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NIREニュ−ス1997年3月

NOx除去触媒の開発

― ディーゼルNOxの低減を目指して ―

熱エネルギー利用技術部 燃焼工学研究室 宮寺達雄

1.はじめに
 窒素酸化物(NOx)の発生源のうち、火力発電所などの大型固定発生源に対してはアンモニアを還元剤に用いる選択接触還元法が、ガソリン自動車に対しては三元触媒法(リーンバーンガソリンエンジンに対しては新三元触媒法)が、既に実用化され大々的に使用されている。
 一方、自動車やコジェネレーション用のディーゼルエンジンに対しては有効なNOx除去方法がなく、ディーゼルエンジンから排出されるNOxが深刻な大気汚染をもたらしている。
 ディーゼル排ガスは過剰の酸素を含むためガソリン自動車用の三元触媒が使用できない。コジェネレーション用の固定型のディーゼルエンジンに対しては、アンモニア還元触媒を用いてアンモニア水や尿素水でNOxを選択還元する方法も試みられている。
 しかし、還元剤の扱い難さやコストが問題になっている。そこで、過剰な酸素を含む排ガス中のNOxを、アンモニア以外の安全かつ安価な還元剤を用いて除去できる方法を開発することが重要な課題になっている。
2.炭化水素・アルコール類を還元剤に用いるNOxの選択還元法
 過剰な酸素を含む排ガス中のNOxを選択的に還元できる還元剤としてはアンモニア及びその類似化合物のみが知られていた。しかし、数年前に炭化水素類でも選択還元が可能なことが発見され、現在までに種々の触媒と還元剤の組合せが研究された。
 炭化水素類によるNOxの選択還元の嚆矢となったZSM-5等のゼオライトに遷移金属をイオン交換した触媒は、水分を含まないモデル排ガスで試験すると非常に高い活性を示す。しかし、水分存在下では活性が低下したり、水分存在下で高温にさらされるとゼオライトそのものの構造破壊が起こって非可逆的に活性が失われる、ということが分かって来た。
 水分の影響については、最近NOをNO2に酸化する能力を有するMn2O3や貴金属成分を触媒に添加することによって水分存在下における活性を向上させる試みがなされ、ある程度成功を収めつつあるが、SOx存在下でも高活性が得られるかどうか疑問が残る。

 当所では耐熱性の高いアルミナを担体に使用した触媒について研究を行い、Ag、In、Snなどが水分共存下でも炭化水素類によるNOxの選択還元性能が高いことを見出した(図1参照)。

 水分によるNOx除去活性の低下が小さいAg、In、Snでは、水分によって還元剤の反応率が低下する程度が小さく、かつこれらの金属種では水分存在下の方が還元剤反応量に対するNOxからN2への転換量の比(選択率)が大きくなっていることが分かった。

 一方、銀/アルミナ触媒は図2に示すようにSO2存在下でも活性低下が小さいことが分かった。Ag以外の触媒はSO2の存在下で還元剤の反応率が低下したり、N2生成に対する選択率が低下するのに対して、銀/アルミナ触媒では選択率の低下が小さく、かつ低温における還元剤の反応率が高くなっていることが分かった。

 銀/アルミナ触媒は水分とSO2が存在する条件下でもNOxの選択還元に高い活性を示す優れた触媒であることが分かったので、更に銀に対する担体の影響、NOx還元反応に対する還元剤の種類の影響を調べた。その結果、銀の担体としてはアルミナが最も高い活性を示し、他のシリカゲル、チタニアなどの担体では著しく活性が低下することが分かった。
 一方、銀/アルミナ触媒を使用した場合の炭化水素の種類の影響については、不飽和化合物でかつ炭素数の大きな分子の方が、炭素数1原子あたりに換算したNOx除去に対する性能が高いことが分かった。

 さらに銀/アルミナ触媒について、エタノールやイソプロピルアルコール、アセトンなどの含酸素化合物を還元剤に使用した場合のNOx除去性能を調べたところ、図3に示すように炭化水素類より著しく高いNOx除去率が得られることが分かった。

3.銀/アルミナ触媒を用いたエタノールによるNOxの選択還元
 銀/アルミナ触媒を用いると、種々の含酸素化合物を還元剤に使用して効率よくNOxを除去できるが、工業的に使用可能な還元剤はエタノールとイソプロピルアルコールに限られる。そこで、銀/アルミナ触媒を用いた場合のエタノールによるNOxの選択還元反応特性を調べた。
 触媒の活性試験は、固定床流通型反応装置を用い、マスフローコントローラで流量制御した模擬排ガスを電気炉で加熱した反応管に通して行った。分析にはNOx計、ガスクロマトグラフ、高次導関数吸光分光分析装置等を用いた。

 図4に触媒活性に対するAg含量の影響を示した。Agの添加とともに触媒の活性は著しく向上し、エタノールによるNOxの選択還元を促進する成分としてAgが必須であることが分かる。
 Ag含量が増加するほどNOx除去率のピークは低温側へシフトするが、Agが多くなりすぎると酸素によるエタノールの酸化が活発に起こるようになって、エタノールがNOxの還元に有効に使われなくなるため高温でのNOx除去率が低下する。

 Ag含量の最適値は2.0−2.4wt%であって、この範囲のAg含量の触媒は広い温度範囲に渡って高いNOx除去性能を示す。

 図5に空間速度の影響を示した。銀/アルミナ触媒の活性は高く、空間速度51200/h程度まで高いNOx除去率が得られた。
 
 図6に水分の影響を示した。炭化水素類を還元剤に用いた場合には銀/アルミナ触媒でも水分存在下ではNOx反応率が低下した。しかし、エタノールを還元剤に用いると水分存在下でも銀/アルミナ触媒上でNOxを高効率で還元できることが分かった。
 赤外線分析装置を用いて触媒表面上の吸着種を測定したところ、銀/アルミナ触媒−エタノール系では反応中間体と考えられる表面イソシアネート種(-CNO)の生成が水蒸気によって妨げられないことが分かった。これが、他の触媒と炭化水素類との組合せと異なり、銀/アルミナ触媒を用いてエタノールでNOxを還元する方法は水分共存下でも高性能を発揮する原因であると考えられる。

 図7に、エタノールを還元剤に用いて銀/アルミナ触媒上でNOxを還元した場合の反応生成物の分析結果を示した。反応したNOxの大部分は窒素になるが、一部は亜酸化窒素、アンモニア、アセトニトリル、シアン化水素等の含窒素化合物に変換されることが分かった。
 さらに、銀/アルミナ触媒上では、これらの含窒素化合物(N2Oを除く)がNOxを還元して窒素を生成する反応や、アンモニアがアセトアルデヒドと反応してアセトニトリルが生成する反応が起こっており、銀/アルミナ触媒を用いてエタノールでNOxを除去する反応は非常に複雑な反応系であることが分かった。

 上記のように、銀/アルミナ触媒を用いてエタノールでNOxを除去すると有害な含窒素化合物が副生する。また、エタノールからはアセトアルデヒド、一酸化炭素も生成する。銀/アルミナ触媒−エタノール法を実際に使用するためには、これらの有害物質を処理する必要がある。ところが、有害物質を処理するために銀/アルミナ触媒の後流部に白金などの貴金属触媒を設置すると、貴金属触媒上で含窒素化合物が酸化されてNOxが再生することが分かった。

 一方、副生物のアンモニアは、NOxの選択還元に有効な還元剤としてよく知られている。そこで、銀/アルミナ触媒の後流部にNOxのアンモニア選択還元に活性を有する触媒を設置することによって、銀/アルミナ触媒上で副生する含窒素化合物をNOxの除去に利用することを試みた。
 その結果、2成分を複合化した触媒は銀/アルミナ単独の場合より高いNOx除去性能を示すことが分かった。しかし、この2成分複合触媒を用いても含窒素化合物や一酸化炭素等の有害物質が少量残存するため、さらに貴金属触媒を加えてそれらを除去する必要があった。
 この3成分複合触媒の作用機構を模式的に図8に示す。3成分複合触媒を用いることによって、酸素が過剰に存在する排ガス中のNOxを、エタノールを還元剤に使用して、有害物質を排出することなく高効率で処理できることが可能になった。

4.今後の課題
 銀/アルミナをベースとした3成分複合触媒を用い、エタノールでNOxを除去する方法は、米国において定置型ディーゼルエンジン(移動発電機用及びコジェネレーション用)向けに実用に供されることになった。実用化にあたっての実排ガス試験等は、株式会社リケンとの共同研究によって実施した。
 銀/アルミナ触媒は、SOx含有排ガスを長時間処理すると徐々に活性が低下する傾向にあるため、SOxに対する耐久性を向上させることが今後の課題である。

 銀/アルミナ系触媒−エタノール法を自動車用ディーゼルエンジン排ガスにも適用できるようにするためには、さらに触媒の性能を高める必要がある。具体的な課題としては、以下のようなことが考えられる。
 自動車では排ガス処理触媒を設置するスペースが限られるので、より少ない触媒で大量の排ガスを処理できるようにするために高活性が要求される。また自動車は、運転条件によって低温から高温まで排ガスの条件が大きく変化するので、高い耐熱性も要求されるし、低温におけるNOx除去性能を高める必要もある。

 一方、還元剤として用いるエタノールは非常に高価なので、より低コストの還元剤−炭化水素類やメタノールを使用してNOxの除去が高効率でできるような触媒の開発をする必要がある。

熱エネルギー利用技術部 燃焼工学研究室 宮寺達雄