1章 材料技術
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1.1 研究の動向
1.1.1 経緯
機械の性能・信頼性は、それを構成する構造材料や機能材料の機能とその健全性に大きな比重がある。したがって機械材料は、負荷条件や環境に対して耐久性があり、高寿命でなければならないし、その健全性を的確に評価できなければならない。また資源やエネルギー、環境保全の制約が顕在化するにつれて生じる課題への対応・配慮が必要になる。このような観点から機械材料関連の研究開発を押し進めるには、機械材料の創製から評価まで、すなわち上流から下流にかけて材料工学部は、平成元年度の機構改革でエネルギー加工課が生産システム部に移り、材料物性課、材料設計課、変形工学課、トライボロジ課の4つの課から構成されてた。さらに平成6年10月の機構改編により、課は研究室と名称を替え、さらに変形工学研究室が生産システム部に移って、残る3研究室がバイオ関連の2研究室とともに基礎技術部を構成することとなった。ここに、昭和46年来の材料工学部の名称は発展的に解消した。なおこの改編で、トライボロジ課はトライボロジー研究室となった。しかし研究所内では7分野の一つに材料工学分野を位置づけて、東京講演会や所内の研究発表会などさまざまな研究活動を継続してきた。
1.1.2 研究の動向
この10年間の材料3研究室における研究の流れを概観してみると、別表のように表せる。それぞれの研究の内容は、次の節で子細に述べられるので、それに譲るとして、大まかな研究の流れの特徴を述べてみる。一つには、きわめて過酷な環境(特に高温酸化性雰囲気)に耐久できる構造材料や固体潤滑材料の開発、関連の材料物性評やトライボロジー評価に関する研究が、最近の7・8年間集中して行われた。これらの研究開発は、宇宙往還機の機体や超音速飛行機用エンジン開発に関連する材料開発研究と位置づけられる。その一方、寿命を終えた機械材料のリサイクル性を高める、あるいは環境への負荷軽減を目指す研究も端緒についてきた。これから本格化するであろう研究テーマが最近の2・3年の間にいくつか生まれつつある。材料の高機能性に関する研究は、当初期待が大きかった複合材料系の研究が一段落し、次の発展としてスマート構造化が図られようとしている。また、「超耐環境性先進材料」のプロジェクトで当所が担当したTiAl系金属間材料の開発は、平成9年度からは「スーパーメタル」プロジェクトとして高強度・高靱性でかつリサイカブルな結晶制御型金属の開発を目指す研究に着手することになった。一方、材料評価の研究は、標準的な評価技術の確立が課題である。このような方向で、疲労試験、摩耗試験、生体適合性試験などが行われてきた。さらに材料工学の発展の一つの方向として、生命科学や地震学など他分野と融合させた新しい領域の研究も生まれてきている。
表2.1.1 材料分野の主な研究の流れ
1.1.3 これからの展望
21世紀の夜明け前、当所の60周年を迎える。材料技術は、引き続いて21世紀機械技術の中核分野を担うことになろう。その期待が、材料分野が担当した平成7年11月弟34回東京講演会での主題 強く、優しく、そしてもっと賢くー材料はどこまで進化できるかーに込められている。人工の機械材料は、生体という素晴らしいスマート構造を理想としつつ、強さ、優しさ、賢さを具備すべく、もっともっと進化できる余地を残している。
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1.2 設計・製造技術
通商産業省工業技術院の次世代産業基盤技術研究開発制度に基づく「高性能結晶制御合金の研究開発」が昭和63年(1988年)度に終了し、平成元年(1989年)度から開始された通商産業省工業技術院の産業科学技術研究開発制度に基づく「超耐環境性先進材料の研究開発」や科学技術庁の振興調整費総合研究等を核として設計・製造技術の研究開発を精力的に推進してきた。その中で、合金設計技術は汎用のd電子合金設計法を用いて、耐食性に優れた生体用新チタン合金の開発に成功した。
加工熱処理技術では、加工熱処理を利用した高延性化と内部摩擦との関係をマクロおよびミクロ的見地から究明した。攪拌凝固技術では、粉末冶金法と同等の均質微細なミクロ組織の創出と粉末冶金法では不可能な大型素材の製造が可能な攪拌合成法を開発した。さらに世界で初めて攪拌凝固技術をチタンアルミナイド系金属間化合物とその複合材料に適用して、ミクロ組織の超微細化と材料特性の飛躍的な向上を達成した。以上のほか攪拌凝固工程の後工程の改革にも取り組み、攪拌した半凝固スラリーを双ロールに流下させ、直接的に高性能な薄板を製造する新しい連続鋳造の基礎研究を実施し、従来不可能とされた平均粒径7μmの結晶粒組織を持つアルミニウム合金薄板を製造することに成功している。また表面改質技術では、材料の目的に応じた結晶構造や表面物性の付与を目指して耐環境性被膜材料設計とトライボロジー用被膜材料設計の概念とその製造方法の研究を行ってきた。
1.2.1 合金設計技術1)、2)
合金の効果を定量的に評価する方法としてd電子合金設計法がある。この方法は、合金元素のまわりの局所的な電子状態をDv-Xαクラスター法を用いて 計算する分子軌道計算法で、広く用いられてきている。
合金元素Mと 第一および第二近接位置にある母金属からなる体心立方格子(bcc)と最密六方格子(hcp)などのクラスター模型を用い、中心の合金元素をいろいろ変えて,その電子状態を一定条件の下で計算し、Mが母金属中で示す合金効果を表す合金パラメータを求める。これにより、母金属の原子軌道と合金元素Mの原子軌道の重なりの程度、つまり原子間の結合力の強さを表す結合次数(Bo)とd軌道のエネルギーレベル(Md)の二つの合金パラメータが求まる。これらの結合次数Boとd軌道のエネルギーレベルMdを用いて、耐食性に優れた生体用新Ti合金を開発した。
多元系Ti合金においては、組成平均をとり結合次数Boとd軌道エネルギー準位Mdを算出した。5%硫酸、5%塩酸および擬似体液中での耐食性は、結合次数Boの増加とともに増加する。Md-Boを用いた新Ti合金の耐食性の比較を図2・1・1に示す。これによると、結合次数(Bo)の大きいTi-15%Zr-4%Nb-4%Ta-0.2%PdTi-Zr系合金の生体内での耐食性は高い。さらに、高延性で高強度および疲労強度の高い熱処理法を見い出している。
今後、金属間化合物、ナノ結晶特性に及ぼす合金元素の効果の解明を目指す。

図2.1.1 Md-Boによる耐食性の比較
1.2.2 加工熱処理技術3)、4)
いかにして材料の内部組織に大きな不安定化(非平衡化)をもたらすかが、加工熱処理の原点であり、この不安定量を利用して加工と熱処理を同時に行うのが加工熱処理である。またこの組織の不安定な性質をそのまま利用しようとするのが防振合金、いわゆる内部摩擦の問題となる。内部摩擦とは、極論すれば材料の組織が不安定(非平衡)な状態にされたため生じる現象であり、防振合金はこの不安定量(非平衡量)が異常に大きい合金のことをいう。不安定とは内部が欠陥だらけということではない。これは根本的に誤りである。真密度に焼結された金属とポーラスな金属の減衰能を比較したとき、決して後者が優れているとは限らない。
微細な結晶粒は時間および温度に対して、いつかは熱力学的に安定な粒径になろうとする。したがって、結晶粒の初期状態は組織、特に粒界の不安定(非平衡)領域であるといえよう。この粒界での非平衡の度合いは、内部摩擦試験によって求めることが可能である。例えば、Ni基超耐熱合金では、高温で上記非平衡の度合いに対応した大きなピークを有する。しかし、このピークは時間に対して減少(リラクゼーション)し、定常状態、すなわち高温バックグラウンドのレベルに達しようとする。したがって、この非平衡状態が平衡状態になろうとする緩和速度に外部から与えるひずみ速度をうまくバランスさせてやれば、材料は延々と変形することになる。これが超塑性で、結晶粒の初期状態が安定(平衡)領域であるクリープとは根本的にその挙動は異なる。この非平衡の度合いは、破壊試験ではひずみ速度感受性指数、m値となって現れ、非破壊試験では先に述べたように、大きな内部摩擦となって現れる。したがって、全伸びとは破壊試験ではm値の時間での積分値、非破壊試験では内部摩擦(ただし、高温バックグラウンドは差し引く)の時間での積分値ということになる。
前述のように、組織に非平衡をもたらすと大きな伸びが得られるが、一般にこの非平衡は、例えばα相とβ相の2相組織によって達成されることが多い。そして、これらの2相が粒界すべりを生じることによって超塑性は発現する。したがって、ここに、「上記2相のどのような挙動によって超塑性が発現するのか」という大きな疑問が生じる。すなわち、「粒界すべりに対し、@α相とα相でのすべり、Aα相とβ相でのすべり、Bβ相とβ相でのすべり、のいずれが寄与しているのか、またこれらのすべりは転位型なのか、あるいは拡散型なのか」という問題である。
最も代表的な超塑性材料であるZn-22%Al合金(以下SPZと略記する)は、Al−richなα相 および
Zn−richなβ相の2相から成る。 内部摩擦の温度スペクトルには、図2・1・2に示すように、
Peakα、PeakαβおよびPeakβの3つのピークが存在する。ここで、ピークシフト法から求められたこれらのピークの活性化エネルギーとAlおよびZnの粒内または粒界拡散に要する活性化エネルギーを比較して、次のように結論した。「低温度域におけるPeakαは、α相とα相の粒界すべりに、中温度域におけるPeakαβは、α相とβ相の粒界すべりに、また高温度域におけるPeakβは、β相とβ相の粒界すべりにそれぞれ起因する。そして、これらの粒界すべりはいずれも粒界での拡散(転位ではない)によって支配される。」
上述した SPZにおけるPeakα、PeakαβおよびPeakβの 3つのピークはすべて領域Uで生じたものである。そのため、領域U’における変形機構が問題となる。内部摩擦試験によると、Ni基超耐
熱合金では、領域U’で再結晶に対応したPeakαが、領域Uで粒界拡散に対応したPeakβがそれぞれ確認されている。したがって、この領域U’におけるPeakαは転位運動が寄与した結果生じたも
のである。すなわち領域U’では動的再結晶が変形を支配しているものと結論できる。しかし、この動的再結晶が結晶粒内全域で生じたのか、Mantle内に限られたものであるのか、については定かではない。

図2.1.2 SPZ合金の内部摩擦と共振周波数の温度依存性
1.2・3 攪拌凝固技術5)−7)
金属・合金の素材を溶解後、その凝固中に機械的な回転攪拌を加えて、金属元素の局部的な偏析を除去し、均質性の高い金属材料を製造する方法は、レオキャスト法として知られている。当所では、さらに均質性の高い金属材料を創製するために、高速攪拌凝固方式を独自に開発し、それをチタンアルミナイド系金属間化合物を適用して、常温延性と高温強度を改善した。特にTi-44%Al合金攪拌凝固材は常温伸び3.3%で、900と1000℃において 40体積%SiCで繊維強化したTi-14%Al-21%Nb合金複合材料に迫る比強度を示す特筆すべき結果を得た(図2・1・3)。 さらに、Ti-44at%Al-10vol%ZrC合金の攪拌凝固材では、常温伸びが4%、1100℃での引張強度が280MPaを得た。攪拌凝固で達成される結晶粒微細化の限界をブレークスルーするために、粉末冶金法と同等の均質微細なミクロ組織を出現させる手法として、高速回転攪拌作用により真空溶解した合金を飛散させて液滴化し、かつ液滴化による急冷により生成した微細結晶を破砕して、この飛散し粉末化した半凝固状の合金を塊状集合体として鋳型内に回収、凝固させる攪拌合成法を考案し、毎分1万回転の速度で攪拌合成した金属間化合物CuAl合金及び過共晶Al-Si合金で 大幅な組織の微細化が可能なことを実証した。上述の金属・合金の凝固過程で機械的な回転攪拌を加えて結晶粒を微細化し、そのまま容器中で凝固させるバッチ式攪拌凝固では、一般の金属材料の結晶粒微細化に限界がある。そこで、材料製造費の大幅削減と一層の均質微細化を目指して、連続的に均質微細な結晶粒を持つ高延性な薄板を直接的に製造するための技術開発を実施し、従来不可能とされた平均粒径7μmの結晶粒組織を持つアルミニウム合金薄板を製造することに成功し、室温で高強度および高温で高延性を確認した。

図2.1.3 Ti-44at%Al合金攪拌凝固材と競合材料の比強度
1.2.4 表面改質技術8)−10)
材料の目的に応じた結晶構造や表面物性を付与するための設計・製造技術の中で耐環境性被膜材料設計とトライボロジー用被膜材料設計の概念とその製造方法の研究を行ってきた。C/Cコンポジットを酸化雰囲気で使用するために、耐環境性被膜の設計をした。
次に、C/Cコンポジット上をレーザでスキャンし、昇華温度近傍まで加熱し、C/Cコンポジットのグラファイトをアモルファスカーボンの変えることにより、C/Cコンポジット上への耐環境性被膜の製造実験を行った。この操作はグラファイトよりアモルファスカーボンの方が被膜材料との反応性が大きいため、密着性を大きくするためである。被膜形成にはレーザ・プラズマハイブリット溶射を用いた。密着性機能被膜は被膜材料の融点近傍の温度で溶射して作製した。他の機能被膜はプラズマ溶射のみでも作製可能である。自己犠牲型酸化被膜のポアを少なくするために、超微粒子を用いたレーザアシストガスデポジションを併用した。また、各被膜の間は傾斜組成にすることも試みた。
トライボロジー材料の設計は従来から使用されている摺動面材料を組成、結晶構造等を再検討し、それらの材料と同様な以下のものを設計した。
- 摩擦応力緩和型材料(鋳鉄型材料)
摩擦により材料表面近傍は組成変形を受け、残留応力の蓄積や転位のパイルアップが起こる。さらに摩擦を繰り返せば破壊が起こり、摩擦が発生する。これを防止するためには、材料が変形し易いことや変態等により残留応力・転位が消滅することが必要と考えた。これが代表的摺動面材料である。トリバロイやトライステルをレーザ・プラズマハイブリッド溶射により作製し、その摩擦評価から材料の最適な結晶構造を見出した。被膜材料のX線回折ピークがブロードなものほど同一元素組成では耐摩耗性が大きいことが判明した。図2・1・4に溶射形態と摩擦摩耗性の結果を示した。
- 潤滑油高吸着性材料(バビットメタル、ホワイトメタル型)
代表的な滑り軸受け材料として従来からバビットメタルが使用されてきている。この基本的元素組成はSn90%、Cu5%、Sb5%である。この材料は酸素の存在する雰囲気で摩擦するとITO(InとSnの複酸化物)タイプの酸化物を形成する。この酸化物は透明導電体として使用される材料であり、純金属と同等な電気抵抗を持っている。電気抵抗の低い材料は潤滑油が吸着した場合、吸着力が大きく、また表面が電気的にチャージアップし難いため、単位面積当たりの潤滑油分子の吸着量が大きい。従って、潤滑性が良好な材料といえる。そこで、同様な複酸化物を形成すると考えられる組成の材料の中からMo-CuとW-Cuを選択し溶射により被膜作製を行った。この元素の組み合わせは室温では固溶や金属間化合物を生成しないといわれており、NaxWO3 に代表される低電気抵抗のセラミックスであるブロンズを生成すると考えられる。摩擦試験の結果は期待通りであった。

図2.1.4 溶射条件と摩擦摩耗特性
参考文献
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- Y. Torisaka, Superplasticity and Internal Friction of Nickel-base Superalloy,
Acta metall., 39-5(1991), 937〜946
- Y. Torisaka and S. Kojima, Superplasticity and Internal Friction of a Superplastic
Zn-22% Al Eutectoid Alloy, Acta metall., 39-5(1991), 947〜954.
- 市川,木下,攪拌凝固による金属間化合物TiAl合金の結晶粒微細化と機械的性質の改善,日本金属学会誌,59-5(1995),571〜577
- K.Ichikawa and M.Achikita, Effect of Heat Treatment on Mechanical and Electrical
Properties of Compocast Dispersion-Strengthened Coppers, Materials Transactions,
JIM,35-11(1994),833〜840
- K.Ichikawa and Y.Kinoshita, Microstructural Control of Intermetallic CuAl-based and Hypereutectic Al-Si Alloys by Stirring Synthesis Method, Materials Transactions, JIM,34-5(1993),467〜473
- H.Shimura : 10th Tsukuba General Symposium 2nd-3rd Oct 1990
- 志村 他:トライボロジスト、Vol.37, No.7 (1992) 37
- 川上 他:トライボロジー会議、May 1992 505
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1.3 特性評価技術1)−3)
航空・宇宙およびエネルギー分野における先進材料の研究開発はここ十数年来ますます盛んとなり、且つ多岐に渡っており、材料の多機能化と耐極限環境性を目指して新金属から複合材料系に至る先進構造材料の研究開発が積極的に進められてきた。特に、超耐熱性および熱防御性に優れる軽量高強度材料は次世代航空・宇宙、エネルギーの開発計画を左右するものとして、最も重要な材料として位置付けられる(図2.1.5)。

図2.1.5 次世代航空・宇宙、エネルギ−用先進構造材料の耐用温度
先進材料であるが故に研究開発課題も多く、新たな用途の探索・拡大を目指す観点から、(1)潜在ニーズの発掘、(2)低コストプロセス技術の研究開発、(3)材料(設計)/評価技術の標準化、(4)先進材料を活かす機器・構造体の設計技術の開発、および(5)研究開発フォーメーション、等々が挙げられる。(3)、(4)に関連して特性評価技術の果たす役割は非常に大きく、特に、研究開発の本格化とその成熟度の増大に伴い、構造健全性を確保する観点から損傷許容性の評価研究は最も重要な研究課題としてクローズアップされる。
ここでは、損傷許容性の評価研究として超高温材料評価技術、構造健全性の評価研究として強磁場・極低温材料評価技術およびミクロレベルからの材料特性評価研究として原子・分子モデルにもとづく材料挙動解析の研究成果について紹介する。このほか詳細は割愛するが、形状記憶高分子材料、高分子圧電素子による除振型荷重センサ、赤外線による内部探傷、複合材料の疲労に対する欠陥発生と熱的変化などの研究も行っている。
特性評価技術分野の将来展望として、先進材料から知的材料/構造システムへとのキャッチフレーズのもと、き裂の発生・進展など不具合が発生すれば自分で知らせ[自己検知]、判断し[自己診断]、それを自分で直し[自己修復]、あるいは外部環境に合わせて変形し[形状可変]、振動や騒音を小さくする[制振、騒音制御]などの機能を有する機械・構造の開発を目指した、機械・構造システムの設計思想や構造健全性の確保概念に一大革新をもたらす知的構造システムの研究開発を中核国立研究所として積極的に展開している。
1.3.1 超高温材料評価技術−損傷許容性の評価研究4)−12)
- 強化繊維の橋渡し現象と金属間化合物基複合材料
ウィスカ−および連続繊維強化金属基複合材料(MMCs)について、強度と靭性、強度と耐久性の二つを両立させる材料設計の指針を得ることを最終目的とした破壊力学特性の評価研究に引き続き、MMCsの更なる耐熱性の向上を目指した金属間化合物をマトリックスとする複合材料(IMCs)について、簡便な破壊靭性試験方法を提案するとともに、耐熱チタン合金をマトリックスとするMMCsとの比較において破壊靭性を評価した。連続繊維強化により破壊靭性が2〜4倍程度に向上すること、強化繊維の橋渡しに起因する安定破壊が介在し顕著な試験片寸法依存性が存在する。Fiber Pressure Model に基づき安定破壊過程のシミュレーション解析を行い、マトリックスの破壊靭性から複合材料の破壊靭性が解析的に予測できることを明らかにした。また、疲労き裂進展挙動にも強化繊維の橋渡しに起因したき裂進展の停留現象が存在することを実験的に明らかにするとともに、同モデルに基ずくき裂先端の応力拡大係数の解析から疲労き裂進展抵抗を定量的に評価した。
- 延性金属相高靭化メカニズムと傾斜機能材料
耐熱・高強度材料であるセラミックスを一次構造部材へ適用する場合、損傷許容性を確保する観点から破壊靭性の向上は必要不可欠である。これまでにセラミックスについて種々の高靭化メカニズムが提案されているが、構造用セラミックスについて必ずしも実用化レベルの高靭性化には成功していない。図2・1・6に模式的に示すき裂先端塑性鈍化に起因した延性金属相高靭化メカニズムの概念とそれに基づくセラミックスの高靭性化設計法を提案し、傾斜機能材料(Functionally Gradient Materials)への本材料設計法の適用可能性を明らかにした。延性金属相高靭化メカニズムはセラミックス/金属系FGMsの高靭化メカニズムとしても有効であり、金属との傾斜組成化によりセラミックスの破壊靭性を大幅に向上させることが可能である。また、FGMsの破壊靭性は組成比一定のNonFGMsの結果から精度よく推定することもできる。さらに、本高靭化メカニズムは他の延性金属相強化複合材料全般に適用し得る一般的な材料設計の概念であることも検証した。

図2.1.6 セラミックスの延性金属相高靱化メカニズムの概念図
- 超高温破壊強度の逆温度依存性と先進C/C複合材料
先進C/C複合材料の実用化を図る観点から損傷許容性評価の重要性が認識されつつあり、巨視的ならびに微視的破壊メカニズムの解明を通してその知見に立脚した評価研究が望まれる。特に、破壊力学のみならず損傷力学やマイクロメカニックスによる実環境を含む超高温環境下の破壊強度特性および損傷許容性の評価基準を明確にすることは、超耐環境先進材料の材料設計指針の確立や斬新プロセス技術を開発するために必要不可欠である。超高温材料試験評価技術の研究開発に始まり、その共通・標準化を推進するとともに先進C/C複合材料を対象として超高温破壊強度特性および耐久性(特に、疲労強度)を評価した。試験温度に伴い引張強度が上昇する、強度の逆温度依存性が存在することおよび試験温度とともに強度が向上することは破壊靭性の向上をもたらすことも明らかにした。
- 試験評価技術の研究開発とその標準化
金属系複合材料の研究成果に基づき、金属系新素材試験・評価方法標準化調査研究およびJIS原案作成委員会等において中心的役割を果たし、MMCsの試験・評価方法について合計9つのJIS規格を制定した。また、超耐環境性先進材料プロジェクトにおいて材料開発平行型の標準化を積極的に推進し、世界に先駆けて、図2・1・7に概観図を示す超高温材料試験装置を開発・整備するとともに1300℃以上の超高温域における材料試験評価技術の研究開発し、プロジェクト内において研究開発された試験評価技術も加味してこれまでに合計10の試験法を共通化し、RIMCOF規格として制定した。これらの試験評価技術は超高温材料研究センター等国内の研究機関へも技術移転がなされた。

図2.1.7 超高温材料試験評価装置の概観図
1.3.2 極低温材料評価技術−構造健全性の評価研究
近年、超電導応用技術への関心は急速に高まりつつあり、電力、情報、医療、輸送といった種々の分野での実用化が期待されている。電力分野の応用に限っても、超電導応用技術により高効率化、小型化、大容量化が可能であり、発電機、電力輸送、電力貯蔵(SEMES)などへの応用が考えられている。これらの機器・構造体の要求性能、要求特性が具体的に明らかにされるにしたがい、その設計基準の策定が大きな課題となってきている。
ニューサンシャイン計画「超電導電力応用技術研究開発」に関連して、極低温下で回転子構造体等が高磁界、高トルクを受けるときに生じる構造上の問題点を明らかにし、最適構造設計、破壊防止設計に有効な指針の策定を進めてた。また、超電導応用電力機器の長期的な安全性・信頼性を確保する構造健全性評価システムの確立を目標に研究開発を行った
- 強磁場・極低温下における破壊力学特性評価
超電導応用電力機器用構造材料の破壊力学特性の評価を行うため、強磁場・極低温構造材料信頼性評価装置の開発・整備を行った。図2・1・8に示すようにミニ・コンピュータ制御方式の材料試験装置、クライオスタット、スプリット型超電導マグネット等より構成される。室温から極低温(4K)、強磁場・極低温(6T、4K)において各種の破壊力学材料試験を行うことができる。超電導マグネットの取り付け方向を変化させることにより磁場印加方向を容易に変化することができるところに最大の特徴がある。
超電導応用電力機器用構造材料である鉄基超合金A286鋼の弾塑性破壊靭性の評価を行った。極低温(4K)の場合は、ミクロボイドの連結による局所的な不安定破壊に起因するポップ・イン挙動に対応した不連続なき裂進展が観察された。このポップ・イン挙動の影響を削除することにより弾塑性破壊靭性値を算出することが可能であること、また、極低温においても破壊靭性の低下が認められないことを明らかにし、A286鋼が超電導応用電力機器用構造材料に望ましい弾塑性破壊抵抗を有することを明らかした。
オーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lの極低温下および強磁場・極低温下の疲労き裂進展特性の評価研究によれば、試験温度の低下とともに疲労き裂進展抵抗が増大することおよび磁場印加により疲労き裂進展抵抗が増大することを明らかにした。さらに、き裂開閉口の測定及びマルテンサイトの体積含有率の測定を行うことにより、極低温下および強磁場・極低温下ではマルテンサイト変態が顕著に起こり、その結果として生じる変態誘起き裂閉口現象により疲労き裂進展抵抗が増大するということを示した。

図2.1.8 強磁場・極低温構造材料信頼性評価装置の概観図
- SQUIDによる非破壊損傷解析
超高感度の磁気センサーであるSQUID(超電導量子干渉素子)を用いた新たな非破壊損傷解析技術を研究開発した。簡易データ・解析手法として隣接する2測定点間のSQUID出力の差を求める隣接点差分解析法および欠陥や損傷を含まないリフファレンスデータを減算するリファレンスデータ減算解析法を提案し、オーステナイト系ステンレス鋼の人工欠陥や疲労損傷の検出評価への適用が可能であることを示した。
1.3.3 原子・分子モデルにもとづく材料挙動解析
近年、計算機能力の向上に伴いバンド計算、分子軌道法(Molecular Orbital method, MO)等による原子・分子間相互作用の決定や分子動力学法(Molecular Dynamics, MD)、モンテカルロ法(MonteCarlo, MC)による 106個程度の原子集団の力学を数値的に解く事が可能となり、原子・分子モデルにもとづく材料挙動の解析が研究の対象となった。この中で MD は、原子・分子間相互作用が与えられているとき、それらの集団としての挙動を非平衡、非定常現象を含めてシミュレート出来ることが特徴である。MD による物質の統計熱力学的性質の研究は 1950 年代から行われてきたが、材料の変形破壊挙動の解析は 1970 年代になってから活発に試みられている。
原子・分子モデルにもとづいて巨視系の挙動、特に熱力学的非平衡挙動を説明する場合、計算機で扱えるスケールと日常的スケールに依然として大きな隔たりがある。この点を無視すれば、106 個程度以下の原子を配置する事によってき裂、粒界などの興味深い構造を作っておき、これをシミュレートする事が可能であり、定性的には巨視系の実験事実と良く合う結果が得られているが、定量的には良い結果が得られていない。考えられる問題点としては、(1)基礎となる原子間相互作用(ポテンシャル)がどの程度正しいか、(2)シミュレートした系の物理量は単純にはるかに大きい系の実験結果と比較してよいか、(3)現実の材料にほとんど常に内在する欠陥(しばしば材料挙動を支配するが、シミュレーションでは考慮されないことが多い)の影響をどのように取り込むかが挙げられ、研究課題となっている。本研究では(2)及び(3)の観点に立った基礎的研究を行ってきた。
MD シミュレーションの結果を実用的な空間/時間サイズまで外挿可能とするための理論的解析を行い、破壊過程を活性化過程と見ることによって、破壊条件を空間/時間サイズ及び温度の関数として定式化した。これによって時間・空間的に小さなスケールでしか行えないシミュレーション結果を、巨視的実験事実と対応させる事が可能となった。例えば、完全結晶系のような一様な系の破壊時の歪みは、系の空間的サイズ L が極端に変化する時、ほぼ ln ln L の弱い依存性を示す事が分かった。簡単なモデル系を用いて行われた MD シミュレーションは、この破壊条件と良好な一致を見た(図2.1.9)。
一方、材料に内在する欠陥と破壊条件との相関を得るため、ランダムに分布する原子空孔を有する2次元結晶の破壊のMDシミュレーションも行われている。欠陥近傍での原子配列の乱れを無視する簡単なモデルにもとづいて応力−歪関係(理論値)が計算出来るが、これと低応力、低欠陥密度領域でのシミュレーション結果は良く一致する。また、多数のシミュレーションの破壊応力をワイブル分布にもとづいて解析することによって、ランダムな欠陥を含む巨視的材料の破壊条件を、小さなスケールのシミュレーション結果から推定する方法が提案された。

図2.1.9 完全結晶に対するサイズ対破断歪の関係
参考文献
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1.4 トライボロジー
トライボロジーに関する研究が本格的に行われはじめてから、すでに50年以上が経過するが、未だにその詳細が不明のトライボロジー現象が多く残されている。また、技術の進展に伴い、トライボロジーに関連して解決を求められる諸問題が次々と出現している。このような背景の下に、機械技術研究所のトライボロジー分野においては、トライボロジーの基礎的現象と、従来の技術では解決が困難な極限環境下でのトライボロジー問題を中心的課題として研究を進めてきた。以下にその概要を述べる。
1.4.1 トライボケミストリー1)−3)
- 摩擦電磁気現象
摩擦による機械的なエネルギーにより誘起されるトライボケミカル反応は、耐摩耗性皮膜の構成や潤滑油の劣化を生じるため、この反応機構の究明は、トライボロジー分野における最も重要な課題の一つである。この活性化機構の一つに、固体の破壊面や摩耗面などから自然に放出される(エキソ)電子が挙げられてきたが、測定装置の開発の遅れによりこの現象の解明は進まなかった。そこで、経常研究「エキソ電子放射と摩擦化学反応素過程の研究」(昭和62年度ー昭和63年度)、経常研究「エキソ電子放射現象とケイ素化合物のトライボケミストリーの研究」(昭和63年度ー平成2年度)、経常研究「マイクロトライボロジーに関する研究」(平成3年度ー平成5年度)において、真空中、大気中、各種ガス中、さらには油中でも計測可能な、負の荷電粒子(電子、負イオン)、正の荷電粒子(正イオン)、フォトンのトライボエミッション測定装置を(株)コムテックと共同で開発し、各種環境中でのトライボエミッションの計測に初めて成功した。これにより、トライボエミッション現象が固体の電気伝導性に大きく依存し、放出強度が、伝導体<半導体<絶縁体の順に急速に増大すること、金属からの電子放射が、摩耗新生面と周囲分子との化学的相互作用による反応生成熱を得て行われること、伝導体や半導体からのトライボエミッションが周囲分子の放電によって起こること、乾燥摩擦下と境界潤滑下でのトライボエミッションが類似の機構で発生することを明らかにした。
特別研究(境際研究)「固体の機械的活性化とメカノケミカル反応に関する研究」(平成6年ー平成8年)、科学振興調整費重点基礎研究「トライボケミストリーの解析に関する研究」(平成6年ー平成8年)、先導基礎国際共同研究「固体におけるエレクトロマグネティズム現象を応用した超先進マテリアルの開発に関する研究」(平成8年度)において、トライボエミッションと摩擦帯電の同時計測システムを構築し、摩擦帯電、マイクロプラズマの発生、トライボエミッションの三者は互いに密接に関係していることを示した。これを摩擦電磁気(Triboelectromagnetism)現象と総称することを国際会議で提案し、世界的に認められることとなった。参考のために、摩擦電磁気現象の概念図を図2・1・10に示す。さらに、この摩擦電磁気現象と炭化水素分子の分解劣化との間の相関を見出し、潤滑油分子のトライボケミカル分解が、摩擦電磁気現象により引き起こされることを示した。また、コンピュータ磁気記録装置におけるヘッドと磁気ディスク界面をシミュレートした実験より、コンピュータの起動、停止時にはヘッド/磁気ディスク接触面近傍にマイクロプラズマが発生することを明らかにした。

図2.1.10 摩擦電磁気現象の概念図
- 金属面の油潤滑
潤滑油分子の固体表面近傍における原子、分子の次元における化学的挙動には不明な点が多い。そこで、経常研究「合成潤滑油と摩擦面との相互作用に関する研究」(昭和60年度−昭和63年度)において、摩擦により表面に生成する酸化物などの性質が、潤滑油との相互作用にどのような影響を及ぼすかについて調べた。その結果、導電性酸化物を生成すると考えられる組成の材質に潤滑油が極めて良好に作用することが分かった。また、経常研究「エキソ電子放射現象と摩擦化学反応素過程の研究」(昭和62年度ー昭和63年度)において、芳香族系潤滑剤についてトライボケミカル反応の素過程と潤滑性能の関係を調べた。その結果、反応はラジカル、ラジカルアニオン、パーオキサイド等の反応中間体を経て進行し、フリクション・ポリマーを生成することにより潤滑性能が向上することが明らかとなった。
- セラミックスの水潤滑
水は、不燃性で冷却性がよく、かつ低粘度であるため、水潤滑できる摺動材料の選定や潤滑システムの設計ができれば、省資源、省エネルギーが図られるだけでなく、防災上の対策を必要とする機器への応用、冷却設備を必要とした潤滑システムの簡素化、高速回転への適用が可能になる。そこで、経常研究「機能性ケイ素化合物のトライボケミストリーの研究」(昭和63年度−平成2年度)、経常研究「エキソ電子放射現象とケイ素化合物のトライボケミストリーの研究」(平成元年度ー平成3年度)において、窒化ケイ素の水潤滑性能を向上させるため、アルコールやアミノ基を有するシランカップリング剤を取り上げ、その摩擦、摩耗特性を調べた。その結果、アルコールの分子構造に摩擦摩耗が大きく影響を受けるとともに、シランカップリング剤が窒化ケイ素の水潤滑性能を顕著に改善することが分かった。また、その潤滑機構をシランカップリング剤の脱水縮合反応によるポリシロキサン膜の形成によるものとして解析した。
一方、炭化ケイ素は、寸法安定性がよく高比強度であるが、硬くて脆いため、直接ダイヤモンド刃で切削できない。そこで、大型工業技術研究開発「ビーム援用ハイブリッド加工技術の研究」(昭和62年度−平成5年度)で、エキシマレーザーを援用したケミカルマシイニングという新しい概念に基づく加工法を提案した。すなわち、エキシマレーザー光によるSiCの直接分子切断により酸化及び水和反応を促進し、それによりできた軟らかい層をダイヤモンドで機械的に除去することによって、加工効率を著しく高めることができた。
1.4.2 極限環境トライボロジー4)−7)
- 高温環境
近年、省エネルギー、省資源等の観点から、高温下で使用される機器が増加している。このような機器においては、高温下においても可動部が円滑に作動するための特殊な潤滑材料が必要である。そこで、大型工業技術研究開発「超音速輸送機用推進システム(高速高負荷タービン用機械要素の研究)」(平成1年度〜10年度)及び省エネルギー技術研究開発「超限界トライボマテリアルの研究開発」(平成6年度〜10年度)において、室温から1000℃を越える高温まで低摩擦摩耗を示すトライボマテリアルの研究が、酸化物系セラミックスに的を絞って行われてきた。その結果、まず最初に室温から1000℃の広い温度範囲に渡り0.15〜0.35の低い摩擦係数を示す材料として、Na2CrO3とCr2O3の混合物が見出された。しかしながら、この材料は、潮解性がある、730℃付近から融解する等の欠点があり、さらに腐食性のあるNaを含むというも問題点も有していた。そこで、これとは別の固体潤滑剤として、Ca系やBa系のセラミックスとCr2O3との混合物の特性が精力的に調べられた。これまでの研究で得られたトライボマテリアルにおいて、優れた性質を示すBaOとCr2O3との混合物の摩擦特性を図2・1・11に示す。室温付近で摩擦はやや高いが、1000℃までほぼ安定した低摩擦が得られている。
また、省エネルギー技術研究開発「セラミックガスタービンの研究開発」(平成1年度〜9年度)において、当該タービン用再生器の高温シール用材料の研究も行われてきた。この研究では、セラミックス等の下地の上にCrC系等の固体潤滑剤を、レーザー援用プラズマ溶射法により付着させる手法が試みられ、その手法の有用性が示されている。

図2.1.11 Al2O3基盤上にコ−テイングした・・・・・・・と温度との関係
- 代替フロン環境
オゾン層保護の観点から、冷媒や洗浄剤として多く用いられてきた塩素含有フロンの使用が規制され、それらに代わるフロンを使用せざるを得なくなったが、そのことによるトライボロジー上の対処が大きな問題となった。このような背景の下に、特別研究「極限環境のトライボロジーに関する研究」(昭和63年度〜平成4年度)、科学技術振興調整費重点基礎研究「代替フロンの摺動面における環境効果の研究」(平成4年度)、経常研究「マイクロトライボロジに関する研究」(平成5年度)、「超先進トライボシステムの研究」(平成6年度〜7年度)において、代替フロン環境下での金属の摩擦摩耗、潤滑油の挙動、転がり疲労等の研究が行われてきた。その結果として、代替フロン中でも摺動面にフッ化物が生成されること、フロン中の不純物である酸素や水蒸気が摺動特性に影響を及ぼすこと、フロンが溶解した潤滑油中でも転がり疲労寿命と油膜パラメータとの関係は潤滑油単体の場合と同じであること等が明らかになった。さらに、フロンが溶解した潤滑油の油膜厚さを自動的に測定できる装置を新たに開発し、それを用いることによりフロン環境下での各種潤滑油の油膜形成能力が明らかになった。
また、省エネルギー技術研究開発「スーパーヒートポンプ・エネルギー集積システムの研究」(昭和59年度〜平成4年度)において、代替フロンや代替熱媒体としての高温水蒸気環境下での高分子材料の研究が行われた。その結果、PTFE複合材料やナイロン等の高分子材料は、代替フロン環境中でも摺動材料として使用可能なこと、PTFEは高温水蒸気中でも固体潤滑剤として十分能力を発揮すること等が明らかになった。
- その他の極限環境
半導体製造装置等、超清浄環境で動作する機器が増加している。このような環境で使用される機器の可動部には、潤滑剤がなくても摩擦摩耗が小さいトライボマテリアルが必要である。この要求を満たすトライボマテリアルとして、国際産業技術研究事業「表面加工・改質技術の研究」(平成4年度〜7年度)においてダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜が取り上げられ、そのトライボロジー特性が詳しく調べられた。その結果、DLC膜は適切な使用条件の下では、摩擦係数は0.05以下、比摩耗量は1×10-8mm3/N・m程度という非常に優れた値を示すこと等が明らかとなった。
原子炉関連の機器に使用されるトライボロジー部品においても、放射線場のような極限環境で問題なく使用できるトライボマテリアルが必要である。原子力平和利用技術「原子力用耐久部材の硬度加工・評価技術の研究」(昭和63年〜平成4年度)において、耐放射線潤滑油中での各種表面処理材の摩擦摩耗挙動や、水中でのセラミックスの摩擦摩耗挙動等を調べる研究を行った。その結果、Cr2O3焼成処理や(Zr+B4C+SiC)複合セラミックスが優れた特性を持つこと等が明らかになった。
1.4.3 ジオトライボロジー8)−10)
脆性固体に限界を越える応力が負荷されすべり破壊を起こすとき、荷電粒子や光、電磁波放射など電磁気的現象が過渡的に発生することが実験室的に知られている。一方、地球規模のすべり破壊である地震においても、古くから発光現象などさまざまな電磁気効果によるものと思われる異常現象が観察されている。これらは、実験室で経験される過渡電磁気現象との関わりが深いと予測されるが、発生機構の原因究明は不十分なままであった。しかもこの現象は地震予知にも関連する可能性が高い。
この研究は、実験室での硬さ試験機を利用した脆性結晶の押し込み破壊に伴う荷電粒子放射を、大気中でその場計測する技術を開発したことが端緒となったものである。すなわち、1990年にNature誌に発表した岩石の押し込み破壊に伴う荷電粒子放射計測の研究において、従来真空や特殊な雰囲気ガス中でしか測定できなかった荷電粒子放射計測を世界で初めて大気中で行い、さらに湿度効果や温度効果の影響を明らかにすることができた。
その後、科学技術庁省際基礎研究「地殻破壊の前兆現象としての電磁放射の特性に関する研究」(平成2年度〜4年度)、産業技術融合領域研究所境際研究FSテーマ「破壊プロセスにおける原子分子素過程と破壊前駆現象に関する研究」(平成5年度〜7年度)において、実験室レベルで発生機構を追求するとともに、その成果による作業仮説に基づいて、(株)コムテックと共同してフィールドでの観測を平成4年から開始した。すなわち、機械技術研究所構内で60m級の鉛直2電極間の地電流観測を始めた。研究費も十分でない時期であったので、研究所の廃車をシールドルーム代わりとして、その中に地電流の観測機器を配置したものであった。この観測において、地震の前兆信号であると思われる異常な信号が得られたので、さらに官民連帯共同研究「破壊誘起電流計測と地震予知などへの応用に関する研究」(平成6年度〜10年度)に発展した。この研究では、(株)日立製作所、東京ガス(株)、(株)NTT、(株)コムテックの各社が参加した。そして日立市大みか、茅ヶ崎、川崎市下麻生などに観測ステーションを設置し関東近辺の広域多点観測に乗り出した。
平成7年1月17日のM=7.2の兵庫県南部地震では、さまざまな電磁気異常現象が地震に伴って観測され、そして従来あまり省みられていなかった電磁気観測が地震予知法として注目された。この年の地震補正予算で、活断層調査の一環として関東・関西の広域の地電流ネットワーク観測が認められ、関東では立川、千葉、神奈川、静岡など7カ所、関西では大阪、神戸、和歌山など5カ所に観測ステーションが増えた。またその後、北海道で2カ所、広島で2カ所が追加され現在では図2.1.12に示すように20カ所近くの観測データが逐次機械研に送られてきている。なお平成8年度からは、中国工業技術研究所と三菱重工業(株)、(株)エースヘリコプターが官民共同研究に新たに加わった。また活断層調査により、淡路島の野島断層で地震発光の痕跡を発見し、地震電磁気現象に新たなモデルを提案するという成果も得た。
これまでに、M5クラスの地震前の異常観測データも着実に増してきているが、予知のためには、統計的な有意性を評価してゆかねばならない。また、他の電磁気観測との比較検討も、防災科学技術研究所や東海大学(理化学研究所)などと協力して解析を進めており、この現象を総合的に検証してゆく共同研究も進んでいる。

図2.1.12 地電流観測ステーションの観測点のマップ
参考文献
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