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極限技術部超伝導技術研究室 梅田 政一
大型高磁界超伝導マグネットを高電流密度で設計するに当たり、マグネットの基本設計として、(i)マグネットの有効内径を40cm、(ii)10Tの発生磁界を目標として、(iii)3kA級Nb3Sn導体を使用し、(iv)マグネット安定化設計は液体ヘリウムを有効利用する動的安定化設計を行ない、(v)有効内径70cm、6Tのバックアップ装置と組み合わせ試験を行なった。このようなマグネット設計・製作・試験を通して化合物超伝導導体を使用した大型・高磁界・高電流密度超伝導マグネットの設計に関する研究を行なった。本研究報告書は5章より構成され、以下のように進めた。第1章は研究の背景・概要を要約している。
第2章では、大型超伝導マグネットになることから、動的安定性が確保された大電流容量(磁界10Tで3kA級)の複合多芯Nb3Sn導体に関する研究要素である熱応力・歪み、不可逆歪み、応力設計限界を中心に述べた。
複合Nb3Sn導体を固液法と名称した独自の複合多芯導体製法で設計・製作した。これらの導体の開発のためには、導体化の前段階である固液法における複合Nb3Sn線材での複合加工法、Nb3Sn反応生成過程、超伝導特性等の基礎研究が不可欠であるが、詳細は他の研究論文、報告書に委ねる。ここでは、線材から導体化開発に係る大電流容量導体の複合化・多芯化過程が与える材料力学的解析、超伝導特性に与える影響を中心に検討した。固液法複合多芯Nb3Sn導体は、ニオブ母材中に錫銅合金棒(Sn-7Wt%Cu)を分散配置し、さらに、このニオブ母材を安定化のための銅母材に分散配置した多芯構造体が導体の基本構成である。この導体を冷間伸線加工後、ツイストを行ない、Nb3Snの生成熱処理(〜960K)を経て複合多芯Nb3Sn導体となす。超伝導マグネットにこの導体を使用するに当たり、複合多芯導体は大きな熱履歴を経験する。複合化された導体構成は構成材の機械的強度(弾性率、剛性率、ポアッソン比、降伏応力)と熱膨張率が異なることから、熱履歴による内部応力・歪みが構成材で変化する。それは、導体を使用したマグネットが以下の過程を経て製作・使用されるからである。(1)Nb3Sn熱処理(〜960K)から室温(300K)に導体を冷却する過程、(2)導体を室温でマグネットに巻線する過程、(3)マグネットを冷却し、運転温度(液体ヘリウム温度)で使用する過程、(4)マグネットに電流を通電し、磁界発生を行なったとき、導体に働く電磁力による応力・歪みの発生過程、(5)マグネットを常温にもどし、運転温度で再度使用する過程がある。
固液法複合Nb3Sn導体について、複合化に伴うこのような温度履歴とマグネット製作・励磁時で発生する応力・歪み解析は、Nb3Snが応力・歪みにより超伝導特性に敏感であることからマグネット設計では最とも重要な設計要素となる。最初に、導体単体において、温度履歴による複合導体中のNb3Snフィラメントの内部応力・歪みについて、Nb3Sn生成熱処理温度から運転温度まで材料力学的解析を行なう。この解析に従い固液法Nb3Sn導体での内部熱応力・歪みを熱膨張測定を通して検証する。これにより、複合導体の応力・歪み設計と導体中のNb3Snフィラメントの歪みによる超伝導特性への影響についての導体設計要素を明確にする。次に、複合多芯Nb3Sn導体の多芯化が導体中のNb3Snフィラメントに与える効果とNb3Snフィラメントの応力破断メカニズムを固液法導体とブロンズ法導体で研究することにより、複合・多芯化条件下におけるNb3Snフィラメントの応力・歪み使用限界を明らかにした。
なお、マグネット製作に関する応力・歪み設計と導体中のNb3Snフィラメントの超伝導特性の有効利用に関する解析(3)、(4)、(5)の研究テ−マは次章にまとめた。
第3章では、大型・高磁界・高電流密度を持ったマグネット設計のためには、電磁力支持の最適化とコイル機械剛性を高めることが必須の問題であり、このために必要な研究要素である電磁応力・歪み、マグネットの圧縮電磁応力と拡張電磁応力に起因する摩擦機構・摩擦による熱擾乱とそれに対する熱設計を中心に述べた。
複合多芯Nb3Sn導体を絶縁材、電磁力支持材と共巻してマグネットに巻線した時の導体曲げ応力・歪み、マグネットの室温から運転温度への冷却による内部応力・歪みの変化を解析すると共に、巻線張力、電磁力が外部応力として作用した時の導体中のNb3Snフィラメントへの歪みについて解析した。このためには、複合超伝導導体の単体の熱履歴による応力・歪みに重畳して、(1)導体のコイル化の過程で発生する曲げ応力・歪みの解析、(2)コイルの高剛性化のために電磁力支持材に外部応力(巻線張力)を印加した条件下でコイル化した時、複合導体に加わる応力・歪みの解析、(3)コイルの積層化からなるマグネットが室温から運転温度に冷却された時、複合構造のコイルにおいて、冷却に伴って発生する熱応力・歪みの解析、(4)マグネットが励磁された時のコイル内応力・歪み解析を行なった。この応力・歪みの解析において、マグネット作製・冷却・電磁力発生の各過程で、電磁力支持材のコイル中での構成比が、導体中のNb3Snフィラメントの歪みの値に与える影響の同定、励磁による安全応力・歪み限界の同定が重要な設計要素となる。従って、励磁前の導体中のNb3Snフィラメントが受ける歪みとこの歪みによる超伝導特性を決定するとともに、励磁により導体が設計値において複合Nb3Sn導体中におけるNb3Snフィラメントの超伝導特性を最高に発揮する電磁力構成比に対するマグネット設計を応力・歪みの解析を通して明らかにした。
大型高磁界超伝導マグネットにおいて、高電流密度設計を行なう上で、応力による機械的擾乱の要因の同定とこの擾乱に対する安定化熱設計が不可欠となる。上記の二つの設計研究を踏まえつつ、マグネットにおける機械的な熱擾乱要因の研究と励磁に伴ってマグネット内の導体に働く摩擦力により発生する定量的熱擾乱エネルギーとこれに対する液体ヘリウムの有効利用による安定化熱設計の研究結果をまとめた。
第4章では、第2・3章で明らかにした研究結果を踏まえてマグネットを製作・試験し、それらを検証した結果について要約した。
固液法3kA級Nb3Sn導体を使用し、電磁力支持材と共巻されたパンケーキコイルの積層からなるマグネットを製作した。応力によって発生する機械的熱擾乱に対する安定化熱設計研究を行なったマグネットの冷却・励磁実験を行ない、製作した超伝導マグネットにおける設計を検証する。これらを通して大型高磁界・高電流密度型超伝導マグネットの総合的設計法を明らかにした。
第5章ではこれらの研究結果をまとめた。