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鉱床の多くは鉱液と呼ばれる水溶液から有用鉱物が沈殿してできたものです.鉱液には 熱水という地下のマグマの作用によって生じたもの、地表の水や海水に起源を持つものな ど様々です.鉱床の種類やでき方によって鉱液に違いがあり、鉱液の起源を知ることは、 鉱床の成因を解く重要な手がかりとなります.鉱液の起源を調べる方法としては、鉱床を 構成する鉱物中のH,C,O,Sなどの元素の安定同位体の組成を調べる方法があります.
安定同位体組成は鉱液の起源だけではなく、鉱床生成時の温度など物理化学的条件の推 定にも役立ちます.このように同位体組成を用いて研究を行う地球化学の分野を同位体地 球化学と言いますが、実験鉱床課では他に先駆けてこの分野の研究を行ってきました.
鉱物や岩石の化学分析技術は日々大きな進歩を遂げています.それに伴って地質学や鉱 床学の分野においても、質の高い研究が可能になります.実験鉱床課では現在、地殻化学 部と協力して高感度・高分解能二次イオン質量分析装置(SIMS)による先端的研究に取り 組んでいます.これまでは分析出来なかったミクロンオーダーの鉱物の微小領域の高感度 化学分析や同位体分析がSIMSによってはじめて可能になり、鉱床生成プロセスが詳細に解 明できるものと期待されています.
さらに新たな高性能化学分析装置としてPIXEプローブ分析装置の開発計画を大学や民間 研究所と協力して進めています.この装置は加速器から放出された陽子を分析に用いた装 置です(PIXEはProton Induced Xray Emissionの略).微小領域の化学分析に加えて、従 来出来なかったガスや液体の分析や真空装置の外での大型サンプルの分析など多目的の分 析が可能な画期的装置で、研究の強力な手段となるものです.
逆に、今採掘されている鉱床を研究するものにとっては、初めにあったはずの地表の火 山や温泉がないので鉱床の生成をそれらと結び付けて研究することに困難が伴います.そ の困難の解決法のひとつは、現在活動している火山や温泉の中で、金や銀の鉱床生成の徴 候を示すものを探してそのメカニズムを研究すればよいのです.現在は過去を解く鍵とい うわけです.幸い近年日本各地から金属の生成を伴う火山や温泉が相次いで発見されまし た.
その中で代表的なものが青森県下北半島の恐山です.ここは死者の霊の集まる霊場とし て古くから知られている火山ですが、カルデラ湖や活発な熱水活動を反映する噴気、温泉 作用が見られます.ここから金の含有量が 400g/t を上回る温泉沈殿物が発見されました. まさに火山のマグマや熱水の作用が金鉱床を作っている場所があったのです.温泉作用に 伴って金が沈殿したものを温泉型金鉱床と言いますが、実験鉱床課の研究員による恐山の 温泉型金鉱床の発見以来、火山や温泉の鉱床生成の研究が盛んに行われるようになりました.
福島県奥会津地方の地熱地帯では、ボーリングが多数なされていて、現在地下で熱水が どのような状態にあるのか直接に観測できます.ここで、岩盤の割れ目に沈殿した鉱物や 熱水中の Cu,Pb,Zn,Mn など金属元素の挙動を調べ鉱床生成のメカニズムを研究しています.
火山はその活動の過程でマグマから火山ガスなどの揮発性物質を放出します.この揮発 性物質は、熱水の化学組成に大きな影響を与えると考えられます.マグマ中の揮発性成分 は、噴火の過程で地表に放出されてしまうので噴火以前のマグマの揮発性成分を調べるこ とは容易ではありません.しかし、メルトインクルージョンという火山岩の結晶中に取り 込まれた初期のマグマ物質、いわばマグマの化石とも言うべきものを分析することによっ てそれが可能になります.火山岩のメルトインクルージョンの研究によって、火山性熱水 鉱床の起源あるいは熱水そのものの発生メカニズムの解明にチャレンジしています.
実験鉱床課では上述の日本国内の活動的マグマー熱水系だけでなく、フィリピン、チリな ど環太平洋の各地域に生じている同様の現象も含めて研究を行っています.環太平洋活動帯 は金鉱床だけではなくポーフィリー型銅・モリブデンの鉱床地帯でもあり、両者は互いに関 係して存在しています.それらと火山ー熱水系の関係を総合的に示した最近の研究結果が右 図です.火山の地下ではマグマからの発散物と地表から浸透してくる水の影響により酸化的 酸性熱水(高硫黄タイプ)から還元的中性熱水(低硫黄タイプ)まで様々な水質ができ、そ の中で異なるタイプの鉱床が生成されます.日本からポーフィリー型銅鉱床が発見されても 決して不思議ではありません.

マグマ熱水系の概念図。地下浅所のマグマから発散されたマグマ性流体は、気液分離、母岩
との反応による中和、天水による希釈などのプロセスを経てその化学組成を変え、様々なス
タイルの熱水鉱床を作る。