石油化学の基幹原料であるエチレンやプロピレン等の軽質オレフィンは、ナフサ熱分解装置で製造されています。本熱分解技術(スチームクラッキング)では、分解炉反応管材質の改良や熱回収技術等の改良に伴い、反応温度の高温化(約800〜880℃)や反応時間の短縮化(約0.1〜0.5秒)が可能となり、エネルギー効率・原単位の改善が図られてきましたが、技術的にはほぼ限界にきていると考えられています。このため、この技術的限界を打破する新規なナフサ接触分解技術への期待が高まり、ニューサンシャイン計画の「次世代化学プロセス技術開発」の中で、「ナフサ接触分解技術の開発」が行われました(平成 7年度〜平成11年度)。本研究の目的は、新規触媒の探索・性能確認、接触分解機構の解明を通じ、反応温度720℃以下でエチレンとプロピレンとの総合収率を57%以上(現行の収率は約47%)にする触媒を開発することです(
図1)。
図 1 ナフサ接触分解法
このナフサ接触分解技術を用いた新規製造プロセスの現行熱分解技術に対する省エネルギー率は約20%と試算されるため、平成 9年12月に京都で開催された「気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)」以降、本技術は石油化学工業における温室効果ガスの低減に資する革新的技術としても注目されています。
ナフサ等の炭化水素の接触分解法は、触媒の固体酸を利用する酸分解法と活性化酸素を利用する酸化分解法とに大別できます。前者はナフサからガソリン基材を製造する流動接触分解(FCC)法と、後者はメタン等の酸化カップリング法と類似の技術と考えられますが、主にC4〜C7から成る軽質ナフサを原料とし軽質オレフィンの製造に特化した触媒開発例は少なく、殆どが特許報告でした。このため、各種モデル化合物やナフサを原料とし、塩基性触媒(アルカリ土類金属や希土類酸化物等)、酸触媒(ゼオライト等)、遷移金属酸化物触媒等について、スチ−ム共存下及び気相酸素共存下で触媒の探索・性能確認や反応機構の検討を行いました。この結果、ライトナフサからの軽質オレフィン合成では、ランタナ(La2O3)とリンで修飾したZSM-5ゼオライト触媒を用いる酸接触分解法が最も有望であることを見出し、反応温度=650℃でエチレン+プロピレン合計収率=約60%と目標値をクリアすることが出来ました。更に、本接触分解法ではプロピレン/エチレン比=約0.7であり(現行の熱分解法ではその比は約0.5程度)、オレフィン組成の制御も可能であることが確認できました。
本開発触媒を用いたナフサ接触分解プロセスが、現行の熱分解法に比べ、どの程度競争力を有するか、FS(フィ−ジビリティ−スタディ−、ナフサ処理量3,000トン/日規模を想定)を実施しました。この結果、開発触媒を充填した固定床反応器を用いた場合に現行の熱分解プロセスより優位性があること、また約20%の省エネルギ−が可能であることを確認できました。
一方、活性化酸素を利用する酸化分解法では、目標値の達成はできませんでしたが、石英製管状反応器を用いた酸素共存下での酸化分解でも高い軽質オレフィン収率が得られること(エチレン+プロピレン収率〜44%)、また、希土類酸化物触媒は吸着酸素を活性化する能力が高く炭化水素からの低温ラジカル生成に有効であること等、酸素利用炭化水素転換技術に関しても多くの新しい知見が得られました。
これらの触媒開発に平行して、化学産業を始めエネルギー・環境産業分野にも波及効果が期待できる触媒基盤技術の構築も目指しました。この結果、熱力学データベースを用いる触媒設計・調製支援技術、及び C1〜C4 原料を対象とする熱分解・酸化分解シミュレーション技術等を構築することが出来ました。
今後、ナフサ接触分解プロセスの実用化に向けて、開発触媒の工業触媒化、触媒利用反応プロセス、及び軽質ナフサ以外の原料に対する適用可能性についての検討が必要であると思われます。
尚、本ナフサ接触分解技術開発は、当所と(社)日本化学工業協会との共同研究として実施されたものであり、同協会から派遣された塩沢 光治、澤田 悟郎、涌井 顕一、佐藤 浩一、又野 孝一、斎藤 昌男、小西 友弘、及川 知、塩島 壮夫各氏に謝意を表します。