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--Vol.45, No.7 (1997)
量子計測研究室では、より高精度な周波数標準の開発を目指して、真空中の狭い空間に電気磁気力で閉じ込められたイオンを利用する方法、イオントラップ法の研究を行っている(計量研ニュース、Vol.35,No.8)。同研究室をはじめ広く研究されている、高周波電場を利用してイオンを閉じ込めるトラップ方式では、閉じ込められたイオンはトラップ内を猛スピードで運動する(その運動エネルギーを温度に換算すると約1万度)。そのため、周波数標準として正確さを高めるためには、何らかの方法でイオンを減速する必要がある。その方法の1つとして、真空槽内に希薄なガスを導入してイオンと衝突させ、イオンの運動エネルギーを室温程度まで小さくさせる方法、緩衝気体冷却法が利用されている。この方法では、多数個のイオンをトラップし減速することが可能なので、周波数の基準信号が強くなる。その結果、周波数標準としては周波数変動を小さく抑えることが可能になる。イオン種にはいくつか候補があり、イッテルビウムという希土類元素のイオン(Yb+)もその一つとして研究されている。Yb+を用いたマイクロ波領域の周波数標準では、長時間の周波数変動に関しては、従来最も優れていた水素メーザをしのぐようなものが、CSIRO(オーストラリア)で開発されている。 ここで、周波数の基準信号の検出は、Yb+が吸収する波長369.52 nmの紫外線レーザ光を照射し、吸収後に発する光、蛍光を観測して行う。ところが、緩衝気体を導入してYb+に紫外線レーザ光を照射し続けると、レーザ光の強度にもよるが、1から10分程度で蛍光は消えてしまう。この現象は、1988年にハンブルグ(ドイツ)の研究者達によってはじめて発見された。彼らはこの現象が起きる原因を、Yb+が蛍光を発することがない別の状態へ移ってしまうためと考えた。この状態は、計算では1000日以上も続く準安定準位と呼ばれるものなので、確かにこの状態に移れば、実験中に再び蛍光が観測されることはない。 これに対し、同研究室では、この蛍光消失の原因として、真空槽内に存在する水素分子との化学反応により、Yb+が水素化イッテルビウムイオン(YbH+)に変化する現象を発見した。 レーザ光照射によりYb+がYbH+に変化 Yb+からYbH+への変化は、イオントラップに質量分析器を組み合わせてトラップ内のイオンの質量を測定し確認された。図1のように、イオントラップはエンドキャップ電極と呼ばれる2枚の円盤上の電極と、リング電極と呼ばれる円筒状の電極1つからなっている。イオンはこの3枚の電極で囲まれた空間に閉じ込められている。ここで、質量分析器側のエンドキャップ電極をメッシュ状にしておく。もう一つのエンドキャップ電極に正のパルス電圧を加えて、トラップ内の(正)イオンをメッシュ電極のほうへ加速する。ある大きさ以上のパルス電圧を与えると、イオンはメッシュを通り抜け、質量分析器へおくりこまれる。質量分析器はある特定の質量をもったイオンのみを通過させる特性を持つ。そこで、たとえば、質量分析器をYbH+が通過するように設定しておくと、トラップ内にYbH+があれば、質量分析器の後ろに置いたイオン検出器で信号が検出される。質量分析器には、Yb+とYbH+を充分に区別できるだけの分解能があるものを使う。 この装置は、もともと別のガスとの反応を調べるためにつくられたが、調べていくうちに真空の残留ガスとして水素分子が最も多いこと、また、仮に水素化反応が起こっているとすると都合よく説明がつく実験結果がいくつかあったことから、研究者は YbH+の存在を調べることを思いついた。 イオントラップに10万個程度のYb+を閉じ込めて、Yb+が吸収する紫外線レーザ光を照射し、トラップ内のイオンの質量を調べたところ、YbH+の信号が検出された。真空槽内に10−6Pa程度(高真空での残留ガス程度の圧力)の水素分子ガスがあれば、反応は充分起きる。一方、レーザ光を照射しなければ、水素分子ガスの存在下でもYbH+の生成は確認できない。このことは、Yb+が水素分子と反応しYbH+となるにはエネルギーが必要で、Yb+が紫外線レーザ光を吸収し高いエネルギー状態になってはじめて、反応が進むことを意味する。 YbH+を分解する光の波長も発見 YbH+を生成した後、レーザ光の波長を少し短い方へずらすと、生成されたYbH+が分解されて再び Yb+に戻ることも見いだされた。図2の結果がこれを示している。あらかじめトラップ内でYbH+を生成し、続いてYbH+生成時よりも短い波長の紫外線レーザ光を照射し、トラップ内のイオンを質量分析器へ送り込んだ。このとき、質量分析器はYbH+が通過するように設定されている。図2からわかるように、波長が369.48 nm近傍の紫外光を照射したときに、YbH+の信号は観測されていない。つまり、この波長の光でYbH+は分解されたことになる。 実は、波長369.48 nm光を照射すると一度消失した蛍光が回復することは、以前から知られていた。しかし、蛍光消失の最初の解釈に合わせて、この波長の光は準安定準位に移ったYb+を蛍光を発するサイクルに呼び戻すための波長と、いままで間違って解釈されていた。 緩衝気体を用いたYb+周波数標準には新たな問題点か? YbH+の生成が蛍光消失の原因として今まで見逃されてきた理由は、緩衝気体として水素分子ガスが使われてはいなかったことにある(ヘリウムガスなどが使われた)。さらに、水素分子ガスは、使用した緩衝気体に混入していたわけでもなく、緩衝気体を導入すると何らかの原因で真空槽内(真空ポンプを含む)で発生するらしい。この事実は、緩衝気体を導入すると真空槽内の水素分子ガスの圧力を下げることが難しいことを意味する。そうならば、緩衝気体を用いたYb+周波数標準では、レーザ光照射によりYb+がYbH+に変化し失われる、という問題は必ず起きることになる。はじめに書いたように、緩衝気体を用いたYb+周波数標準ではすでに高精能なものが実現されているが、さらにこれ以上の高精度化を目指すときにはこの水素化反応が問題となるかも知れない。 レーザ光照射によりYb+がYbH+に変化し失われる問題をさける方法はいくつか考えられる。まず、この反応はYb+が高いエネルギー状態になっているときに限って起きているので、高いエネルギー状態にいる時間が極めて短くなるように、別の波長(935nm等)のレーザ光を紫外線レーザと同時に照射しておく方法がある。この方法を用いると、蛍光が全く減衰しなくなることが確かめられている。 あるいは、今回見つかったYbH+を分解する波長の光を同時に照射してもよいだろう。また、共鳴するレーザ光を照射したときに水素化反応が生じるかどうかは、イオン種によって異なると推定される。緩衝気体を用いた周波数標準では、水素化反応を生じないイオン種を探して使うことも考えられる。 計量研でのYb+の研究、今後は超高真空+レーザ冷却で 同研究室での周波数標準を目指したYb+の研究は、現在、緩衝気体を導入せず、10−8 Paの超高真空下で行っている。緩衝気体冷却に代えて、レーザ光がイオンに及ぼす力を利用しイオンを減速するレーザ冷却法を用いている。レーザ冷却には既に成功していて(計量研ニュース、Vol.43,No.11)、反応の問題が生じていないことも確認されている。一方、レーザ冷却法では減速できるイオン数がごく少数個に限られるので、周波数の基準信号が弱くなる。そこで、マイクロ波領域と比べると、弱い基準信号でも周波数変動を理論上小さくできる光領域で、周波数標準を実現させることを目指し研究が進められている。 問い合わせ先:量子部量子計測研究室 電話 0298 (54) 4032
1.はじめに 材料の強度測定は構造物の信頼性、安全性を直接担う重要な計測技術であり、同時に素材の品質管理、商取引においても正確な材料強度値が必要とされる。従来より材料計測研究室と計測数理研究室では、材料の破壊抵抗を測定するシャルピー衝撃試験や硬さ試験の技術開発、標準の設定・維持を行っている((計量研ニュース Vol.41,No.12(1993年12月))。本研究は、国際産業技術研究事業(Institute for Transfer of Industrial Technology;略称 ITIT)プロジェクトによりアジアの主要な工業国である韓国との二国間共同研究を行い、両国のシャルピー衝撃試験、硬さ試験の整合性を確認し、相互の技術ポテンシャルを向上させるために平成6年度から平成8年度までの3年間に渡り実施されたものであり、今回研究の最終結果について報告する。 韓国側のカウンターパート機関は,韓国のソウル市から約20 kmの距離にある果川市の国立技術品質院(National Institute of Technology and Quality;略称 NITQ)と韓国中部の大田市の韓国標準科学研究院(Korea Research Institute of Standards and Science;略称KRISS)である。 2.シャルピー衝撃値の基準片による国際比較 平成6年度に3種類の日本の基準試験片をKRISSに持ち込み,衝撃値の比較を行った。KRISSで使用した試験機を写真1に示す。比較結果は,Lレベル試験片(破断エネルギーがもっとも低く30 J程度)で2.8 J、Hレベル(100J)では0.3 J程度計量研より高い値を示した。またSHレベル(160 J)では9.1 J低い値を示した。さらに、より広範囲の比較を行うため、平成8年度は参加機関の数を増やして試験を行った。韓国内での試験実施機関は,KRISS,NITQ、韓国原子力研究所及び地方の検査機関である中小企業庁地方工業技術院である。図1にL、Hレベル試験片について計量研究所及び韓国側4機関の測定結果を示す。各研究機関間の値は総平均に対して5%以内で一致している。 また平成6年度、7年度、8年度と韓国NITQとKRISSから1名ずつ研究者の招聘を行い,1ヶ月間の共同研究を行った。ここでは衝撃値に影響の大きい試験条件の研究、計装化衝撃試験機による波形解析技術の取得、また2o刃と8o刃による衝撃値への影響の解明の実験を行った。また国内企業の現場で試験機の較正を実際に行う機会を得たことは大いに有益であった。 3.硬さ標準の基準片による国際比較 KRISS-NRLM間で以下の硬さスケールについて比較を行った。工業界で最もニーズのあるロックウェルCスケールについて,0.1HRC以内で非常によい一致をみた。しかし,硬球を用いるロックウェルBスケールについては,特に低硬度領域で約2HRB(KRISS−NRLM)と比較的大きい差異を示した。検討中であるが,試料を置くアンビル及び圧子の違いに起因すると考えられる。ショア硬さについては,最大で約−2.1HSの差が生じた。これは,二国間でのショア硬さの定義の違いに起因すると考えられ、今後定義の統一について検討されるべきであろう。また,ブリネル硬さについても比較を行ったが,両研究所間で0.5%で測定値の一致を見た。 さらに、共同研究として硬さ基準片内の硬さの分布を評価した。硬さ基準片は,硬さ試験機を最終的にチェックするための媒体として,基準片表面内のばらつき,経年変化ができるだけ小さくなるように製造され,市販されている金属製の円盤状の試料である。今回、異なる硬さレベルを持つ3種類の試験片を用いて、試料表面をいくつかの領域に分割し、領域ごとの硬さをロックウェル硬さCスケールを用いて測定した。領域間のばらつきは領域内の変動より大きいことが明瞭に検出できた。この結果から、硬さの比較を行う場合,できるだけ近い場所の硬さ測定により,高い精度の比較ができるという定量的確証を得た。この場合,ロックウェル硬さCスケールの比較の不確かさは,0.03〜0.09HRCと推定された。 4.まとめ 本研究の間に、日本からも研究者が韓国側研究所を訪れる機会を得た。両研究所(NITQ,KRISS)とも,研究に適した静かな場所に立地していた。また、材料試験技術の標準設定に関して設備を急速に整備しつつある印象を受けた。 NITQの衝撃試験機は,本研究の開始当初は米国製の容量300Jの試験機であったが、その後韓国試験機メーカの製作によるシャルピー衝撃試験機を導入した。KRISSでは,2台のシャルピー衝撃試験機が使用されている。 また、NITQでは米国製のロックウェル硬さ試験機を整備したばかりであった。KRISSは,以前より計量研究所と硬さの研究について交流があり,計量研と同型のロックウェル硬さ試験機を整備している。本研究の間に,ブリネル硬さ試験機も導入し、この際試験機の校正などで技術支援できたことも大きな成果であった。 今回の比較測定により、日韓両国のシャルピー衝撃試験、硬さ試験の整合性を検討する上で基礎データとなる重要な結果が得られた。今後は両国を含むアジア圏はもちろん,欧州,米国,その他の国々との標準の整合性がより一層重要になると考えられる。 問い合わせ先:力学部材料計測研究室 電話 0298 (54) 4048 計測システム部計測数理研究室 電話 0298 (54) 4043
計量研究所に滞在し始めてもう1年半が過ぎ、10月には韓国の中小企業庁に戻ります。ちょうど10年前に2年間にわたって計量研究所で熱物性計測技術の研究を始めたことがきっかけとなり、計量計測分野は私の人生において大きい割合を占める最も大事な仕事になりました。国家公務員として4年間も海外で自分の好みの研究ができることはなかなか得られない恵まれた条件なので、今後ともこれまでの経験を十分生かして国内計量計測制度の先進化と共に、国際協力の増進に役割を果たして行きたいと思っています。 計量研究所と韓国の国立技術品質院及び標準科学研究院との間では20年を超えて計量計測標準委員会を通じた親密な協力関係が続いており、現在は科学技術協力委員会、ITITプログラムなど種々の制度による計量計測分野の国際交流も増えつつあります。 いつも親切にご協力下さる今井秀孝所長をはじめ、計量研究所の皆さんに心深くお礼を申し上げます。 今までは国際協力については主に計量計測技術の共同研究及び専門家交流などが要求されてきましたが、90年代に入り、ISO 9000 seriesの品質管理システムがヨーロッパ連合を始め各国の産業界に急速に採用されながら国家計量計測標準体系、試験検査所認定、国際相互認証など計量計測管理制度に関わる国際協力が必要となり、今後の重要協力課題として浮び上がる見通しです。 韓国は、急速な科学技術の進歩、試験検査所認定システムの必要、国際相互認証の要求など国内外の様々な変化に能動的に対応するために、1993年3月「計量及び測定に関する法律」を改正、同法律の適用範囲を計量器、測定器及び試験検査機関に拡張し、産業界の品質管理に関わる計量計測管理システムの体系化を図りました。次の図は、通商産業部を頂点として法定計量、計量及び測定標準、試験検査所認定の業務を管理運営している重要機関及び担当業務を表しています。 韓国の計量計測管理システムについて
問い合わせ先:計測システム部計測情報研究室 電話 0298 (54) 4053 |