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平成11年8月31日
(株)島津製作所
浜松ホトニクス(株)
工業技術院 機械技術研究所
北海道大学 電子科学研究所
光で身体の中の酸素を測る
−臨床レベルで利用できる世界初の光CT装置を開発−
[要旨]
(注):通商産業省工業技術院 医療福祉機器技術研究開発制度
「光断層イメージングシステムプロジェクト(平成4年度〜平成10年度)」
[内容]
[従来]
[特長]
2.生体の多くの点で時間分解測定を行うことにより,酸素濃度の画像化が世界で初めて可能となった.
3.X線CTやMRIのように大型の装置でなく,ベッドサイドに置いて患者の状態を連続的に長時間モニタリングすることが可能となる.
[実用化]
[詳細説明]
2.新しく開発した光CT装置は,光通信で使われている近赤外光と呼ばれる光を用いて脳や腕などの筋肉の酸素濃度を画像化することができる.この酸素濃度を求めることにより,正常組織なのか病変組織なのかの病態診断が可能となる.
3.酸素濃度を求める装置に関しては世界中で研究が行われているが,新しく開発した光CT装置は光が身体を進む時間を測ることにより酸素濃度を測定し,その断面画像を得る方式を採用した世界で最初の装置である.
4.光を使った定量測定では濃度を求めたい物質中を光がどれだけの距離を通過したかを知ることが必須であるが,脳など生体組織中では光が細胞によりに何万回も散乱されながらジグザグに進むため,通常の光測定では全通過距離が判らない.そこで時間分解法を用いる.毎秒地球を7周り半(30万キロメートル)の速さで進む光は,1ピコ(百万分の1の百万分の1:10-12)秒と言う極く短い時間では0.3ミリメートルしか進まない.1ピコ秒程度の極短パルス光を生体に照射すると,生体中を散乱によりジグザグの長い経路を進んだ光ほど生体表面に遅く到達する.従って,生体から出てきたパルス光をピコ秒の時間分解能で測定すれば,光の進んだ全距離(光の平均飛行距離)が判り,定量ができるというのが原理である.
[産学官、省庁連携の経緯]
本研究開発は,通商産業省工業技術院の医療福祉機器技術研究開発制度に基づく「光断層イメージングシステム」プロジェクト(平成4年度〜平成10年度)として, 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から技術研究組合医療福祉機器研究所への委託事業により行われたものである.
2.(昭和63年度〜平成5年度)「生体の分子レベルにおける高感度・高分解非破壊計測技術の開発」
光CTの研究開発は,科学技術庁の科学振興調整費制度に基づく総合研究「生体の分子レベルにおける高感度・高分解非破壊計測技術の開発に関する研究(小項目:近赤外光生体計測技術の開発)」(昭和63年度〜平成5年度)に始まる.この6年間のプロジェクトはまだ光CTの可能性が不明であった時期に世界で最も早いプロジェクトとして開始された.これにより,光CT開発の基礎研究をしっかりと実施し,また,国内の他企業や研究機関における光CTおよび光診断技術の開発意欲を高め,日本が光CTおよび光診断で世界をリードする礎を築くことができた.科学技術庁の先見性に敬意を表したい.
なお,昭和63年以前には,北海道大学においては近赤外光を用いた生体および医学関連の基礎研究を,また,機械技術研究所においては熱工学の分野で散乱体内の光伝播の基礎研究をそれぞれ独自に実施していた.これらのバラバラに実施されていた萌芽的研究が融合して光CT開発で結び付けられたことも,本科学振興調整費によるプロジェクトの大きな成果と評価される.
3.上記科学技術庁の「近赤外光生体計測技術の開発」プロジェクトの成果を基に,光CTの可能性が明らかとなった時点で装置化を目標として工業技術院の「光断層イメージングシステム」プロジェクトが開始された.このプロジェクトは,産業界から(株)島津製作所と浜松ホトニクス(株),大学から北海道大学,国立研究所から機械技術研究所が主に参加し,産学官のバランスの取れた強い連携と協力の基で実施された.産学官連携の良い例として挙げることができる.今後,実用化へ向けて,厚生省などとの連携で臨床試験などが実施されればさらに高い評価が得られるであろう.
[新装置の応用例]

図1は,数字を順番に聞き,それを記憶してその順序通りに述べた時と,一度覚えた数字の順序を逆に繰り返した時の前頭部での脳内の酸素化ヘモグロビンの分布の差を画像にしたものである.ここで,右脳の酸素化ヘモグロビンが増加している部位は短時間の記憶,ワーキングメモリーが働いている場所を示している.この時この被験者では最大8μMの酸素化ヘモグロビンの変化が生じているが,他の被験者での変化は2μM程度で,明らかに個人差が見られる.この個人差は,同じ作業に対する脳の働きの個人による違いを反映している可能性がある.このような個人差は新しく開発した光CT装置のように酸素濃度を定量的に求めない限り知ることはできない.


[波及効果]
新装置の開発に要した7年の本プロジェクト期間中に,本プロジェクトとは独立ではあるがベッドサイドでの酸素モニターが商品化され,また広く「光診断」が認められることとなった.新装置で採用した技術は世界で最初であり,光を利用した新しい診断の可能性を広く示すものである.
[臨床応用の他の可能性]
新装置では血液量や血液の酸素化度の定量的なマップを作れるため他の疾患,例えば乳がん等の診断,あるいは最近開発が進められている「光造影剤」を利用した幅広い応用が期待されている.また,新生児期の視覚機能の簡便なスクリーニング法として有用であり,さらには体性知覚機能など他の脳機能スクリーニング法としても期待されている.
[他の無侵襲診断装置との補完]
現在,医療用の画像診断装置としてMRIやX線診断装置がよく知られているが,これらはいずれも形態的画像診断装置であり,病態がかなり進行した後の形態の変化を捉える装置である.これに対して光を用いる診断装置は,形態変化を起こす以前の機能レベルでの変化を捉える機能画像診断装置であることを特徴とし,脳機能の研究にも使われる.しかも光診断装置は,X線診断装置等と異なり安全でかつ連続的に何回でも測定でき,また小型にできることから機能画像診断装置としての発展が期待されている.
[商品化]
今後,この研究開発の成果をベースに商品化に向けての応用研究を継続し,(株)島津製作所,および浜松ホトニクス(株)はそれぞれ独自に数年内での商品化を目指している.また,本プロジェクトに参加していない(株)日立製作所も,光トポグラフィーの名称で光によるマッピング画像を行う装置の商品化を予定している.
[技術内容の問い合わせ先]
(株)島津製作所 基盤技術研究所:綱沢義夫 参事
浜松ホトニクス(株)中央研究所:山下 豊 主任部員
工業技術院 機械技術研究所 :山田幸生 基礎技術部長
北海道大学 電子科学研究所 :田村 守 教授
「連絡先」
工業技術院 機械技術研究所 :統括研究調査官室
千阪文武/石塚一則
(平成11年8月31日発表)