National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST) This page is a page of the former research institute. We stopped updating on March 31.2001.
E-mail to webmaster (Japanese) E-mail to webmaster (English)

通商産業省 工業技術院
機械技術研究所
統括研究調査官室


スパッタチタン薄膜の引張強さに及ぼす膜厚の影響

機械研NEWS,2000,No.11より

機械研 NEWS text file

機械技術研究所 極限技術部 微小機構研究室
小川 博文



<概  要>

 薄膜材料の機械的特性に及ぼす膜厚の影響を調べることは重要な研究課題であるが,スパッタチタン薄膜等の多くの薄膜材料で,この膜厚の影響はほとんど明らかになっていない.

 機械技術研究所 極限技術部 微小機構研究室では,新らしく考案開発した厚さが1 μm 以下から100 μm 程度までの微小寸法材料を対象とした「微小寸法材料用引張試験装置」を用いてスパッタチタン薄膜の引張強さに及ぼす膜厚の影響を調べ,薄膜微細組織の垂直断面TEM 観察した.

 この結果,今回の成膜条件では,膜厚が大きくなると薄膜成長の途中から結晶粒が成長するため引張強さの値が低下することが明らかになった.また今回の膜厚範囲では,供試材はバルク材よりも格段に高い強度を有することが分かった.

 今後は,微小寸法材料の試験計測評価法の標準化は,国際的に重要な課題であるため国際標準化に向けた取組みも行っていく予定である.

 

表1 スパッタチタン薄膜の成膜条件

  •  

     

    図1 チタン薄膜の断面TEM 観察像(膜厚0.20 μm )

  •  

     

    図2 チタン薄膜の断面TEM 観察像(膜厚0.40 μm )

  •  

     

    図3 スパッタチタン薄膜の引張強さに及ぼす膜厚の影響

  •  


    スパッタチタン薄膜の引張強さに及ぼす膜厚の影響

    機械技術研究所  極限技術部 微小機構研究室
    小川 博文
    TEL :0298 −61 −7144

     

    <概 要>

    機械研NEWS,2000,No.11より


     

    1 .はじめに

     マイクロマシンが実現すると,様々な分野において多くの技術革新がもたらされるものと期待されており,国内外において,マイクロマシン用機能要素部品の試作開発を中心とした研究開発が活発に行われている.この際,信頼性のある実用的なマイクロマシンを実現するためには,使用する微小寸法材料の機械的特性の把握が重要であるが,試験計測評価法が未確立であるため,明らかになっている点は極めて少ないのが現状である.そこで極限技術部微小機構研究室では,産業科学技術研究開発プロジェクト「マイクロマシン技術の研究開発」の中で,薄膜材料等の微小寸法材料の機械的特性に関する研究を行っている.本研究では,同特性の最も基本的な静的試験法である引張試験法に関して検討を行い,微小寸法材料用引張試験装置を新たに考案し,開発した.この装置を用いることにより,厚さが1 μm 以下から100 μm 程度までの微小寸法材料の機械的特性を測定することが可能である1 )〜11 ).また,マイクロマシン用微小寸法材料の試験計測評価法の標準化は,国際的に重要な課題であるので,本研究では同材料の引張試験法の国際標準化に向けた取組みも行っている.

     チタン製薄膜材料は,半導体製造技術による微細加工が容易であり,半導体素子,ひずみゲージ,温度センサ,ヒータ等に幅広く使用されている重要な材料である.そこで本研究では,開発した引張試験装置を用いて,スパッタチタン薄膜等の薄膜材料の機械的特性を調べている3 ),4 ),6 )〜9 ),11 )

     薄膜材料の機械的特性に及ぼす膜厚の影響を調べることは重要な研究課題であるが,スパッタチタン薄膜等の多くの薄膜材料で,この膜厚の影響はほとんど明らかになっていない.本報では,スパッタチタン薄膜の引張強さに及ぼす膜厚の影響を調べるために,同薄膜微細組織の垂直断面TEM 観察を行った結果,及び,同薄膜の引張試験を実施した結果を報告する.

     

    2 .供試材

     供試材は,アルゴンガス雰囲気中においてマグネトロンスパッタリングでシリコンウェハ上に成膜した厚さ0.20 μm ,0.40 μm ,及び0.44 μm のチタン薄膜である.表1 に同薄膜の成膜条件を示す.成膜時アルゴンガス圧3.5mTorr で薄膜の成膜を行った.スパッタ装置RF 出力は1.5kW ,成膜レートは22nm/min である.製作した薄膜引張試験片の形状,膜厚以外の寸法(試験片平行部の幅300 μm ,長さ1.4mm )は,前報4 ),8 )と同じである.

     

    表1 スパッタチタン薄膜の成膜条件

     

     

    3 .薄膜微細組織の垂直断面TEM 観察

     厚さ0.20 μm 及び0.40 μm のチタン薄膜の垂直断面TEM 観察を行い,膜厚による薄膜微細組織の変化を調べた.図1 及び図2 に,厚さ0.20 μm 及び0.40 μm のチタン薄膜の垂直断面TEM 観察像をそれぞれ示す.両図は,図の下側(基板側)から上側に向かって薄膜組織が成長した様子を示している.両図より,供試材は多結晶材料であることが分かる.また,厚さ0.20 μmのチタン薄膜では,結晶粒が基板側から表側に至るまで極めて微細であり,柱状構造を有している.これに対し,厚さ0.40 μm のチタン薄膜では,基板側の結晶粒は厚さ0.20 μm のチタン薄膜と同様に小さく,柱状構造を有する一方,成膜の途中から結晶粒が成長し,柱状構造から変化することが明らかである.本観察結果より,本報の成膜条件では,供試材の膜厚が大きくなると,成膜の途中で結晶粒が成長することが分かった.

     

    図1 チタン薄膜の断面TEM 観察像(膜厚0.20 μm )

     

     

    図2 チタン薄膜の断面TEM 観察像(膜厚0.40 μm )

     

     

    4 .引張試験

     厚さ0.20 μm ,0.40 μm ,及び0.44 μm のチタン薄膜の引張試験を行い,同薄膜の引張強さに及ぼす膜厚の影響を調べた.同試験は負荷速度0.8 μm/sec で常温,大気中で行い,前報4 ),8 )で使用した微小寸法材料用引張試験装置を用いた.図3 に供試材の引張強さに及ぼす膜厚の影響をまとめた結果を示す.本図より,厚さ0.20 μm のチタン薄膜に対し,厚さ0.40 μm 及び0.44μm のチタン薄膜の引張強さの値が小さくなることが分かる.一般的に多結晶材料の場合,結晶粒径が小さくなるほど強度が大きくなることは,Hall- Petch の関係としてよく知られている.本稿の断面TEM 観察及び引張試験の結果も,供試材の膜厚が大きくなると,薄膜成長の途中から結晶粒が成長した結果,引張強さの値が低下したことを意味しており,Hall- Petch の関係と矛盾しないことが分かった.すなわち本供試材の場合,膜厚が大きくなると,結晶粒が成長し,転位運動の障壁である結晶粒界の単位体積当たりの数が少ない領域が成膜の途中から形成された結果,引張強さの値が低下したものと考えられる.

     

    図3 スパッタチタン薄膜の引張強さに及ぼす膜厚の影響

     

     なお本供試材の場合,膜厚が大きくなると強度が低下することが確認されたが,強度が低下した厚さ0.40μm 及び0.44 μm のチタン薄膜でも,引張強さの値は1GPa 以上であり,バルク材の99.9 %純チタンの引張強さ0.235GPa と比較すると格段に高い強度を有している.バルク材の結晶粒径は,一般的に10 〜100 μm程度のオーダであるのに対し,本供試材の結晶粒径は0.01 〜0.1 μm のオーダであるので,この結晶粒径が極めて小さいことが,バルク材よりも本供試材が格段に高い強度を有することの大きな要因として考えられる.

     

    5 .おわりに

     膜厚の異なるスパッタチタン薄膜に対し,垂直断面TEM 観察と引張試験を行った結果,本報の成膜条件では,膜厚が大きくなると薄膜成長の途中から結晶粒が成長するために,引張強さの値が低下することが明らかになった.また本報の膜厚範囲では,供試材はバルク材よりも格段に高い強度を有することが分かった.

     

    謝 辞

     本研究を遂行するにあたり,薄膜引張試験片の製作に関して,オリンパス光学工業株式会社の金子新二氏に多大なる御協力を頂いた.ここに記して厚く感謝の意を表する.

     

    参考文献


     1 )小川博文,石川雄一,北原時雄,”微小寸法材料の引張試験法”,機械技術研究所所報,49- 2 (1995 )57 .
     2 )小川博文,石川雄一,北原時雄,”平行板ばね式引張試験機”,特許第2099152 号(1996 ).
     3 )Ogawa H.,Suzuki K.,Kaneko S.,Nakano Y.,Ishikawa Y.and Kitahara T.,Measurements of mechanical properties of microfabricated thin films,Proc.IEEE 10th Annual International Workshop on Micro Electro Mechanical Systems,Nagoya (1997 )430.
     4 )小川博文,”薄膜材料の引張試験法”,機械研ニュース,1997- 3 (1997 )1 .
     5 )Ogawa H.,Ishikawa Y.and Kitahara T.,Method and apparatus for non- contact measurement of relative displacement,US patent 5625457 (1997 ).
     6 )Ogawa H.,Suzuki K.,Kaneko S.,Nakano Y., Ishikawa Y.and Kitahara T.,Tensile testing of microfabricated thin films,Microsystem Technologies,3- 3 (1997 )117.
     7 )Ogawa H.,Suzuki K.,Kaneko S.,Nakano Y., Ishikawa Y.and Kitahara T.,A tensile testing method of measuring stress- strain diagrams of thin films,Proc.International Conference on Advanced Technology in Experimental Mechanics,Wakayama (1997 )323.
     8 )小川博文,金子新二,石川雄一,”薄膜材料の引張試験−薄膜試験片装着法の開発−”,機械技術研究所所報,52- 6 (1998 )217 .
     9 )小川博文,鈴木清輝,金子新二,仲野雄一,石川雄一,”薄膜材料の引張試験−低延性薄膜材料の破断伸びに対する標点間距離の影響−”,電気学会論文誌E (センサ・マイクロマシン部門誌),119-E- 2 (1999 )73 .
     10 )小川博文,石川雄一,北原時雄,”非接触式相対変位測定法及び測定装置”,特許第2884041 号(1999 ).
     11 )Ogawa H.,Kaneko S.,Suzuki K.,and Saka M., Effect of Ar gas pressure on mechanical properties of sputtered Ti thin films,Advances in Electronic Packaging,26- 1 (1999 )131.
     12 )Lyman W.S.and Wilson D.H.,Pure metals,Metals Handbook Ninth Edition,Vol.2,American Society for Metals,Metals Park,1979,814.
     

    [発表者]

    機械技術研究所 極限技術部 微小機構研究室 小川 博文
             TEL :0298 −61 −7144         

    [連絡先]

    機械技術研究所 統括研究調査官 千阪 文武
             Tel: 0298-61-7034, Fax: 0298-61-7033
             chisaka@mel.go.jp

     


     

     戻る