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AIST Today VOL.1 No.5

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AIST Today / National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
 表紙 (PDF:1.4MB)
 目次
 巻頭言
お祝いと要望      物質・材料研究機構理事長  岸 輝雄
 最新情報  
円順列変異法による蛋白質の構造形成に重要な配列単位の解明 分子細胞工学研究部門
金属酸化膜による光トランジスター効果の確認 次世代光工学研究ラボ
SiC半導体ドーピングプロセスの低温化に成功 パワーエレクトロニクス研究センター
次世代LSI材料の微小空隙測定に成功 光技術研究部門
環境浄化用可視光応答型酸化チタン光触媒の開発 環境管理研究部門
強磁場で誘起される絶縁体-金属-超伝導-金属逐次相転移の発見 ナノテクノロジー研究部門
有機溶剤抽出によるハイパーコール製造 エネルギー利用研究部門
微小粒子の質量・粒径の計測と標準物質 計測標準研究部門
海溝型巨大地震の発生場所を見る 海洋資源環境研究部門
地球化学図 地球科学情報研究部門
海中自動切断によるメガフロートの洋上解体 海洋資源環境研究部門
遠隔地にいる人があたかも隣にいる感じ 人間福祉医工学研究部門
 トピックス (PDF:827.1KB)
「物質・材料研究機構」・「産業技術総合研究所」連携・研究交流会開催
  産業技術連携推進会議「知的基盤部会設立総会」開催
 特集 (PDF:1005.5KB)
−解説−
細胞内で糖鎖はどのように合成されるのか?
  分子細胞工学研究部門
 AIST Network (PDF:2.1MB)
四国センター一般公開 −みんなで体験!科学の不思議?−
九州センター開所記念式典
化学・バイオつくば賞
土井宇宙飛行士が産総研に来所
北海道センターの一般公開 - 2001.8.1 -
 特別付録 (PDF:2.6MB)
産総研つくばガイド

円順列変異法による蛋白質の構造形成に重要な配列単位の解明

巖倉 正寛
Masahiro Iwakura
分子細胞工学研究部門
Institute of Molecular and Cell Biology
巖倉連絡先

 最近のゲノム解析の爆発的な進展に伴い、膨大な量の配列情報が蓄積しつつある。多くの人が予想しているように、人ゲノムの配列の内本当に意味のある配列は一握りであり、その他は、ほとんど無駄な配列であるように思われる。何が無駄で何が意味がある配列であるかを区別する方法の開発が必要であろう。

 ところが、この問題に対する一般的解決は非常に困難である。なぜならば、DNA配列をアミノ酸配列にまで変換し理解する技術は完成しているが、アミノ酸配列に含まれる情報が如何にして蛋白質の立体構造情報として生かされ、更に蛋白質の機能へと発現していくのかの原理解明が完成していないからである。それだけでなく、ある与えられた配列が、構造形成できる(つまり、意味のある配列である)のか否かに対する答えを導くのさえ難しいのが現状である。

 我々は、アミノ酸配列は大きく分けて構造形成できるもの(意味のあるもの)とできないもの(意味のないもの)に分類できることから、構造形成できるための条件とは何であるかを考え、構造形成できる配列には、構造形成に必須な配列単位(これをフォールディングエレメントと名付けた)がそろうことが必要であると考え、この考えに基づき、円順列変異解析法を考案した1),2)。さらに、この方法を、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)に適用し、DHFRのフォールディングエレメントを全て抽出することに成功した3)。我々が、決定したフォールディングエレメントは、結晶構造解析等構造生物学的アプローチで抽出される構造エレメントとは必ずしも一致せず、現在行われている構造論アプローチだけでは、問題が解決しそうにないことを意味している。

 我々の結果は、ポストゲノム研究においては、現在の構造生物学的アプローチだけでは不十分であることを示すと共に、フォールディング工学などによる蛋白質の構造構築原理の早急な解明が最重要課題の一つであることを示すものである4)。円順列変異解析で明らかにしたジヒドロ葉酸還元酵素配列中(下の図)のフォールディングエレメント(上及び下の図でそれぞれ色づけした部分)と結晶構造解析により明らかにされた構造エレメントを比較した(上の図でリボン及び矢印で示した部分)ところ、それほど良い一致が見られなかった。

図
図 決定したフォールディングエレメントと結晶構造との一致不一致の度合い
■関連情報
  • M. Iwakura & T. Nakamura (1998) Protein Eng. 11, 707-713.
  • T. Nakamura & M. Iwakura(1999) J. Biol. Chem. 274, 19041-19047.
  • M. Iwakura, T. Nakamura, C. Yamane, & K. Maki (2000) Nature structural biology, 7,580-585.
  • C. Lee, M. P. Schwartz, S. Prakash, M. Iwakura, & A. Matouschek (2001) Molecular Cell, in press.
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金属酸化膜による光トランジスター効果の確認

富永 淳二の写真
富永 淳二
Junji Tominaga
次世代光工学研究ラボ
Laboratory for Advanced Optical Technology
富永連絡先

 微弱な電気信号を増幅するために「トランジスタ」が発明され、利用されてきましたが、では光を自在に増幅することはできないのでしょうか?

 この疑問に答える研究・開発が過去10年ぐらいの間に精力的に行われ、すでに光ファイバー通信に利用されています。しかし、現在の光増幅器は、光ファイバー内に特殊な金属イオンを入れて増幅するものなので、通信用の光波長(約1.5ミクロン)でしか増幅できず、また、小型化も進んでいません。

 産業技術総合研究所・次世代光工学研究ラボでは、現在、CDやDVDの記録容量を格段に高めるための特殊な光(これを近接場光と呼びます)の研究を行っていますが、最近の実験から、高密度化した特殊なCDやDVDディスクの中に光を増幅する効果があることを発見しました。

 CDやDVDには信号を記録するための非常に小さなピットあるいはマーク(DVDでその大きさは約0.5ミクロン)が刻まれています。このマークをもうちょっと小さく0.3ミクロン以下にすると、マーク同士に近接場光の結合が発生します。マークの大きさをどんどん小さくすると、マーク間に蓄積される近接場光もどんどん増えていきます。この状態に外からレーザーやその他の方法(我々の実験では「局在プラズモン」と呼ばれる光を用いる)によって、蓄積された近接場光に攪乱を与えると近接場光は外に飛び出します。攪乱を与えるためのレーザー光強度を変えると、この近接場光を発生させるために入力していたもう一方のレーザー光強度が変化し増幅されます。実験は高速で回転している特殊なDVDディスク上で、2本のレーザービームを0.6ミクロン以下のスポットに重ねて行いました。近接場光を蓄積させるマーク部分の厚さはなんと0.08ミクロンしかありません。我々が示した実験結果は、どんな波長(色)の光でも増幅できること、「トランジスタ」と同様に将来、微細集積化が可能になることから、最近、世界中から注目されています。

図
■関連情報
  • J. Tominaga et al., Applied Physics Letters, 78, 2417, 2001
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SiC半導体ドーピングプロセスの低温化に成功

田中 保宣の写真
田中 保宣
Yasunori Tanaka
パワーエレクトロニクス研究センター
Power Electronics Research Center
田中連絡先

 炭化珪素(SiC)はシリコン(Si)と比較してそのバンドギャップが3倍近く広く、絶縁破壊電界、飽和ドリフト速度、熱伝導度等の物性値も優れていることから、Siに代わる次世代の半導体パワーデバイス材料として注目されている。SiCデバイスプロセスではその多くの部分で、Siプロセスで培われてきたプロセス技術をそのまま応用することが出来るのが長所であるが、SiC固有の物性上の理由から応用できない部分もある。その内の一つがドーピング技術である。SiCでは拡散法によるドーピングが難しいため、イオン注入法が唯一の選択的ドーピング手法として利用されている。この際、ドーパント活性化には1500℃以上でのポストアニール処理が必要なため種々のプロセス上の不具合を生じており、活性化アニール温度の低温化が急務の課題となっている。本研究ではエキシマレーザアニールと熱アニールを併用することによりその活性化温度を700℃程度まで下げることに成功したので報告する。図1は今回の実験で用いたレーザアニール装置の概略図である。XeClエキシマレーザ光はビームホモジナイザにより均一な長方形に成型された後、真空チェンバー中の試料に照射される。試料は背面に配置された赤外線加熱装置により最高1000℃まで加熱することが出来る。本実験では4H-SiCエピタキシャル基板にリン(P+)を基板温度500℃で5.0x1015/cm2イオン注入(多段注入でボックスプロファイルを形成)した試料に対し、レーザのエネルギー密度を0.8〜1.3J/cm2の範囲で4段階に変化させながら照射を行った。これは、表面蒸発を押さえつつ効率的に光エネルギーをイオン注入層に供給するための工夫である。図2にレーザ照射後の自由電子密度及びシート抵抗のレーザ照射時の基板温度依存性を示す。室温照射では活性化率及びシート抵抗共に炉アニール(1500℃)に及ばないが、500℃以上付近で急激に向上し、800℃では活性化率で約3倍、シート抵抗もほぼ同程度の低抵抗層が形成されていることが確認できた。この時、炉アニールで問題となっている表面構成元素の蒸発及びドーパントの再分布は全く観察されなかった。今後、この技術の利点を生かして、実デバイス(MOSFET、MESFET)への応用を進めている。

図1画像 図2画像
図1 図2
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次世代LSI材料の微小空隙測定に成功

−低速陽電子ビームを用いた低誘電率層間絶縁膜の評価−
鈴木 良一の写真
鈴木 良一
Ryoichi Suzuki
光技術研究部門
(現企画本部所属)
Photonics Research Institute
鈴木連絡先

 光技術研究部門高機能量子ビーム開発利用グループは(株)半導体プロセス研究所と協力し、陽電子(電子の反粒子)を用いた測定法により、次世代半導体LSI開発の鍵をにぎる低誘電率層間絶縁膜のサブナノ〜ナノメートル領域の微小空隙測定に成功した。さらに、この空隙が誘電率などの諸特性と密接に関連していることを解明した。

 次世代高性能半導体LSIの開発では、配線内の信号遅延を極小化できる低い誘電率の層間絶縁膜の開発が焦点となっており、誘電率を左右する微小空隙の構造評価が求められている。低誘電率膜のナノメートル以上の空隙は、電子顕微鏡やガス吸着法などでその構造解析が可能であったが、サブナノメートル領域の微小空隙はこれらの方法では調べることが難しかった。

 産総研では、高強度低速陽電子ビームを用いた陽電子・ポジトロニウム寿命測定装置という、特定の深さの微小空隙サイズを測定できる装置を1991年に世界に先駆けて開発し、この測定法を材料開発に利用する研究を行ってきた。一方、半導体プロセス研究所では、安価で工業的にメリットのある原料ガス(ヘキサメチルジシロキサン)を使用したプラズマCVD法による低誘電率絶縁膜の成膜法を開発した。しかし、この方法で成膜した膜はサブナノメートルの空隙を持ち、一般的な測定法では空隙の評価をすることはできなかった。

 今回、この膜に対して陽電子・ポジトロニウム寿命測定を行ったところ、サブナノ〜ナノメートルの微小空隙のサイズ分布測定に成功した。同時に、このCVD法によって空隙サイズを自在に変えることが可能であること、すなわち、このことで誘電率などの諸特性を制御できることが判明した。

 今後、この測定法を各種の低誘電率絶縁膜に適用し次世代半導体LSIに最適な材料を探求したい。さらに、ナノテクノロジー材料・光エレクトロニクス材料などの他分野の高機能材料開発にもこの測定法を応用する予定である。

写真1 図1
図2
陽電子・ポジトロニウム測定装置心臓部写真(上)・概略図(下)
ヘキサメチルジシロキサンを用いたプラズマCVD成長低誘電率膜のサイズ分布。
LF電力 : プラズマCVD成長時の高周波(13.56MHz)に追加的に印加した低周波(380kHz)の電力。
■関連情報
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環境浄化用可視光応答型酸化チタン光触媒の開発

竹内 浩士の写真
竹内 浩士
Koji Takeuchi
環境管理研究部門
Institute for Environmental Management Technology
竹内連絡先

 半導体光触媒は太陽エネルギーの化学又は電気エネルギーへの変換を可能にするとともに、省エネルギー的な環境浄化を実現するものとして注目されている1)。当部門で開発した光触媒大気浄化技術(図1)においても、東京都など多くの自治体による沿道評価試験で、1)窒素酸化物(NOx)の日平均除去速度 0.5〜3.0 mmol/m2-材料、2)除去性能や表面白色度の長期維持、3)生成する硝酸等の大気粒子状物質による自動的な中和、といった能力が示された。我が国における設置面積は既に40,000 m2 を超えている。

 光触媒としてほぼ独占的に使用される酸化チタン(TiO2)は、強力な光触媒作用、物理的・化学的安定性、無害・無毒性など多くの特長をもつが、波長400 nm以下の紫外光でしか機能しない。したがって、太陽光エネルギーの4〜5%しか利用できず、紫外線が更に少ない屋内空間では機能が制限される。

 当部門は、エコデバイス(株)及び近畿大学工学部と共同で、還元型のTiO2が着色(=可視光吸収)することに着目し、その製造方法として、熱的に非平衡な状態で表面処理を可能とする低温プラズマ法が最適であることを見いだした2)。

 原料のアナターゼ型TiO2粉末を電極付の石英製反応容器に入れ、400℃、水素ガス雰囲気(1〜2 Torr)で、プラズマを発生させた(高周波 13.56 MHz、出力500 W)。処理後のTiO2は淡黄色を呈し、紫外域に続いて 400〜600 nmの可視領域になだらかな吸収を示した。X線回折パターンや比表面積は変化せず、プラズマ処理は結晶構造を変えずにTiO2の表面層を還元したと考えられた。流通式反応器を用いて一酸化窒素(NO)の除去を行った結果を図2に示す。プラズマ処理TiO2は紫外部の除去率を低下させることなく、可視光に対しても高い除去率を与えた。電子スピン共鳴測定では酸素欠陥に捕捉された電子による特異的な鋭い吸収が観測された3)。この吸収の飽和強度はNOx除去能力とよい相関を示したことから、可視光励起によるNOx酸化においては、酸素欠陥及び捕捉電子が重要な役割を果たしていると考えられた。

 環境浄化材料としては、有害な添加物なしに可視光化が達成されたことも重要である。最近、既存の工業的製法でもこの酸素欠損可視光型TiO2を製造できることを見出し、世界初の量産品として提供されている。

図1 図2
図1 大気浄化光触媒材料の働き
図2 プラズマ処理酸化チタンによるNOの酸化的除去
NO供給濃度1.0ppm/air, 1.5 l/min(流通式);
Xe分光照射光源, 未補正.
■関連情報
  • 竹内浩士, 村澤貞夫, 指宿堯嗣: 光触媒の世界, 工業調査会 (1998).
  • K. Takeuchi, I. Nakamura, O. Matsumoto, S. Sugihara, M. Ando and T. Ihara: Chem. Lett, 2000, 1354.
  • I. Nakamura, N. Negishi, S. Kutsuna, T. Ihara, S. Sugihara and K. Takeuchi: J. Mol. Cat. A: Chem, 161, 205 (2000).
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強磁場で誘起される絶縁体-金属-超伝導-金属逐次相転移の発見

徳本 圓の写真
徳本 圓
Madoka Tokumoto
ナノテクノロジー研究部門
Nanotechnology Research Institute
徳本連絡先

 当所は米国フロリダ州立大学/国立強磁場研究所のJ. Brooks教授のグループと有機超伝導体の極低温・強磁場における電子状態やフェルミ面に関する共同研究を行って来た。(日米科学技術協力協定「有機超伝導体の特性評価」(先端材料No.6)(1992年〜))また、フランスCNRS配位化学研究所のP. Cassoux博士のグループとはπ電子系分子結晶に関する共同研究を行って来た。(日仏科学技術協力協定「機能性π電子系分子結晶」(新材料No.8-4)(1993年〜))

 小林速男教授(現、分子科学研究所)および小林昭子教授(東大理学部)のグループによって1993年に合成された有機伝導体λ-(BETS)2FeCl4(図1)は室温では金属であるが、低温(8K以下)で絶縁体に相転移する。この物質の低温の絶縁体相が鉄スピン(S=5/2)の反強磁性状態であることと、10テスラ(T)以上の磁場により絶縁体から金属状態に相転移すること(「有機巨大磁気抵抗効果」)は、その後の日仏共同研究により発見された1)

 最近、物質・材料研究機構の強磁場ステーションにおいて、この物質を20 Tまでの磁場中で測定したところ、17 T以上の(二次元伝導面に平行な)磁場により超伝導状態が出現するという極めて興味深い「磁場誘起超伝導現象」が共同研究者である宇治進也博士のグループにより発見された2)

 我々は更に高い磁場における測定を行うために、米国国立強磁場研究所におけるハイブリッド磁石(最高磁場:45 T)を用いた実験を共同研究者のJames Brooks教授と進めており、既に予備的な実験により40 T以上の強磁場によりこの「磁場誘起超伝導状態」が壊され、再び常伝導・金属状態が出現するという驚異的な実験結果を得ることに成功している3) (図2)。

 このような磁場誘起超伝導現象や逐次相転移現象は学術的にも極めて興味深く、かつ磁場に強い(高臨界磁場)超伝導材料の開発という実用的見地からも重要であり、その機構解明と物質開発の両面から、今後の進展が大いに期待される4)

図1図1式 図2
図1 BETS分子とλ-(BETS)2FeCl4の結晶構造 図2 λ-(BETS)2FeCl4の温度-磁場相図(概念図)
■関連情報
  • L. Brossard, R. Clerac, C. Coulon, M. Tokumoto, T. Ziman, D.K. Petrov, V.N. Laukhin, M.J. Naughton, A. Audouard, F. Goze, A. Kobayashi, H. Kobayashi, P. Cassoux, "Interplay between chains of S=5/2 localized spins and two-dimensional sheets of organic donors in the synthetically built magnetic multilayer l-(BETS)2FeCl4", Eur. Phys. B 1, 439 (1998)
  • S.Uji, H. Shinagawa, T. Terashima, T. Yakabe, Y. Terai, M. Tokumoto, A. Kobayashi, H. Tanaka, H. Kobayashi, "Magnetic-field-induced superconductivity in a two-dimensional organic conductor", Nature 410, 980 (2001)
  • L. Balicas, J. S.Brooks, K.Storr, S.Uji, M. Tokumoto, H. Tanaka, H. Kobayashi, A. Kobayashi, V. Barzykin, and L.P. Gor'kov, "Superconductivity in an organic insulator at very high magnetic fields", Phys. Rev. Lett. (2001) in press.
  • 小林速男、小林昭子、徳本 圓「磁性有機超伝導体の開発」日本物理学会誌Vol.56, No.3, 162 (2001)
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有機溶剤抽出によるハイパーコール製造

鷹觜 利公の写真
鷹觜 利公
Toshimasa Takanohashi
エネルギー利用研究部門
Institute for Energy Utilization
鷹觜連絡先

 近年、石炭を固体のまま直接燃焼し、排ガスの処理なしにガスタービンへ導入する新たな発電技術が考案されている。その技術開発により発電効率が大幅に上昇し、炭酸ガスの削減に大きく貢献することが期待されている。ただし、ここで問題になるのが石炭中の灰(無機成分)の存在であり、直接燃焼による灰のタービン翼への付着や腐食などの問題が指摘されている。

 そこで我々は、石炭の新たな脱灰法として、有機溶剤を用いた溶剤抽出法による脱灰炭(ハイパーコールと呼称)の製造研究を現在行っている。このアイディアは、従来のような石炭からの灰の除去とは正反対の発想であり、有用な有機質を溶剤により石炭から抽出して脱灰炭を用いるという考えである1)。またこの際、高価な水素や水素供与性溶剤は使用しないことを条件としている。

 表は種々の石炭に対する360℃での溶剤抽出率の結果を示す。ジメチルナフタレンでは2炭種で約70%という極めて高い抽出率を与えることが分かり、また工業溶剤である安価なライトサイクルオイル(LCO)を用いた場合でも、半数以上の石炭で40〜56%の高い抽出率を与えることが明らかとなった。得られた抽出物の灰の分析を行ったところ、試料炭9炭種中7炭種で灰分0.1%以下という結果が得られており、溶剤抽出法によりハイパーコールの製造が可能であることを明らかにした2)

 次にいかなる石炭が高い抽出率を与えるのか、すなわちハイパーコールとして利用価値が高いのかを判断するための簡易指標の探索を行った。その結果図に示すように、石炭が溶融し始める温度である軟化開始温度と抽出率が良い相関を与え、軟化開始温度の低い石炭ほど高い抽出率を与えることを見出している3)。

 このハイパーコール技術の実用化のための研究として、スケールアップデータ取得、連続運転性試験、燃焼試験、経済性評価、LCA(ライフサイクルアセスメント)評価などのプロセス開発が現在進められている。

表 図
表 流通式連続抽出器による360℃での溶剤抽出率
図 軟化開始温度とライトサイクルオイル抽出率との相関
■関連情報
  • Iino, M., Takanohashi, T., Obara, S., Tsueda, H. and Sanokawa, Y. Fuel, 68, 1588 (1989).
  • Yoshida, T., Takanohashi, T., Sakanishi, K. and Saito, I., Fuel, to be submitted.
  • Yoshida, T., Takanohashi, T., Sakanishi, K. and Saito, I., Energy & Fuels, to be submitted
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微小粒子の質量・粒径の計測と標準物質

榎原 研正の写真
榎原 研正
Kensei Ehara
計測標準研究部門
Metrology Institute of Japan
榎原連絡先

 気体中に浮遊する微小粒子はエアロゾル粒子と呼ばれ、気象影響、物質合成、生産や医療環境管理などの様々な分野で関心を持たれている。光散乱や動力学的方法を利用してその粒径を測定する方法は従来から研究されているが、質量を測定する方法は知られていなかった。計測標準研究部門では、エアロゾル粒子の質量計測法の研究とこれを利用した標準物質の開発を行っている。

 開発中の粒子質量計測法の一つは、遠心力と静電気力のバランスを利用するもので、電荷を与えた粒子を高速回転する同軸円筒状電極に導入し、2つの力が平衡する粒子を連続的に取り出すという原理に基づく(図1)。電荷が同一であれば、質量の大きい粒子は外側電極に捕捉され、逆に小さい粒子は内側電極に捕捉されるため、特定の質量をもった粒子を選択的に取り出すことができる。

 直径がおよそ160 mm、長さが250 mm、電極間隙が3 mmの回転電極からなる試作装置を、既存の粒径分級装置である電気移動度分析器と組み合わせることにより、図2のような粒径と質量の同時分布データが得られ、これから粒子の密度分布を求めることができる。全米で大気汚染が最も深刻と言われるジョージア州アトランタで、この方法により実効密度が1g/cm3以下の“ふわふわ”としたディーゼル車起源と推定される粒子をはじめて観測した。

 回転する円筒電極に替えて平行平板電極を用い、電極中での重力と静電気力の作用を利用することにより、同様に粒子の質量計測が可能になる。重力が遠心力より弱いため時間はかかるが、装置が単純であるため、極めて高い精度が得られる。粒径が揃ったポリスチレンラテックス粒子の質量をこれで決定し、別途液浸法で求めた密度値とあわせて粒径値づけを行うことにより、粒径標準物質として利用できる。現在、計量標準総合センターの校正試験サービスとしてこの方法による粒径値づけを実施しており、100 nm粒子について標準不確かさでおよそ0.33 nmの値づけが可能となっている。

図1 図2
図1 気体中微小粒子の質量分析の原理
図2 200 nmと300 nmのポリスチレンラテックス粒子混合試料に対する質量・粒径同時測定
■関連情報
  • Ehara, K., Hagwood, C. R., and Coakley, K. J., J. Aerosol Sci., 27 (1996) 217-234.
  • McMurry, P.H., Wang, X., Park, K., and Ehara, K., Aerosol Sci. Technol. 34 (2001) (in press).
  • U.S. Patent 5,428,220 特許第251782号
  • 計量標準総合センター校正試験 :http://www.nmij.jp/service/
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海溝型巨大地震の発生場所を見る

倉本 真一の写真
倉本 真一
Shin’ichi Kuramoto
海洋資源環境研究部門
Institute for Marine Resources and Environment
倉本連絡先

 地震の発生は地下での断層運動であるということが広く認められるようになって以来、地球物理学、地質学、地球化学などの多分野にわたる地震研究がなされてきた。日本で地震が多発する理由は、太平洋側のプレートが日本列島の下に沈み込んでいることに起因している。特に海溝付近で起こるマグニチュード8クラスの地震を巨大地震と呼んでいるが、このタイプの地震の断層面は、沈み込むプレートと、その上側のプレートとの境界そのものである。では海溝から巨大地震の発生帯が始まっているのであろうか?答えはノーである。海溝付近は柔らかい堆積物からなり、地震を起こすような歪みエネルギーを蓄えることができない。ではどこから巨大地震を起こすような歪みエネルギーを蓄えられるようになっているのであろうか?

 地下の様子をのぞき見るには音波をつかったイメージング技術が用いられている。これは医学で言えば人体のX線CT画像を撮影するのと同じようなものである。船から発音した音波(数十kHz程度)が地下で反射して帰ってくるのを捕まえて、画像化するのである。この技術を四国沖の海上で展開し(図-1)、地下の構造を三次元的にイメージングするのに成功した(図-2)。四国沖ではフィリピン海プレートが西日本の下に、北西方向に約4cm/yrの速度で沈み込んでいる。また1946年にはこの付近で南海地震(M=8.0)が発生し(図-1の青四角が想定断層面)、1300人以上の犠牲者を出している。プレート境界の滑り面(断層)はデコルマ面と呼ばれるが、海溝から巨大逆断層帯付近まではスルスルと滑る断層面で、それよりもさらに深いところ(図-2では左側)から初めてこのデコルマ面が通常は滑っていないということが明らかになった(海面下深さ約10km)。つまりここから巨大地震発生のための歪みエネルギーが蓄積され始める。この地震発生帯の浅部境界からは、海底まで直接つながる大断層の存在も明らかになり、地震発生時に津波を起こすメカニズムとして注目される。このような地震発生帯の三次元地下構造をイメージングに成功したのは世界で初めてのことである。

図1 図2
図-1
三次元地下構造探査を行った場所を示す(黒四角)。
また1946年の南海地震時に滑ったと考えられている断層(青四角)を示す。
図-2
三次元構造探査結果から地下の三次元構造を画像化した。
地震発生帯前面では巨大な逆断層が海底まで貫いている。
■関連情報
  • 倉本真一、平 朝彦、Bangs, L. N., Shipley, H. T., Moore, F. M. and EW99-07, 08 Scientific Parties(2000) 南海トラフ付加体の地震発生帯-日米3D調査概要-, 地学雑誌, 109, 531-539.
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地球化学図

−元素の分布から何がわかるか?−
今井 登の写真
今井 登
Noboru Imai
地球科学情報研究部門
Institute of Geoscience
今井連絡先

 地球化学図とは地殻表層における元素の濃度分布図のことである。このような地球化学図は最近問題となっている土壌汚染などにおいて例えば有害物質であるヒ素や水銀、カドミウムなどがわれわれの周辺にどれくらいの濃度で存在しているか、またそれがわれわれにどのような影響を与えているかに答えるものである。

 このような地球化学図を全地球規模で作成するという壮大な計画が国連の国際地質科学連合(IUGS)のもとで1988年に提案された。これは世界70カ国以上の関係各機関に呼びかけて全世界をカバーしようという計画である。特にヨーロツパ各国は熱心で欧州地質調査所フオーラム(FORGS)を中心として統一的な手法で欧州全体をカバーする計画が実際に進行中であり、英国、西ドイツ、ポーランド、フィンランドなどではすでに全国カバーが完成している。

 現在、産業技術総含研究所では全国カバープロジェクトとして、これまで全く手つかずであった日本全国における地球化学図を作成する計画が進行中である。この中で有害元素(ヒ素、カドミウム、水銀、モリブデン、アンチモン等)をはじめとする53元素の地球化学図が平成15年度に完成する予定である。図1にこれまでに作成された中国地方における鉛(Pb)の地球化学図の例を示した。Pbをはじめとするいくつかの微量元素は鉱床のある地域で濃度が顕著に高くなっている。またカリウムをはじめとする主成分元素については多くの場合背景地質と密接な関係があり、中国地方西部から中部に広く分布する花崗岩、流紋岩等の酸性岩地域で濃度が高くなっている。一方、より詳細な地球化学図として図2に姫路地方のPbの地球化学図を示す。北東の生野付近の鉱床地域で明らかに元素濃度の高い地域があることがわかる。今後は日本全国における元素分布と背景地質および金属・非金属鉱床との関係および人為的影響との関係の解析を進めてゆく予定である。

図1 図2
図1 中国地方におけるPbの地球化学図 図2 姫路地方におけるPbの地球化学図
上図:衛星写真、下図:3次元地球化学図(Pb)
■関連情報
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海中自動切断によるメガフロートの洋上解体

小川 洋司
Yoji Ogawa
海洋資源環境研究部門
Institute for Marine Resources and Environment
小川連絡先

 メガフロート技術研究組合による「浮体式海洋構造物の実証試験研究」は極めて順調に行われ、実用化の見通しが得られました。海の上に浮かぶ巨大な飛行場を実現させるためには、海上での建造技術だけでなく、その時々の修理や改造を円滑に実施する必要があります。また、用途が完了した時点で小さく解体することも必要です。

 しかし、このような平たくて巨大な構造物を海の上で溶接したり切断するのは、そう簡単なことではありません。海の上の作業とは言いながら、ほぼ半分は海中に浸かっています。このため、実際の溶接や切断作業の半分は海面より下で実施することになります。

 研究の終了に伴い、小さく分割して駐車場や海上公園として再利用するために、神奈川県横須賀市沖に浮かんでいた全長1000mのメガフロートを昨年末に解体しました。再利用するためには、高品質な水中切断を経済的に実施する必要があります。このため、当グループで開発した「エアカーテンノズル」を用いたガス切断技術をベースに、住友重機械工業が自動水中切断システムを開発して、水中切断を実施しました。「エアカーテンノズル」は、トーチ先端のノズル部からカーテン状に空気を流出させ、切断部を陸上と同じ状態に保つ方式です。

 浮体の内部に切断装置を置いて実際の切断作業を行いましたが、切断は船の底に穴を開ける作業ですから、切断開始と同時に海水が勢い良く船の中に噴出してきます。このような過酷な状態でも、切断が途切れることの無いようなシステムを実現し、1000mを超える水中切断を良好に終了することが出来ました。船底には、海藻や貝殻などの生物が付着しており、この状態で安定な切断を実施するのはそう簡単ではありませんが、装置と切断条件の工夫により、毎分25cmの速度で高品質な自動海中切断を完了しました。

写真1 写真2
写真1 船内に海水が噴出しても安定に切断 写真2 高品質な水中切断が完了
■関連情報
  • Y.Yamashita, T.Sasaki, Y.Ogawa, "Construction and Dismantling of Mega-Float", Proceedings of International Workshop on Elucidation of Welding Process, EWP-1a-4(2001).
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遠隔地にいる人があたかも隣にいる感じ

−ビジネスショウ2001でのハイパーミラーのデモ公開−
森川 治の写真
森川 治
Osamu Morikawa
人間福祉医工学研究部門
Institute for Human Science and Biomedical Engineering
森川連絡先

 ハイパーミラーは、従来のテレビ電話やビデオ会議システムの常識を破るまったく新しい遠隔対話システムです。利用者は鏡を見るように、ハイパーミラーの画面を見ます。画面には、利用者だけでなく、遠隔地の相手やその周囲の物も一緒に映し出されます。つまり、ハイパーミラーでは、実際には遠くにいる人々が映画やテレビの特殊効果のように、同じ場所に一緒にいるような映像となり、それを使って対話が行われるのです。

 従来のテレビ電話やビデオ会議システムでは、「相手は見えるが、遠い存在に感じる」という欠点があります。その理由のひとつに、相手と自分の視野が違うことがあげられます。これに対し、ハイパーミラーでは、合成された同じ映像を見て話をするため、このようなことが起こりません。また、画面上でのお互いの位置も自由に変えられるため、本当に一緒にいるような一体感が得られます。さらに、同じ場所にいる時のように、画面上で握手をしたり、肩をたたいたり、相手の持ち物などを指差すこともできます(写真1)。

 写真2は対話の様子です。コンパニオンの説明が開始されると(写真左)、直後にコンパニオンの方を向き(写真中央)、ハイパーミラー対話であることに気がつき、画面を見なおす(写真右)体験者。この間、約1秒足らず。 興味深いことに、体験者がコンパニオンを向いた瞬間、コンパニオンも体験者の方を向いて話をしています(写真中央)。対話者当人らは、お互いに画面から目を離しているので、そのような映像になっていることは知りませんが、まるで、両者でアイコンタクトが取れたような映像になっています。

 このように、ハイパーミラーでは、遠隔対話であることを理解していても、思わず、画面内の相手を見てしまう程、臨場感を感じるメディアなのです。

===体験者の感想です。===

 体験するまでは、遠隔地にいる相手と画面上では近くにいるように 対話ができるということでしたので、視線はどうしたらいいのか等 考えましたが、実際体験すると誰にでも簡単に対話することができたので 不思議で楽しい体験ができました。

写真1 写真1-1 写真1-2 写真1-3
写真2 写真2-1 写真2-2 写真2-3
  対話開始49.03秒経過   49.93秒経過   50.56秒経過
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細胞内で糖鎖はどのように合成されるのか?
How are carbohydrate chains synthesized in vivo?

成松 久
Hisashi Narimatsu
分子細胞工学研究部門
Institute of Molecular and Cell Biology

Very recently, the human genome project announced that the number of genes found in a human genome is approximately 32,000 that is only twice the number of Drosophila melanogaster. Does a man possess only two-fold gene products than a fly? The number of proteins, direct gene-products, must be around 32,000 in human, however almost all proteins are processed by posttranslational modification. Actual functional molecules are not proteins. They are glycoproteins having complex structures of carbohydrate chains. A glycoprotein is not a product by a single gene. Carbohydrate chains on glycoproteins and glycolipids are biosynthesized by stepwise reaction of multiple glycosyltransferases. Golgi apparatus is a factory assembling sugar parts on protein or lipid core, and completing the complex structures of glycoproteins and glycolipids. In a cell, more than 100 glycosyltransferases are localized in Golgi membranes, and involved in the harmonious synthesis of carbohydrate chains. In this sense, a single glycoprotein is a product by cooperative function of multiple genes. Combination of multiple genes must give rise to increase in the number of functional molecules.

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