンハイドレート分子構造 写真 燃えるメタンハイドレート
図2 わが国周辺海域におけるメタンハイドレートの分布予測図
■関連情報
  • 地質調査所月報, Vol. 49, No.10(1998)=天然ガスハイドレート特集号
  • 地質ニュース, 510 (1997) =メタンハイドレート特集号
  • Okuda, Y (1996) Research on gas hydrates for resources assessments in relation to the national drilling program in Japan.Proc. 2nd Int. Conf. On Natural Gas Hydrates, 633-639.
  • 佐藤幹夫、前川竜男、奥田義久 (1996)天然ガスハイドレートのメタン量と資源量の推定、地質学雑誌、Vol. 102, No.11, 959-971.
  • 松本良、奥田義久、青木豊 (1994)メタンハイドレート、日経サイエンス社刊、253p.
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骨を創る

−オーダーメイド関節の実現に向けて−
大串 始の写真
おおぐし はじめ
大串 始
大串連絡先
ティッシュエンジニアリング研究センター

 種々の細胞を用いて臓器を構築する細胞へと分化させた後、生体外でその臓器を再構築できれば、臓器不全に陥っている種々疾患にこの生体外で再構築された臓器を用いることが可能となる。まさに、この方法は臓器移植を回避できうる技術となりえる。ティッシュエンジニアリング研究センターは、このような技術を確立して新規医療産業展開をめざす。この技術の確立により、近い将来種々の臓器が構築可能である。現在我々は患者自身の骨髄に含まれる間葉系幹細胞を増殖した後、骨臓器を生体外で再構築することをおこなっている。

図1
図1

 日本のみならず各国は高齢化社会をむかえ、その治療や介護の問題点が指摘されている。高齢者の疾患に変形性関節症があり、人工関節置換手術がよくおこなわれる。しかし、用いた人工材料と患者の骨との間の固着が悪いため、結果的にその人工物を抜去せざるを得ないことがある(図1)。このような症例には患者自身の細胞を用いてあらかじめ人工関節上に骨を形成させれば、問題点は克服できる。すなわち、患者骨髄細胞を採取して間葉系幹細胞を培養により増殖させる。次に、この幹細胞を骨形成能力のある骨芽細胞へ分化させるとともに、細胞外基質(骨基質)を人工関節上で形成させる(図2)。この分化した細胞が骨芽細胞であることの確認は骨芽細胞に存在するアルカリフォスファターゼやオステオカルシンの存在により証明され、さらに物理化学的解析(XRD, FTIR)でもこの細胞外基質は生体に存在するのに匹敵する骨基質であることが確認されている(図3)。以上の経験を踏まえ、我々は患者骨髄細胞より幹細胞を増殖することをおこない、ついで患者に用いられる人工関節上であらかじめこのin vitro骨形成を生じさせることを計画している。この患者由来の骨を含んだ人工関節を用いることにより、図1に見られるような問題点を解決できる。

 現在、日本で用いられる多くの人工関節は残念ながら他国製である。しかし、この独自の技術により、人工関節の種類を選ばず、患者由来の培養骨芽細胞を組み込んだオーダーメイド関節が手術に用いられることが可能である。

図2 図3
図2 図3
■関連情報
  • H. Ohgushi & A. I. Caplan, 総説J. Biomed Mat. Res 48 : 913-927, 1999
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立体形状物に高密着製膜

−プラズマイオン表面処理−
茶谷原 昭義の写真
ちゃやはら あきよし
茶谷原 昭義
茶谷原連絡先
純度制御材料開発ラボ

 ほとんどの部品は何らかの表面処理を施してある。例えば塗装やメッキなどが一般的である。これは物の特性の多くが表面によって決定されているからで、表面特性を改善すれば耐食・酸化・摩耗特性に優れた部品とすることができる。近年、表面処理への要求が高まるにつれて従来法では対処できなくなり、ガスやプラズマ中での処理が活用されている。これは処理した表面特性が優れているからだけでなく、排水などの環境問題の制約から湿式メッキなどがそれほど容易ではなくなったことにも起因する。

 表面処理では薄膜で覆ったり、ある元素を表面からたたき込むイオン注入が行われる。特にイオン注入は薄膜形成の初期において、つまり薄膜と元々の表面との境界において傾斜組成層とよばれる「つなぎ」の役割をする層の形成に有効であり、優れた密着性を実現できる。しかし有効な傾斜組成層を形成するにはイオンの速度が早い必要がある。これはイオンを加速するための電圧が高いことを意味し、従来は特別な加速器を用いてイオンを加速し、ビームとして材料に照射していたので立体形状物の照射は困難であった。また、プラズマ中においた処理物にバイアスを印加することも盛んに行われているが、1kV程度が限度であった。これは処理物の表面でスポット状のアーク放電が起こって、表面が損傷してしまうからである。10年ほど前、米国のConradがパルス状にするとプラズマ中で高電圧を印加できることを示して以来、立体形状物を処理できるプラズマイオン注入技術の研究が盛んになった。

 当ラボでは種々のタイプのプラズマイオン注入技術を研究している。最近、栗田製作所と共同開発したRF-パルスバイアス同時印加型の装置を開発した(図1)。プラズマを発生させるためのRF電力とプラズマ中のイオンを処理物に引き込むための高電圧パルスを同一の経路で印加することによって効率よく簡単にプラズマイオン注入・成膜を行う技術である。現在、炭化水素系ガスプラズマから密着性のよい硬質炭素皮膜の形成や窒化について実用化を検討している(図2)。

図1 図2
図1 RF−パルスバイアス同時印加型プラズマイオン注入・成膜装置 図2 チタン製ドライバーヘッドの窒化
■関連情報
  • S.Y. Chun, A. Chayahara, Y. Horino: Surface & Coatings Technology, 136, 32-35(2001).
  • 特開2001-026887 表面改質方法及び表面改質装置
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微生物の見えざる世界

−もっとも多様な生物資源−
鎌形 洋一の写真
かまがた よういち
鎌形 洋一
鎌形連絡先
生物遺伝子資源研究部門

 20世紀の初頭から今日までにおよそ1万種近い微生物の実体がわかってきた。微生物の種の定義には他の生物にはない難しさと問題を含んでいるが、そのことは議論しないとしても、そもそも一体地球上には何種類くらいの微生物がいるのであろうか?その答えは、実は誰も知らない。地球上に存在する原核生物(従って原生動物やかびなど多少‘高等な’微生物は含まれていない)の数(細胞数)は1030個ぐらいではないかという推定がある。この数字は非常に膨大なもので、含まれている炭素の総量は地球上で植物が固定している全炭素量にだいたい匹敵する。眼にはまったく見えないが、微生物の生物量はそれほどまでに多いのである。昆虫の現世種が10万種と言われているが、私たちの感覚から言えば、微生物の種類が昆虫の種類より少ないということはあり得ない。おそらく100万種類、あるいはそれ以上の桁数の可能性があるといっても過言ではない。さらに近年、常識となりつつあるのは微生物種の大部分が通常の人為的手法では培養できない、ということである。しかし、培養はできなくても、いくつかの遺伝子に注目すれば自然界にいる微生物の多様性と機能をいろいろ調べることが可能である。実際、16S rRNAを用いた解析を行うと、膨大な種類の微生物の存在が見えてくる。非常に単純な基質しか加えていないような生物学的モデル水処理系ですら、多様な微生物が存在しているし、土壌のように通常、多種類の基質が低濃度で存在するような環境では、特定種だけが‘勝ち組’になるような選択圧がかからないため、たった1グラムの土の中にも驚くべき多様性が見られる。私たちは土壌、環境汚染の進んだ場所、酸素の全く存在しない嫌気環境、熱水、地下圏、昆虫や動物体内の共生微生物など、さまざまなところに存在する微生物の多様性解析、そこで主に活躍している微生物の機能、さらにはそれらの利用などの研究を行っている。そこからかいま見えるのは深く地球に根をおろした微生物の環境適応能力と多彩な機能である。

図1左 図1右 図2
図1 嫌気性原生動物 Trimyema compressum(左側写真は位相差顕微鏡で見た二つの原生動物個体)の中に共生する培養不能なメタン生成古細菌(右側写真の中の赤いシグナル)
図2 エンドウヒゲナガアブラムシの体細胞に共生する1次(赤)、2次(緑)共生微生物。いずれも宿主の繁殖に関与する培養不能な微生物
■関連情報
  • Appl. Environ. Microbiol., 67: 1284-1291, 2718-2722(2001), 66: 643-650 , 2748-2758, 3608-3615, 5043-5052 (2000).
  • Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 51: 349-355 (2001), 50: 201-207 , 743-749, 771-779, 1601-1609, 1723-1729, 1723-1729 (2000).
  • Microbiology, 146: 2309-2315 (2000).
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数値地質図

−日本の新生代火山岩の分布と産状−
鹿野 和彦の写真
かの かずひこ
鹿野 和彦
鹿野連絡先
地球科学情報研究部門

 コンピュータが普及するにつれ、地質図を数値化して地理情報システム(GIS)の上で利用する動きが活発になっている。産総研地質調査総合センター(旧地質調査所)では、1995年に100万分の1日本地質図第3版の数値化を行い、その数値ファイルを出版した。それ以降、現在に至るまで、様々な数値地質図が作成・出版されてきたが、実際にどのような利用の仕方があるのか、専門家でさえ想像がつかないことが多かった。そこで、数値地質図から起こしたコンピュータグラフィックスを駆使して作成したのが「コンピュータグラフィックス 日本列島の地質」(1996年、丸善刊)である。この本は日本列島の成り立ちを解説した本で、高価であるにもかかわらずこの分野では珍しく4千部も売れている。

 ここに紹介する「日本の新生代火山岩の分布と産状」は、これに勢いを得て、学校教育や社会教育にも生かせるように企画され、昨年9月に旧地質調査所から数値地質図G-4として出版された。二枚のCD-ROM、G-4A「火山岩の分布」とG-4B「火山岩の産状」からなる。そのうち、G-4Aは、本来の数値地質図そのもので、新生代火山岩の分布図を GIS などで表示するのに必要なデータファイルが収められている。G-4BはG-4Aを補完するもので、一種の図鑑になっている。第四紀火山分布図とそれぞれの火山についての画像、活動様式、噴火記録、各地域ごとの代表的な火山岩の産状を示す画像、そして、それらを理解するための詳しい解説と辞書などのファイルが収められている。いずれもWebブラウザで見ることができ、火山岩の産状が理解できるよう相互に関連づけられているので、産状を理解した上で、分布のもつ意味づけを考えることができる。

 地質調査総合センターは、社会に役立つ、分かり易い地球科学情報の発信が求められている。数値地質図「日本の新生代火山岩の分布と産状」は、その嚆矢となるもので、新生代火山岩の分布図とその解説とで構成される新しい様式の数値地質図である。この種の出版物を作成することは容易ではなく、「日本の新生代火山岩の分布と産状」では4年の歳月と30人を超える研究者の協力を要した。その甲斐あって、火山学の権威、荒牧重雄東大名誉教授は「火山に少しでも興味を持つ、すべての地学愛好者にお勧めする。特に大学レベルの地学系の学生諸君に強くおすすめする。たくさんの写真を漠然と眺めることから初めても、この世界の魅力に引き込まれてゆくことは間違いない。実は、地学系の先生・教員、さらに火山学が専門である大学教授のみなさんにも本気になっておすすめしたい」との書評を地質学の中心的雑誌である地質学雑誌に寄せていることからも分かるように、その評判は高い。

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