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  特集 炭化水素鉱床と最近の研究成果(Part V)

北海道西方海域から得られた海底堆積物中の有機物組成と初期続成分解の地球化学的研究
柱状堆積物中のアルケノン組成による北部日本海の古海表面温度の復元
秋田県矢島地域新第三系堆積岩の各種結合態バイオマーカーの組成とその起源
東北日本新第三系石油根源岩の堆積と古海洋環境変動
特殊な炭化水素組成を持つ天然ガスの成因:バクテリアによる組成の変化
ガスクロマトグラフ燃焼質量分析計(GC/C/MS)による天然ガス成分の炭素同位体分析
重質炭化水素の炭素同位体分析のためのGC/C/MSの測定条件と性能
石炭の石油根源岩能力の評価−日本炭と諸外国炭との比較−
海洋ガスハイドレート資源の確率論的評価手法

北海道西方海域から得られた海底堆積物中の有機物組成と初期続成分解の地球化学的研究

寺島美南子(元所員,資源エネルギー地質部)・古宮正利(資源エネルギー地質部)・寺島滋(地殻化学部)・井内美郎(愛媛大学)・加藤喜久雄(名古屋大学)

1999

第50巻 第5/6号,307-319頁

6図

Keywords : Japan Sea, organic carbon, nitrogen, sulfur, n-alkane, n-fatty acid, n-alcohol, δ13C

[ 要 旨 ]
 北海道西方海域から採取された海底表層堆積物(以下表泥と言う)と3本の柱状堆積物(以下コアと言う)について全有機炭素,全窒素,全硫黄,δ13C,n-アルカン,n-脂肪酸,n-アルコール,n-ヒドロキシ酸等の集積と分解過程について研究を行った.  表泥中の有機物含有量は,奥尻海盆で多く松前海台上で少ない.また,底質の粒度が細かいところで多く,粗いところで少なく底質の粒度分布と調和的である.奥尻海盆では,C/N比が高く,n-アルカンのL/H比が低く,高分子アルカン含有量が多い,δ13C値が小さいことなどから陸源の高等植物が多く供給されたと推定される.n-アルカンとn-脂肪酸のL/H比とCPI値は非常にばらついたが,平均するとこれらの値はn-脂肪酸の方がn-アルカンより高い値を示した.両者の起源物質や保存の過程に違いがあるものと考えられる.  3本のコアの内コア1100と1217の全有機炭素と全硫黄含有量の鉛直分布には著しい変動が認められ,堆積環境が大きく変動したことが推察される.コア1101の全有機炭素と全窒素は余り変動していないが,全硫黄含有量の変動から堆積環境の変化が読み取れる.n-アルカンとn-脂肪酸の鉛直分布は,コアの深度が増加するに従って高分子優位性を示し,より続成作用が進んでいる事が判明した.しかし,このコアの最下部では再び低分子優位性となる.これは,上下層の全有機炭素と全硫黄含有量が高いことなどから低分子化合物が還元的環境で保存されたと考えられる.コア1101と1217のδ13Cは深度の増加に従って小さい値を示す.下部層ほど陸起源有機物の供給が多かったと推察される.

柱状堆積物中のアルケノン組成による北部日本海の古海表面温度の復元

古宮正利 (資源エネルギー地質部)

1999

第50巻 第5/6号,321-327頁

4図

Keywords: alkenone, paleotemperature, Japan Sea, sediment

[ 要 旨 ]
 北海道西方沖の日本海で採取された柱状堆積物試料について,その中に含まれる長鎖アルケノンの分析を行い,古海表面温度(古水温)変遷の復元を試みた.各柱状堆積物試料の最頂部に近い試料の海表面温度推定値は,現在の海表面温度の実測値と矛盾しない結果を与えた.松前海台北側斜面で採取された試料の古水温推定値は最終氷期最盛期において比較的高く,その後氷期終焉にかけて低下した後,再び上昇して現在に至っていた.この古水温変動パターンは,より南部の日本海堆積物の研究による結果と全般的に一致した.一方それより北西に位置する日本海盆で採取された試料の古水温推定値は,比較的変動が大きく,この地点の環境変動が他の地点と異なっていたことを示唆している.

秋田県矢島地域新第三系堆積岩の各種結合態バイオマーカーの組成とその起源

山本正伸 (資源エネルギー地質部)

1999

第50巻 第5/6号,329-359頁

20図, 9表, 1付図

Keywords: biomarkers, bound lipids, chemical degradation, NiB desulfurization, Yashima, Akita, Neogene, petroleum source rock

[ 要 旨 ]
 石油根源岩のバイオマーカーの起源と各根源生物種の寄与を正しく推定するためには,炭化水素類だけでなく,それと共通の炭素骨格を持つ含官能基バイオマーカーの定量的評価が重要である.本研究では,古環境指標としてのバイオマーカーの有効性を検討することを目的として,矢島地域の新第三系女川層,船川層,天徳寺層から4試料を選択し,遊離態,エステル結合態,アミド結合態,グリセリド結合態,硫黄結合態のバイオマーカーの分布を予察的に調べた.その結果,以下の知見が得られた.  1) 珪藻,渦鞭毛藻,高等植物,従属栄養バクテリアもしくはシアノバクテリア,化学合成独立栄養バクテリア,バクテリア食嫌気性繊毛虫類などを起源とするバイオマーカーが検出された.  2) n-脂肪酸とw-ヒドロキシn-脂肪酸は,遊離態と結合態で分布が大きく異なる.この違いは陸上植物起源有機物と海成生物起源有機物の堆積前に被った化学分解作用の歴史の違いにより説明可能である.  3) 硫黄結合態脂質の含有量は還元的環境下で堆積した試料で高い傾向が認められた.n-アルカン,鎖式イソプレノイド,ホパノイド,ステロイドは遊離態と硫黄結合態炭化水素骨格で分布が大きく異なる.先駆化合物の多様性が形態別分布の違いに反映されていると考えられる.  4) いくつかの起源・熟成指標について,非極性 Iフラクション(遊離態炭化水素),脱硫黄化極性フラクション(硫黄結合態),脱硫黄化抽出物(硫黄結合態)を比較したところ,指標によっては大きな違いが認められた.これまで報告されてきた熟成による指標値の変化のいくつかは,硫黄結合態脂質の高分子有機物からの放出により説明が可能である.

東北日本新第三系石油根源岩の堆積と古海洋環境変動

山本正伸(資源エネルギー地質部)・渡部芳夫(資源エネルギー地質部)・渡辺真人(資源エネルギー地質部)

1999

第50巻 第5/6号,361-376頁

10図

Keywords: organic geochemistry, biomarkers, petroleum source rocks, diatomaceous sediments, Onnagawa Formation, Neogene, upwelling, Tohoku Trough, NE Japan

[ 要 旨 ]
秋田県矢島地域における中期中新世から鮮新世(およそ12 Maから3 Ma)にかけての古海洋環境の変化を復元した.  10.5 Maにおけるジノステラン/ステラン比の減少から,12 Ma-10.5 Maまでの間,渦鞭毛藻と珪藻の両者が一次生産者として重要であり,10.5 Ma以降は珪藻が重要になったことが示唆される.この一次生産者の変化は10.5 Ma以降にシリカが表層水に継続的に供給されるようになったことを反映していると考えられる.  9-5 Maの高いC27/C29ステラン比は局所的な生産性の増大をもたらす局所的湧昇流の強化を反映していると解釈される.10-6 Maにおいて底層水の酸化が進行したことが,生物擾乱の発達様式の変化から示される.この原因として,後期中新世の海水準低下に起因する太平洋酸素極小帯水(OMZ水)の流入の減少が,古日本海全体の生物生産の総量を抑制し,還元的底層水が相対的に減少したとする可能性と,溶存酸素に富む表層水の深層への沈み込みが底層水の酸化に寄与した可能性が考えられる.  女川層の堆積した環境は,およそ9 Maを境に,貧酸素底層水と成層化した半閉鎖型海盆により特徴づけられる環境から,酸化的な底層水と活発な表層水-底層水循環,局所的に高い生物生産性により特徴づけられる環境へと大きく変化したことが推測される.  矢島地域では,女川層の中部(10.5-9 Ma)から上部(9-7 Ma)が石油根源岩として能力が高い.女川層中部堆積時には,水柱構造は成層化しており,海盆の深層では還元的水塊が停滞し,有機物の保存に適した環境であったと考えられる.これに対して,女川層上部では,水柱構造は成層状態から活発な攪拌状態へと移行し,海盆の深層水は次第に酸化的になり,有機物の保存には不利な環境へと移行したが,高い光合成一次生産による有機物の供給の増加と比較的還元的な底層水環境の組み合わせにより,石油の生成に適した海起源有機物の濃集が可能になったと考えられる.

特殊な炭化水素組成を持つ天然ガスの成因:バクテリアによる組成の変化

猪狩俊一郎(地殻化学部)

1999

第50巻 第5/6号,377-381頁

2図, 1表

keywords: natural gas, bacterial degradation, unusal hydrocarbon ratio

[ 要 旨 ]
新潟・山形・秋田地域には特殊な炭化水素組成を持つ天然ガス(特殊ガス)が存在する.このガスは通常の炭化水素組成を持つガス(通常型ガス)に比べ,エタン/プロパン比,エタン/ノルマルブタン比,イソブタン/ノルマルブタン比が高く,プロパン/イソブタン比が低い.Igari and Sakata(1988)は,特殊な組成が移動にともなう分別作用に起因するものと推定した.しかしながら,その後,エタン・プロパンの炭素同位体比の測定(Sakata, 1991; Igari, 1998)や,カラムに岩石・鉱物を充填したガスクロマトグラフを用いた移動に伴う分別作用のシミュレーション実験(Igari and Sakata, 1992)が行われ,これらの結果をもとに再解釈を行った結果,いずれのガス田においても移動に伴う分別は特殊性の原因ではなく,頚城ガス田の特殊ガスについてはバクテリアによる分解が原因であることが推定された.

ガスクロマトグラフ燃焼質量分析計(GC/C/MS)による天然ガス成分の炭素同位体分析

金子信行(資源エネルギー地質部)・前川竜男(地殻化学部)・猪狩俊一郎(地殻化学部)・坂田 将(地殻化学部)

1999

第50巻 第5/6号,383-393頁

9図, 1表, 1付図

Keywords: GC/C/MS, carbon isotope, natural gas, carbon dioxide, hydrocarbon, analytical condition

[ 要 旨 ]
ガスクロマトグラフ燃焼質量分析計(MAT252 GC/C)を用いて,二酸化炭素及び炭化水素よりなる天然ガスの各成分ごとの炭素同位体比の測定条件を検討した.最も燃焼しにくいメタンについては,燃焼炉温度は900℃以上が必要とされた.ガスクロマトグラフの注入口温度とスプリット比については,それぞれ180℃及び1/10-1/20が適当であった.目的成分の質量数44のシグナルは,2-7Vの間でなければならない.このような条件下で分析を行った結果,標準純粋メタンの標準偏差は0.08‰であった.ベースライン分離と迅速分析を目的として,それぞれのガス成分についてのガスクロマトグラフ温度・圧力プログラムを作製した.天然ガス試料で分析を行った結果,本分析法の非常に高い再現性が確かめられた

重質炭化水素の炭素同位体分析のためのGC/C/MSの測定条件と性能

坂田 将(地殻化学部)・金子信行(資源エネルギー地質部)・古宮正利(資源エネルギー地質部)・前川竜男(地殻化学部)

1999

第50巻 第5/6号,395-404頁

6図, 4表

Keywords: carbon isotopic composition, n-alkane, GC/C/MS, analytical chemistry

[ 要 旨 ]
炭素同位体比が既知のn-アルカン試薬(炭素数16-34)を用いて,重質炭化水素の分子ごとの炭素同位体比をGC/C/MSで分析するための測定条件と性能について検討した.ミキシングボリュームから導入する二酸化炭素を外部標準としてn-アルカンの炭素同位体比を測定すると,Δ値が−1‰前後の系統的な誤差を伴う.内部標準法でn-アルカンを1成分だけ標準として他のn-アルカンの炭素同位体比を測定した場合,外部標準法に比べて測定の確度が大幅に改善されるが,n-アルカンの炭素数の増加とともにΔ値がマイナス方向に変化するドリフト傾向は解消されない.リテンションタイムが離れた2つ(以上)のn-アルカンを標準とした場合,ドリフト傾向が解消され,高い確度の測定が可能となる.同位体比の測定精度は,質量数44のトレース上のピークの高さとともに向上し,高さ2V以上の場合,高い測定精度が得られる.本研究の測定条件(エミッション電流1.00 mA,VISC開放)で高さ2Vのピークを得るために必要なn-アルカンの量は,炭素量換算で7-14 nmolであり,炭素数の多い成分ほど多くを要する.VISCを閉じた状態で測定すれば,測定の精確度を損なうことなく,感度を約2倍に高められる可能性がある.

石炭の石油根源岩能力の評価−日本炭と諸外国炭との比較−

鈴木祐一郎(資源エネルギー地質部)・藤井敬三(静岡大学教育学部)

1999

第50巻 第5/6号,405-420頁

14図, 4表

Keyword: coal, Japan, source rock potential, Tertiary, biomaker, diterpenoid, conifer, non-marine oil

[ 要 旨 ]
日本炭および中国の第三紀炭,中生代炭,インドネシアの第三紀炭について,石油根源岩性状の観点から解析した.日本炭の元素分析の結果はvan Kreven図上のタイプUとタイプVの中間に位置し,石炭が水素分に富んでいることが明らかである.この原因である石炭マセラルの1つであるデグラディナイト含有量とH/C,O/Cとの間での相関関係式を計算求め,デグラディナイトを含まない純粋のビトリナイトのH/C,O/Cを求めた.純粋ビトリナイトは,van krevelen図上でタイプV(ビトリナイト)の進化曲線からはずれ,より水素に富む位置にプロットされた.その結果として第三紀炭の木質部は,中古生代の木質部よりも水素に富んでいるとことが推論された.  発熱量 ,揮発分とH/C,O/Cの関係を解析した結果.van Krevelen図の代わりに発熱量ー揮発分図を用いることが可能であることが明らかになった,日本炭および海外炭の性状を同図で比較した結果,第三紀炭が水素分に富んでいることが解明され,石油根源岩として有効であることが明らかである.  日本炭のバイオマーカ分析から,日本炭はジテルペン化合物に富んでおり,現在石炭起源の石油を産しているオーストラリアギプスランド堆積盆の石炭と同様の針葉樹型石炭であるが判った.

海洋ガスハイドレート資源の確率論的評価手法

渡部芳夫(資源エネルギー地質部)

1999

第50巻 第5/6号,421-430頁

3図, 2表

Keywords: resources assessment, marine gas hydrate, play, probability, statistical method

[ 要 旨 ]
海底堆積物中のメタンハイドレートを非在来型資源としてとらえるために,天然ガス資源としての資源量評価手法について,現実の開発生産の実績が無い現状に基づき,新たな手法の概念を提案する.ガスハイドレート資源評価手法では,鉱床の存在自体を確率的に取り扱うだけでなく,個々の鉱床の規模(資源量)を規制している種々のパラメータを確率論的に検討する必要がある.ハイドレート鉱床が存在する確率が定義された海域のみを対象とし,ガスハイドレートの量的評価を行う.その試算結果は確率密度曲線により与えられるため,中庸な判断は50%値を,リスク判断を最重視する場合には95%値を,そして逆の立場では5%値を用いるなどといった,種々の算定者の立場での引用を可能とする.  従来の資源量試算値は,唯一の確定値あるいはこれに類似する中央値と最大誤差といった,ごく限定された数値として報告されることが多かった.これらの試算手法では,種々の精度の計算パラメータが一次関数として採用される場合が多く,あるひとつのパラメータの精度が最終値を大きく規定することとなっている.今回提案した試算手法は,算定の段階で不確定なパラメータがあったとしても,試算結果の利用段階で問題のあるパラメータの精度を特定して排除することが可能であり,さらに最終試算結果が確率密度曲線という,利用者の立場ごとに値(数値)に幅のある形で提供できる特徴がある.