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第8章 指定研究制度における当所の研究成果概要


制度の概要 | 産業科学技術研究開発制度 | ニュ−サンシャイン計画 |  医療福祉機器とヒュ−マンフロンティア | 重要地域技術研究開発 | 研究情報基盤整備研究開発 | 戻る

8.1 制度の概要

8.1.1 当所と指定研究制度との関わり

現在、当所の研究予算総額の4割強を占める指定研究は、昭和41年度に指定研究制度が発足して以来、テーマ数、研究費とも徐々に増加してきたが、最近の10年間でその規模はさらに大幅に拡大してきている。

指定研究制度とは、政府の資金提供の下、産官学の密接な連携により研究開発を進め、我が国の産業技術力向上に大きく貢献するという目的から生まれたもので、昭和41年度に「大型工業技術研究開発制度(大プロ)」、昭和56年度に「次世代産業基盤技術研究開発制度(次世代)」、そして昭和51年度には「医療福祉機器技術研究開発制度」が相次いで発足している。

一方、国家的エネルギー施策の一環として昭和49年度に「新エネルギー技術研究開発制度サンシャイン計画)」、昭和53年度に「省エネルギー技術研究開発制度(ムーンライト計画)」が発足するとともに平成元年度には「地球環境技術研究開発」が発足している。その他、昭和57年度に「重要地域技術研究開発制度」、昭和63年度に「生体機能応用型産業技術研究開発制度」が発足しており、一時は7つの研究開発制度が並行して実施された時期もあった。

しかし、平成5年度には産業科学技術の加速的な進展のために、上述の「大プロ」、「次世代」、「医療福祉」の3制度が見直し統合され「産業科学技術研究開発制度(産技制度)」が発足するとともに、エネルギー環境関連の技術開発を総合的、加速的に推進する必要性から「新エネ」、「省エネ」、「地球環境」の3制度を一体化して「エネルギー・環境領域総合技術開発推進計画(ニューサンシャイン計画)」が発足した。

現在、当所ではこれら2制度に加え「重要地域技術研究開発制度」、「生体機能応用型産業技術研究開発制度」及び「研究情報基盤整備研究開発制度」の指定研究課題に積極的に参画するとともに、新規課題の提案、研究計画の立案、プロジェクトの推進等工業技術院の実施する指定研究制度に深く関わるようになってきている。


8.1.2 当所が実施する指定研究課題の変遷

昭和62年度から平成8年度までの最近10年間において、当所が実施・参画してきた指定研究課題の変遷の大略を表2.8.1に示す。大プロ関連では「極限作業ロボット」や「超先端加工システム」などが予算規模も大きく所内を横断するプロジェクトとして実施された。最近では「微小運動機構の評価(マイクロマシン)」や「医療福祉」関連の研究開発が当所の3本柱、3方向に合致する課題として意欲的に推進されてきている。

エネルギー関連では、比較的長期で大型のテーマが多く「水素利用技術」、「セラミックガスタービン」、「大型風力発電システム」などの課題を実施してきている。また、最近は「WE−NET」、「エコエネ都市」などシステム化技術に関するテーマを実施するようになってきているのも特徴の一つである。

さらに、当所の3本柱の一つである環境調和型生産技術に関連するテーマとして「エコファクトリー」が産技制度の先導研究課題として取り上げられ、そこで提案された新たな生産技術の概念は産業界に大きなインパクトを与えた。本課題を引き継ぐ新たな提案が待たれる分野ではある。一方、従来の力学本位の機械加工に、光をツールとして用いる新しい生産プロセスの概念を提案した「フォトンプロセス」が同じく産技の先導研究テーマとして実施されている。平成9年度よりは大型プロジェクトのテーマとして実施される予定であり、従来の生産技術が電気や電子だけでなく光をも融合して成長し続けている。生産技術に新たな期待が芽吹きつつあることを感じさせる提案の一つでもある。また、ナノ結晶組織制御による材料創製技術として「スーパーメタル」が、同じく産技制度の新規プロジェクトとして平成9年度よりスタートすることになっている。両プロジェクトとも超微粒子技術を駆使するなどしてミクロ、ナノスケールの加工技術や材料技術を開拓しようとするものであり、当所の3方向の一つであるマイクロ化を支える中心的課題になるものと期待されている。

最近10年間の指定研究制度における課題数と予算規模の変化を図2.8.1に示した。この10年間に課題数(小項目当たり)は16テーマから37テーマに増加している。これは、指定研究制度に導入された特別会計枠が、昭和62年度には当所の予算総額に占める割合の凡そ1%だったものが、平成8年度には約30%にまで増加したことが一因としてあげられる。即ち、課題名が従来の一般会計分と特別会計分の2本立てになっていることの影響が現れたものである。この間、予算は5.67億円から6.72億円と19%の伸びに留まっており、結果として1課題当たりの予算規模は3、543万円から1、816万円と大幅に減少するなどテーマの細分化傾向が現れているのも昨今の傾向である。


図 2.8.1 最近10年間における指定研究制度の課題数と予算規模の変化


表2.8.1 指定研究のテーマ




以下、最近10年間の各指定研究制度における成果の概要を記述する。



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8.2 産業科学技術研究開発制度

産業科学技術研究開発制度は平成5年度にそれまでに実施されていた大型工業技術研究開発制度、次世代産業基盤研究開発制度、医療福祉技術研究開発制度が統合されて発足した研究開発制度である。その目的は、多額の資金や長期の研究期間を必要とし、多くの危険負担を伴うために産業界、学界、国などの研究開発能力を結集することが効果的な研究開発を行うことにある。この目的に対応して研究開発の対象を、新たな技術体系の構築、または技術的なブレークスルーにより経済・社会の新たな発展に視する基礎的独創的な研究開発と、国民生活の向上、資源の安定供給の確保、科学技術の振興に必要な基盤の整備などの社会的な使命に応える上で必要な研究開発に定めている。大きな研究分野としては超伝導分野、新材料分野、バイオ分野、電子・情報・通信分野、機械・航空・宇宙分野、資源分野、人間・生活・社会分野、保健・医療・福祉分野の8分野が設定されている。研究実施体制はプロジェクトを統括、管理する分野別研究開発官のもとに国立研究所と新エネルギー・産業技術総合開発機構が位置し、実際の研究開発はNEDOから委託される民間団体と国立研究機関とが対応する。研究開発制度の新たな特徴としては、先行制度では制度化されていなかった研究プロジェクトの検討段階が制度化された先導研究としてプロジェクト化のための予備的な調査・研究を2ー3年の期間実施し、その成果をもとに本プロジェクトを選考することである。

昭和63年から平成9年度までに機技研で実施しているテーマは以下の表の通りである。なお、2年間のテーマは先導研究である。

表2.8.2 産業科学技術研究開発制度




8.2.1 極限作業ロボット

昭和58年度から平成2年度まで8年間、総額155億円をかけて行った大型プロジェクト「極限作業ロボット」は、2団体と民間18社で組織する極限作業ロボット技術研究組合と、国立研究機関である機械技術研究所と電子技術総合研究所とが担当して進められた。プロジェクトの目標は(1)原子力発電施設作業ロボット、(2)海底石油生産支援ロボット、(3)石油生産施設防災ロボットの3種のロボットを実用的なレベルで開発することとされた。両国立研はこのプロジェクトの中で、総額の1割の研究開発費を受け、基盤技術の研究開発を担当した。民間においては特に中間評価以降実証機を試作するために開発技術を特化していったのに対して、国立研では、幅広く共通基盤技術を研究することによってロボット技術の将来方向を見据え、プロジェクトの進行を先導するという役割を果たした。とはいえ、国立研の開発した技術が実証機に応用された例もいくつかあることはもちろんである。

機械技術研究所のプロジェクトにおける担当分野は、環境・地形に適応して効率的に移動する自律ロボット、および操縦型ロボット用の高度な人間・機械インターフェースの2点といってよいと思われる。具体的には次の5課題を担当した。

  1. 移動技術
  2. マニピュレーション技術
  3. 自律制御技術
  4. 遠隔臨場制御技術
  5. ロボット評価技術

本研究開発の成果の詳細は本報において述べられているのでここでは言及しないが、適応能力の高い動力学的な機構とその制御の機能、高度な自律性と協調性、人間・機械インターフェース機能の研究分野の推進に一歩を印すものである。

今後ロボット技術は社会構造や産業構造の変化に適応するための中核技術のひとつとして展開されていくであろう。たとえば高齢化社会の到来や労働力不足に対応するための人間・機械インターフェース技術の開発などである。極限作業ロボットの研究成果が、この展開の過程でのひとつの大きな踏み台となったことを確信するものである。


8.2.2 超先端加工技術

8.2.2.1 研究の必要性と目標
エネルギー、精密機械、エレクトロニクス、航空宇宙などの先端技術産業の発展のために必要な2つの加工技術、超精密機械加工技術と高密度エネルギービームを用いた加工処理技術の確立のため、超精密機械加工装置技術、大出力エキシマレーザ技術、高密度イオンビーム技術およびこれらを用いた加工処理技術と計測評価技術の開発が必要であった。そこで、加工技術の評価(機械加工特性の評価)および加工された部材の機械的性質の評価の2つの側面から新たな評価技術の創出をめざした。

8.2.2.2 超精密切削加工技術
超精密ダイヤモンド切削は従来の加工法に比べて高い加工形状精度と良好な仕上げ面を同時にしかも高能率で実現し得る。しかし、エキシマレーザやX線用の反射鏡、非球面レンズなどの加工には一層高い精度が要求される。そこで加工精度にもっとも影響の大きい主軸の熱変形の抑制、工具と工作物の相対運動が正確に加工表面に転写されるような工具軌跡の補正方法1)、大面積加工表面形状の高精度計測技術2)などを開発し、発熱による熱変形量が重要であることを世界で初めて実証した。また、この静圧主軸の熱変形の抑制法として、給気温度の精密制御手法を開発した。さらに加工誤差の補償を行う圧電式微小変位工具台やホログラフィー干渉を用いた新しい測定法を開発し、加工精度の向上を達成した。

8.2.2.3 超高品質素形材加工技術
ニアネットシェープ加工など一次加工プロセスにおける加工履歴の影響を的確に評価するため、塑性加工過程における逐次的な材料変形、温度分布の推定、材料品質の変化を推定できるシミュレーション法を開発し、塑性加工シミュレータを開発した。この結果、薄板の鍛造加工などのシミュレートが可能になり、アルミニウム系合金の多軸鍛造の実験結果と良好な一致を見た。

8.2.2.4 ビーム援用ハイブリッド加工技術
新材料の多くは従来の機械加工技術だけでは加工が困難なものが多く、新しい加工技術の登場が切望されていた。そこでレーザーやイオンなどのビーム技術を援用してセラミックスなど加工が困難な難削材料の表層を機械加工が容易な層に改質する技術を開発した。この結果、硬脆材料であるセラミックスへのイオン注入により靱性が改善されることを見いだし3)、エキシマレーザー照射した窒化ケイ素や炭化ケイ素の切削加工能率を80倍高めることに成功した。さらに、レーザープラズマハイブリッドCVD法により、600度Cの温度においてシリコン基板に化学量論的組成の炭化ケイ素皮膜を局所的に生成できることを見いだした。

8.2.2.5 機械的性質の評価
発電施設用部材の高機能化のために、イオン注入やレーザーCVDによる表層改質が検討され、耐蝕性の向上等が計られている。また、低温で脆性破壊が問題となるステンレス鋼の機械的性質を知ることは液化天然ガスを利用する発電施設で重要である。しかしこれらの部材の機械的性質の評価技術は未確立だった。そこで、-94度Cまで連続的に温度を下げられかつ1000kG重までの荷重で引っ張り試験のできる超音波顕微鏡を世界に先駆けて開発し、金属材料や高分子材料の低温での機械的性質を評価する方法を開発した4)。また、表面1μmの熱的不均一性を観察できる波長可変の光音響分光顕微鏡を開発し、レーザーやイオンなどのビームによる表層改質材料の熱伝導率変化を観察評価する方法を確立した。

参考文献

  1. 岡崎、圧電悪アクチュエータを用いた微小変位工具台、精密工学会誌 54-7(1988) 1375-1380
  2. 天神林、放物面鏡形状検査測定用ホログラム干渉計、 精密工学会誌 56-12 (1990) 2316-2320
  3. H. Ogiso, S. Nakano, Y. Nagata, K. Yamanaka and T. Koda, Characterizaion of Ion Implanted Layer Using Ion-Induced Acoustic Signal, Suppl. 29-1 (1990)13-15.
  4. K.Yamanaka,Y.Nagata and T.Koda,Enhancement of Acoustic Imaging of Polymers by Cooling,Ultrasonics, 29 (1991) 159-165


8.2.3 大深度地下空間開発技術(自動化無人化掘削技術)

日本は国土が狭く平地も限られ、東京や大阪などの大都市部では建物が密集しており、産業諸施設を設置するスペースは皆無である。都市機能を支える諸施設を都市部のもっとも近いところに設置するとするならば、その地下に目が向けられるのは自然であろう。通産省では平成元年度より、地下50m以深に直径50m、高さ30m程度のドーム状の空間を構築する技術「大深度地下空間開発技術」の研究開発を産業科学技術研究開発制度(元大型プロジェクト)として開始した。国研からは当所の他に資源環境技術研究所、地質調査所が、また企業からはゼネコン、建機、重工など16社が参加した。当所はドーム状空間を水没下で構築するため、図2.8.2に示すような掘削ロボット適用に関する要素技術の開発を行った。

大都市部の地下は土砂が押し固められたいわゆる軟岩でできており、また種々の地層が入り交じっているため掘削条件も多様に変化する。また、地下水で水没した状態で掘削作業を行うため、人間が直接介在して作業を行うことができない。本研究では、このような状況において、高速・確実な掘削作業を可能にする自動掘削機械の作業機構・移動機構部の機構設計・制御技術、並びに作業計画手法の開発を目標とした。作業機構に関して、高精度で大出力が得られるパラレルメカニズムを採用したプロトタイプ掘削機構を試作すると共に、その制御手法として6軸力センサを速度指令用ジョイスティックに用いる方法、小型マニピュレータをマスタアームとしてマスタスレイブ制御を行う方法、さらには位置と力を同時に制御できるハイブリッド制御手法などを開発した。

移動機構部に関して、4本の脚と1対のクローラを持つプロトタイプ移動機構を開発した。作業サイト間の比較的長距離の移動にはクローラを用いた高速な移動が、また掘削作業中は脚を用いて全方向への移動や作業をしやすい姿勢をとることが可能である。4脚ロボットの適応性の高い移動を行うため、オペレータが移動速度をコマンドとして与えるだけで歩行動作が実現できる操縦型歩行制御手法を開発し、特に状態に応じた対処動作を行うイベント・ドリブン方式を提案した。本研究では脚機構上に作業機構を搭載するシステム化は行わなかったが、脚腕統合ロボットの制御系に関する概念設計を行った。

掘削作業を行うための掘削カッターの軌道計画法、遠隔操作によりその手先を地山表面に接触させ、その時の手先の位置および力/トルクの時系列データから対象の表面位置を計測し地山の形状と硬さを同定する手法を開発した。

掘削作業を含め屋外作業のロボット化はニーズが大きく、移動機構と作業機構を併せ持ついわゆる作業移動型ロボットのプロトタイプを開発し、その適用性を評価することは極めて意義のある研究である。今後、掘削作業と同時に様々な屋外作業へのロボットの適用について作業移動型ロボットの視点で研究を発展させることが重要と考える。


図2.8.2 掘削ロボットのコンセプト


8.2.4 マイクロマシン技術

産業科学技術研究開発プロジェクト「マイクロマシン技術の研究開発」は、研究期間10年間(第1期:平成3〜7年度、第2期:平成8〜12年度)、研究費総額250億円をかけて行うプロジェクトであり、研究委託先機関として、民間の研究機関を統括する(財)マイクロマシンセンターと国立研究機関である当所、計量研究所及び電子技術総合研究所の3研究所とが研究開発に参画している。なお、(財)マイクロマシンセンターの傘下では、第1期には2財団、民間23社、海外3機関、第2期には2財団、民間22社、海外2機関)が研究開発を担当している。当所は、国立研究機関の幹事所として、当初より本プロジェクトに参画し、工技院産技室等によるプロジェクトフォーメーションに協力した。

本プロジェクトは、「極限作業ロボットの研究開発」などの大型工業技術プロジェクトとは異なり、より先導的で基礎シフトした研究開発を行うという趣旨に沿って、最終的に実証システムを作り上げることを研究目標とはせず、マイクロマシンを構成する各種の微小機能要素デバイスの開発と評価、すなわちマイクロマシンを実現するために必要な要素技術の研究開発を目標とした点に大きな特徴がある。

研究開発の内容として、(財)マイクロマシンセンターでは、発電施設用高機能メンテナンスシステム、体腔内診断・治療システム、マイクロファクトリの3種類のマイクロマシンを想定し、それぞれを構成するために必要な各種の微小機能要素デバイスの開発・試作研究を行っている。一方国立研究機関では、上記の民間企業が開発・試作した各種微小機能要素デバイスの特性を計測し評価することを可能にするための評価技術を中心としたマイクロマシンの共通基盤技術に関する研究開発を行うこととなっている。当所においては、研究課題名「発電施設用高機能メンテナンス技術開発評価・微小運動機構の評価」のもとで、以下のような3件のサブテーマの中に合計8件のサブサブテーマを設定し、研究開発を進めている。

  1. 複合マイクロ加工技術(第2期では加工特性評価技術)
    (1)微細機械加工技術、(2)機能付加加工技術、(3)マイクロ接合技術
  2. マイクロ機構構成技術(第2期では機構特性評価技術)
    (1)マイクロ機構のトライボロジー、(2)マイクロ部材の機械的特性、(3)機構のデバイス化技術
  3. マイクロ機構制御技術(第2期では組立操作評価技術)
    (1)高機能マイクロモーション技術、(2)マイクロテレオペレーション技術

それぞれの研究課題における成果の概要については、本書第2編の各項で述べられているので、ここでは言及しないが、多くの研究成果があげられ、平成7年度に行われた中間評価では高い評価が得られた。平成8年度より第2期に入り、第1期で得られた成果や知見をもとにして、さらに実用的で信頼性のあるマイクロマシンを実現するための研究開発を精力的に進めている。マイクロマシンは、本プロジェクトの成果のみで実現できるものではなく、本プロジェクトによって、その基礎が確立されると考えるべきであろう。当所は、マイクロ化が今後の機械技術が目指すべき重要な方向の一つであり、産業の空洞化を阻止し新たな産業を創出するための中核技術になるものととらえており、本プロジェクトのみではなく、様々な研究スキームの中でマイクロ化や、マイクロな環境下での現象解明とその利用などを指向する研究開発を進めていく所存である。



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8.3 ニュ−サンシャイン計画

3.3.1 概要

当所ではエネルギー・環境領域の指定研究として従来より工技院のサンシャイン計画(S/S)、ムーンライト計画(M/L)及び地球環境技術の各プロジェクトに積極的に参画してきたが、平成5年度以降はこれらを統合した形で発足したニューサンシャイン計画(NSS)の中で引き続き各プロジェクトの実施に当たっている。

比較的長期で新エネルギー技術に関連した大型プロジェクトとして、「水素利用技術−水素酸素燃焼システム−水素燃焼タービン」の研究(昭和61年〜)や「風力変換システム(大型風力発電システム)」の研究(昭和63年〜)が実施されており、水素自動車、不活性ガス循環型水素燃焼ガスタービン、可変ピッチ大型風車の開発等多くの成果を挙げてきている。

また、エネルギー効率の向上や省エネルギー化に資する課題として、「高効率ガスタービン」、「汎用スターリングエンジン」、「セラミックガスタービン」などの研究を実施してきており、プロジェクトの中間評価、最終評価等で当所の研究グループが中心的役割を果たすなど、プロジェクト推進に大きく貢献してきている。

さらに、熱エネルギーの有効利用を図る目的から「スーパーヒートポンプ・エネルギー集積」、「広域エネルギー利用ネットワークシステム(エコエネ)」などの研究が行われるとともに材料開発にも主眼をおいた「超電導電力応用技術」の研究や「深層海水による二酸化炭素の固定」のような地球環境関連の研究も実施されてきている。その他、総合研究(S/S)や先導的基盤的研究(M/L)制度の下で種々基礎的課題も実施されてきているが、ここでは以下のテーマについて主な成果を概説する。


8.3.2 高効率ガスタービン

昭和48年を第一次とした二回にわたる石油危機を経験したわが国では、昭和53年度に省エネルギー技術研究計画(ムーンライト計画)が工業技術院の研究制度に加えられスタートした。当時、新鋭火力発電所における発電端熱効率は40%(HHV)どまりであったが、この計画によるとガスタービン機関と蒸気タービン機関を組み合わせた複合発電システムとすることにより、開発目標を55%(HHV)と飛躍的に高くできることが推定できた。計画書によると、開発期間を10年として、総合効率55%(HHV)、タービン入口温度1500℃、出力100MWのプロトタイプの複合発電装置の完成を最終目標に置いている。

技術開発するガスタビ−ンは国内外にも使用例が希な再熱式ガスタービン機関であった。ちなみに、当時、国内の総火力発電事業に対して1%の熱効率向上は一日当たりおおよそ2億円の利益をもたらすものと推定されていた。

当研究所は、このプロジェクト開始後3年目の昭和56年度から研究に参加した。国立研究所に依頼された研究内容は主に計測技術であった。基礎部燃焼工学課(現:エネルギー部燃焼工学研究室)がこれに対応した。委託先の川崎重工(株)からの研究要望課題に”火炎輻射計測技術及び55気圧までの火炎輻射実測”が示されて、この課題を中心に低輻射燃焼器の設計・試作、55気圧の高圧燃焼実験装置の設計・試作及び極低濃度煤計測器の試作等の研究をおこなった。

一つの研究成果に55気圧までの雰囲気下での、燃焼器内の火炎輻射率計測を光学手法により瞬時計測出来る方法を考案し、この方法による輻射率実測をした。結果は毎年開催された高効率ガスタービン組合主催の報告会及び日本機械学会主催の講演会に報告した。

高効率ガスタ−ビンの研究開発に参加したことによりガスタ−ビン機関は高温化に進むべきことが分かり、高温部品にセラミック材料を使うセラミックガスタービン(CGT)に関する調査研究も開始した。


 8.3.3 汎用スターリングエンジン

当所では、昭和57年度から昭和62年度にわたり、ムーンライト計画における「汎用スターリングエンジンの研究開発」プロジェクトに参画し、エンジン特性の理論的実験的な研究に加え、スターリングエンジンの主要要素である熱交換器及びシールの高度化について研究した。また、ムーンライト計画の中で開発が進められたエンジン及び利用システムの試験と性能解析も当所の役割であり、昭和59年度に基本エンジンの中間評価実験、昭和62年度には実用型エンジン及び利用システムの最終評価用試験を、主にエネルギー機械部エネルギー変換課(当初は基礎部エネルギー課)及び同部物性計測課を中心とした研究グループにより実施された。

エンジン特性の研究では、各種研究用エンジンを試作し、その基本性能を実験的に解明し評価用の基礎データを収集すると共に計算機シミュレーションでは、計算精度の向上と計算時間の短縮のための多くの改良を行った。シール関連では、無潤滑状態でのシール面におけるガス漏れ特性や各種シール材の摩擦磨耗挙動、ガス透過性等を検討した。熱交換器関連では、シリンダ壁面熱伝達率とエンジン性能との関係の研究、流動層及びふく射伝熱を利用するヒータの伝熱促進の研究、エンジン性能に影響を及ぼす各種再生器材料の流動及び伝熱特性の研究、さらに排出ガス対策として窒素酸化物の生成挙動と低減法等の研究を行った。


8.3.4 スーパーヒートポンプ・エネルギー集積システム

ヒートポンプは、温度の低い所から高い所に熱を運び上げる装置であり、冷房・暖房・給湯に使用され、エアコンとも呼ばれる物の心臓部にも当たる。圧縮式ヒートポンプの原理は、冷房用途の場合、蒸発器で外部(室内)から熱を吸収し、低圧の液体(熱媒体)を沸騰させ、生じた蒸気を圧縮機により圧縮し、高圧・高温にする。高圧・高温の蒸気は凝縮器で液体に戻り、外部(室外)に凝縮熱を放出するサイクルである。このサイクルにより、圧縮機を駆動するのに必要なエネルギーよりも多くの熱エネルギーを温度の低い所から高い所に運び上げることが出来る。故に、供給された熱量/圧縮機動力の値は成績係数(COP)と呼ばれ、ヒ−トポンプの性能を表す指標の一つに使われる。昭和59年度から平成4年度までの9年間、工業技術院のムーンライト計画の一環として実施された「スーパーヒートポンプ・エネルギー集積システムの研究開発」では、従来の約2倍の性能を持つ高性能圧縮式ヒートポンプ(スーパーヒートポンプ)を開発し、さらに蓄熱装置(化学反応等を利用して高密度に熱を蓄える装置)に夜間蓄熱し、昼間のエネルギー必要時に温熱あるいは冷熱として取り出し、ビルの空調や地域冷暖房、給湯、また加熱などのために使用するシステムを開発することを目標とした。本開発により、高効率ヒートポンプによる冷暖房のための使用動力の低減、また高効率な夜間蓄熱により電力需要の負荷平準化、電力使用ピークの低減が達成され、エネルギー有効利用の促進に寄与することが期待され、現在スーパーヒートポンプの実証試験が行われている。

当所では上記プロジェクトに関連した基礎研究および評価基準の確立に取り組むと共に、開発されたスーパーヒートポンプの性能評価を担当し、ベンチプラントシステムの中間評価用試験および評価報告書の作成、またパイロットプラントシステムの最終評価試験における試験データの解析を実施し、併せて、スーパーヒートポンプを組み入れたエネルギー集積システムのパイロット運転の解析評価を実施した。

当所で実施した基礎研究の概要は以下のようである。(4.3.1.1項および機械技術研究所報告第162号参照)ヒートポンプシステム評価用解析として、高性能ヒートポンプの定常運転時のCOPを外乱の影響を受けずに精度良く評価できる手法を開発し、実際の評価に用いた。また、熱力学の第二法則に基づくヒートポンプの性能評価を行い、ヒートポンプの各要素機器における不可逆損失の大きさを実際のスーパーヒートポンプに対して明らかにし、性能向上策を検討する上に役立てた。さらに、有効エネルギー解析を変動する大気環境と熱交換のあるヒートポンプシステムに適用する方法を厳密に検討し、ヒートポンプにおける環境温度の設定の仕方、有効率の求め方に対する基準温度の取り方の影響を明らかにした。代替フロンを使用するヒートポンプサイクルの研究として、代替フロンがオゾン層を破壊しないように塩素を含まない物質である場合が多いので、従来の潤滑油には溶けない点を考慮し、潤滑油と熱媒体の溶解性と管内熱伝達との関係を明らかにし、熱伝達を低下させないように熱媒体と溶解性のある合成潤滑油を使用する必要性を示した。また、EHD(電気流体力学)効果を利用して、非共沸混合媒体用熱交換器の伝熱促進に関する研究を行い、凝縮器・蒸発器とも3倍以上の伝熱促進を実現した。さらに、高温用ヒートポンプに使用された液噴霧圧縮過程を基礎的に解析し、性能向上の原理および最適化に対する指針を得た。


8.3.5 風力発電システム

  1. 風力研究の概要
    機械技術研究所における風力研究は、昭和53年、「サンシャイン計画」の一環としてスタートした。当所が60周年を迎える今年、風力研究は20年目を迎える。この間、当所はわが国の風力研究の中心としての地位を築き、国際的なネットワークの一端をも担ってきている。

    当所の風力研究は、風洞実験や大型コンピュータによる流れ場解析などの基礎研究から、フィールド試験機による応用研究に至るまで、風力開発に必要な技術課題は、可能な限り全てにチャレンジするように心がけてきた。また、NEDOにおける大型風力発電システムの研究開発や、IEAの国際研究協力、あるいはIECの風力標準化の委員会などにも専門家を派遣し、研究協力を行うとともに、研究成果の普及に努めている。

    当所の風力研究は、発足の当初から部課を越えた概ね8、9名の研究者集団(自称「風力グループ」)の協力によって支えられて来た。

  2. 機械技術研究所における風力研究
    当所における風力関連研究テーマは「風力変換システムの研究」(一般会計)と「風力発電システムの解析・評価」(特別会計)の2本である。前者では、風力エネルギーを効率よく利用するため、風車ブレード、風車の最適制御系、動力伝達系および強度・振動について検討・分析を行い、高性能風力変換システムを開発することを目標としている。後者では、大型風車性能評価、環境影響評価、要素技術評価に8関する解析・試験を技術的側面から実施し、風車工学とその利用技術の確立を図ることを目標としている。

     およそ過去10年間の主な研究内容を顧みる。

    1. WINDMEL風車の運転研究:
      1987年3月、ロータ直径15m、公称出力15kWの風力発電システムWINDMEL−I風車を機械技術研究所構内に建設した。ティ−タ−ド・ロータを備えた水平軸ダウンウィンド型の可変速運転システムである。出力および回転数制御はメカニカル・ガバナーのピッチ制御により行う。技術的特徴は、機械・構造面、電気面、運転・制御面において、変動風に柔軟に対応する設計思想である。ティ−タ−ド・ハブ機構は、ブレード・ハブに揺動運動を許容することによって、機械加重を大幅に軽減し、DCリンクシステムを採用した可変速運転技術は、エネルギ取得量を増大させ、空力変動荷重によるシステム負荷の軽減および変動風況下における運転の安定性・柔軟性を確保する。

      WINDMEL−T風車では、可変速運転技術に集約された風車革新技術を検証できたが、風速変動、風向変動、ピッチ角変化、回転数変化、ティータ角変化、ヨー角変化が常に同時に起るため、個別の設計要素間の1対1の影響評価を得ることが困難であった。

      フィールド試験機WINDMEL−U風車は、個別の設計要素を固定することによって、革新技術の特性を定量的に把握するため、1994年3月に筑波第二研究センターに設置された。同機の基本スペックはT号風車と同じであるが、@可変速運転と定速運転、Aティータードハブのフリーとリジッド、Bヨーフリーと固定、Cピッチ角フリーと固定、のオプション設定を可能とした。異なるオプション間の運転データの比較により、ガストを受けた時のブレード応力レベルの相違や、発生電力の安定性の優劣、さらに疲労寿命の差の予測を工学的に評価することが可能となった。例えば、定速運転に比較し、可変速運転ではロータの受ける機械加重、電力の出力変動レベル等が半減するため、乱れの大きな山岳性気象条件下の運転に適しており、また軽量化設計を通じてコスト低減が図れることが明らかになった。また、本機は低騒音ロータの開発も主要な目的としている。

    2. ウィンド/ディーゼル・ハイブリッドシステム等:
      WINDMEL−I風車に搭載した個別の要素の運転を通じて、風車起動装置、側車式フリーヨーシステム、制振装置、ハイブリッド運転等に関する技術を開発し、その長所を把握した。ハイブリッドシステムは、風車(出力15kW)とディーゼルエンジン(定格出36.8PS)による機械的直結方式のフィールド試験システムである。

    3. 風車用翼型の開発:
      高性能かつ安定した運転特性を得るためには、風車の運転領域に相当するレイノルズ数域で優れた性能を持つ翼型の開発が不可欠である。当所では、風車用の翼型MELシリーズの開発し、風洞による性能試験を実施してきた。既存の翼型を凌ぐものも生まれている。また、新翼型開発のツールとして、数値流体力学(CFD)を利用し、性能を予測するとともに、剥離などの物理現象の解明を図っている。三菱重工長崎研究所と共同研究も実施した。

    4. ロータ空気力学:
      高性能風車の設計技術の確立をめざし、LDVによる風車ロータまわり の流れ場計測、ロータダイナミックス(シミュレーションおよび実機による)解析、性能向上(揚力増加、抗力低減)技術の開発、性能評価技術の開発してきた。

    5. 騒音研究:
      WINDMEL風車や竜飛ウィンドパークの風車などの実機の騒音を計 測し、IEAやIECの国際規格に対応しつつ、騒音計測技術の確立を行ってきた。現在は、フィールド試験機や室内模型により、騒音(空力騒音)発生メカニズムの解明と騒音低減技術の開発を行っている。

    6. 伝達系・構造系の試験研究:
      歯車伝達系の動特性試験、WINDMEL風車歯車の台上試験、ロングシャフトの開発と試験、等を実施してきた。

    7. 振動解析:
      柔構造設計システムでは、タワーはソフト設計であり、またロータの回転数は可変速である。そのため、機械・構造の振動問題が重要であり、ロータ/タワーの連成振動の風洞実験と解析コードの開発を行うとともに、制振装置を開発しWINDMEL風車へ適用した。

    8. 異常診断技術・安全評価技術:
      今後一層必要となる風力発電システムの異常診断技術の開発を進めている。また、IECの国際規格の策定とも連動した安全評価技術の試験研究とその解析評価を行っている。

    9. NSS大型機開発の評価:
      複雑地形の風車の性能評価技術および騒音計測技術の開発に関連して、NSS/NEDO-500kW風車、宮古の集合設置風車の評価解析と研究支援を行ってきている。そのため、NEDO研究委託先の東北電力と共同研究を実施している。

    10. 国内外風力研究協力:
      日本機械学会、風力エネルギー協会、電気学会、ターボ協会、日本エネルギー学会等の風力関連会議、委員会に協力し、またNEDO、新エネルギー財団、電気工業会の風力関連委員会に参画。東京大学、横浜国立大学、琉球大学、茨城大学等と併任教授等により研究交流を実施している。さらに、1990年にイギリスからの研究留学生を迎えたが、1997年にはフランスから迎えることとなった。

    11. IEA風力研究協力:
      IEA風力国際研究協力と開発動向調査研究に参加している。この他、IEA CADDET、APEC等の国際会議にも協力している。

    12. 風力標準化:
      IEC(国際電気標準会議)による国際規格の策定、JIS国内規格の策定に協力しており、当所から3名の国際委員を派遣している。


8.3.6 水素関連技術

水素は、水を原料として製造できること、その燃焼生成物がクリーンであること、燃料として貯蔵でき、広範な用途に利用できることなどの特徴から、電力を補完するクリーンな二次エネルギーとして注目され、わが国では、オイルショック当時に発足した新エネルギー技術開発(サンシャイン計画)の一環として、その技術開発が開始された。最近では、二酸化炭素などによる温暖化および酸性雨など地球環境問題がクローズアップされるに伴い、太陽、水力等の再生エネルギーを用いて水素を製造し、これを輸送して利用する国際共同プロジェクトが活発化し、平成5年度に発足したニューサンシャイン計画では水素国際クリーンエネルギー利用技術(World Energy Network)プロジェクトとして推進されている。

当所では、サンシャイン計画の発足以来、水素利用技術開発を進めてきており(図1)、WE−NETプロジェクトでは、水素利用技術だけでなく、水素の製造から利用までの国際的なエネルギーシステムためのモデル解析などにも積極的に参画している。

当所の水素利用技術開発の概要を年代毎に見ると、第1期では水素エンジンおよび水素自動車を研究対象に、水素を燃料としてレシプロエンジンに適用する場合の燃焼特性の解明に関する基礎研究、その特徴を活かし、かつ水素吸蔵合金利用の燃料タンクから供給される1 MPa未満の水素ガスのエンジンへの供給方法の基盤研究等を行い、カム駆動式低圧水素ガス筒内噴射法を開発した。これらの基礎・基盤技術開発を基に、4シリンダー火花点火エンジンの開発、水素吸蔵合金を燃料タンクに利用したエンジンシステムのベンチテストを経て、金属水素化物タンク使用の筒内噴射方式エンジンを搭載した水素自動車をはじめて試作し、走行評価試験を行った(1)。これらの一連の技術開発により、金属水素化物タンク使用の水素自動車における各構成要素の設計上の基盤データや留意点を得ると共に、水素自動車の一つの開発指針を提示し、その後の豊田自動織機のフォークリフトや鈴木自動車の小型乗用車の試作、最近のマツダの水素自動車の開発に寄与してきた。

第2期の水素動力利用技術の開発では、第1期における既存エンジンや自動車等のハードを如何に水素用に最適化するかという観点とは異なり、水素の本来持つ特徴を最大限活かした燃焼システムは何か?を主眼に検討し、水素と酸素の燃焼で水ができるという誰もが周知の反応を利用する作動媒体循環型燃焼システムが研究対象となった。この燃焼システムに関する研究開発は、まず従来の空気を酸化剤とする燃焼方式と異なる、水素ー酸素ー不活性ガス系の理論当量比燃焼について、その保炎法の研究や作動媒体循環用水素ー酸素燃焼器の研究を進めた。その後、アルゴンガスを作動媒体(循環ガス)に使用した燃焼システム、ならびに、この基本燃焼システムの具体的な動力利用例として不活性ガス循環型水素燃焼ガスタービンシステムを組み上げ、そのシステムとしての機能性を初めて実証し、現在、進められているWE−NETプロジェクトの水素燃焼タービンの技術開発の先導役を果たしてきた(2)。

水素燃焼タービンの開発では、500 MW級、燃焼器出口温度1500 〜 1700 ℃、発電端効率で60%以上(高位発熱量基準)を最終目標とし、その第1期計画(1992-1998)では最適システムの選定および実証試験に必要な基礎技術を確立するために、最適システムの評価、燃焼制御技術開発、タービン翼・ロータ等の主要構成機器の開発、高温熱交換器等の主要補機類の開発、および超高温材料の開発の各項目について必要な解析・調査、要素技術開発等が進められている。

当所では、この技術開発に関連して、水素ー酸素ー水蒸気系の燃焼特性の基礎データの把握や燃焼制御技術、高温反応性ガスと燃焼器ライナーやタービンとの表面反応解析、システムの最適化のための解析、および燃焼器における燃焼状態を評価するための計測技術などを進めている。また、これと並行して、水素ー酸素燃焼の特徴を生かした新しい燃焼制御技術についても研究を進め、燃焼過程を支配する活性化学種(ラジカル)の生成を非接触かつ高速制御する方法として、紫外光照射による着火・燃焼促進技術の基礎研究を進めている(4.2.2節参照)。

また、水素クリーンディーゼルコジェネレーションシステムおよび将来型水素自動車などの解析調査や基盤技術研究などWE−NETの水素利用技術の新しい技術開発の立案やその基盤データの提供等を通して、今後も、クリーンかつ高効率のゼロエミッションを目指した技術開発を推進していく予定である。

一方、WE-NETシステムにおける国際レベルの需要側と供給側とのエネルギーネットワークについて、技術開発面だけでなく、経済性、環境性などの幅広い側面から最適化を図るために、エネルギー製造、輸送技術等のデータ収集ならびにグローバルモデルの構築や解析を進めている。


図2.8.3 機械技術研究所における水素燃焼利用技術開発の概要

参考文献

  1. Hydrogen-Powered Vehicle with Metal Hydride Storage and D.I.S.Engine System, Jun Hama, Y.Uchiyama et al., SAEPaper 880036(1988)
  2. A Closed Gas Turbine System by using of Hydrogen-Oxygen Combustion, J. Hama, S. Takahashi, et al., 11th Int. World Hydrogen Energy Conf. (1996-6) p1909- Stuttgart


8.3.7 セラミックガスタービン(CGT)

化石燃料を生み出せないわが国では、熱機関における化石燃料の有効利用として、熱効率が高く、同時に燃料の種類を問わずに運転できる機関が必要である。間欠燃焼を利用したディ−ゼル機関やガソリン機関に比べると連続燃焼を利用するガスタ−ビン機関は、多種燃料性に優れているものの、出力規模がおおよそ1000kW以下の小型金属製ガスタ−ビン機関の熱効率は、これらに比べるとはるかに低い値に留まり、これが利用拡大を阻止してきた。この欠点を取り除く技術ができれば排気ガス中の一酸化炭素(CO)、燃焼炭化水素(UHC)、窒素酸化物(NOx)および煤等の粒状物質(PM)の排出量が少ない、いわゆる環境にやさしくしかもわが国に適した先進・省エネルギ−型熱機関に成りうるとして、出力300kW級のセラミックガスタ−ビン(Ceramic Gas Turbine:CGT)の研究開発が工業技術院ムーンライト計画の一環として昭和63年度(1988年度)に開始された。

当所は昭和61年度(1986年度)から自動車用および産業用セラミックガスタービンの計画策定のための調査研究に協力してきた。昭和63年度(1988年度)から9年計画(後に11年計画に変更)による産業用300kWCGTの研究開発が開始されると同時に、名古屋工業技術試験所(現在:名古屋工業技術研究所)および科学技術庁航空宇宙技術研究所と共にこの技術開発に参加してセラミックガスタービンの基礎的要素的な研究を行い技術開発の委託先の開発グループを支援してきた。

300kWCGTの研究開発には、用途別に構造が異なる3機種のガスタービンが選定された。開発体制はガスタービン製造企業とセラミック製造企業が同等の立場で手を組み、3グループが結成された。委託先として、愛称CGT301(定置用再生式1軸CGT)は石川島播磨重工(株)グループが、CGT302(定置式再生式2軸CGT)は川崎重工(株)グループが、CGT303(移動用再生式2軸CGT)はヤンマー(株)グループが選定された。

当所では、CGT303のタ−ビン、再生器および燃焼器に関する問題点を抽出して、タービンに関する研究グループ、回転蓄熱式再生器に関する研究グループおよび燃焼器に関する研究グループを構成した。研究者が所属する研究部課(当時)が異なるために、研究者はCGT研究会としてまとまった。定期的に研究会を開き、研究内容について、例えば実験方法の問題点や結果の検討を行い、横断的に問題解決をおこない効果的に研究を進めてきた。

タービンの研究グループでは従来の金属製のタービンに比べ、一桁低いレイノルズ数領域で作動するセラミック翼で新しく発生する空力問題を提起して、モデル計算や模型を使った風洞実験を試み、解決に務めてきた。また、セラミック翼は脆性破壊し易い性質があるために燃焼生成物のカ−ボン等の微小物体と衝突して破壊するおそれが報告されている。この異物衝突現象(FOD)の解明と対策研究も進めてきた。再生器の研究グループは回転蓄熱器の摺動部分に必要なシール材と高温摺動部材に関したトライボロジイ面からの現象解明の研究をおこない、主に低摩擦・対摩耗コーティング技術を研究した。燃焼器の研究グループは低NOx燃焼技術として最有力視されてきた希薄予混合燃焼について研究をしてきた。これらの要素毎の研究内容と成果については4.3.2.1詳しく述べてある。

平成6年度から平成7年度にわたり工業技術院は3機種の基本型CGTの技術達成度について評価を行った。この中間評価は3ヶ所の国立研究所が分担した。分担内容は、名古屋工業技術研究所がセラミック材料についての基本特性を、航空宇宙技術研究所がCGTの要素部品についての単独特性を、当研究所はCGTの試運転結果を動力特性及び排気ガス特性の面から評価をした。


8.3.8 広域エネルギー利用ネットワークシステム(エコ・エネ都市システム)

工業技術院のエネルギー・環境領域総合技術開発推進計画であるニューサンシャイン計画では、再生可能エネルギー(太陽、地熱、風力、海洋、バイオ)、化石燃料高度利用(石炭、燃料電池、セラミックスガスタービン)、エネルギー輸送・貯蔵(超伝導電力応用、分散型電池)、地球環境対策と共に、システム化技術が取り上げられている。このシステム化技術の具体的研究開発プロジェクトには、本テーマである「広域エネルギー利用ネットワークシステム技術(略称:エコ・エネ都市プロジェクト)」と「水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(略称:WE−NET)」があり、いずれも従来にない広域のエネルギーシステムの構築を目指すプロジェクトである。これらのプロジェクトは、既存のプロジェクトの対象とするスケールが、要素機器、熱サイクルを含むエネルギー機器、エネルギープラントの大きさまでで、地域エネルギー、国単位のエネルギー、国際的エネルギーシステムなどの広域システムに関するスケールの大きいエネルギー研究開発は、未着手の状態であったことを反映して作られている。これらのシステム化技術は、各地域・各国のエネルギー事情、社会的背景、経済事情、文化などの複雑な要因を含むが、地域・国・世界という視点でエネルギー問題や地球環境問題などを解決して行く必要があり、特に、エネルギー有効利用を推進することは、これからのエネルギー工学にとって重要な課題であると言えよう。今回のニューサンシャイン計画は、地域システムという小さい地域のスケールからエネルギー有効利用を進めて行こうとする「エコ・エネ都市」プロジェクトと、一番大きな地球全体という国際的視野から地球環境問題の解決を含めてエネルギー有効利用を図ろうとする「WE−NET」プロジェクトの2つのプロジェクトをスタートさせ、地域レベルと国際的レベルの両面からの挑戦が始まっている。

日本のエネルギー消費を、2次エネルギー利用形態から見ると、冷暖房や加熱などの熱利用が46%、発電用35%、自動車などの動力利用が15%などとなり、冷暖房や食品工業等での工業加熱など比較的低温の質の低いエネルギーのみを必要とする熱需要の大きいことがわかる。一方、エネルギー使用量の55%は主に工場排熱の形で環境に排出され、そのほとんどは150℃〜200℃以下である。この工業排熱を可能な限り熱回収し、回収した熱を従来よりも広い地域で、民生用の冷暖房や一部工業用の加熱など比較的低温の熱需要に対応できるように輸送して有効利用しようとするのが、「広域エネルギー利用ネットワークシステムプロジェクト(エコ・エネ都市システムプロジェクト)」である。熱回収技術開発で対象となる現在まで未利用の排熱としては、150℃〜200℃程度以下の比較的低温度の排熱、汚濁流体の形での温排水、煙突などからの水蒸気潜熱などがあり、回収した熱の輸送・利用手段としては、メタノールや水素吸蔵に関連した化学反応利用が検討されている。

機械技術研究所は、エコ・エネ都市プロジェクトの立案段階から重要な役割を果たしてきており、現在もプロジェクトのキーポイントとなる基礎研究に精力的に取り組み、また、プロジェクトを技術開発面からサポートする役割を果たすべく努力している。例えば、液相触媒化学反応を伴う熱交換・物質輸送過程のミクロな解析と高性能化、熱交換器の汚れの発生メカニズムと磁場を活用する能動的汚れ防止技術、界面活性剤を活用する熱輸送液体の管内輸送における抵抗低減メカニズムの解明と熱伝達促進技術の確立、地球環境に影響の少ない熱媒体を用いる小温度差熱サイクルの研究、スラリー状氷による低温蓄熱技術の基礎研究、および、広域エネルギーシステム設計・評価技術の研究を行っている。


8.3.9 超電導電力応用技術

近年、超電導技術の進歩とともに、超電導応用電力機器への関心が高まってきている。なかでも超電導発電機は現用機と比較して、高効率化、小型化、軽量化、およ電力系統安定度の向上等の多くの特徴があり、省エネルギー効果が大きく開発が期待されている。

工業技術院においてはムーンライト計画の一環として、昭和63年度より7万kWクラスの超電導発電機の研究開発が開始され、平成5年度からはニューサンシャイン計画において引き続き研究開発が行われている。

当所では、極低温下で回転子構造体が高磁界、高トルクを受けるときに生じる構造上の問題点を明らかにし、最適構造設計および破壊防止設計に有効な指針を得ること、また、超電導電力機器の長期的な安全性、信頼性を確保する構造健全性総合評価システムを確立することを目標に、材料、加工、振動および構造設計に関する要素技術の研究開発に取り組んでいる。具体的なテーマは下記の通りである。

構造材料信頼性評価技術(昭和63年度〜)では、候補構造材料の強磁場・極低温下の変形、破壊挙動を解明するとともに、材料評価技術の研究開発を進め、構造設計指針の策定に必要なデータの集積を図ることを目標に実施してきている。強磁場(6T)、極低温(4K)下において、種々の破壊力学材料試験が可能な強磁場・極低温構造材料信頼性評価装置を整備・開発し、候補構造材料を用いた破壊力学材料試験を行い、種々の知見を明らかにしている。特に強磁場印加によりオーステナイト系ステンレス鋼の疲労き裂進抵抗が増大することを示し、さらにそれが変態誘起き裂閉口によるものであることを明らかにしている。

損傷解析技術(平成4年度〜)では、疲労損傷モニタリング・解析技術の研究開発を通して、機器構造体の長期的信頼性を保障するための、寿命、余寿命の非破壊評価技術を確立することを目標に研究を実施している。超高感度の磁気センサーである超電導量子干渉素子を用いて欠陥、損傷等の非破壊評価試験を行い、磁気データより欠陥、損傷の寸法、位置の推定が可能な簡易評価解析手法を提案している。

加工品位評価技術(昭和63年度〜平成5年度)では、候補構造材料の難削性因子を解明するとともに、長期間にわたる高信頼性を発揮するための高品位切削加工技術を検討した。候補構造材料の切削加工を行い、切削工具形状、切削量、加工速度等の加工条件の違いによる残留応力状態の変化等を明らかにしてきた。

振動特性評価技術(昭和63年度〜平成7年度)では、二重円筒回転子について内部回転子に不釣り合いがある場合のつりあわせ特性の評価を行った。また、回転子が偏心ふれ回り回転しているときの三相突発短絡時の回転子挙動の解析を行った。

現在は、これまでの研究を継続するとともに、従来の研究成果を統合し、超電導発電機回転子の最適構造設計指針を確立することに重点をおいて研究を実施している。



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8.4 医療福祉機器とヒュ−マンフロンティア

8.4.1 産業科学技術研究開発(旧称 医療及び福祉機器技術研究開発)


8.4.2 生体機能応用型産業技術研究開発(通称 ヒューマンフロンティア)

ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラムを推進する我が国自身の生体機能分野における研究ポテンシャルを飛躍的に向上させるために、工業技術院の各研究所の力を結集して昭和63年度より指定研究として「生体機能応用型産業技術研究開発」が進められており、当研究所ではバイオメカニクス研究室を中心とした脳機能の解明に向けた研究などを推進してきた。

  1. 研究開発の概要
    生体の有する精妙なメカニズム解明のための基礎研究は、今後の科学技術シーズの宝庫、多くの研究分野の発展の牽引力として大きな可能性を秘めており、21世紀の科学技術のフロンティアを切り拓くものとして期待されている。生体の持つ優れた機能の解明を中心とする基礎研究を国際的に共同して推進し、その成果を広く人類全体の利益に供することを目的として、昭和62年(1987年)のベネチア・サミットにおいて、我が国より「ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)」を提唱し、翌年より実際の事業を開始、現在では世界各国の科学者から極めて高い評価を受けている。そして、重点的な2つの研究領域として、A.脳機能の解明のための研究および B.生体の分子論的アプローチによる解明がある。毎年、内部審査委員、外部審査委員による審査にて新規テーマの採択が行われている。

  2. 機械技術研究所における取り組み


参考文献

  1. 生体機能応用型産業技術研究開発 1994 annual report 通産省工業技術院国際研究協力企画官室



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8.5 重要地域技術研究開発

8.5.1 レーザ応用先進加工システム技術

このテーマは工業技術院のつくば地区の研究所において、重要地域技術開発が初めて認められたものであり、俗称先端型地域大プロの最初に位置するものである。

このテーマは大阪工業技術研究所、九州工業技術研究所、(株)イオン工学研究所、(株)超高温材料研究所、(株)レーザ応用工学研究所と共同で行っている「複合機能部材構造制御技術」の中の1テーマであり、高出力レーザを用いた表面改質に関する技術分野に属するものである。

研究の目的は、「航空宇宙、エネルギー分野において、エンジン部材等の過酷な環境下で長時間使用できる信頼性の高い材料の開発に大きな期待が寄せられている。本研究では、レーザを高度に利用し、エンジン構成部品のうち、高速ガス流との著しいエロージョン摩耗等の損傷が予想される部材について、耐エロージョン・コロージョン性向上を目的とした表面創製技術を開発する。また、レーザの光物性を考慮したレーザ応用加工技術の高品位化ならびに高効率化と、作業環境の安全性確保に対する指針を得る」である。

機械技術研究所においての研究内容とその成果は以下の通りである。

  1. 先進レーザ加工技術

    1. 超硬質金属被膜作成技術
      高出力レーザ加工の特徴である、急速加熱と材料の熱伝導による急冷を利用し、従来にはない金属の準安定な結晶構造にすることにより、極めて硬質な金属材料の作製を試みるものである。純鉄、純チタンにおいて母材の硬度の2〜3倍の硬度を得ることに成功した。また、Mo、W等の高融点金属について、さらに硬質(セラミクスやサーメットをしのぐ硬度)な材料作製を試みている。レーザのエネルギー吸収及び材料の高温での熱伝導に関する問題の解明がテーマの中心課題である。レーザの光としての性質(モード、コヒーレンシー、偏光)等の理解が十分でないと解決に向かわない。

    2. レーザ・プラズマハイブリッド表面改質1)
      減圧プラズマ溶射にレーザを援用するレーザ・プラズマハイブリッド溶射法を用いた表面被膜作製技術である。トライボロジー及び耐エロージョン・コロージョン用被膜の作製を試みている。レーザの援用により被膜の結晶構造を変え、同一元素組成でも摩耗を1/100にすることも可能となった。図2.8.7にレーザ・プラズマハイブリッド溶射の概念図を示す。


      図2.8.7 レ−ザ・プラズマハイブリット溶射の様子

    3. レーザ応用微細加工技術
      紫外域のレーザ(エキシマレーザ)を用い、ポリマー表面の分子結合を変え(レーザアブレーション)それがトライボロジー特性に及ぼす効果を調べるテーマである。PET樹脂に関しての研究を進めている。

  2. レーザ応用加工システム
    高出力レーザを加工に利用する場合にはレーザの光としての性質を把握することが不可欠である。しかし、高出力レーザの偏光や波面収差を測定する手段はレーザによる光学部品破損等が発生するため、現在確立されていない。本テーマでは高出力(kW以上の出力)のレーザの偏光、波面収差等の光の性質を計測する方法を開発し、加工や加工用光学系の設計に利用することを目的としている。ロンキー干渉計を利用した5kW級のレーザの波面の計測システムの設計を行っている。


8.5.2 コンカレント加工システム

コンカレント加工技術は、5.2.5にも述べられているが、重要地域技術研究開発制度(地域大プロ)の中小・中堅企業型プロジェクトとして平成6年度より5年計画で実施されている。プロジェクトの実行は、民間企業との連携の基に進められ、公募した関東通産局管内(関東甲信越静地区)の民間企業9社と共同研究契約(1年更新)を結んでいる。次世代生産加工技術懇談会にて研究基本計画を審議し、計画・目標を修正している。また、毎年の評価については機械研分については年1回、次世代生産加工技術懇談会において評価を行い、研究計画の見直しを実施し、民間企業の共同研究については地域大プロ連絡会議で発表を行い、各社の計画のすり合わせを行っている。 共同研究部分に関しては、相手先企業で直ちに応用できるテーマを選定している。当所における研究の目的も意欲ある中小企業やベンチャービジネスが、自立化を目指して新製品の開発を行う場合に重要な詳細設計および試作加工を支援するために、図2.8.8に示すような設計と試作加工が一体となった加工システムを開発すること、という中小企業で活用できるシステムの開発を目指すものとなっている。特に素形材加工シミュレーション技術はシステムの軽量化・高速化(従来スパコンで行ってきたものをEWSまたはパソコンで利用可能にする)を目的の一つとし、中小企業での使用を念頭においている。これらの研究テーマは当所で従来より基礎的な研究開発を行ってきた種々の技術をベースに、実際に中小企業が使用可能な機器構成のシステム上で統合化するものである。

研究の目標としては、正確な設計検証支援システムの開発として、運動シミュレーションにおいては、相互の接触位置及び接触力について、高精度な推定を目指すこと、実用的な機械加工試作支援システムの開発として、加工情報抽出機能と共に加工力制御において許容加工品位を実現するための適正値に対して高精度な推定を目指すこと、素形材加工試作支援システムの開発においては、加工トラブル等の発生を低減し試作回数の大幅な減小が可能な塑性加工シミュレーションにおいて、中小企業で利用可能な計算機を用いて、形状、加工力、歪分布、温度分布に関して高精度な推定を目指すこと等が挙げられている。

現在までの主な成果としては:
機械加工試作支援システムに関しては、システムで用いる加工力制御機能を有する加工機本体部について、機械加工において加工力を操作ハンドル(トルクセンサ、サーボモータ付き)にフィードバックし操作者が加工情報を感知しながら機械を操作できるシステムを試作しその有効性を確認した2)。多数の簡便なセンサを工作機械に取り付け、各々の最適周波数帯を合成することで高性能三次元動力計と同程度に加工力を測定可能であることを確認した、マシニングセンタと外部に設置した制御用コンピュータとがイーサネット経由で通信し、加工状態を加工力や振動等によって判断し、実時間での加工条件の修正が可能なシステムを構築した。力覚教示装置を使用してマシニングセンタを高精度に制御するためにオペレータの熟練度により制御特性を変更できる制御系のプログラムを設計した。

素形材加工試作支援システムに関しては二次元軸対称問題を中心として鍛造工程の自動設計システムの開発を行っている。

その他、設計検証支援システムの運動シミュレーション及び機械機能解析、機械加工試作支援システムの切削加工シミュレーション、素形材加工試作支援システムのシミュレータ等に関する成果については5.2.5に述べられている。


図2.8.8 コンカレント加工システムの構成


参考文献

  1. 佐々木:溶接技術、6月号 1992年 84
  2. 沢井、碓井、宮沢、力覚表示装置の開発、1995年度精密工学会秋季大会学術講演会論文集,(1995),79



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8.6 研究情報基盤整備研究開発

8.6.1 材料設計支援システムの開発

原子・分子レベルから材料設計を行う研究も積極的に行われてきているが、多機能で多種類の材料特性を完全に予測することはかなり困難である。そのため、実験データを用いた材料設計支援システムの開発が必要となる。材料に対する用途の多様化に伴い、材料に要求される特性はかなり複雑になっている。また、従来より、効率よく新材料を開発するためにも、材料設計のためのエキスパートシステムを開発し、材料情報を体系化させることは、新材料開発に役立つと共に研究費の節約,研究機関の短縮につながる。本研究で開発を目指している材料設計支援システムを図2.8.9に示す。以下にこの10年間に開発してきたデータベースの内容について簡単に示す。

  1. 複合材料データベースの開発
    軽量で目的用途に応じた強度、剛性、耐熱性等の特性を発揮する繊維と樹脂または金属との複合材料(FRP、FRM)を開発することを目標に、大型宇宙構造物、航空機構造,タービンエンジンおよび自動車用複合材料の開発および用途開発を目指し、比剛性、比強度の方向性の積極的活用、一体化構造による信頼性および生産性の向上などを合わせた設計−素材−成形−品質評価にわたる一貫研究を1980年度から8年計画で進め1988年3月末で終了した。この次世代産業基盤技術開発制度の下で開発したFRP,FRMの材料設計に関するデータ(約5000件)をRIPSのPLANNER(FACOM MSPの情報管理システム)上にリレーショナル型データベースで構築し、検索・表示できるシステムを開発した。

  2. AIによる先端材料設計データベースマネジメントシステムの開発
    材料設計は、理論式、経験側を駆使するだけでなく、熱処理、加工条件、機械的性質などの複雑な因子を総合的に評価して行う。複雑なデータ構造および複雑なデータ間のリンクが必要となるため、AI(人工知能)技術を導入したエキスパートシステムの開発を行った。具体的には、先端超耐熱材料の一候補であるTi-Al系金属間化合物を設計対象として,未知の金属間化合物の材料設計を支援するエキスパートシステムを開発した。つまり目的の諸特性を満たすと考えられる未知材料を推論し、その材料の組成、熱処理条件、加工条件などに関する設計案を提示する。推論は、金属間化合物に関する実験データから成るファクトデータベース(DB)、知識データベース、エキスパートシステムなどの技術を応用して行った。ファクトデータベースは、オブジェクト指向型データ管理システムであるGemstoneを用いて構築し、エキスパートシステムとしてKWESHELLを用いた。現在まで約100論文のデータを構築している。

  3. 金属系材料設計データベース
    AIによる先端材料設計データベースマネージメントシステムの開発(平成3年度〜平成7年度)において開発したTi−Al系金属間化合物に関するオブジェクト指向型データベースをインターネットにより平成10年をめどに公開する。Gemstone上に構築したデータベース情報を検索・表示するための通信ソフトウェアをビジュアルウェイブおよびブラウザを用いて開発し、ホームページを作成する。


図2.8.9 材料設計支援システム

  
8.6.2 加工技術データベース

当所で長期にわたり、継続して収集・蓄積してきた溶接、機械・加工に関する実験データ、加工技術に関するデータを、製造知識資源として、インターネット上で一般公開する試みである.

当所の生産システム関連研究では、加工実験や解析を行い、そのデータ を収集・蓄積し、技術データとして体系化する研究を進めてきた.加工技術データベースは、これまでの溶接や機械加工に関する実験データを集めたもので、WWWによる問い合わせにより、シミュレーションや推論を行い、適切な加工方法や加工条件を提示するコンサルティング機能を有している.図2.8.10は、公開データベースのうちの溶接に関するホームページである.また、図2.8.11は、システムが計算した最適な溶接条件を提示している画面である.

本システムの特徴としては、当所で開発した複式アーク溶接法の使用条件を設定する機能を有する点にあるが、一般のTIG(ティグ)溶接、MIG(ミグ)溶接の条件の設定のためにも利用できる.複式アーク溶接とは、多品種小量生産における高品質の異種継手を効率的に加工することを目標にした新溶接法で、TIG-2Y/GおよびMIG-1Y/と呼ぶ.Yは付加する溶加ワイヤとその数、Gは磁気制御法付加をそれぞれ示す.複式溶接ではこれらの他にも新溶接法も取り入れて、継手仕様に適切な溶接法と溶接条件を自動的に選択して適用する.実際の利用に際しての参考データとして利用されることを意図しており、公開から4ヶ月で、1,000箇所を超えるサイトから20,000件を近いアクセスがあった.

今後、一層のデータの拡充に努めていくと 同時に、切削加工データについての公開も予定している.


図2.8.10 溶接に関する加工技術データベ−ス

図2.8.11 最適溶接条件を提示している画面例



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